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閉じるポイント・オブ・ケア診断を実現する電気化学バイオセンサー、PalmSensのポテンショスタット・モジュールを活用
ポテンショスタットの可能性を切り拓く
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)によるパンデミックは、電気化学バイオセンサーの開発に対する関心を呼び起こしました。パンデミックによってイノベーションが促進されたというのは、意外なことではありません。バイオセンシング用のより良いセンサーとリーダーを提供できれば、医療従事者を支援することができます。COVID-19はもちろん、マラリアや結核などを含む多くの疾病を対象として正しい診断と適切な処置を迅速に行えるようになるからです。
電気化学バイオセンサーの分野のイノベータは、そのようなニーズを見落としていたわけではありません。そこにビジネス・チャンスが存在することは明白でした。しかし、診断用のより良いソリューションを構築するには、電気化学に関する専門知識だけでは不十分です。つまり、測定やセンシングに関する専門知識も必要になるということです。例として、ポテンショスタットについて考えてみます。この電気回路は、セルの抵抗の変化を検出します。その変化に応じ、補助電極を使って電流の調整を行います。電気分析を行う必要がある多くのアプリケーションにおいて、ポテンショスタットは制御と測定を実施する上で必須のハードウェアだと言えます。電気化学バイオセンサーの分野でイノベーションの創出に取り組む人々にとって、ウイルスや細菌の電気化学的なシグネチャを識別するのはそれほど難易度の高いことではありません。しかし、そうした人々にとって、ポテンショスタットのような回路やそれを活用する装置を構築するのは決して容易なことではないはずです。実際、その作業は何年にも及ぶ研究と試行錯誤を要するものになるでしょう。
PalmSensは、小型で低消費電力のポテンショスタット・モジュール「EmStat Pico」を開発しました。同モジュールを利用すれば、電気化学バイオセンサーのアプリケーションを開発する際、ポテンショスタットに関する深い知識は必要なくなります。つまり、バイオセンサーの分野のイノベータは、時間やコストを費やして、ポテンショスタットの専門家を雇用したり、自らが専門知識を習得したりする必要はなくなるということです。PalmSensは、このスタンドアロン型のポテンショスタット・モジュールを開発するにあたり、協業先としてアナログ・デバイセズを選択しました。この共同開発を通じ、アナログ・デバイセズは、イノベータにとって不足している部分を補い、救命につながる製品を迅速に市場に投入できるようにすることに貢献しました。
PalmSensの概要
事業内容
PalmSensは、2001年にKees van Velzen氏(博士)によって設立された電子機器メーカー。可搬性/可動性に重点を置きつつ、あらゆる種類の電気化学を対象とした多様な装置を開発している。初心者や上級者、研究者や起業家にとって、より容易に、より高い可搬性で、より利用しやすい装置を提供することをミッションとして掲げている。
アプリケーション
- ヘルスケア
- 環境のモニタリング
- 食品の安全性の確保
- 獣医医療
- 状態監視
課題
PalmSensの電気化学バイオセンサー技術とアナログ・デバイセズの先進的な信号処理技術を組み合わせる。それにより、検査機関で使われているものよりも高速、小型、低消費電力のポテンショスタットを、精度を落とすことなく構築する。ポテンショスタットを設計したことがないイノベータでも、簡単に活用/実装できるようにする。
目標
イノベータにとって技術的に不足する部分を補うものとなる電気化学バイオセンサー向けのプラットフォームを開発する。それにより、イノベータがミッションを実現し、市場により迅速に救命技術を投入できるよう支援する。
EmStat Picoを採用した最初の製品――QSMのOTTER eQ
QSM Diagnosticsはボストンを拠点とするメーカーです。数十年にわたり、センサーや医療用機器の開発/製品化に携わってきました。現在開発に力を入れているのは、ペット用のポイント・オブ・ケア診断装置です。同社は、動物が細菌に感染しているか否かを迅速に診断できるようにすることを目指しています。
2016年に、QSMはAnalog Garageと共に低コストかつ携帯型の電気化学バイオセンサー・リーダーの開発に着手しました。その目標は、動物向けの標準検査機関で使われている従来の装置を使用した場合と同等の結果を臨床現場で提示できるようにすることです。その後、アナログ・デバイセズとPalmSensが発表したEmStat Picoを目にしたQSMは、直ちに1つの決断を下しました。それは、より新しく小型のポテンショスタット・モジュールであるEmStat Picoを自社の製品に採用するというものです。社内で類似のデバイスを設計するよりも、製品開発のリソースを大幅に節約できる可能性があると考えたのです。
「『車輪の再発明』に労力を費やすのは賢明ではありません。」
Ed Goluch氏 QSM Diagnostics CEO
QSMの最高経営責任者(CEO)を務めるEd Goluch氏は「『車輪の再発明』に労力を費やすのは賢明ではありません」と指摘します。その上で同氏は、「EmStat Picoを採用すれば、当社は検査の化学的な側面にすべての力を注げるようになります。その測定に使用する電子機器について気を配る必要はなくなりました」と説明します。
