18ビットA/Dコンバータ用の低消費電力、DC高精度ドライバ

デバイス18ビットのSAR A/Dコンバータを駆動する唯一の方法は、大電力、高速、低ノイズのオペアンプまたは差動ドライバを使用することで、そのDC性能は要望から大きく離れていることが多いというのは、よくある誤解です。入力がDC信号か帯域幅の狭いAC信号で、オペアンプの出力が安定化するのに十分な時間が与えられている場合には、低消費電力でDC精度の高いオペアンプを使用して18ビットのSAR A/Dコンバータを駆動することができます。図1のシングルエンド/ 差動変換ドライバを使用して、4つの異なる低消費電力デュアル・オペアンプをテストし、低消費電力ドライバを使用する場合の妥協点を示しました。

図1.低消費電力でDC精度の高い、LTC2379-18用のシングルエンド/ 差動変換ドライバ

図1.低消費電力でDC精度の高い、LTC2379-18用のシングルエンド/ 差動変換ドライバ

この回路では、オフセット電圧、DC信号とAC信号の最大サンプリング・レート、ノイズ、および消費電力のテストが可能です。使用したA/Dコンバータは1.6Msps の18ビットSAR A/Dコンバータ、LTC2379-18であり、オフセットは±9LSB、INLは±2LSB、ピーク・トゥ・ピーク・ノイズは5LSBです。

使用した4 つのアンプは、高精度オペアンプ(LT1013LTC6078LTC6081)とゼロドリフトのデュアル・オペアンプ(LTC2051HV)です。これらのオペアンプの主な仕様を表1に示します。この回路の電源電圧は、オペアンプのV+端子とV 端子間に印加されている電圧です。この電圧によってアンプの電力損失と最大信号振幅が決まります。この電圧は、アンプの最大定格を超えないことと、電力損失が不必要に大きくならないようにして、無歪みの信号振幅を最大限に大きくするよう選択されています。

表1.オペアンプの比較
デバイス ISY(µA)の標準値/アンプ VOS(µV)の最大値 回路の電源電圧
LT1013A 350 ±150 8, –3
LTC2051HV 1000 ±3 8, –3
LTC6078 55 ±30 5.9, 0
LTC6081 340 ±70 5.9, 0

オフセット電圧

LTC2379-18のオフセット電圧は、最大でわずか±340µVです。表1に示すように、これら4つのオペアンプのオフセット電圧はさらに低く、LTC2051HVの最大±3µVからLT1013の最大±150µVまでさまざまです。この低レベルのオフセット電圧を維持するには、回路設計とレイアウトを入念に行うことが必要です。この例としては、反転アンプの正入力に4.99kΩ の抵抗を使用して、入力バイアス電流によって生じる電圧降下のバランスをとり、A/Dコンバータの正入力と負入力の周囲のレイアウトを対称的にして、寄生素子の影響を最小限に抑えることが挙げられます。

DC信号の最大サンプリング・レート

入力電圧がDCの場合でも、ある程度のセトリング時間が必要です。A/Dコンバータがホールド・モードからサンプル・モードに移ると、サンプル・コンデンサはA/Dコンバータのアナログ入力ピンに接続され、短時間のトランジェントが発生します。サンプル・コンデンサはその後、その最終値に至るまでオペアンプによって充電されます。

DC入力電圧の最大サンプリング周波数を決定するには、サンプルした波形からリップルがなくなるまでサンプリング周波数を低下させます。正と負のフルスケール近くのアナログ入力でこの測定を行います。こうすると、通常は最大のトランジェントがアナログ入力で発生するので、その結果最大のセトリング時間が必要になります。4つのオペアンプの最大サンプリング・レートは63ksps から230kspsまで変動します。4つのオペアンプの最大サンプリング・レートは表2に示します。

表2.DC入力の最大サンプリング・レート
デバイス DC入力の最大サンプリング・レート(ksps)
LT1013A 185
LTC2051HV 230
LTC6078 63
LTC6081 165

AC信号の最大サンプリング・レート

速度の遅いアナログ信号を扱うアプリケーションやドライバ入力にマルチプレクサがあるアプリケーションでは、最大サンプリング・レートを決定するのがより複雑です。ある測定から次の測定までに入力がフルスケールに振れる可能性がある場合は、ドライバ回路の出力にあるRCフィルタのセトリング時間と、オペアンプ自体が18ビット・レベルになるまでのセトリング時間を考慮することが必要です。18ビット・レベルまでのセトリングが規定されていることはほとんどないので、実験的に決定する必要があります。

図4に示すように平坦な立ち下がりエッジでオペアンプを駆動し、これによってオペアンプのセトリング時間を測定します。緩やかな変化のDC入力では測定しません。エッジ整形回路の回路図を図2に示します。

