状態監視用 MEMS 加速度センサーについて知っておくべきこと

マイクロマシン(MEMS)加速度センサーをコアセンサーとして採用した、集積度が高く展開の容易な状態監視用製品が数多く市場に出回るようになっています。経済性に優れたこれらの製品は、展開や所有のコスト全体を抑えるのに役立つと同時に、プロセス面では、状態監視プログラムの利点を生かすことのできる施設や装置の範囲を広げます。

ソリッドステート MEMS 加速度センサーは、従来の機械式センサーに比べて多くの魅力的な特性を備えていますが、残念ながら状態監視の用途としては、安価な標準ベースのスマート・センサーのような低帯域幅センサー製品を許容できるアプリケーションに限られています。高い周波数範囲と 10 kHz を超える帯域幅にわたって低ノイズであることが求められる診断アプリケーションに使用するには、一般にノイズ性能が不十分です。現在では、ノイズ密度レベルが 10 µg/√Hz ~ 100 µg/√Hz の範囲にある低ノイズの MEMS 加速度センサーを使用することができますが、帯域幅は数 kHz にとどまっています。しかしそれでも、状態監視製品の設計者は、その新たな製品コンセプトに必要なノイズ性能を備えてさえいれば、MEMS の使用を止めることはありません。これには正当な理由があります。ソリッドステート・エレクトロニクスと組み込み半導体製造施設に基づく技術として、MEMS は、いくつかの魅力ある貴重な利点を状態監視製品の設計者に提供します。性能的要素は別にして、MEMS 加速度センサーが状態監視分野の関係者の耳目を集める主な理由は、ここにあります。

図 1. 慣性 MEMS 加速度センサーの走査電子顕微鏡(SEM)写真。減圧キャビティ内に支持されたポリシリコン・フィンガーが動くことによって、隣接するシグナル・コンディショニング・エレクトロニクスが加速度に比例した容量を測定します。

図 1. 慣性 MEMS 加速度センサーの走査電子顕微鏡(SEM)写真。減圧キャビティ内に支持されたポリシリコン・フィンガーが動くことによって、隣接するシグナル・コンディショニング・エレクトロニクスが加速度に比例した容量を測定します。

まず、サイズと重量を考えてみましょう。健全性および使用状況監視システム(Health and Usage Monitoring Systems: HUMS)のような航空機搭載用アプリケーションでは、重量がコスト上きわめて重要な要素であり、1 ポンドあたりの燃料コストは数千ドルにも及びます。1 つのプラットフォームに複数のセンサーを使用するのが一般的なアプリケーションでは、各センサーの重量を減らすことができれば、それだけ軽減できる重量が大きくなります。大きさが 6 mm × 6 mm 未満の表面実装パッケージに収容された今日の高性能 3 軸 MEMS デバイスには、重量が 1 グラム未満のものもあります。多くの MEMS 製品は、このように小さいサイズと高い集積度が特徴で、設計者が最終的なパッケージのサイズを小型化して重量を軽減することが可能です。代表的な MEMS デバイスのインターフェースは単電源なので、管理が容易で、デジタル・インターフェースにもより適しています。これは、コスト削減とケーブル重量軽減の助けにもなります。

ソリッドステート・エレクトロニクスは変換器のサイズにも影響します。プリント基板(PCB)に実装され、装置への取り付けと配線に適したハーメチック・ハウジングに収められた、フォーム・ファクタのより小さい 3 軸デバイスは、パッケージ全体の小型化に寄与し、プラットフォームの取り付けと配置をより柔軟に行うことが可能となります。さらに、今日の MEMS デバイスには単電源シグナル・コンディショニングのために、かなりの量の電子部品を集積化して内蔵することが可能で、非常に消費電力の小さいアナログまたはデジタル・インターフェースを実現して、バッテリ電源を使用するワイヤレス製品の開発を容易にします。例えば、高い分解能と安定性を備えた 3 軸加速度センサー ADXL355 は、実効分解能 18 ビット、出力データ・レート 4 kSPS、1 軸あたりの消費電流 1 µA 未満の ΣΔ A/D コンバータ(ADC)を内蔵しています。