QSMの「OTTER eQ」は、ペットの感染症の診断を行うための装置です。EmStat Picoを採用して市場に投入された初の製品にあたります。OTTER eQは、ポテンショスタットの多用途性を実証するものです。すなわち、ポイント・オブ・ケアを実現するバイオセンサー・リーダーとしてポテンショスタットを活用できることを示しています。現在は犬を対象として提供されていますが、将来的にはそれ以外の動物にも適用可能になる予定です。
獣医が抱える課題
犬は耳の感染症を患うことがあります。症状の重さは、それぞれの原因によって異なります。例えば、緑膿菌という細菌による感染症は検出が難しいことがあります。また、緑膿菌に感染した場合、それに対して最適な治療法を適用しなければなりません。しかし、感染症の原因となっている細菌の種類を特定するには、検体を検査機関に送付して結果が得られるのを待つ必要があります。その間、獣医は不完全なデータに基づいて最善だと思われる治療を施すしかありません。
ポケットに収まるポテンショスタット
上記のような課題を解決するために、QSMは診療所で診断結果を確認できる電気化学バイオセンサーとリーダーを開発することにしました。診断結果は翌朝までに、あるいは早ければ犬が診療所にいる間に得られるようにすることを目標として掲げました。そのセンサー/リーダーに組み込むEmStat Picoのフォーム・ファクタは30mm×6mmです。そのため、高速であるだけでなく、非常にコンパクトな製品を実現できるという目算を得ることができました。
「ポケットに収まる大きさの診断機器を実現できれば、検査機関に頼る必要はありません。しかも、診断結果を得るまでに何日も待たなくて済みます。わずか2分以内に、結果を確認できるようになるのです。」Willem van Velzen氏
PalmSens CEO
次世代のOTTER eQ
現状のOTTER eQは、1種類の細菌の検出に対応しています。ただ、リーダーは複数種のセンサーに対応できる見込みです。つまり、センサーごとに新たにリーダーを開発する必要はありません。そこで、現在は複数種のセンサーの開発を進めている段階にあります。OTTER eQは、間もなく複数種の動物を対象として様々な感染症の検査に対応できる製品に進化する見込みです。将来のバージョンは、血液パネルのような形で機能するものになる可能性があります。つまり、1つのカートリッジによって複数種の病原菌の検査に対応できるようになるということです。
アナログ・デバイセズの最新技術によって、QSMは将来的にはB2Bの市場だけでなくB2Cの領域にも参入し、事業の規模を拡大できるようになるでしょう。OTTER eQが一般消費者に提供されるようになれば、飼い主が動物病院を訪れなければならない回数はかなり減るはずです。処方された薬が効いているかどうかの経過観察は、オンライン診療で行えるようになるでしょう。そうなれば、過剰な予約に苦しむ動物病院の負荷も軽減されることになります。
OTTER eQの利用方法
1. |
検体を採取します。ここでは、罹患した犬の耳の内側を綿棒で拭う方法をとります。 |
2. |
使い捨てのセンサー・カートリッジを挿入し、予め測定されたバッファ(緩衝液)と検体を混合し、カートリッジに塗布します。 |
3. |
2分待ってから結果を読み取ります。センサー・アレイを使用することで、1つのカートリッジによって複数種の細菌の検査を行うことが可能になります。 |
犬、猫、そして人間へ――QSMが掲げるビジョン
PalmSensのvan Velzen氏は「ペットを対象としたポイント・オブ・ケア製品を提供する場合、人間を対象とする場合と比べて規制面の問題が大幅に緩和されます。また、人間を対象とするポイント・オブ・ケア製品の実現に向けた素晴らしい足掛かりが得られることにもなります。この分野に明るい未来が待ち受けていることは間違いないでしょう」と語ります。
QSMの技術は、既に、農業用水に含まれる除草剤の検出、飲料水の水質の検査、食料品に含まれる大腸菌などの病原菌の検査に利用されています。カートリッジについては、ウイルスの検出や、コルチゾール/コレステロール/自宅での投薬の追跡など、感染とは関係のないマーカーの監視に特化するように校正することも可能です。
QSMのGoluch氏は「COVID-19によって、人々はこの分野の取り組みが十分ではないことに気づかされました。血糖値の測定器は70年ほど前から提供されていますが、それに基づく他の技術はまだ存在しません。当社は、このモジュールを他の検査にも使用できるようにしようと考えています。実際、当社のカートリッジは、あらゆるものの検出に利用可能です。試薬を変更するだけで、このプラットフォームは他の用途でも有効に機能します」と語ります。
救命技術の迅速な市場投入
EmStat Picoは、QSMの既存のカートリッジの設計や独自の接続構造などにも適合しました。そのため、「カスタムのソリューションを社内で開発する場合と比べて開発期間を3年短縮できた」とGoluch氏は見積もっています。また、PalmSensは、開発作業の効率を高めるためのソフトウェア開発キットを提供しています。それによって、QSMはPalmSensからほとんど技術サポートを受けることなく、製品を開発することができました。
アナログ・デバイセズのBrian Coffeyは「PalmSensと提携したのは、それによって、プラグ&プレイ方式の測定モジュールという完全なソリューションを実現できると考えたからです。その結果、お客様は救命につながる新しい医療診断ツールをより迅速に市場に投入できるようになりました。この事実を非常にうれしく思っています」と述べています。
*2017-2018 AVMA Pet Ownership and Demographics Sourcebook(米国獣医協会によるペットの所有と人口統計に関する原典2017~2018年版)