ヘルスケア分野におけるウェアラブル技術のトレンド

アナログ・デバイセズで欧州担当の事業開発マネージャを務めるJan-Hein Broedersが、イタリアのEO Newsのインタビューに応じました。医療分野におけるトレンドや、私たちの健康にメリットをもたらし生活の質を向上させる最新技術について語っています。

アナログ・デバイセズはどのような市場に注力しているのですか?

アナログ・デバイセズは半導体メーカーとして、またソリューション・プロバイダとして、複数の市場をターゲットとしています。産業、通信、車載、民生、医療の5つです。これらのうち、医療の市場は注力している分野の1つだと言ってよいでしょう。この市場は、複数のサブセグメントに分割することができます。医療用イメージング機器、バイタル・サイン・モニタリング(VSM)機器、医療用計測器などです。どのサブセグメントにおいても、地理的な要因などから国/地域ごとに異なる需要が存在します。ただ、当社はすべてのサブセグメントに対して積極的に取り組んでいます。特にVSMは、ここ数年間すべての地域において最も成長著しい分野の1つになっています。

10年ほど前まで、VSM機器の主なユーザは、病院か、救急車やヘリコプタなどを利用する専門の救助隊でした。市場規模が大きいのはベッドサイド・モニタや集中治療室用のモニタでした。それらはハイエンドのシステムであり、多極心電図(ECG)の計測をサポートすると共に、酸素飽和度、体温、CO2など、複数のパラメータの測定に対応します。しかし、現在では、VSMは日常生活の一部として取り込まれるようになりました。例えば、ウェアラブルなVSMシステムを利用すれば、リモート診療を行うことが可能になります。その結果、患者は手術を受けた後、回復するまで入院することなく早期に退院することが可能になります。自宅のくつろいだ環境で回復までの期間を過ごすことができるということです。手術からの回復はプライベートな環境にいる方が早いケースが多い上に、入院しなくて済むということは高額な医療費を軽減することにつながります。また、リモート診療を可能にするVSMシステムは、高齢者が自立して生活できる期間を延長する効果をもたらします。高齢化が進むなか、老人介護施設の費用は手が届かないほど高額になりつつあります。リモート監視システムを利用できれば、少数の専門家によって、より多くの人々をカバーすることが可能になります。更に、スポーツや運動の分野でVSMを利用することもトレンドになっています。この用途では、バイタル関連のパラメータを監視するだけでなく、その運動が効果的であるか否かをフィードバックする機能なども提供されるでしょう。

アナログ・デバイセズのセンサー製品群についてお話しいただけますか? 特に、それらの使い勝手について詳しく教えてください。

市場は目まぐるしく変化しています。従来、当社はシグナル・コンディショニングやデジタル領域への変換に使用する独立したビルディング・ブロックを製品化していました。しかし、現在は完全なアナログ・フロント・エンド製品を提供するようになってきています。そうした製品は、セルフキャリブレーションや温度補償を含めて、アナログ入力段からデジタル・インターフェースまでのすべてを網羅します。また、可能なものについては、センサー素子も内蔵するシングルチップのソリューションを用意しています。その種の製品は、生体電位の計測、生体インピーダンスの検出、光学式のPPG(Photoplethysmography)計測(心拍、心拍変動、酸素飽和度[SpO2]の監視)、モーションのトラッキング、正確な体温測定などに対応しています。いずれの製品も、サブシステムにはA/Dコンバータ(ADC)を搭載しています。そのため、特定のパラメータの値を測定し、それを最終的なアプリケーションやシステムに表示するという処理を非常に簡単に実装できます。ディスクリート部品を使用する複雑な回路図を作成する必要はありません。

光学センサーを使えば、体の1ヵ所で心拍を測定できます。それだけでなく、心拍変動(ストレス・レベルの検出の指標)や酸素飽和度(酸素と結合している赤血球の割合)の測定も可能です。実際の回路では、まずディスクリートのアンプにフォトダイオードの電流を入力します。続くアナログ・フロント・エンドでは、光電流のコンディショニングを行います。加えて、内蔵する電流源により、システムにおいて光の照射を担うLEDを制御します。すべての電子系技術者が光学に精通しているわけではありません。そこで、当社は計6種の光学モジュールを開発しました。それらは、アナログ・フロント・エンド、1個以上のフォトダイオード、光学システムをサポートするために必要な数のLEDで構成されています。非常に小型のモジュールであり、競争の激しいこの市場において製品の投入までにかかる時間を短縮し、コストを削減できるよう最適化されています。

