プッシュボタン制御のポテンショメータを使って構成した可変電圧出力回路

質問:

デジタル・ポテンショメータを使って可変電圧出力を生成する方法はありませんか?

RAQ: Issue 180

回答:

プッシュボタンで制御可能なデジタル・ポテンショメータを利用するとよいでしょう。

ここでは、最大20Vの電圧を制御できる簡素かつ完全な高効率のソリューションを紹介します。そのソリューションでは、プッシュボタンで制御可能なデジタル・ポテンショメータを使用します。可変電圧出力を必要とする様々なアプリケーションにおいて、調整が可能な電源として使用することができます。図1に示したのが、上記の方法で構成した可変出力のスイッチング・レギュレータ回路です。この回路では、デジタル・ポテンショメータ「AD5116」とプッシュプル出力段を備えるコンパレータ「ADCMP371」を使用しています。図1ではプッシュボタンを使用していますが、その代わりにスイッチを使えば、マイクロコントローラによって電圧を調整することも可能です。

AD5116には、64個のワイパー・ポジションがあります。エンドtoエンドの抵抗の許容誤差は±8%です。ワイパー・ポジションは、プッシュボタンを使うことで人手によって設定することができます。また、AD5116は、ワイパー・ポジションの情報を保存するためのEEPROMを内蔵しています。この機能は、アプリケーションにおいて電源の投入時にデフォルトのポジションに設定する必要がある場合に役立ちます。

この回路に供給する電圧VINの最大値は20Vです。AD5116とADCMP371の電源電圧VDDは、VINを基に「ADP121」などの電圧レギュレータによって生成します。

図1. 可変出力のスイッチング・レギュレータ回路。プッシュボタンで制御することができます。
図1. 可変出力のスイッチング・レギュレータ回路。プッシュボタンで制御することができます。

回路の動作

出力電圧VOUTは、帰還回路のスイッチング周波数によって制御されます。VOUTには分圧器が接続されており、分圧された電圧がコンパレータにフィードバックされます。コンパレータは、フィードバックされた電圧と、デジタル・ポテンショメータによって設定されたリファレンス電圧とを比較します。VOUTからのフィードバック電圧がリファレンス電圧より高い場合、コンパレータの出力はローになります。その結果、NMOSトランジスタT1とPMOSトランジスタT2が共にオフになってVOUTが下降します。一方、VOUTからのフィードバック電圧がリファレンス電圧より低い場合には、コンパレータの出力がハイになります。それにより、2つのトランジスタがオン(飽和)になり、VOUTが上昇します。このような比較処理に基づき、両トランジスタは短いパルスでオン/オフするスイッチング・モードで動作します。そのため、各トラジスタにおける損失が抑えられます。スイッチング周波数は、ポテンショメータの出力電圧だけでなく、VOUTの負荷からの影響も受けます。

AD5116が内蔵するD/Aコンバータ(DAC)の出力電圧が高くなるにつれ、T2がオフになる時間が長くなります。それに応じて、コンパレータの出力もハイになります。コンパレータは、高い周波数で一連の正の高速パルスを出力します。DACの出力電圧を下げた場合には、この逆の動作になります。

フィルタリング後の出力電圧VOUTは、以下の式で求めることができます。

数式 1

ここで、VWはポテンショメータのタップWにおけるDACの出力電圧です。

AD5116のタップAとタップBの間の抵抗値は公称5kΩです。この抵抗は64ステップに分割されています。スケールの下端では、ワイパーの抵抗値RWが標準で45Ω~70Ωまで減少します。GNDを基準とする出力電圧VWは次式で決まります。

数式 2

このことから、RWBは次式のように表されます。

数式 3

各変数の意味は以下のとおりです。

RWB:下位のスケールにおけるタップWとGNDの間の抵抗値

RAB:ポテンショメータの全抵抗値

VA:AD5116が内蔵する分圧器(抵抗ストリング)の上端の電圧。図1の回路の場合、その値はVDDです。

D:AD5116のRDACレジスタのバイナリ・コードに相当する10進数

AD5116のRDACレジスタは、プッシュボタンを接続するPDピンとPUピンによって制御します。電源を投入したときのデフォルト・ポジション(例えば、VOUTが0V)の情報は、ASEピンを用いてAD5116が内蔵するEEPROMに保存することができます。

フィルタによる出力リップルの低減

図1の回路を実際に使用する場合には、図2に示すようにフィルタ回路を接続します。このフィルタ回路により、出力電圧VOUTを平滑化し、T1とT2のスイッチングに起因するリップルを低減します。このフィルタを設計する際には、AD5116のスイッチング周波数の最大値/最小値と動作電圧範囲について考慮する必要があります。

図2に示した回路は、約1.8Hz~500Hzのスイッチング周波数に対応しています。この周波数は非常に低いので、フィルタのカットオフ周波数を設定する際には、比較的大きな値のR、L、Cが必要になります。ただ、この構成では、フィルタの直列抵抗と出力の負荷によって分圧器が形成されることから、フィルタの出力電圧が低下してしまいます。そのため、Rとしては値が比較的小さいものを選択する必要があります。

図2. 出力電圧を平滑化するためのフィルタ回路
図2. 出力電圧を平滑化するためのフィルタ回路

図2は、単純なRLCローパス・フィルタを使用する例であり、Rを50Ω、Cを330µF、Lを100nHとしました。なお、図1の回路と同等の機能は、トランジスタを駆動するためのPWM(Pulse Width Modulation)回路と誤差アンプを使って実現することもできます。

参考資料

CN-0405: High Voltage Output DAC with Push-Button Control(プッシュボタンで制御可能な高出力電圧のDAC)」Analog Devices、2017年3月

Thomas Brand

Thomas Brand

Thomas Brand。2015年、修士論文作成の一環で、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでのキャリアを開始。卒業後、アナログ・デバイセズのトレイニー・プログラムを受講。2017年、フィールド・アプリケーション・エンジニアとなる。中央ヨーロッパの産業分野の大型顧客をサポートすると共に、工業用イーサネットの分野を専門とする。モースバッハ産学連携州立大学で電気工学を専攻後、コンスタンツ応用科学大学で国際セールスの修士課程を修了。