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閉じるサハラ以南のアフリカに向けたより高度なスマート・メーター、Pulsarが「GRIDx」を開発
サハラ以南のアフリカでは、人口の半分以上が電気のない生活を送っており1、インターネットを利用できるのはいまだ贅沢なことだと見なされています。しかし、このパラダイムにも変化の兆しが見えます。電力網に接続される家庭が増えると共に、インターネットにかかるコストが低下しつつあるからです。そうしたなか、電力の消費量を計測するスマート・メーターをはじめとする技術が、消費者と電力網の間の重要な接続点として役立つことがますます見込まれています。
スマート・メーターは、電力消費のデータをリアルタイムで測定/記録し、電力会社に伝えます。それにより、電力会社は電力網の運用を最適化する上で役立つ知見を得ることができます。消費者としても、自身の電力使用量を把握し、それを最適化することが可能になります。
ナミビアのスタートアップ企業であるPulsar Electronic Solutions(以下、Pulsar)は、同社の革新的なスマート・メーター「GRIDx」についてより一層大きな構想を抱いています。GRIDxを使用すれば、電力の消費量、配電量、請求金額をより正確に把握できます。それだけでなく、同じ機器でインターネットへのアクセスも可能にし、デジタル・デバイド(情報格差)を埋めることも狙って設計されました。PulsarはGRIDxを開発するに当たり、アナログ・デバイセズと緊密な連携を図りました。その際、アナログ・デバイセズは深い専門知識と詳細な技術知識を提供しました。それにより、Pulsarが設計上の課題を克服できるようサポートしました。
本事例の概要
顧客企業の概要
Pulsarは2017年にナミビアで設立された。技術とコラボレーションを通じてサハラ以南のアフリカの地域で生活の質を向上することを目指している。それに当たっては、安全を確保しつつ革新を推進すると共に、責任を持って資源を利用することを重視している。
目標
地域住民の電力網への加入を促進する。同時に、消費者が電力の使用量を最適化できるようにする。それに向けて、データに基づいた知見により、料金が正確に請求され、電力網の運用が改善されるよう支援する。更に、GRIDxが設置されている場所であれば、どこでもインターネットに接続できるようにすることで、インターネットの普及を促進する。
課題
GRIDxは、電力用のスマート・メーターの機能とインターネットへの接続機能という2つの主要な機能を備えている。それぞれの機能には通信用に固有の周波数が必要になる。それらの周波数成分が互いに干渉すると、1つのGRIDxで両方の機能を提供するのが非常に難しくなる。
ソリューション
アナログ・デバイセズは、スマート・メーター向けのICソリューションとして「ADE9153A」を提供している。Pulsarは、同ICのリファレンス設計を、GRIDxの機能をサポートする最適なソリューションとして選定した。このリファレンス設計には、計測機能、コンバータ機能、自動キャリブレーション技術であるmSure™ベースの機能などが含まれている。アナログ・デバイセズの専門家はPulsarと連携することにより、設計プロセスのあらゆる段階で最適化を図り、干渉の課題を克服した。
インフラの“砂漠” - サハラ以南の電力市場
Pew Research Centerによれば、サハラ以南のアフリカには世界の未電化人口の3/4が住んでいると言います2。住民は広大な地域に散在しており、限られたインフラしか存在していないことは、この市場で克服すべき課題の一部に過ぎません。一方で、電力を利用できるようになった企業や家庭の数は次第に増えており、スマート・メーターはよりスマートな電力網を構築するための出発点となっています。また、電力を利用可能な企業や家庭の数を継続的に増やし、普及を確実なものにする上でもスマート・メーターが役立つはずです。
スマート・メーターを活用すれば、高度な知見が得られます。このことから、スマート・メーターは一般消費者と電力の関係を根本的に変える存在だとも言えます。得られた知見に基づけば、より正確かつ簡素な形で請求が行われるようになり、消費者は電力の使い方をより細かく管理できるようになります。
それと同じ知見を電力会社が活用すれば、需要と供給に基づく資源の戦略的な計画を策定することができます。また、盗電は収益の損失につながり、すべての顧客に向けた電力網の運用にネガティブな影響を及ぼす可能性があります。従来、電力会社はそれらの損失がどこで発生しているのかを特定する方法を有していませんでした。スマート・メーターを活用すれば、無駄な電力を最小限に抑えつつ十分な量を供給するために必要な知見が電力会社にもたらされるようになります。
家庭でスマート・メーターがどのように機能するのかを示すシミュレーション動画
デジタル・デバイドをスマートに解消する
Pew Research Centerによれば、サハラ以南のアフリカは、どの地理的地域よりもインターネットの普及率が低いそうです。ただ、この状況は急速に変化しています。Pew Research Centerの調査では、41%(中央値)の住民はインターネットへの接続機能を備えるスマートフォンを所有していることが示されています。この市場では、標準的な機器としてプリペイド式の電力メーターが使用されていますが、その更新時期を迎えている顧客や、初めて電力網に接続する顧客にとって、GRIDxは説得力のある選択肢になります。
