過酷な工業用アプリケーション向けの堅牢な絶縁型 RS-232 データ・インターフェースの設計

はじめに

工業用/計測用(I&I)アプリケーションにおいて、接続されたシステムを診断ポート経由で検査するために信頼性の高いデータ・インターフェースを確保することは、最も重要な課題の一つです。RS-232バス規格は、そうしたI&Iアプリケーションの診断ポートにおいて最も長い間、最も広範に使われている物理層バス設計の一つに挙げられます。RS-232は、1962年に発表されたシングルエンドのデータ伝送規格であり、早期に消滅するであろうという大方の予想に反し、短いケーブルでの通信用として業界全体で広く使われ続けています。

過酷な工業用環境において堅牢なデータ通信リンクを実現するためには、ノイズの多い環境で電圧スパイクとグラウンド・ループから保護し、システムの信頼性を高める必要があります。そのため、RS-232を用いた診断ポートでは、RS-232ケーブル・ネットワークと接続されるシステムの間に絶縁インターフェースを確立することが求められます(図1)。RS-232通信リンクの電力絶縁を行うには、絶縁型DC/DC電源を使用するか、アナログ・デバイセズ社のisoPower®技術を集積化したDC/DCコンバータを使用します。 RS-232通信リンクの信号絶縁の実装には、フォトカプラまたはアナログ・デバイセズのiCoupler®技術が用いられます。

Figure 1
図1. 代表的な絶縁型RS-232通信リンク

図2に示すように、絶縁バリアは、RS-232バスに接続された各システムからRS-232バスを絶縁します。このため、デジタル・データは2点間を移動できますが、グラウンド・ループ電流は防止することができます。このため、通信ケーブルに混入するノイズが取り除かれ、信号の歪みや誤差が低減されます。

Figure 2
図2. 絶縁機能

絶縁型RS-232インターフェースの実装

絶縁型RS-232通信インターフェースを実現するには、接続に用いられるRS-232ケーブルの両端で、デバイスとの絶縁を施す必要があります。データ・リンクを絶縁するためには、データ信号ラインに加えて、ケーブルを駆動するための電源にも絶縁が必要となります。診断ポート上のUARTからのデータは、絶縁バス側のRS-232トランシーバへの絶縁バリアを横切らなければなりません。また、絶縁バス側のRS-232トランシーバを駆動するためには、5V/3.3Vのローカル電源も絶縁バリアを横断する必要があります。これは工業用 PC側についても同様です。すなわち、データと電源の両方が絶縁バリアを越えて伝わる必要があるのです(図3)。

RS-232ケーブル・ネットワークから両端のデバイスを絶縁することによって、苛酷な環境下でRS-232ケーブルに混入するおそれのあるトランジェントから診断ポートと工業用PC回路を保護することができます。診断ポートと工業用PC側でのグラウンド電位の差によって発生するグラウンド・ループも、絶縁を施すことによって遮断されます。RS-232バスに発生するおそれのある高い同相電圧も、絶縁バリアを越えることができず、絶縁されたデータ信号線を用いるユーザーに対しても保護することができます。

Figure 3
図3. 絶縁型RS-232インターフェース

絶縁技術:データと電源

図4は、主な2つの絶縁技術を比較したものです。図4(a)の iCoupler技術は、厚膜処理技術を用い、2.5kVの絶縁を達成するマイクロスケール・オンチップ・トランスを作成することで、RS-232システムの信号絶縁を実現しています。図4(b)のフォトカプラ・ソリューションは、以前から広く用いられている技術で、発光ダイオード(LED)とフォトダイオードを使用します。LEDは電気信号を光に変換し、光検出器は光を電気信号に変換します。電気から光への変換効率は本質的に低いため、消費電力が比較的高くなる、光検出器の応答が遅いために速度が制限される、経年変化により製品寿命も制限されるといった影響があります。

ウェーハ・レベルの処理技術を用いてチップ上にトランスを直接製造することで、複数のiCouplerチャンネルの集積や他の半導体機能との集積を低価格で実現することができます。2チャンネルの絶縁型RS-232トランシーバを 1個の小型デバイスで提供するADM3252Eはその一例です。iCoupler絶縁デバイスが備える、少なくとも5つの特長、すなわち、集積度(iCouplerの双方向性動作によって全体的なソリューション・サイズとシステム・コストを低減)、高性能、低消費電力、使いやすさ、高信頼性により、従来のフォトカプラ・ソリューションでは避けられなかった制約を克服することができます。

Figure 4
図4. 絶縁技術の比較

最近までは、絶縁バリアを越えて電力を伝達するためには、比較的大きく、高価で、絶縁の不十分な個別のDC/DCコンバータか、あるいは大きくて設計が困難なカスタム・ディスクリート方式が必要でした。絶縁型RS-232データ通信などの絶縁すべき電力が小さいアプリケーションにおいても、これらの方式しか実現性のある選択肢はありませんでした。

