スイッチング・レギュレータの短期開発を支援するEMIフィルタ用の設計ツール

はじめに

スイッチング・レギュレータは、その電力変換効率の高さから、あらゆるエレクトロニクス・システムで使用されています。ただ、スイッチング・レギュレータには欠点もあります。それは、スイッチング動作に伴って、無視できないレベルのノイズが生成されることです。一般に、このノイズはEMI(電磁妨害)、EMIノイズ、あるいは単にノイズなどと呼ばれています。標準的な降圧コンバータを例にとると、その入力側には、高調波成分を多く含むパルス電流が流れます。また、パワー・トランジスタが高速にオン/オフして電流の流れが突然遮断されることから、高い周波数のリンギングやスパイクという形で電圧の変動が生じます。

スイッチング・レギュレータによって発生した高周波のノイズは、システム内の他のデバイスに結合します。その結果、敏感なアナログ回路やデジタル回路の性能が低下してしまいます。このような問題があることから、EMIについては許容可能な上限値を定める多くの規格が策定されています。スイッチング・レギュレータにおいてそうした規格を満たすには、まず、そのEMI性能を定量化する必要があります。その上で、必要に応じて、EMIを減衰させるための適切なフィルタ(EMIフィルタ)を入力部に追加します。残念ながら、EMIを定量化するための解析と、EMIフィルタの設計は容易な作業ではありません。通常は、設計、実装、テスト、再設計というプロセスを、時間をかけて何度も繰り返さなければならなくなります。しかも、テストを実施する際には、EMIの測定に対応可能な設備が必要になります。規格を満たすEMIフィルタの設計を迅速に進めるには、どうすればよいのでしょうか。この課題の解決に役立つのが、アナログ・デバイセズの電源設計支援ツール「LTpowerCAD®」です。本稿では、同ツールを使用することにより、伝導性EMIの解析とEMIフィルタの設計の作業がいかに簡素化されるのかを説明します。

EMIの種類:放射性と伝導性、同相モードと差動モード

EMIは、大きく放射性EMIと伝導性EMIの2つに分けられます。通常、スイッチング・レギュレータの放射性EMIは、スイッチング・ノードにおける大きなdV/dtノイズによって生成されます。一般に、EMIの規格では、30MHz~1GHzの周波数領域を対象として放射性EMIの上限値が定められています。この周波数領域において、スイッチング・レギュレータからの放射性EMIは、主にスイッチングに伴って生じる電圧のリンギングやスパイクによって生成されます。どのようなレベルのノイズが発生するかは、プリント回路基板のレイアウトに大きく依存する可能性があります。ベスト・プラクティスに従ってレイアウトを実施したとしても、放射性EMIがある程度発生することは避けられません。問題なのは、それ以外の要因によってどれだけの放射性EMIが生じるのか、机上で正確に見積もるのはほぼ不可能だということです。そのレベルを定量化するには、実際に基板を構築し、EMIの測定用に適切に設計された実験室で実測する以外に方法はありません。

一方の伝導性EMIは、スイッチング・レギュレータにおける入力電流の急激な変化が原因で発生します。伝導性EMIには、同相モード(CM:Common-mode)のノイズと差動モード(DM:Differential-mode)のノイズが含まれます。EMI規格では、伝導性EMIの上限値も定められています。一般に、周波数範囲については、放射性EMIの規格よりも低い150kHz~30MHzを対象としています。

図1に、DC/DCレギュレータ(EMI用の実験室で測定の対象となるデバイス)におけるCMノイズとDMノイズの伝導経路を示しました。入力部の伝導性EMIを定量化するには、その部分にLISN(Line Impedance Stabilizing Network)を配置し、標準的な入力ソース・インピーダンスを与えます。CMの伝導性ノイズは、各入力ラインとグラウンド(アース)の間で測定します。CMノイズは、dV/dtの大きいスイッチング・ノードで生成されます。そして、基板に実装されたデバイスの寄生容量を介してグラウンドに結合し、電源の入力部に配置されたLISNに伝送されます。放射性EMIと同様に、スイッチング・ノードの高周波のリンギングと寄生容量については、机上で正確かつ容易にモデル化することはできません。

DMノイズは、2本の入力ラインの間で差動形式で測定します。DMの伝導性ノイズは、スイッチング・レギュレータの大きなdi/dtに伴うパルス入力電流によって生成されます。他の種類のEMIとは異なり、パルス入力電流と、それに起因して入力コンデンサとLISN回路に生成される比較的周波数の低いEMIは、LTpowerCADなどのソフトウェアによって、許容できる精度で見積もることが可能です。