電力会社にとって、GRIDxを導入するということは、提供するサービスに通信用のパッケージを追加できるということを意味します。これは、新たな収益源を生み出すチャンスだと言えます。GRIDxを介した接続を実現する上で、新たな機器や労力は必要ありません。そのため、電力会社は、ほとんど、あるいは全くコストをかけることなく、新たなサービスを提供できることになります。このことは、インターネット・サービスへの加入に伴うユーザにとってのハードルを大幅に下げる可能性があります。
よりスマートな電力の未来をアフリカのために共同で創り出す
GRIDxは、Pulsarとアナログ・デバイセズの戦略的な共同開発によって実現されました。アナログ・デバイセズは、このプロジェクトに向けて、関連領域の深い専門知識と製品に関する知識を提供しました。それにより、Pulsarがプリント回路基板の設計を微調整する作業を支援しました。
GRIDxでは、ADE9153Aのリファレンス設計を活用しています。このリファレンス設計には、計測機能、コンバータ機能、自動キャリブレーション技術であるmSureをベースとする機能が含まれています。しかも、そのフォーム・ファクタは非常にコンパクトです。mSureは、精度を監視するための包括的な機能と自己診断機能を提供します。それにより、電力会社が電力網の設備の健全性をその寿命全体にわたって維持することを可能にします。
Pulsarは、アナログ・デバイセズが提供する電源向けのソリューションも採用しました。代表的な例としては、リチウム・イオン・バッテリ用のチャージャおよびパワー・バックアップ・マネージャとして機能する「LTC4091」が挙げられます。このICは、バッテリの電圧を追跡する適応型の出力機能を備えています。それにより、高い効率で充電を実現するほか、主電源が失われた場合には、バックアップ電源への切り替えを行い、負荷に対してシームレスに給電することを可能にします。
「アナログ・デバイセズは、当社と関係を築くために早い段階から非常に積極的なアプローチをとってくれました。コンポーネントから始まった関係は、その後、パートナーシップへと発展しました。同社は、当社が設計を最適化し、コストを最小限に抑え、各コンポーネントのより優れた性能や数多くの機能を活用するための提案を常に行ってくれました。アナログ・デバイセズが提供してくれた設計上のサポートは、GRIDxをコンセプトから実用的なプロトタイプへと発展させる上で欠くことができないものでした。」Kamati Hasheela氏
Pulsar 創業者/CEO(最高経営責任者)
このプロジェクトには1つの大きな課題がありました。それは、インターネットへの接続機能とスマート・メーターの機能が互いに干渉しないようにしなければならないことでした。これらの機能を実現するために、GRIDxはBluetooth®に加え、ネットワークに接続するためのWi-Fiや4Gの通信をサポートします。しかし、これらの通信には異なる周波数が使用され、互いに干渉を起こします。そのため、1つの機器によって前述したような異なる機能を提供するのは非常に困難になります。
アナログ・デバイセズとの革新的なコラボレーションにより、Pulsarは、GRIDxが干渉を起こすことなく主要な機能を両方とも提供できるようにしました。具体的には、高いスイッチング周波数を活用し、プリント基板の高電圧側と低電圧側をカップリングする構成を採用しました。
スマートな未来は明るい未来
Pulsarにとって、すべては1つの問いかけから始まりました。それは、「もし、1つの機器によって、電力の供給とインターネットへのアクセスの両方を拡大できるとしたら、社会の成長を促進する原動力になるのではないだろうか?」というものです。Pulsarは、GRIDxを通じて電力とインターネットの普及を進めたいと考えています。また、その潜在的な能力によって付加価値を高めるために、再び問いかけを行っています。例えば、「もし、スマート・メーターにネット(正味)のメーター機能を追加したら、家庭へのソーラー・パネルの導入を促進することにつながるのではないか」、あるいは「もし、現在よりもメッシュ・ネットワークの活用を進めたら、セル・タワーや光ファイバのような高価なインフラに頼ることができない遠隔地にも手を差し伸べることができるのではないか」というように、Pulsarは未来を見据えて再び問いかけています。
このように、Pulsarはイノベータと呼ぶにふさわしい企業です。同社と連携することで、アナログ・デバイセズはサハラ以南のアフリカという新興市場に電力供給とインターネット接続の機能を提供することに貢献しました。アナログ・デバイセズは、そのような世界へ導くための支援をできたことを誇りに思っています。
参考資料
1「Commodities at a Glance: Special Issue on Access to Energy in Sub-Saharan Africa(ひと目でわかる「サハラ以南のアフリカにおける電力の利用」)」国際連合貿易開発会議(UNCTAD:United Nations Conference on Trade and Development)、2023年3月21日
2Laura Silver、Courtney Johnson「Internet Use Is Growing Across Much of Sub-Saharan Africa, but Most Are Still Offline(インターネットの利用はサハラ以南のアフリカの大半で増加中、ただほとんどのエリアはいまだオフライン)」Pew Research Center、2018年
3CC BY-SA 4.0. Attribution-ShareAlike 4.0 International(CC BY-SA 4.0. 表示‐継承 4.0 国際)」Creative Commons