システム性能を改善し、設計を簡素化する最新のDACとDACバッファ

    Padraic O’Reilly Charly El-Khoury 共著 (コメントは英語でお願いいたします


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目次

  1. 低ノイズ、高速セトリング、直線性改善を実現 する電圧スイッチング型16ビットDAC
  2. 高速電流出力DACバッファ

多くの制御システムの中核にあるD/Aコンバータ(DAC) は、システムの性能と精度を決定するのに重要な役割を果たし ます。この記事では、高精度の新しい16ビットDACに着目し、 トランスの性能に匹敵する高速相補電流出力DACの出力を バッファリングするためのアイデアをいくつかご紹介します。

低ノイズ、高速セトリング、直線性改善を実現 する電圧スイッチング型16ビットDAC
著者:Padraic O’Reilly

抵抗ラダー乗算型D/Aコンバータは、およそ40年前に発売さ れて一世を風靡した10ビットCMOS AD7520をベースにし たものです。当初は、反転オペアンプとともに使用し、アンプ の加算点(IOUTA)を都合のいい仮想グラウンドにすることがで きました(図1)。

図1. CMOS乗算型D/Aコンバータのアーキテクチャ

図1. CMOS乗算型D/Aコンバータのアーキテクチャ

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しかし、オペアンプを電圧バッファとして使用することで、い くつか制限はありますが、非反転電圧出力を提供する電圧ス イッチング型構成とすることもできます(図2)。この場合、リ ファレンス電圧(VIN)がIOUTに印加され、出力電圧(VOUT) はVREF から取り出せます。この目的のために最適化された 12ビットデバイスがほどなく発売されました。

図2. 乗算型D/Aコンバータ(電圧スイッチング・モード)

図2. 乗算型D/Aコンバータ(電圧スイッチング・モード)

現在までの経緯:単電源システムが一般的になるにつれて、設 計者は、消費電力を抑制しながら、もっと高い電圧で実現する 性能レベルを維持するという課題に直面しています。このモー ドで使用できる16ビットまでの高分解能を持つデバイスのニー ズが高まっています。

乗算型D/Aコンバータを電圧スイッチング・モードで使用する 場合の明らかな利点は、信号反転がないため、正のリファレン ス電圧で正の出力電圧が得られることにあります。しかし、こ のモードでR-2Rラダー・アーキテクチャを使用する場合、弱 点もあります。R-2Rラダーと直列に使用するNチャンネル・ スイッチの非直線性抵抗によって、同じDACをカレント・ス テアリング型モードで使用する場合に比べて、積分非直線性 (INL)が悪くなります。

電圧スイッチングの長所を生かしながら乗算型D/Aコンバー タの制限を克服するために、AD5541A(図3)などの新し い高分解能DACが開発されました。部分的にセグメント化 されたR-2Rラダー・ネットワークと相補型スイッチにより、 AD5541Aは、11.8nV/√Hzのノイズ、1μs のセトリング時間 に加えて、-40℃~+125℃の仕様規定された温度範囲の全域 で調整なしに16ビットで±1LSBの精度を実現します。

図3. AD5541Aのアーキテクチャ

図3. AD5541Aのアーキテクチャ

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性能の特長

セトリング時間:図4と図5は、電圧モードでの乗算型D/A コンバータとAD5541Aとのセトリング時間を比較していま す。出力の容量性負荷を最小限に抑えた場合、AD5541Aのセ トリング時間はおよそ1μs です。

図4. 乗算型D/Aコンバータのセトリング時間

図4. 乗算型D/Aコンバータのセトリング時間

図5. AD5541Aのセトリング時間

図5. AD5541Aのセトリング時間

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ノイズ・スペクトル密度:表1は、AD5541Aと乗算型D/A コンバータのノイズ・スペクトル密度を比較しています。 AD5541Aは、10kHz で若干良好な性能を示し、1kHz ではる かに優れた性能を示します。

表1. AD5541Aと乗算型D/Aコンバータのノイズ・スペクトル密度
DAC NSD @ 10 kHz
(nV/√Hz)
NSD @ 1 kHz (nV/√Hz)
AD5541A 12 12
MDAC 30 140

積分非直線性(INL):積分非直線性は、ゲイン誤差とオフセッ ト誤差を除去した後のDACの実際の出力の理想的な出力に対 する最大偏差を表します。R-2Rネットワークと直列に使用す るスイッチは、INLに影響を与えることがあります。乗算型 D/Aコンバータは、一般にNMOSスイッチを使用します。電 圧スイッチング・モードで使用する場合、NMOSスイッチの ソースをリファレンス電圧に接続し、ドレインをラダーに接続 し、内部ロジックでゲートを駆動します(図6)。