図2.ショットキ・ダイオードによって入力パルスの立ち下がりエッジを平坦化

図2.ショットキ・ダイオードによって入力パルスの立ち下がりエッジを平坦化

オペアンプ入力の浮遊容量をできるだけ小さくして、この回路のセトリング時間を最小限に抑えることが重要です。図1のシングルエンド/ 差動ドライバ回路の出力を交換することにより、立ち下がりエッジと立ち上がりエッジの両方のセトリング時間を測定できます。

平坦な入力エッジを使用することにより、A/Dコンバータの出力を測定して、シングルエンド/ 差動ドライバの出力が安定化するまでの所要時間を調べることができます。PScopeデータ収集ソフトウェアを使用して、サンプリング・レートと入力周波数を慎重に選択するというのが1つの方法です。50kHz のサンプリング・レートを使用して、入力信号が一定になったら4つのオペアンプ全部が完全に安定状態になるようにしても、通常はセトリング時間の測定で20μs の分解能が得られるだけです。PScope のプリミティブ波機能を使用し、入力信号の複数の通過点がさまざまなタイム・スライスでサンプリングされるようにサンプリング周波数、入力周波数、およびサンプル・サイズを選択すると、サンプルを再構築して入力信号の高解像度のイメージを作成することができます。

入力周波数とサンプル周波数の比を求めるために使用する式は次のとおりです。

数式 1

ここで、Nはサンプル・サイズです。Nは2i にする必要があります。ここでPScope では、iは10 から17までの任意の整数です。Mは1からN/2までの任意の奇数です。fS はサンプル周波数で、fINは入力周波数です。サンプル・サイズを131072 にして分解能を最大にし、入力周波数を250Hz、M = 653にして約50ksps のサンプリング・レートを選ぶと、fS は50.18070444ksps になります。

プリミティブ波は、サンプリング・レートと入力周波数の関係に厳密な一貫性を要求するので、前述の最大分解能が必要です。クロックと入力信号発生器は同期させる必要があります。テスト装置構成を図3に示します。ストローブ信号により、PScope が一連のサンプルごとに同じ点で取り込みを開始することが確認され、「Tools」メニューの「Start on Trigger」がイネーブルされていることが要求されます。必要なクロック周波数を計算するには、DC1783A-Eを使用する場合は目的のサンプル周波数に62を掛けます。この結果、入力周波数は3.111203675MHz になります。

図3.データ収集の装置構成

図3.データ収集の装置構成

LT1013のPScope 出力を図4に示します。サンプル・サイズ131072で入力波形の周期4msを割ると、30.5ns/ポイントという分解能が得られます。プリミティブ波形の開始点と停止点を拡大すると、おおよそのセトリング時間を計算することができます。これはピーク・トゥ・ピーク・ノイズによって制限されます。この測定の精度を高めるには、PScope から生データを取り出し、ExcelまたはMATLABにエクスポートして、プリミティブ波を再構築し、得られるデータを平均化します。4つのオペアンプの生の結果ならびに16回の読み取り値および64回の読み取り値の平均を図5~8に示します。セトリング時間およびピーク・トゥ・ピーク・ノイズを表3に示します。DC信号のサンプリング・レートが最も高かったLTC2051HVが、フルスケールの入力振幅では最も長いセトリング時間になっていることに注意してください。これは、同相入力電圧の変化によって生じたオフセット電圧の差を自動的にゼロにするために必要な時間の結果です。

図4.立ち下がりエッジでのLT1013のセトリング時間を30.5ns/サンプルの分解能で示すPScopeのプリミティブ波

図4.立ち下がりエッジでのLT1013のセトリング時間を30.5ns/サンプルの分解能で示すPScopeのプリミティブ波

図5.LT1013のセトリング

図5.LT1013のセトリング

図6.LTC2051HVのセトリング

図6.LTC2051HVのセトリング

図7.LTC6078のセトリング

図7.LTC6078のセトリング

図8.LTC6081のセトリング

図8.LTC6081のセトリング

表3.セトリング時間およびピーク・トゥ・ピーク・ノイズ
デバイス セトリング時間(µs) ピーク・トゥ・ピーク・ノイズ(LSB) 16サンプルのピーク・トゥ・ピーク・ノイズの平均(LSB) 64サンプルのピーク・トゥ・ピーク・ノイズの平均(LSB)
LT1013 80 10 2.2 1.1
LTC2051HV 3000 14 2.9 1.2
LTC6078 140 12 3.3 1.7
LTC6081 130 8 1.8 0.9

ショットキ・ダイオードを取り外し、シングルエンド/ 差動変換入力であるVINに20Hz の正弦波を入力して駆動すると、サンプリング周波数がおよそ1/(セトリング時間)の場合、図1の回路では表4に示すTHDの数値が得られます。優れたTHDの数値は、回路の直線性の表れです。