図1. LISNを用いた測定方法の概念図。スイッチング・レギュレータのDM/CMの伝導性EMIを対象とします。
図1. LISNを用いた測定方法の概念図。スイッチング・レギュレータのDM/CMの伝導性EMIを対象とします。

図2に示したのは、入力部にEMIフィルタを持たない降圧型のスイッチング・レギュレータで見られるEMIノイズの典型的な例です。最も大きなEMIのスパイクが発生しているのは、スイッチング周波数においてです。その高調波に相当する周波数にも、スパイクが生じています。そして、各スパイクのピーク値は、CISPR22で定められている上限値を上回っています。つまり、この規格を満たすには、DMノイズを減衰させるためのEMIフィルタが必要だということになります。

図2. EMIの測定結果。入力部にEMIフィルタを持たない降圧型のスイッチング・レギュレータで見られるEMIノイズの典型的な例を示しました。
図2. EMIの測定結果。入力部にEMIフィルタを持たない降圧型のスイッチング・レギュレータで見られるEMIノイズの典型的な例を示しました。

DMの伝導性EMIを抑制するためのフィルタ

図3に示したのは、DMの伝導性EMIを抑制するための標準的なフィルタの構成例です。ご覧のように、インダクタLfとコンデンサCfによって、シンプルな1次ローパス・フィルタを構成しています。それをスイッチング・レギュレータの入力側に配置しています。より詳しく言うと、レギュレータの入力コンデンサCIN(EMIの発生源側)と入力ソース(LISNのレシーバー側)の間に配置するということです。標準的なEMIの試験では、LISNをEMIフィルタのCf側に配置します。図3の構成もこれに準じています。そして、スペクトラム・アナライザを使用し、LISNの構成要素である抵抗R2の両端で差動信号を測定します。それにより、DMの伝導性EMIを定量化することができます。

図4に、EMIフィルタ(LCフィルタ)の周波数応答の一例を示しました。この種のフィルタでは、周波数が非常に低い領域においてインダクタのインピーダンスが低下し、その部分は基本的に短絡した状態になります。一方、コンデンサのインピーダンスは高まり、その部分はオープン・サーキットの状態になります。その結果、LCフィルタとしてのゲインは1(0dB)となり、DC成分は減衰することなくそのまま通過します。周波数がより高い領域ではゲインもより高くなり、Lf、Cfの共振周波数でピークに達します。そして、共振周波数よりも高い周波数では、-40dB/decadeの減衰特性を示します。周波数がより高いほど、フィルタのゲインはより寄生成分に左右されるようになります。ここで言う寄生成分とは、フィルタのコンデンサの等価直列抵抗(ESR)、等価直列インダクタンス(ESL)と、フィルタのインダクタの並列容量のことを指します。

このフィルタを使えば、周波数が高い領域で大きな減衰量を得ることができます。そのため、フィルタの定数は、周波数が低い領域に存在する高調波ノイズのうち、最初の数個の振幅に応じて決定することができます。最も重要な要素は、レギュレータのスイッチング周波数fSW の基本波成分です。したがって、EMIフィルタについては、低い周波数領域のゲインに着目することでEMI規格に準拠できるということになります。

図3. DMの伝導性EMIを抑制するためのフィルタ回路(ノードBからノードAまでの間の回路)
図3. DMの伝導性EMIを抑制するためのフィルタ回路(ノードBからノードAまでの間の回路)
図4. 一般的なLCフィルタの周波数応答
図4. 一般的なLCフィルタの周波数応答

LTpowerCADによるフィルタ性能の予測

電源設計支援ツールであるLTpowerCADは、analog.com/jp/LTpowerCADで無償ダウンロードできます。同ツールを使用すれば、数ステップの簡単な操作により、わずか数分で電源に関するあらゆるパラメータの設計/最適化を実施できます。

LTpowerCADは、電源に関する選択/設計のプロセス全般にわたってユーザを支援します。まず、電源に関する目標仕様を基に、適切なソリューションの絞り込みを行ってユーザに提示します。続いて、パワー段で使用する部品の選定をサポートします。更に、電源の効率、ループ補償用の設計、負荷トランジェント応答の最適化を支援する機能を提供します。

