A2Bを活用して音声会議システムを構築する

概要:会議室のオーディオ・ケーブルを削減

会議室にオーディオ機器を設置する際には、ある問題に直面するケースが少なくありません。その問題とは、様々な入出力トランスデューサをメインのオーディオ・コンソールに相互接続しなければならないというものです。通常、その接続は各ノードに対してポイントtoポイントのシールド・ケーブルを使用することで実現します。しかし、この方法では、ケーブルが非常にかさばることに加え、各ノード用に独立した外部電源を用意しなければなりません。この種のケーブルは、アナログのオーディオ信号を伝送するために使用しますが、特に長いケーブルを敷設する場合や、費用対効果の高いケーブルを選択した場合には、周波数特性が非常に低くなる可能性があります。

A2B®(Automotive Audio Buses)に対応するトランシーバーICを採用すれば、1つのUTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブルによってマルチチャンネルのデジタル・オーディオをサポートすることができます。複数のトランシーバー・ノードをデイジーチェーン接続し、忠実度の高いデジタル・オーディオ信号を伝送することが可能になります。加えて、A2Bバスからは、リモートのノードに対して給電用のDC電圧を伝送することもできます。図1に、A2Bに対応するトランシーバーICの機能ブロック図を示しました。

図1. A2Bに対応するトランシーバーICの機能ブロック図
図1. A2Bに対応するトランシーバーICの機能ブロック図

車載アプリケーションでは、オーディオ用のケーブルが非常にかさばるという問題が発生します。A2Bに対応するトランシーバー技術は、主にこの問題を解決するために開発されたものです。しかし、A2Bは非常に汎用性の高いオーディオ伝送手法です。そのため、車載以外のより広範なアプリケーションに適用できる可能性があります。そうしたアプリケーションの一例としては、ハドル・ルーム会議システムが挙げられます。最近のハドル・ルーム会議システムでは、複数のマイクロフォン、場合によっては複数のスピーカを部屋全体に分散配備する必要があります。それにより、ビーム・フォーミング、アコースティック・ノイズ・キャンセリング、エコー・キャンセリングなど、DSPを利用した様々な機能を実現するのです。A2Bのアプリケーション例としては、公会堂や集会所、同時通訳が必要な場などが考えられます。収容人数の多い部屋にA2Bを適用する場合、制約事項となるのは1本のバスのケーブル長だけです。その値は、全体で最長40mまでに制限されています。

図2. 従来の会議システムにおけるオーディオ・ノードの接続方法
図2. 従来の会議システムにおけるオーディオ・ノードの接続方法

上述したようなアプリケーションにA2Bに対応するトランシーバーを適用すると、リモートのオーディオ・ノードに対するケーブル接続を簡素化することが可能です。また、オプションの配電機能を備える優れたデジタル伝送方式を実現できることになります。従来、リモートのオーディオ・ノードの接続は、図2に示すような形で行われていました。この方法では、1つのアナログ信号を1方向に伝送するために1つのシールド・ケーブルを使用します。また、電源電圧はDCアダプタを使って個別に供給されます。一方、A2Bを使用する場合、ツイスト・ペア・ケーブルを使用して図3に示すような接続を行います。それにより、忠実度の高いデジタル・オーディオ信号とバス電源電圧を伝送することが可能になります。サポートするアップストリーム/ダウンストリームのチャンネル数は最大で32です(但し、16ビットのデータを使用する場合には、バス上の合計チャンネル数は50までに制限されます)。A2Bは、上記のような優れた特徴を備えています。従来のアナログ方式と比べて、ケーブル接続を簡素化しつつ忠実度の高い双方向のデジタル・オーディオ伝送を実現できます。そのため、会議システムに適用すれば大きなメリットが得られます。

図3. A2Bを採用した会議システムにおけるオーディオ・ノードの接続方法
図3. A2Bを採用した会議システムにおけるオーディオ・ノードの接続方法

A2Bに対応するトランシーバーは、I2S(Inter-IC Sound)によってマルチチャンネルのPCM(Pulse-code Modulated)データを伝送します。ノード間の距離は最長15m、全長(すべてのノードにわたる距離)については最長40mまで対応可能です。また、データの使用/提供が可能な複数のノードを接続したシステムに、I2Sの同期機能やTDM(Time-division Multiplexed)機能を拡張して適用することもできます。やり取りするデータには、オーディオ・データに加えて制御用のデータも含められます。例えば、A2Bに対応する標準的なトランシーバーICでは、最大7本のGPIOラインを利用できます。例えば、それらをマイクロフォンのノードが備えるLEDに接続したとします。それにより、マイクロフォンがアクティブ(ライブ)か非アクティブ(ミュート)かを示すために、ホストからリモートでLEDをオン/オフするといったことが行えます。