この問題を解決するため、アナログ・デバイセズは、マイクロ・トランスを採用し、絶縁バリアを横断して信号と電源の両方を伝達できる完全集積型のソリューションの開発・製造に成功しました。この画期的な新技術は、当社の定評あるiCoupler技術を発展させたもので、isoPowerと名付けられました。信号および電力絶縁(最大 2.5kV)を単一のコンポーネント上に実現することで、大きく、高価で、設計しにくい絶縁電源が不要になります。これによって、代表的な絶縁型RS-232インターフェースの基板面積、設計時間、絶縁システムの総コストを大幅に減らすことができます。以下のセクションでは、この技術を適用できる 2つの代表的なRS-232設計事例について説明します。

絶縁型、高速デュアルチャンネルRS-232インターフェース

図5は、ディスクリート部品を使用する従来型のソリューションと完全集積型ソリューションを比較したものです。

Figure 5
図5. 絶縁型RS-232設計の比較

図5(a)に示す、従来の完全絶縁型の 2チャンネルRS-232インターフェースの組み込み方法では、フォトカプラを使用してRS-232リンクのデータ絶縁を実現しています。データライン(TIN1、TIN2、ROUT1、ROUT2)ごとに1個のフォトカプラが必要であり、さらに外付けバッファもそれぞれ 1個ずつ必要になります。絶縁電源は、トランス・ドライバ ICを使用することで、絶縁された5Vまたは 3.3VのISO VCCレールをクリーンアップする簡単な整流回路とLDO(低ドロップアウト・レギュレータ)とともに、単体のトランスを駆動します。この設計の実装には、8個のICといくつかの受動部品に加えて、相当な基板面積も必要です。

図5(b)に示すシングルチップ・ソリューションでは、わずか1個のIC(ADM3252E)、2個のデカップリング・コンデンサ、4個のチャージ・ポンプ・コンデンサによって、4つすべての信号に対する完全絶縁型(2.5kV)の2チャンネルRS-232インターフェースを実装することができます。

ADM3252E(図6)は、標準的なRS-232トランシーバと4チャンネルiCouplerを組み合わせて、RS-232データ信号の信号絶縁を提供します。また、isoPower技術を集積化することで、オンチップでの電力絶縁を実現しています。ADM3252Eは、iCoupler技術と isoPower絶縁技術を組み合わせてRS-232トランシーバを集積化し、2.5kV rmsの絶縁機能を持つ完全絶縁型RS-232インターフェースをシングル・パッケージ(12mm× 12mm)で提供することができ、必要な外部コンデンサはわずか6個です。

Figure 6
図6. ADM3252E(絶縁型、2チャンネルRS-232トランシーバ)

このADM3252Eによって実現するシングルチップ・ソリューションは、絶縁型RS-232インターフェースに必要な設計時間と基板面積を大幅に低減します。PCボードに組み込まれる部品の数が大幅に減少するため、製造コストが減少し、信頼性が向上します。さらに、ADM3252Eは、5V、3.3Vいずれのアプリケーションに用いる場合にも修正が不要であるため、ディスクリート設計では必要となる設計変更を回避できます。

ADM3252EではisoPower技術は2.5kVの電力絶縁を44-BGAパッケージにおいて直接的に実現しているため、従来のソリューションで用いられていた高価な単体のトランスが不要になります。さらに、iCoupler技術は信号(データ)絶縁を提供するため、独立した4つのフォトカプラ・チャンネルが不要になります。

ESD保護

RS-232ケーブルはユーザによって物理的に接続/切断されるため、堅牢で信頼性の高いインターフェースを確立するためには、RS-232の送信(Tx)ピンと受信(Rx)ピン( TxD1、TxD2、RxD1、RxD2)のESD(静電放電)保護がきわめて重要です。ADM3252Eでは、次のように、RINxピンとTOUTxピンでIEC1000-4-2(801.2)に基づくESD保護が指定されています。

  • 接触放電: ±8 kV
  • エアギャップ放電: ±15 kV

過渡保護

工業用アプリケーションのきわめて過酷な動作条件においても、絶縁型RS-232トランシーバが動作できるよう、iCouplerおよび isoPowerの二つの絶縁技術とも 25kV/μs以上の高い同相過渡耐圧が仕様規定されています。この値は、仕様適合性を維持しながら持続可能な、最大同相電圧スルーレート(ロジック側とバス側との電位差)です。過渡電圧レベルは、同相電圧がスルーされる範囲です。同相電圧スルーレートは、立上がりと立下がり両方の同相エッジに適用されます。この仕様は、苛酷な環境でRS-232ケーブルに混入するトランジェントがRS-232トランシーバに損害を与えたり、誤ったデータを送信したりしないことを保証するもので、これにより、きわめて信頼性の高いデータ・リンクの構築が可能になります。