本稿では、LTpowerCADが備える数多くの機能群(ツール)のうち、入力部で使用するEMIフィルタの設計を支援するツールを取り上げます。これを使用することにより、DMの伝導性EMIについて素早く検討することができます。また、EMI規格を満たすためにはフィルタ用にどのような部品が必要なのか迅速に判断することが可能になります。プリント回路基板を設計/実装して実際にテストを実行する前に、現実的な性能を確認することが可能なので、設計にかかる時間とコストを大幅に削減することができます。

LTpowerCADによるEMIフィルタの設計

ここからは、LTpowerCADを使用してEMIフィルタを設計する手順を詳細に説明します。

概要

ここでは、DMのEMIに対応するためのフィルタの設計例を取り上げます。図5に、LTpowerCADの回路設計ページの例を示しました。DC/DCコントローラとして「LTC3833」を使用し、降圧レギュレータを構成するケースを想定しています。入力電圧が12V、出力電圧が5V/10A、スイッチング周波数fSWが1MHzという仕様を満たすために選定すべき部品の例が提示されています。手順としては、まず、スイッチング周波数、パワー段のインダクタ/コンデンサ/FETを選択して降圧コンバータを設計し、その後でEMIフィルタを設計することになります。

図5. LTpowerCADの回路設計用ページ。右上に「EMI tool」アイコンが表示されています。
図5. LTpowerCADの回路設計用ページ。右上に「EMI tool」アイコンが表示されています。

パワー段の部品を選択したら、「EMI tool」のアイコンをクリックします。すると、図6に示したウィンドウが開きます。これを使用して、DMノイズに対応するためのEMIフィルタを設計します。このウィンドウには、インダクタLfとコンデンサCfで構成されるEMIフィルタの詳細が示されます。この図を見ると、このフィルタはレギュレータの入力コンデンサCinB/CinCとLISNの間に配置することがわかります。また、LISN側のコンデンサCdAや抵抗RdA、レギュレータの入力コンデンサ側のコンデンサCdBや抵抗RdB、EMIフィルタのインダクタLfと並列に接続するオプションの減衰抵抗Rfpなど、オプションの減衰回路の詳細も示されています。図6の右側には、伝導性EMIの予測値(見積もり値)を示すグラフと、選択したEMI規格の上限値が表示されています。

図6. EMIフィルタの設計用ウィンドウ。DMの伝導性EMIを減衰させるためのフィルタの設計に使用します。この図は、Lfの値がゼロで、フィルタが構成されていない状態に対応しています。
図6. EMIフィルタの設計用ウィンドウ。DMの伝導性EMIを減衰させるためのフィルタの設計に使用します。この図は、Lfの値がゼロで、フィルタが構成されていない状態に対応しています。

EMI規格の選択

EMIフィルタを設計するにあたっては、設計目標となるEMI規格について確認しておかなければなりません。LTpowerCADは、CISPR 22(IT機器用)、CISPR 25(車載機器用)、MIL-STD461Gの各規格をサポートしています。「EMI Specification」のドロップダウン・メニューから対象とする規格を選択すれば、その目標値をグラフで確認することができます。

図6に示したグラフは、EMIフィルタを付加していない状態のEMI性能を表しています。この状態の性能を確認するために、フィルタのインダクタの値を0に設定しています。EMIフィルタを付加しなければ、基本波周波数と高調波周波数におけるEMIのスパイクがすべてCISPR 22の上限値を超えることがわかります。このような結果になることから、回路図の下の「EMI vs. Specification」のセクションには、赤色で警告が表示されています。

EMIフィルタのパラメータの設定

対象とするEMI規格を選択したら、必要なEMIマージンを入力します。ここで言うEMIマージンとは、選択した規格の上限値と基本波周波数におけるピーク値の差のことです。一般的な出発点としては、EMIマージンを3dB~6dBに設定するとよいでしょう。EMIフィルタを構成するコンデンサCfと電源の動作条件に関する選択内容に基づき、フィルタで使用するインダクタの推奨値が計算されます。その推奨値は、ウィンドウ上の黄色いセル(図中のL Sug.)に表示されます。必要なマージンを確保しつつEMI規格の上限値を満たすために、Lのセルには、提案値よりも少し大きい値を入力するようにしてください。