ヘルスケア分野向けの最新ソリューションについてお聞かせください。

一般に、ヘルスケア用のウェアラブル機器は、心拍数、活動量、皮膚のインピーダンス、酸素飽和度、体温など、複数のパラメータ値を測定する役割を担います。その際、個々の測定向けに専用のICやセンサーを使用していたのでは、サイズや消費電力、コストが全体的に膨れ上がってしまいます。この課題を解決するのが、当社の最新ソリューションである「ADPD4000」です。これは生体医学用のアナログ・フロント・エンドであり、身体の動きを除くすべての測定をわずか1個のICで実現します。この製品を生体電位電極に直接接続すれば、心臓の信号を測定することができます。ストレスや精神の状態をトラッキングするために、電気皮膚反応の計測を行うことも可能です。ADPD4000は、光電流を測定するための8つの入力と、LEDを駆動するための8つの電流源を備えています。また、電気容量と温度を測定するための補助入力もサポートします。ADPD4000のようなICを採用すれば、非常に電力効率が高く、小型で費用対効果の高いウェアラブルなVSMシステムを構築できます。

ここ数年間で、ヘルス・モニタリングの方法はどのように変化しましたか?

従来の医療は医者を中心として成り立っていました。体調が悪くなったり、事故に遭って明白な問題を抱えたりしたら病院に行くということが基本でした。その後、この分野にも技術革新の波が押し寄せました。特にエレクトロニクス関連の技術によって、患者を中心としたアプローチが可能になりました。実際、医療分野では市場全体に大きな影響が及びました。現在、患者には、自分の健康状態を監視する方法や、ヘルスケア/医療サービスを受けるためにどの機関を利用するのかといったことについて、より多くの選択肢が与えられるようになっています。以前は、身体に明確な異常が現れて初めて問題に気づくことが少なくありませんでした。それに対し、ヘルスケア用のウェアラブル機器を利用すれば、重要なバイタル・データを毎日モニタリングし、より早い段階で変化や異常を検知することが可能になります。各種のパラメータを監視して早期に異常を検知することで、病気が進行して体に永久的な損傷が及ぶ前に治療を開始することができます。

多くの人が患う病気の一例に高血圧があります。治療法が確立された病気ですが、高血圧でありながら目に見える症状が全く現れないというケースも少なくありません。気づかないうちに高血圧の状態が長く続くと、発作や心不全、心房細動など、複数の危険な疾患を発症するおそれがあります。高血圧の症状は、生活習慣の改善や薬によって比較的容易に抑えることができます。それにより、合併症のリスクを抑えることが可能になります。ウェアラブル機器によって重要なバイタル・データを監視することで、命が救われたり、永久的な損傷につながりかねない健康上の問題を防げたりするケースも少なくありません。

多くの人が患うもう1つの病気の例としては糖尿病が挙げられます。ウェアラブル機器は、糖尿病の患者の生活の質を向上させることにも役立ちます。病状にもよりますが、糖尿病の患者はグルコースの濃度(血糖値)を毎日数回測定することになります。これを、血中グルコース・モニタリング(BGM:Blood Glucose Monitoring)と呼びます。その結果に応じ、グルコースの濃度を調整するためにインスリンを投与しなければなりません。ほとんどの患者は時間の経過と共に、BGMの作業に慣れていきます。しかし、この作業は日常生活に不自由をもたらしたり、大きな負担になったりする場合もあります。こうした状況を受けて、ウェアラブル機器を利用したセンシング技術により、BGMから連続的グルコース・モニタリング(CGM:Continuous Glucose Monitoring)に移行するというトレンドが生まれました。CGMは、1日を通して連続的にグルコースの濃度を測定するというものです。その濃度を一定の範囲内に維持するために、インスリン用のポンプから必要な量のインスリンが投与されます。クローズドループのアプローチであることから、患者の負担は軽減されます。糖尿病の患者は、1日に何度も血糖値を測定するという負担から解放されるのです。その結果、日常生活に大きなメリットがもたらされます。ウェアラブル機器向けの技術は、予防にも、治療にも、貴重なメリットをもたらすことが実証されつつあります。

アナログ・デバイセズは、生活の質の向上につながる医療分野向けのセンサー製品/ソリューションを提供しています。詳細については、analog.com/jp/healthcareをご覧ください。

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Jan-Hein Broeders

Jan-Hein Broeders。アナログ・デバイセズのEMEAヘルスケア・ビジネス開発マネージャ。ヘルスケア産業界と緊密に連携し、市場をリードするアナログ・デバイセズのリニア・コンバータ技術とデータ・コンバータ技術やデジタル信号処理製品、電力用製品をベースに業界の現在および将来の要求をソリューションに反映させる業務に従事しています。アナログ・フィールド・アプリケーション・エンジニアとして半導体業界で働き始めて20年以上、2008年からはヘルスケア・ビジネス部門で現職を務めています。オランダのスヘルトーヘンボス大学で電気工学士の学位を取得しました。