2.5kVの絶縁保護と認定

絶縁型トランシーバは、デバイスのロジック側とバス側の間で2.5kVの絶縁が仕様規定されています。この絶縁規格によって、ロジック側とRS-232ケーブルの間を電流がまったく流れないことが保証されます。また、RS-232ケーブルに混入した電圧やトランジェントがロジック側に到達することもありません。2.5kVの絶縁保護はまた、ロジック側のユーザがRS-232ケーブルに出現する高電圧やトランジェントから保護されることを意味します。ADM3252Eの2.5kV絶縁定格の認定は、アンダーライターズ・ラボラトリーズ(UL)、ドイツ電子技術者連盟(VDE)、カナダ規格協会(CSA)の各機関に出願中です。UL1577認定では、フォトカプラと同様に、すべてのADM3252Eデバイスの絶縁バリアに100%の出荷テストを実施する必要があります。

  • UL設定

    • UL 1577準拠、1分間で2,500V rms
  • VDE準拠認定

    • IEC 60747-5-2 (VDE 0884、Part 2)
    • VIORM = 560 V ピーク
  • CSA 部品承認通達 #5A

ADM3252Eの仕様

ADM3252Eは、電気的に過酷な(あるいは、RS-232ケーブルが頻繁に抜き差しされる)環境での動作に最適な2チャンネル、高速、完全絶縁型(データと電力)のRS-232トランシーバです。4つの独立した iCouplerデジタル絶縁チャンネル(送信用と受信用に2つずつ)とisoPowerチップスケール DC/DCコンバータを集積化し、2.5kV rmsの絶縁、 25kV/μsの過渡耐圧、±15kVのESD保護を実現します。最大460kbpsのデータレートで通信し、TIA/EIA-232E仕様に準拠します。オンチップの電圧ダブラとインバータによって、単電源動作が可能です。ADM3252Eは、3.0~ 5.5Vの単電源で動作し、無負荷時の消費電流は20mAです。12mm×12mmの44ピンCSP BGAパッケージを採用し、-40~+85℃で仕様規定され、1,000個受注時の単価が8.49ドルです(米国における販売価格)。

PCボードのレイアウト

仕様規定された2.5kV絶縁を実際の設計で実現するには、絶縁型トランシーバのPCボードのレイアウトがきわめて重要です。主なポイントは、沿面距離(2つの導体間の表面に沿った最短距離)、およびロジック側GNDとバス側GNDとの間のクリアランス(空間的な最短距離)です。ADM3252Eのロジック・インターフェースには、外部回路は不要です。入出力電源ピンには電源のバイパスが必要です(図7)。放射放出(EMI)を制御するためのPCボードのレイアウトと作成のガイドラインの詳細については、アプリケーション・ノートAN-0971『isoPowerデバイスでのEMI放射制御についての推奨事項』を参照してください。

Figure 7
図7. ADM3252Eの推奨プリント回路基板レイアウト

絶縁型、高速シングルチャンネルRS-232インターフェース

シングル・チャンネル(1Tx、1Rx)で、5V絶縁型RS-232インターフェースだけを必要とするトランシーバ・アプリケーションの場合には、ADM3251E、20ピンのワイドボディSOICでのシングルチップ・ソリューションがあります。この製品は、表面実装型RS-232トランシーバとしては初めてiCoupler技術とisoPower絶縁技術を採用し、データラインと電源の完全な絶縁機能を備えています。2.5kVの絶縁定格を備えており、業界標準の絶縁条件(UL1577とDIN VDE 0884-10)に適合します。これによって、工業用オートメーションや制御のアプリケーションにおける絶縁型RS-232診断データ・ポートなど、ノイズの多い動作環境で要求される堅牢性レベルを満たします。SMTパッケージは、従来のICに比べて基板面積が45%小さく、製造プロセスの高速化とシステム開発コストの削減に役立ちます(図8)。

Figure 8
図8.シングルチャンネルRS232トランシーバのアプリケーション
(a) ADM3251Eの仕様 (b) 従来の方式  (c) iCoupler + isoPower方式

結論

工業用/計測用アプリケーションにおける今日のRS-232インターフェース・リンクは、単に絶縁されているだけでなく、小さく、堅牢で、安価である必要があります。完全絶縁型のシングルチップRS-232トランシーバ(絶縁された電源も含む)は、チップスケール・トランス絶縁と標準のRS-232インターフェース・トランシーバを一体化することによって、こうした利便性を実現しています。2チャンネルのADM3252Eと1チャンネルのADM3251Eは、設計時間の大幅な低減に寄与し、上記のような苛酷なアプリケーションにおいて、小型、高信頼性、低価格、高性能のソリューションを実現します。

EngineerZoneAnalog Dialogue Communityに掲載している“isolated RS-232 interfaces”のブログ記事(英語)へのコメントもお待ちしております。


Maurice_Obrien

Maurice O'Brien

Maurice O’Brienは、アイルランドのリムリック大学 電気工学科を卒業後、2002年にADIに入社しました。現在は、電源管理製品ラインのマーケティング・マネージャーを務めています。休日には、乗馬、スポーツ、旅行を楽しんでいます。