この例では、設計ツールにより、フィルタのインダクタンスとして0.669μHという値が提案されました(図7)。そこで、要件を満たすためのインダクタンスの値として0.72μHを設定します。このツールのメリットの1つは、EMIフィルタを付加した場合と付加していない場合の結果を比較検討できることです。「Show EMI Without Input Filter」のオプションにチェックを入れると、フィルタを付加した場合のグラフと、フィルタがない場合のグラフ(灰色)が重なった状態で表示されます。

フィルタのコンデンサCfの値を決定する際には、注意すべき重要なポイントがあります。X5RやX7Rなどの特性を備える誘電体を採用した積層セラミックコンデンサでは、DCバイアス電圧に依存して容量値が大きく低下することがあります。そのため、LTpowerCADでは、公称容量値C(nom)に加えて、DCバイアス電圧VinA/VinBを印加した場合の実際の容量値も入力できるようになっています。ベンダーが提供するデータシートを見れば、コンデンサのディレーティング曲線を確認することができます。LTpowerCADのライブラリの中から積層セラミックコンデンサ製品を選択した場合には、DCバイアス電圧によるディレーティングが、プログラムによって自動的に見積もられるようになっています。

EMIフィルタで使用するインダクタについても、注意すべきことがあります。製品によっては、DCによる飽和に伴ってインダクタンスが非線形性を示すことがあるからです。特にフェライト・ビーズ・インダクタでは、負荷電流の増加に伴ってインダクタンスが顕著に低下する可能性があります。EMIを正確に見積もるためには、実際のインダクタンスの値を入力するべきです。

図7. EMIフィルタの効果の確認。EMI規格の上限値を満たすように、インダクタの値を設定します。
図7. EMIフィルタの効果の確認。EMI規格の上限値を満たすように、インダクタの値を設定します。

フィルタによる減衰量の確認

上述したように、図7には、EMIフィルタを付加した場合の性能が表示されています。それを見ると、電源のスイッチング周波数よりも低い245kHzにおいて、LCフィルタの共振に起因するスパイクが生じています。ここで「Filter Attenuation」のタブをクリックすると、EMIのグラフではなく、フィルタの減衰量を示すグラフが表示されます。図8のように、245kHzにおける減衰量を確認することが可能です。

LCフィルタにおける共振ピークは、EMI規格の上限値を上回るスパイクを発生させることがあります。共振ピークを抑えるための方法が、先ほど少し触れたCdAとRdAです。EMIフィルタのコンデンサCfと並列に、オプションの減衰用部品としてこれらを追加します。LTpowerCADは、これらの部品を選定するプロセスも簡素化してくれます。CdAとしては、EMIフィルタで使用するCfの値の約2~4倍の値を選択するのが一般的です。LTpowerCADは、共振ピークを抑えるためのRdAの値を提案してくれます。

図8. EMIフィルタの減衰量。LISN側に減衰回路を追加する場合と追加しない場合の周波数特性を表示しています。
図8. EMIフィルタの減衰量。LISN側に減衰回路を追加する場合と追加しない場合の周波数特性を表示しています。

EMIフィルタの出力インピーダンス、レギュレータの入力インピーダンス

スイッチング・レギュレータの入力部にEMIフィルタを追加したとします。そうすると、EMIフィルタの出力インピーダンスZOFとレギュレータの入力インピーダンスZINの相互作用によって、望ましくない発振が生じることがあります。この不安定な状態を回避するには、十分なマージンが確保されるレベルまで、ZOFをZINよりも小さくする必要があります。図9に、ZOFとZINの概念と、それらの間で安定性を維持するためのマージンについてまとめました。

この問題を簡素化するためには、「フィードバック・ループの帯域幅が広い理想的なレギュレータは、一定の電力負荷として扱える」という考え方を導入するとよいでしょう。つまり、入力電圧と入力電流の積は一定であり、入力電圧が増加すれば入力電流は減少すると見なすということです。そうすると、理想的なレギュレータの入力インピーダンスZINは、-(VIN2)/PINという負の値になります。

LTpowerCADでは、EMIフィルタを容易に設計できるように、ZOFとZINを図10のように表示することが可能です。ZINは、入力電圧と入力電力の関数であることに注意してください。ワースト・ケース(ZINが最小になる)は、VINが最小でPINが最大になる場合です。

