3D rendering of NASA's Mars Perseverance Rover on Mars
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火星の過酷な環境に耐える強化技術


史上最も高度な惑星探査機「Perseverance」が2021年2月18日に火星に着陸しました。同機のミッションは、火星に微生物が存在していたことを示す痕跡を探索するというものです。同機は、時速1万1900マイル(約2万km/時)で火星の薄い大気圏に突入しました。着陸を知らせる信号が、1億3000万マイル(約2億km)離れた地球に届くまでには11.5分もかかりました。

Perseveranceは、深宇宙の強いエネルギー放射や、高温と低温を繰り返す過酷な熱サイクルなどの事象にさらされます。そのような環境に耐えつつ、掘削したコア・サンプルを採取し、想像の範疇にしかない可能性について検証するための実験を行います。同機の重量はわずか2300ポンド弱(約1t)ですが、そうした過酷な状況に対応するための強化技術が適用されています。「ロボット科学者」のように振る舞うPerseveranceは、太陽系の神秘を解明したいと考える人類に対し、将来に向けた道すじを示します。

機械や人間を宇宙に送って実験を行うには、地球上の技術の限界を新たな高みまで押し上げる必要があります。アナログ・デバイセズは、40年以上にわたって革新的な力を駆使し、宇宙という最も過酷な環境でも動作し続けるコンポーネントやシステムを生み出してきました。それらは、NASA(アメリカ航空宇宙局)のジェット推進研究所(JPL)との連携によって開発されたものです。そうしたコンポーネントやシステムは、打ち上げ時の極めて大きな重力加速度に耐えられるものでなければなりません。それだけでなく、最も厳しい多様な品質基準を満たす必要があります。 PerseveranceはNASA/JPLとの技術的な連携を深めたことにより得られた成果であり、宇宙探査におけるマイルストーンに位置づけられます。

JPLの概要

事業内容

JPLは米国が運営する研究機関。米国初の地球周回科学衛星の開発、惑星間航行に初めて成功した宇宙探査機の開発、あらゆる惑星の調査に用いる探査ロボットの打ち上げなどによって、宇宙時代の開拓を支援している。

目的

火星に生命が存在したことを示す痕跡、水分の存在、人類の移住の可能性について調査するために、技術の限界を押し上げる。開発した技術は、人類にメリットをもたらす民間宇宙事業に移管する。

課題

宇宙の過酷な条件下で、惑星とその衛星、小惑星などをロボットで探査できるようにするために、最も難易度の高い技術的な問題を解消する。

アプリケーション

アナログ・デバイセズのパワー・マネージメント・デバイス、絶縁技術、センサー、放射線に対する耐性が強化されたコンポーネントを宇宙探査用の計器/機構に適用する。

Perseveranceによる古代生命の痕跡の探索

3D rendering of the Jezero crater on Mars
Perseveranceの着陸地点。幅25マイル(約40km)のクレーターが写っています。これは数十億年前に火星に巨大な物体が衝突したことによって形成されました。かつて火星の地表を流れていた河道により、湖になっていたと考えられています。
画像:火星のクレーター「Jezero」(提供:NASA/JPLとカリフォルニア工科大学)

現在の火星は、ほぼ大気のない極寒の砂漠です。しかし35億年前、「Jezero」と呼ばれるクレーターには水があり、微生物が生息していたと科学者らは考えています。そして、クレーターの堆積物には、古代微生物の存在の痕跡となる化学物質、鉱物、組織が残留していると言われています。6輪ロボットであるPerseveranceは、それらの痕跡を探索します。同機のミッションは、掘削したコア・サンプルを採取して試験管に封入し、火星表面の保管場所に移送するというものです。それらのサンプルは、将来のミッションで回収されて地球に持ち帰られます。その後、高度な計測器を使用して研究者による詳細な分析が行われる予定です。


アナログ・デバイセズのKristen Chongが、火星探査機(ローバー)「Perseverance」の着陸について、また同機によって謎が解明される可能性について語ります。