図6. 乗算型D/Aコンバータのスイッチ

図6. 乗算型D/Aコンバータのスイッチ

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NMOSデバイスに電流が流れるには、VGSが閾値電圧(VT)を上 回る必要があります。電圧スイッチング・モードでは、VGS=VLOGICVIN がVT=0.7Vを上回る必要があります。

乗算型D/AコンバータのR-2Rラダーは、電流を各脚に均一に 分割するように設計されています。そのためには、各脚の上部 から見て、グラウンドに対する全抵抗をまったく同じにする必 要があります。このため、各スイッチのサイズをそのオン抵抗 に比例するように、スイッチのスケーリングを行います。脚の 抵抗が変化した場合、その脚を流れる電流も変化して直線性誤 差が発生します。VINは、スイッチをシャットオフするほど大 きくすることはできませんが、スイッチ抵抗を低く抑えるだけ の大きさは必要です。VINの変化はVGSに影響を与えるため、 次式に示すように、オン抵抗に非直線性の変化が生じます。

オン抵抗がこのように変化すると、電流のバランスが失われ、 直線性に悪影響を与えます。したがって、乗算型D/Aコンバー タの電源電圧を大幅に減らすことはできません。逆に、リファ レンス電圧が1V以上AGNDを上回らないようにすれば直線 性を維持できます。5V電源の場合、図7と図8に示すように、 1.25Vリファレンスから2.5Vリファレンスに移動すると直線 性の劣化が始まります。図9に示すように、電源電圧が3Vまで 低下すると、直線性は完全に失われます。

図7. IOUT乗算型D/AコンバータのINL
(反転モード、VDD=5V、VREF=1.25V)

図7. IOUT乗算型D/AコンバータのINL
(反転モード、VDD=5V、VREF=1.25V)

図8. IOUT乗算型D/AコンバータのINL
(反転モード、VDD=5V、VREF=2.5V)

図8. IOUT乗算型D/AコンバータのINL
(反転モード、VDD=5V、VREF=2.5V)

図9. 乗算型D/AコンバータのINL
(反転モード、VDD=3V、VREF=2.5V)

図9. 乗算型D/AコンバータのINL
(反転モード、VDD=3V、VREF=2.5V)

この影響を最小限に抑えるために、図10に示すように、 AD5541Aは相補型NMOS/PMOSスイッチを使用します。 これによりスイッチの合計オン抵抗は、NMOSスイッチと PMOSスイッチの抵抗が並列に寄与します。前述のように、 NMOSスイッチのゲート電圧は内部ロジックによって制御さ れています。内部生成された電圧VGNは、NMOSとPMOS のオン抵抗がバランスするように最適なゲート電圧を設定しま す。スイッチはコードに応じたサイズになるため、オン抵抗も コードに応じて変化します。このように、電流をスケーリング して精度を維持します。リファレンス入力から見たインピーダ ンスはコードとともに変化するため、リファレンス入力は低イ ンピーダンス源から駆動する必要があります。

図10. 相補型NMOS/PMOSスイッチ

図10. 相補型NMOS/PMOSスイッチ

図11と図12は、5Vリファレンスと2.5Vリファレンスによる AD5541AのINL性能を示します。

図11. AD5541AのINL(VDD=5.5V、VREF=5V)

図11. AD5541AのINL(VDD=5.5V、VREF=5V)

図12. AD5541AのINL(VDD=5.5V、VREF=2.5V)

図12. AD5541AのINL(VDD=5.5V、VREF=2.5V)

図13と図14から、広範囲のリファレンス電圧と電源電圧にお いて直線性がほとんど変化しないことがわかります。DNLの 特性もINLの特性と似ています。AD5541Aの直線性は、温度 と電源電圧に対して規定されています。対応できるリファレン ス電圧の範囲は、2.5Vから電源電圧までになります。

図13. AD5541AのINLと電源電圧の関係

図13. AD5541AのINLと電源電圧の関係

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図14. AD5541AのINLとリファレンス電圧の関係