図10に示すように、EMIフィルタの出力インピーダンスZOFは、同フィルタのインダクタLfとレギュレータの入力コンデンサCinの共振周波数でピークに達します。適切な設計にするには、このピークの大きさをワースト・ケースのZINよりも十分に小さくしなければなりません。このピークのレベルを低減する必要がある場合には、コンデンサCdBと抵抗RdBで構成される2つ目の減衰回路をCinと並列に接続します。このCin側の減衰回路は、ZOFのピーク値の低減に向けて有効に働きます。LTpowerCADは、CdBとRdBの提案値も表示してくれます。

図9. EMIフィルタの出力インピーダンスとレギュレータの入力インピーダンス。安定性を確保するためには、これらの特性を確認する必要があります。
図9. EMIフィルタの出力インピーダンスとレギュレータの入力インピーダンス。安定性を確保するためには、これらの特性を確認する必要があります。
図10. EMIフィルタのインピーダンス。減衰回路を付加する場合と付加しない場合の特性を表示しています。
図10. EMIフィルタのインピーダンス。減衰回路を付加する場合と付加しない場合の特性を表示しています。

設計支援ツールの精度

ここまで、LTpowerCADが備えるEMIフィルタの設計支援ツールについて説明してきました。このツールの精度は、LTpowerCADによって得られたEMI性能の予測結果と、実装済みの現実の回路でEMIを測定した結果を比較することにより確認できます。図11に示したのが、その比較結果です。現実の回路の評価は、降圧コントローラ「LTC3851」のデモ用ボードを改変したものを対象として実施しました。その回路の基本仕様は、入力電圧が12V、出力電圧が1.5V、負荷電流が10A、スイッチング周波数が750kHzとしました。現実の回路の評価結果とLTpowerCADによる予測結果を比較すると、低い周波数におけるノイズのピークについては、現実の回路の方が数dB低いものの、よく一致していると言えます。

周波数が高い領域では、ノイズのピークのずれがより大きくなります。ただ、DMの伝導性EMIに対するフィルタのサイズは、主に低い周波数領域で生じるノイズのスパイクによって決まります。したがって、高い周波数領域におけるずれは、さほど重要ではありません。なお、このようなずれが生じる原因の1つは、インダクタとコンデンサの寄生モデル(基板レイアウトに依存する寄生成分の値など)の精度にあります。現時点では、PCベースの設計支援ツールにおいて、このずれを解消可能なレベルの精度を達成することはできません。

図11. 現実の回路の評価結果とLTpowerCADによる予測値の比較。入力が12Vで出力が1.5V/10Aの場合の結果です。
図11. 現実の回路の評価結果とLTpowerCADによる予測値の比較。入力が12Vで出力が1.5V/10Aの場合の結果です。

LTpowerCADが備えるEMIフィルタ用の設計支援ツールは、設計の出発点を提供するための見積もりツールであることに注意してください。EMIに関する正確なデータを得るための手段として、試作した回路を実際に評価することに勝るものはありません。

まとめ

多くのシステムでは、伝送する電磁信号を慎重に制御しなければなりません。そのため、EMIについては、いくつもの規格が定められています。その一方で、システムで使用されるスイッチング・レギュレータの数は増加する傾向にあります。しかも、それらは従来にも増して敏感な回路の近くに配置されるようになっています。スイッチング・レギュレータは強力なEMIの発生源だと言えます。そのため、多くの場合、EMIを定量化して低減することが求められます。問題なのは、EMIフィルタの設計とテストのプロセスが、時間とコストのかかる反復的なものになることです。

LTpowerCADというPCベースの設計支援ツールを使えば、設計やテストの手間を省くことができます。それにより、設計工数とコストの削減が図れます。具体的には、安定したレギュレータを実現しつつEMIを最小化するために、DMの伝導性EMIを減衰させるフィルタ(オプションの減衰回路を含む)の性能を予測することが可能です。その予測結果の精度は、現実の回路を対象とした評価によって検証済みです。

Henry Zhang

Henry Zhang

Henry Zhangは、アナログ・デバイセズでPower by Linear製品を担当するアプリケーション・ディレクタです。2001年にLinear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)に入社しました。1994年に中国の浙江大学で電気工学の学士号、1998年と2001年にバージニア工科大学で電気工学の修士号と博士号をそれぞれ取得しています。

Sam Young

Sam Young

Sam Youngは、アナログ・デバイセズでμModule®レギュレータ製品やLTpowerCADを担当するアプリケーション・マネージャです。10年以上にわたり、多様な製品とアプリケーションを対象としてレギュレータの設計を支援しています。