A2Bを採用したシステムは、単一のマスタと複数のスレーブで構成されます。マスタは、ホスト・コントローラとトランシーバーICで構成されます。マスタ・ノードは、全スレーブ・ノード向けに、クロック、同期、フレーミングの各信号を生成します。マスタのA2B対応ICは、構成/読み出し用の制御バス(I2C)を介してプログラムすることができます。この制御バスの拡張情報は、A2Bのデータ・ストリームに組み込まれており、レジスタやスレーブ・トランシーバーのステータス情報に直接アクセスすることが可能になります。また、I2Cによる長距離の通信も行えます。電源の投入時には、ディスカバリ用のメカニズムが働きます。その結果、各ノードが認識され、TDMの構成要件が形成されます。スレーブ0から始まり、利用可能な最終スレーブまでのすべてのスレーブが順次検出されます。すべてのスレーブ・ノードが検出されたら、各ノードは同期データを交換するために初期化されます。図4に、A2Bシステムの例を示しました。ホストは各ノードのレジスタを設定し、A2Bバス上のデータのトラフィックを制御します。この例では、スレーブ・ノード0とスレーブ・ノードNのデジタル・マイクロフォンとA/Dコンバータ(ADC)からのデータがマスタ・ノードに配信されます。その一方で、スピーカのデータがマスタ・ノードからスレーブ・ノード1のD/Aコンバータ(DAC)に同時に配信されます。この例に示すように、A2Bに対応するトランシーバーには、マルチチャンネルのPDM(Pulse Density Modulation)インターフェースも組み込まれています。そのため、PDMに対応するマイクロフォンのアレイを直接接続することが可能です。

図4. マスタ・ノードとN + 1個のスレーブ・ノードを備えるA2Bシステム
図4. マスタ・ノードとN + 1個のスレーブ・ノードを備えるA2Bシステム

スレーブ・ノード当たりのオーディオ・チャンネル数は、個々にプログラムすることができます。アップストリーム、ダウンストリーム共に最大32チャンネルです。データ・スロットのサイズは、8/12/16/20/24/28/32ビットのうちいずれかです。I2S/TDMデータのワード長に一致するように選択できますが、すべてのノードで同じスロット・サイズを使用する必要があります。ただ、アップストリームとダウンストリームとでは、異なるスロット・サイズを選択することが可能です。また、スロット・サイズが12/16/20ビットの場合、16/20/24ビットのI2S/TDMワード長に対応するA2Bバスを介して圧縮データを伝送することができます。オーディオ信号のサンプリング周波数fSYNCMは、44.1kHz~48kHzの範囲で設定可能であり、すべてのノードが同期した状態でデータがサンプリングされます。スレーブ・ノードは、1倍(48kHz)/2倍(96kHz)/4倍(192kHz)のサンプリング・レートfSをサポートしています。サンプリング・レートは、スレーブごとに個別に設定することが可能です。スレーブ・ノードで2倍/4倍のサンプリング・レートをサポートするためには、fSYNCMが1倍のホストに対するインターフェースにおいて、マスタ・ノードで2倍/4倍の数のI2S/TDMデータ・チャンネルを使用する必要があります。更に、A2Bに対応するトランシーバーICでは、制御データとステータス・データを対象として、16ビットのCRC(Cyclic Redundancy Check)による堅牢なエラー検出を実行できます。加えて、同ICでは、もう1つの重要な機能である故障診断が行えます。この機能を使えば、以下の事象を検出できます。

  • A2B のワイヤが高電圧またはグラウンドに短絡している
  • 同ワイヤが互いに短絡している
  • 同ワイヤが逆接続されている
  • 同ワイヤに断線が生じている

