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インダストリ4.0の具現化に向けてIEEE 802.1 TSNがもたらす5つの効果
現在は、インダストリ4.0を具現化するために、多くの企業が巨額の投資を行っている状況にあります。インダストリ4.0は、ユビキタスな接続を利用する新たなパラダイムです。このパラダイムは、非常に大規模なオートメーション・システムを導入しているメーカーはもちろん、新興企業を含むあらゆる企業からの注目を集めています。いずれの企業も、インダストリ4.0によって、ビジネスの生産性、効率、適応力、収益性が向上することを期待しているのです。この概念を具現化すれば、従業員、利害関係者、顧客は、業績面に限らず多くのメリットを享受できると考えられています。
インダストリ4.0は、かつてないレベルの柔軟性をもたらし、アジャイルな生産を可能にします。例えば、インダストリ4.0を導入したメーカーは、季節的なニーズや顧客のニーズの変化に適応できるようになります。また、(オーバーヘッドや保守コストを左右する)稼働時間の改善と従業員の作業時間の削減を図れることに加え、従業員が作業に関与しなければならない度合いが低減されます。更に、ビジネス上の成果が増大し、顧客からの信頼が高まります。これらはいずれも、第4次産業革命の結果として期待できるメリットです。しかも、業界の変化がもたらし得る成果のほんの数例にすぎません。
このような莫大なチャンスが得られるようにするためには、データの取得、通信、分析について検討する必要があります。上述したすべての改善を実現するための原動力になるのはデータです。より詳しく言えば、それらのデータから抽出される洞察が最も重要な要素になります。しかし、今日の多くの工場では、アクセスが困難な隔離された場所にデータが存在しています。多くのメーカーが長年にわたってこの問題を解決しようと試みてきましたが、この障壁を乗り越えるのは簡単なことではありませんでした。
インダストリ4.0がもたらす多くのメリットを実際に得られるようにするには、どうすればよいのでしょうか。そのための基盤として策定されたのがIEEE 802.1 TSN(Time Sensitive Networking)というイーサネット・ベースの規格です。必要なデータは、工場の製造フロアやサーバー、フロント・オフィス、そしてそれらの中間のあらゆる場所に存在します。TSNを利用すれば、そうした工場内のあらゆるデータを通信によってやり取りしたり、共存させたりすることが可能になります。産業分野には、既存のデータの通信を妨げる要素がいくつも存在します。TSNは、データが隔離された状態から脱するための最初のステップに利用されます。その結果、意思決定に役立つ貴重なデータに対するユビキタスなアクセスを実現することが可能になります。産業分野の組織にとって、TSNはインダストリ4.0の概念を具現化するための出発点として機能します。主に以下の5つの方法により、データへのアクセスを容易化することを目指して規格化されています。
- 共通言語の提供:TSN を導入すれば、時間同期について統一的な理解が得られるようになります。具体的には、すべてのデータ・パケットと情報を統一された方法で扱えるようになります。言い換えれば、共通の言語を使用してデータのやり取りが行えるようになるということです。依然として装置の相互運用性の問題は存在することになりますが、同じイーサネット・パスにデータが共存できる状態が得られます。したがって、メーカーは、それらのデータからより多くの価値を導出することが可能になります。
- スケーラビリティとアジリティの実現:TSNを適用すると、イーサネットにおいて、様々なデータ伝送速度を管理し、十分な帯域幅を確保することができます。それにより、優先度の全レベルに対応してデータのスループットを十分に確保することが可能になります。最終的には、顧客の優先度やニーズの変化に応じ、メーカーがより容易に容量を追加/削減できるようになります。
- より信頼性の高いオートメーションのサポート:TSN は、正確性と精度に不可欠なリアルタイムかつデタミニスティックなデータ通信をサポートします。データ・ポイント(信号など)のタイミングに何らかの遅延やずれが生じると、装置が適切に応答できず、生産性や収益の低下につながる影響が下流に及ぶ可能性があります。例として、人間と共に作業を行うロボットに求められる精度について考えてみます。その場合、ロボットの動きに 1 インチ(約 2.54cm)にも満たないずれが生じるだけで、作業員が危険にさらされるおそれがあります。そのようなアプリケーションに TSN を適用すれば、安全性と品質を高めるための瞬時の通信を容易に実現できます。
- 情報技術(IT)の専門家と運用技術(OT)の専門家の間に存在する分断の解消:IT チームと OT チームの目標が互いに全く異なり、競合しているケースは少なくありません。TSN は、共通のツール・セットを提供することで、この問題に対応します。共通のフレームワークや言語によって、両チームが協調できるようにするのです。また、OT の専門家の多くが定年に近い年齢に達しているというケースも少なくありません。このことから、彼らがこれまでに培ってきたフィールド・バスに関する専門知識が、彼らの退職によって失われるという問題が生じます。TSN が提供する共通フレームワークを利用することにより、IT の専門家が産業用イーサネットをサポートできるようになります。それにより、上記のようなスキルの損失の問題を解決できる可能性があります。その結果、リソースを節約し、生産性を向上させることが可能になります。
- 研究開発費の有効活用:従来、多くの企業は、わずか 10年後には時代遅れで役に立たなくなるインフラに対して、多額の投資を行ってきました。TSN を導入すれば、帯域幅の制約の問題を解決するために、規模の拡大や容量の追加を行って帯域幅を新たに割り当てる必要がなくなります。システムを再構築する必要性が大幅に低下するので、より優れたオートメーションを実現するための他の技術に投資を振り分けることが可能になります。例えば、ロボットを使用する複雑なシステムを管理/運用するためには、従業員のトレーニングが必要です。しかし、それによって従業員のスキルアップが果たせれば、余剰資金が生まれ、それらをより有効に活用することが可能になります。
アナログ・デバイセズは、インダストリ4.0による革命を実現するために、TSNに対応する数多くのイーサネット・ソリューションを用意しています。
それらのポートフォリオは、ADI Chronous™として提供されています。ADI Chronousの詳細や、それによって産業用イーサネットへの移行を加速する方法については、analog.com/jp/chronousをご覧ください。
まとめ
インダストリ4.0の導入を進めるということは、多くのアプリ ケーションに変更を加えるということを意味します。TSNは、そ の基礎となる重要なビルディング・ブロックです。また、TSNが メーカーの取り組みと運用に革命をもたらす次世代技術を先導す るものであることは間違いありません。但し、それは第4次産業 革命を実現するために私たちが構築している広範なエコシステム の一部にすぎません。そのエコシステムの構築には、ソフトウェ ア、ミドルウェア、先進的な半導体製品、優秀な発明家や技術者、 専門の技術者やオペレータ、教育、時間が必要です。しかし、ア ナログ・デバイセズをはじめ、業界の至るところに存在する筆者 の仲間たちは、そうした新技術には大きな可能性があると信じて います。お客様やパートナーと同様に、私たちも無限に広がる機 会から大いに刺激を受けています。