アナログ出力やデジタル出力両方の製品を持っているため、アナログ出力から、デジタル出力に簡単に置き換えが可能な MEMS シグナル・コンディショニング回路のトポロジーは一般的なものであり、より広範な状況にセンサーを適合させるための多様な選択肢を変換器の設計者に提供し、工業用の設定に広く使われているデジタル・インターフェースへの移行を可能にします。例えば、RS-485 トランシーバー・チップは入手が容易で、Modbus RTU などのオープン・マーケット・プロトコルを使用して、隣接するマイクロコントローラへのロードを実行できます。比較的小面積の PCB に実装可能な小フットプリントの表面実装チップを使い、全機能内蔵型のトランスミッタ・ソリューションを設計してレイアウトし、さらにそれを、ハーメチック特性や本質安全特性が求められる耐環境ロバスト性の証明に対応可能なパッケージに挿入することも可能です。

MEMS は、環境の変化に非常に強いことも実証されています。最新世代のデバイスの衝撃仕様は 10,000 g 程度ですが、実際には、感度仕様に影響を与えることなく、これよりはるかに高いレベルに耐えることができます。自動試験装置(ATE)上では感度を調整し、高分解能センサーの場合には時間や 0.01 ºC の温度変化に対しても安定を保てるように設計し、構成することが可能です。オフセット・シフト仕様を含む動作全体が、−40 ºC ~ +125 ºC などの広い温度範囲で確保されています。すべてのチャンネルを同じ基板上に持つモノリシック 3 軸センサーの場合は、一般に 1 % の他軸感度が仕様規定されています。最後に、重力ベクトルを測定するために設計されたデバイスとして、MEMS 加速度センサーには DC 応答があり、出力ノイズ密度を DC に近い値に維持します。これを制限するものは電子的シグナル・コンディショニングの 1/f コーナー周波数だけで、慎重に設計すれば 0.01 Hz に抑えることができます。

おそらく、MEMS ベースのセンサーの最大の利点の 1 つは生産規模を拡大できることです。MEMS のベンダーは 1990 年以降、モバイル、タブレット、自動車などのアプリケーション向けに大量のデバイスを出荷しています。MEMS センサーとシグナル・コンディショニング回路チップの両方を扱う半導体製造施設のこの生産能力は、工業用途や航空用途にも対応可能で、全体的なコストの低減にも役立っています。さらに、過去 25 年間にオートモーティブ・アプリケーション向けに出荷された 10 億個以上のセンサーによって、MEMS 慣性センサーの信頼性と品質は非常に高いことが実証されています。MEMS センサーは、あらゆる方向の衝突を検出して乗員を保護するためにシートベルト・テンショナとエアバッグを作動させることのできる、複合衝突安全システムの実現を可能にしました。ジャイロ・センサーと高安定加速度センサーも、車両の安全管理にとって重要なセンサーです。今日のオートモーティブ・システムは、より安全で優れた操縦性の自動車を高い信頼性の下に低コストで製造できるよう、MEMS 慣性センサーを広範囲に使用しています。

現在、数多くのアプリケーション用の MEMS 技術に多大な関心が寄せられており、多額の投資が行われています。MEMS の魅力あるさまざまな特性に加えて、MEMS 慣性センサーは、他の材料やアーキテクチャに悪影響を及ぼす品質上の問題の多くを緩和する役割も果たします。MEMS 慣性センサーは、過去 25 年間にわたってコンスーマ、航空、オートモーティブといった要求の厳しいアプリケーションに利用され、強い衝撃や厳しい環境下で使用されてきました。より高い性能が求められる状態監視などのアプリケーションに、さらに多くの MEMS が使われる時代が来たのでしょうか?MEMS の性能は今後も劇的に向上することが予想され、状態監視装置の設計者にとっての選択肢が広がり、新世代のスマート・センサー、ワイヤレス・センサー、そして低コストの垂直統合型システムも実現することが見込まれています。近い将来におけるこの分野の動向には、引き続き注視していくことが求められます。

Ed Spence

Ed Spence

Ed Spence。アナログ・デバイセズの工業用センサー・ビジネス・ユニットのマーケティング・マネージャ。高性能加速度センサー担当。アナログ・デバイセズは、高性能慣性センサー(加速度センサー、ジャイロ・センサー)、および慣性計測ユニット(IMU)などの高集積化ソリューションの設計と製造を行っている。