バスから給電を行うシステムでは、ペリフェラルの電源電流がシステム内の他のノードに直接影響を及ぼします。A2Bバスのいずれのノードでも、パッケージの熱を制限範囲内に維持し、IVSSNとVINが仕様上の限界値を超えないようにすることが重要です。それらの値は、トランシーバーICの品種ごとに異なります。例えば、内部スイッチのIVSSNの上限値は1.2Ωの場合に300mA/100mA、入力レギュレータの入力電圧VINは最大9Vといった具合に規定されています。A2Bに対応するトランシーバーICのデータシートには、電力バジェットの様々な計算例が掲載されています。図5に、バスから給電を行うシステムのモデルを示しました。

図5. システムのDC電源モデル。ローカルで給電を行うスレーブとバスで給電を行うスレーブが混在しています。
図5. システムのDC電源モデル。ローカルで給電を行うスレーブとバスで給電を行うスレーブが混在しています。

A2Bでは、基本的な2線式のケーブルを使うことで十分に動作を確立することができます。ただ、ケーブルとコネクタを慎重に選択すれば、より厳しいEMC試験の要件に適合することも可能になります。逆に言うと、通信周波数の高調波で差動モードからコモンモードへの遷移が発生しないように、標準的な放射周波数範囲を超えて良好な電気的性能を得るためには、ケーブルを適切に選択する必要があります。

評価用ボードを適切に選択することも重要です。そうすれば、設計を終えて実装を行う前の段階で、A2B対応デバイスの性能を十分に試験/評価することができるからです。アナログ・デバイセズは、図6~図11に示すような評価用ボードを提供しています。

図6. 「EVAL-AD2428WD1BZ」。A2Bのマスタまたはローカルの電源を使用するスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMに対応し、3個のPDMマイクロフォンを備えています。
図6. 「EVAL-AD2428WD1BZ」。A2Bのマスタまたはローカルの電源を使用するスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMに対応し、3個のPDMマイクロフォンを備えています。
図7. 「EVAL-AD2428WB1BZ」。バスから給電するA2Bのスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMに対応し、2個のPDMマイクロフォンを備えています。
図7. 「EVAL-AD2428WB1BZ」。バスから給電するA2Bのスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMに対応し、2個のPDMマイクロフォンを備えています。
図8. 「EVAL-AD2428WC1BZ」。バスから給電するA2Bのスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMには対応しませんが、4個のPDMマイクロフォンを備えています。
図8. 「EVAL-AD2428WC1BZ」。バスから給電するA2Bのスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMには対応しませんが、4個のPDMマイクロフォンを備えています。
図9. 「EVAL-AD2428WG1BZ」。ローカルの電源を使用するA2Bのスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMに対応しますが、PDMマイクロフォンは備えていません。
図9. 「EVAL-AD2428WG1BZ」。ローカルの電源を使用するA2Bのスレーブ・ノードとして機能します。I2S/TDMに対応しますが、PDMマイクロフォンは備えていません。
図10. 「ADZS-AUDIOA2BAMP」。A2Bに対応するクラスDアンプ・モジュールです。
図10. 「ADZS-AUDIOA2BAMP」。A2Bに対応するクラスDアンプ・モジュールです。
図11. SHARC®に対応するオーディオ・モジュール。オーディオ・アプリケーション向けの拡張が可能なハードウェア/ソフトウェア・プラットフォームです。
図11. SHARC®に対応するオーディオ・モジュール。オーディオ・アプリケーション向けの拡張が可能なハードウェア/ソフトウェア・プラットフォームです。

評価用ボードだけではなく、アナログ・デバイセズはA2B技術に関する様々な設計リソースを提供しています。詳細については、こちらをご覧ください。

Carlos Martins

Carlos Martins

Carlos Martinsは、アナログ・デバイセズのスタッフ・フィールド・アプリケーション・エンジニアです。太平洋岸北西地域を担当しています。ブラジルのミナス・ジェライス連邦大学で電気工学の学士号を取得。約30年にわたり、ミックスド・シグナル/システム・レベルのエレクトロニクス設計に携わってきました。シリコン・バレーで成長が著しいハイテク産業の職に就くという夢をかなえるために、1990年代にリオ・デ・ジャネイロから米国に渡りました。32年前に、初恋の人であるバーバラと結婚。現在はオレゴン州ポートランドに居を構えており、大自然の中でロング・ハイキングを楽しんでいます。既に2人の子供も大人になったので、今は1歳の孫に夢中です。