図14. AD5541AのINLとリファレンス電圧の関係

AD5541Aの詳細

シリアル入力、単電源、電圧出力のnanoDAC+ D/Aコンバー タAD5541Aは、±0.5LSB(typ)の積分および微分非直線性 で16ビットの分解能を提供します。このデバイスは、電圧ス イッチング・モードで乗算型D/Aコンバータを使用するアプリ ケーションに最適です。広範囲の温度と電源電圧で高い性能を 発揮し、優れた直線性を実現し、高精度のDC性能と高速セト リングが要求される3V~ 5Vのシステムに使用できます。2V から電源電圧までの外部リファレンス電圧を使用すれば、バッ ファなしの電圧出力で60kΩ負荷を0VからVREF まで駆動でき ます。このデバイスは、1/2 LSBまで1μsのセトリング時間、 11.8nV/√Hz のノイズ、低グリッチを特長とし、医用、航空宇 宙用、通信用、工業用の多種多様なアプリケーションに最適で す。低消費電力でSPI 互換の3線式シリアル・インターフェース は、最大50MHzでクロック駆動することができます。2.7V~ 5.5Vの単電源で動作するAD5541Aの消費電流は、わずか 125μAです。8ピンと10ピンのLFCSPおよび10ピンの MSOPパッケージを採用し、-40℃~+125℃で仕様規定さ れ、1000個受注時の単価は6.25ドルからです(米国における 販売価格)。

高速電流出力DACバッファ
著者:Charly El-Khoury

高速電流出力DACの相補出力をシングルエンド電圧出力に 変換する場合、トランスを選択することが一番と考えられて いますが、これはノイズや消費電力を増加させないためです。 トランスは、高周波信号での動作はよいのですが、計測用お よび医用アプリケーションの多くで求められる低周波信号を 処理することができません。これらのアプリケーションは、 相補電流をシングルエンド電圧に変換するために、低消費電 力、低歪み、低ノイズの高速アンプを必要とします。ここで ご紹介する3 つの回路は、DACからの相補出力電流を受け入 れ、シングルエンド出力電圧を提供するものです。このうち最 後の2 つの回路の歪みをトランスを使用するソリューション と比較します。

ディファレンス・アンプ:最初の回路(図16)では、差動/ シングルエンド・アンプAD8129AD8130(図15)を使 用しています。これらのアンプは、高周波数できわめて高い同 相除去を特徴としています。AD8129は10以上のゲインで安 定しているのに対しAD8130はユニティ・ゲインで安定しま す。これらのゲインはユーザ調整可能であり、2本の抵抗(RF とRG)の比によって設定できます。ゲイン設定にかかわらず、 AD8129とAD8130の1番ピンと8番ピンには非常に高い入 力インピーダンスを持ちます。リファレンス電圧(VREF、4番 ピン)を使用すれば、差動入力電圧と同じゲインによって乗算 されたバイアス電圧を設定することができます。

図15. AD8129/AD8130ディファレンス・アンプ

図15. AD8129/AD8130ディファレンス・アンプ

図16. AD8129/AD8130を使用するDACバッファ

図16. AD8129/AD8130を使用するDACバッファ

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式1と式2は、アンプの出力電圧とDACの相補出力電流の関係 を示しています。終端抵抗(RT)によって電流/電圧変換を実 行し、RF とRGの比でゲインが決定します。式2でVREF は0に 設定しています。

(1)
(2)

図16では、この回路に高速、低消費電力、14ビットのクワッドDAC を使用し、相補電流出力段で速度を高め、低消費電力DACの歪 みを低減します。

図17は、2種類の電源電圧値においてRF=2kΩ、RG=221Ω、 RT=100Ω、VO=8V p-pのDACとAD8129を用いた場合のこの 回路のスプリアスフリー・ダイナミック・レンジ(SFDR)と周波数の関 係を示しています。ここでAD8129を選択したのは、出力信号が大き く、G=10で安定しており、AD8130に比べて高いゲイン帯域幅積 があるためです。SFDRは、いずれの場合も10MHzまでは一般に 55dBよりも低く、低電源電圧においては約3dB以上も改善します。

図17. DACとAD8129の歪み(VO=8V p-p)

図17. DACとAD8129の歪み(VO=8V p-p)

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ユニティ・ゲインでのオペアンプ:2番目の回路(図18)は、2 本のRT抵抗と高速アンプを使用します。このアンプは、RTを 介して、相補電流(I1とI2)をシングルエンド出力電圧(VO) に変換するだけです。この簡単な回路では、アンプをゲイン・ ブロックとして使用する信号増幅はできません。

図18. オペアンプを使用する簡単な差動/シングルエンド・コンバータ

図18. オペアンプを使用する簡単な差動/シングルエンド・コンバータ

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式3は、VOとDAC出力電流の関係を示しています。歪みデー タは、RTと5pFのコンデンサを並列に接続して測定されまし た。

(3)