表4.THD
デバイス fS (kHz) THD (dB)、AIN = –1dBfs
LT1013 12.0 –105
LTC2051HV 0.3 –104
LTC6078 7.0 –98
LTC6081 7.0 –105

ノイズ

表3のまとめに示したように、シングルエンド/ 差動変換ドライバとLTC2379-18を組み合わせると、ピーク・トゥ・ピーク・ノイズはA/Dコンバータ単体による値よりも1.5~3倍高くなります。比較的控え目な平均化を行った場合、ピーク・トゥ・ピークで1LSBに近いノイズ・レベルを得ることができます。ノイズがガウス分布に従い、クロックの回り込みやその他の同期信号源によって発生したものでない限り、ノイズは平均化によってサンプル数の平方根の分だけ減少します。平均化は実質的なサンプリング・レートを低下させるので、繰り返しのないAC信号には実用的ではない場合があります。

消費電力

消費電力図1のシングルエンド/ 差動変換データ収集回路のDCおよびAC信号の最大サンプリング周波数でのオペアンプとLTC2379-18 の電力損失を表5に示します。オペアンプの電力損失はアンプ1 回路当たりの数値であり、オペアンプは常時動作しているのでサンプリング周波数によって変化しません。LTC2379-18の電力損失は、変換後の自動シャットダウン機能により、サンプリング周波数に比例します。表5 の4列目と6列目に示す組み合わせ回路の電力損失は、組み合わせ回路内で使用されている2つのオペアンプとLTC2379-18の電力損失の合計を示しています。DC入力信号の場合に考えられる高めのサンプリング・レートでは、LTC2379-18の電力損失が全体に占める割合が高くなります。AC入力信号または多重化入力信号の場合に必要な低めのサンプリング・レートでは、この回路の電力のほとんどすべてをオペアンプが消費します。

表5.ACおよびDC入力信号の最大サンプリング周波数での電力損失
デバイス 回路の電源電圧でのオペアンプのPD(mW) DC入力信号の最大fSでのLTC2379-18のPD(mW) DC入力信号の最大fSでの組み合わせ回路のPD(mW) AC入力信号の最大fSでのLTC2379-18のPD(mW) AC入力信号の最大fSでの組み合わせ回路のPD(mW)
LT1013 3.85 2.08 9.78 0.135 7.835
LTC2051HV 11.00 2.59 24.59 0.003 22.003
LTC6078 0.32 0.71 1.35 0.080 0.720
LTC6081 2.01 1.86 5.88 0.080 4.100

まとめ

オペアンプの出力が安定化するのに十分な時間が与えられている場合には、低消費電力でDC精度の高いオペアンプを使用して18ビットのSAR A/Dコンバータを駆動することができます。セトリング時間は回路の最大サンプリング・レートを決定する場合の制限要因であり、オペアンプの選択と、信号源の種類(DCかACか)によって大きく変わってきます。A/Dコンバータのオフセットおよび直線性は、低消費電力のオペアンプを使用して維持できます。低消費電力のオペアンプはノイズが高いので、何らかの平均化を行ったノイズを低減することが必要な可能性がありますが、その代わり実質的なサンプリング・レートは低くなります。ドライバ回路はセトリングのために常に通電状態を維持する必要があり、低いサンプリング・レートではオペアンプのドライバ回路による電力損失が支配的となります。一方、A/Dコンバータは短い変換時間の後は省電力モードに移行します。回路全体の要件の中からオフセット、サンプリング・レート、ノイズ、直線性、消費電力の要件にうまく合致するオペアンプを選ぶことが重要です。

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Guy Hoover

Guy Hoover is an engineer with over 30 years of experience at Linear Technology as a technician, an IC design engineer and an applications engineer.

He began his career at LTC as a technician, learning from Bob Dobkin, Bob Widlar, Carl Nelson and Tom Redfern working on a variety of products including op amps, comparators, switching regulators and ADCs. He also spent considerable time during this period writing test programs for the characterization of these parts.

The next part of his career at LTC was spent learning PSpice and designing SAR ADCs. Products designed by Guy include the LTC1197 family of 10-bit ADCs and the LTC1864 family of 12-bit and 16-bit ADCs.

Guy is currently an applications engineer in the Mixed Signal group specializing in SAR ADC applications support. This includes designing, writing Verilog code and test procedures for SAR ADC demo boards, helping customers optimize their products that contain LTC SAR ADCs, and writing hopefully useful applications articles that pass on to customers what he has learned about using these parts.

Guy graduated from DeVry Institute of Technology (Now DeVry University) with a BS in electronics engineering technology.