フライバック・コンバータが抱える限界

多くのアプリケーションでは、ガルバニック絶縁が施された電源が使用されます。その理由は、アプリケーションごとに様々です。例えば、安全性を確保するためにガルバニック絶縁を利用するケースがあります。一方で、信号への干渉を防ぐことを目的として機能絶縁が用いられることも少なくありません。

通常、ガルバニック絶縁を必要とする電源は、フライバック・コンバータ(フライバック・レギュレータ)を使用して構成されます。その設計は非常にシンプルです。図1に、フライバック・コントローラとしてアナログ・デバイセズの「ADP1071」を使用した場合の標準的な回路例を示しました。トランスT1のドット(黒い点)の向きが一致していないことから、これがフライバック・コンバータであることはすぐにわかります。同コンバータの1次側ではパワー・スイッチQ1を使用します。そして、2次側には整流回路を用意します。整流回路はショットキー・ダイオードでも実現できますが、効率を高めるためにアクティブ・スイッチQ2がよく使用されます。ADP1017は、これらのスイッチの制御する役割を果たすと共に、帰還経路(FBピン)に対するガルバニック絶縁を実現します。

図1. 代表的なフライバック・コンバータ。約60Wまでの電力に対応できます。

図1. 代表的なフライバック・コンバータ。約60Wまでの電力に対応できます。

フライバック・コンバータは非常によく使用されますが、このトポロジには実用上の限界があります。図1の回路において、T1はトランス本来の使い方で使われているとは言えません。Q1がオンしている際には、T1の2次巻線には電流は流れません。1次側の電流エネルギーは、ほぼすべてトランスのコアに蓄積されます。降圧コンバータがインダクタにエネルギーを蓄積するのと同様に、フライバック・コンバータではトランスで蓄積を実施します。Q1がオフになると、T1の2次側で電流が流れます。それにより、出力コンデンサCOUTと出力にエネルギーが供給されます。この概念は非常に簡単に具現化できますが、扱う電力量が多くなると、この構成に特有の限界が生じます。繰り返しになりますが、T1はエネルギーを蓄積するための素子として使用されます。そのため、このトランスは結合インダクタ(チョーク)とも呼ばれます。この用途のトランスとしては、必要な量のエネルギーを蓄積できるものを使用しなければなりません。ただ、電源で扱うエネルギー量が多くなればなるほど、トランスとしては大型で高価なものしか使用できなくなります。そうした理由もあり、フライバック・コンバータを使用するほとんどのアプリケーションでは、電力量の上限が約60Wに設定されます。

ガルバニック絶縁された電源でより多くの電力を扱わなければならない場合には、フォワード・コンバータ(フォワード・レギュレータ)が有力な選択肢になります。同コンバータは図2のように構成します。この回路では、トランスがまさに本来の使い方で使われています。つまり、1次側のQ1に電流が流れたら、2次側にも電流が流れます。言い換えると、トランスはエネルギーを蓄積する能力を備えている必要はありません。ただ「逆は真なり」でもあり、このトランスは、数サイクル後に過って飽和状態に達してしまうことがないよう、Q1がオフの間は常に確実に放電を行う必要があります。

図2. 代表的なフォワード・コンバータ。約200Wまでの電力に対応できます。

図2. 代表的なフォワード・コンバータ。約200Wまでの電力に対応できます。

扱う電力量が同じであるなら、フォワード・コンバータでは、フライバック・コンバータを使用する場合と比べて小さいトランスを選択できます。このことから、60W未満の電力レベルで使用する場合でも、フォワード・コンバータは実用的かつ合理的な選択肢になり得ます。ただ、フォワード・コンバータには、各サイクルで、意図せずに蓄積されたエネルギーからトランスのコアを解放しなければならないという短所があります。これは、図2の回路で言えば、スイッチQ4とコンデンサCCを使って構成したアクティブ・クランプ回路によって実現されます。また、通常のフォワード・コンバータでは、出力側にインダクタL1を追加しなければなりません。このL1により、扱う電力量が同じレベルである場合、出力電圧のリップルはフライバック・コンバータと比べて小さく抑えられます。

アナログ・デバイセズは、フォワード・コンバータ向けの非常にコンパクトなソリューションとして「ADP1074」をはじめとするパワー・マネージメントICを提供しています。通常、このアーキテクチャは約60Wよりも多くの電力を扱わなければならない場合に使用されます。ただ、電力量が60W未満の場合でも、回路の複雑さや達成したい効率などの事情によっては、フライバック・コンバータではなくフォワード・コンバータの方が選択肢として優れているケースがあります。どちらのトポロジを採用するか判断したい場合には、フリーの回路シミュレータであるLTspice®を使用してシミュレーションを実行するとよいでしょう。図3に、LTspiceによるシミュレーション用の回路を示しました。これは、ADP1074を使用してフォワード・コンバータを構成した例です。

図3. LTspiceによるシミュレーション用の回路。ADP1074を使って構成しています。

図3. LTspiceによるシミュレーション用の回路。ADP1074を使って構成しています。

Frederik Dostal

Frederik Dostal

Frederik Dostalは、ドイツのエアランゲン・ニュルンベルク大学でマイクロエレクトロニクスについて学びました。2001年にパワー・マネージメント事業の分野で働き始め、アリゾナ州フェニックスで4年間にわたってスイッチング電源を担当したほか、さまざまなアプリケーション分野の業務に携わってきました。2009年にADIに入社し、ミュンヘンのアナログ・デバイセズでパワー・マネージメントのフィールド・アプリケーション・エンジニアとして従事しています。