この回路の性能を実証するため、RT = 125Ω(および安定 性とローパス・フィルタ処理のためにCT =CF = 5pFを RT と並列接続)で、DACとオペアンプ(ADA4857 およ びADA4817)をペアにしました。シングルのADA4857-1 とデュアルのADA4857-2 は、低歪み、低ノイズ、高ス ルーレートの特性を備えた、ユニティゲイン安定な高速電圧 帰還型アンプです。この回路は、超音波、ATE、アクティ ブ・フィルタ、ADCドライバなど、さまざまなアプリケーションに最適なソリューションであり、850MHz の帯域幅、 2800V/μs のスルーレート、0.1%まで10n s のセトリング 時間を特長とし、しかも5mAの無信号時消費電流で動作し ます。広い電源電圧範囲(5V~ 10V)を持つADA4857-1 とADA4857-2 は、広いダイナミック・レンジ、高精度、 高速性、低消費電力を必要とするシステムに最適です。

シングルのADA4817-1とデュアルのADA4817-2 Fas tFET™アンプは、FET入力を備えた、ユニティ・ゲイ ン安定で超高速の電圧帰還型オペアンプです。これらのアン プは、アナログ・デバイセズ独自の超高速相補型バイポーラ (XFCB)プロセスで開発されており、超低ノイズ(4nV/√Hz および2.5fA/√Hz)ときわめて高い入力インピーダンスを実現 します。1.3pFの入力容量、2mVの最大オフセット電圧、低 消費電力(19mA)、広い-3dB帯域幅(1050MHz)を備え ているため、データ・アクイジションのフロントエンド、フォ トダイオード・プリアンプ、その他のワイドバンド・トランス インピーダンス・アプリケーションに最適です。5V~ 10Vの 電源電圧範囲で単電源または両電源で動作可能であり、アク ティブ・フィルタリング、ADC駆動、DACバッファリング など、さまざまなアプリケーションで動作するように設計され ています。

図19は、VO=500mV p-pでの周波数に対する歪みをトランスを使 用する回路と比較しています。高周波数ではアンプのゲインの減少に よりトランスはアンプよりも歪みが小さいが、低周波数では歪みがアン プより悪化します。ここでは、限られたレンジでほぼ90dBのSFDR を達成でき、10MHzまで70dB未満です。

図19. DAC、ADA4857、ADA4817の歪み
(VO=500mV p-p、RL=1kΩ)

図19. DAC、ADA4857、ADA4817の歪み(VO=500mV p-p、RL=1kΩ)

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ゲインのあるオペアンプ:3番目の回路(図20)も同じ高速オ ペアンプを使用しますが、アンプをDACから切り離す抵抗ネッ トワークが組み込まれているため、ゲイン設定が可能であり、 2つのリファレンス電圧(VREF1 とVREF2)のどちらかを使用し て出力バイアス電圧を調整できる柔軟性があります。

図20. ゲインとバイアス機能による差動/シングルエンド

図20. ゲインとバイアス機能による差動/シングルエンド

式4は、VREF1=VREF2=0でのDAC出力電流とアンプ出力電圧 の関係を表しています。DACから見てアンプ・ネットワークの入力イン ピーダンスをマッチングさせるには、アンプの特性を考慮に入れて2本 の終端抵抗(RT1とRT2)を個別に設定する必要があります。

(4)

図21は、この構成でのアンプの歪みとトランス回路の歪みを 比較したものです。RT1=143Ω、RT2=200Ω、RF=RG= 499Ω、CF=5pF(安定性と高周波フィルタリングのため)、 RL=1kΩです。ここで、ADA4817の性能は、高周波数におい てトランスの性能に匹敵し、最大70MHz まで-70dBcを下回 る優れたSFDRを維持します。いずれのオペアンプも、トラン スに比べて優れた低周波忠実度を維持します。

図21. DAC、ADA4817、ADA4857の歪み
(VO=500mV p-p)

図21. DAC、ADA4817、ADA4857の歪み (VO=500mV p-p)

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この記事では、低歪み、低ノイズの高速アンプをDACバッファ として使用することによって得られるいくつかの利点を、ト ランスを使用した場合の性能と比較して示しました。また、2 つの異なるアンプ・アーキテクチャを使用して3種類のアプリ ケーション回路を比較し、DACとAD8129、ADA4857-1/ ADA4857-2、ADA4817-1/ADA4817-2の各アンプによる 測定データを示しました。このデータは、1MHz 未満の周波数 においてアンプがトランスを上回り、最大80MHz までトラン スの性能にほぼ一致することを示しています。消費電力と歪み のトレードオフを考慮するとき、アンプは重要な選択肢となり ます。

ご質問、コメントなどございましたら、Analog Diablog™へ英語にてお寄せ下さい。




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