ミッションを支える電力

Perseveranceによる計測、通信、移動、科学的活動の動力源としては電力が使われます。長いバッテリ寿命と信頼性の高い電力供給は、11年間に及ぶミッションに必須の要素です。同機では、高い効率を得るために高電圧のバッテリ・バスから給電を行います。しかし、バスから直接出力される電圧は、同機の電子システムのうち99%にとっては高すぎます。そのため、降圧の処理が必要になります。ただ、それが効率的に行われなければ、膨大な量の電力が無駄に消費され、バッテリを頻繁に再充電しなければならなくなります。

電力に関する連携

NASA/JPLは、重要なパワー・マネージメント・ソリューションを提供する技術プロバイダとしてアナログ・デバイセズを選択しました。このアプリケーションでは、バッテリ・バスからの高い電圧を基に、Perseveranceの全コンポーネント(IC)の動作に必要な低い電圧を生成する必要があります。そのためのインターフェースとして機能するのは、高電圧に対応する同期整流方式/電流モードのコントローラです。このコントローラについては、放射線に対する耐性が強化されています。また、無駄になる電力を可能な限り抑えて最大限の変換効率が実現されます。電力損失が生じると熱が生成されます。そして、過剰な熱はコンポーネントの状態に悪影響を及ぼします。しかも火星は大気が薄いため、過剰な熱を取り除くのはより困難になります。

スマートフォンやタブレット端末において、この画像(ARを利用した3Dモデル)をタップすると、あらゆる方向からPerseveranceの外観を確認できます。
 

提供:NASA/JPLとカリフォルニア工科大学

より大きなミッションに向けた最初の一歩

Perseveranceに関連するプロジェクト「Mars 2020」では、将来のミッションの準備として複数の実験が行われます。その中で最も野心的なものは、おそらく「MOXIE(Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment)」です。これは、火星の薄い大気から酸素を抽出する方法についてのテストを実施するというものです。言い換えると、火星の二酸化炭素から酸素を生成することができる可能性があるのか否かが検証されます。この実験に成功したら、MOXIEで扱う技術を更に発展させることになります。その技術は、火星に関する他のミッションに必須の要素になるはずです。すなわち、ロケットの燃料の供給手段や将来の開拓者/移住者に対する酸素の供給手段として使われるということです。Mars 2020では、Perseveranceに加えて「Ingenuity」も火星に送られました。Ingenuityは、太陽電池を搭載するドローン(ヘリコプタ)です。火星の大気は地球のわずか1/100のレベルですが、このような条件下で飛行の安定性が得られるか否かという試験に使用されます。またIngenuityは、最も良好な探査場所とPerseveranceの最も安全な走行ルートを偵察する役割も果たします。

Side-by-side 3D renderings of Mars Perseverance Rover and Ingenuity helicopter
PerseveranceはIngenuityを搭載しています。Ingenuityは、地球以外の惑星で飛行できるように初めて設計されたヘリコプタです。
提供:NASA/JPLとカリフォルニア工科大学

Ingenuityについて知りたい方はこちらをクリック

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Perseveranceは、重量4ポンド(約1.8kg)のIngenuityを腹部に搭載して火星に到着しました。Ingenuityの2つのローターは、通常のヘリコプタの数倍にあたる約2400rpmの速度で逆方向に回転します。この小型ヘリコプタは、地球の1/100という火星の薄い大気中で飛行できるだけの十分な揚力を生成しなければなりません。また、火星では夜間の気温が-90℃まで低下します。したがって、Ingenuityにはそれに耐えられるだけの能力が求められます。

Perseverance-accompanied-by-Ingenuity

提供:NASA/JPLとカリフォルニア工科大学

2014年から2019年にかけて、JPLの技術者らは、特殊な宇宙シミュレータを使って、累進的に高度化した軽量モデルであるIngenuityのテストを行っていました。2020年7月30日には、その最終版を載せた使い捨てロケット「Atlas V」がフロリダ州のケープ・カナベラル空軍基地から火星に向けて打ち上げられました。Ingenuityが火星に到着したのは、約7ヶ月後の2021年2月18日のことです。

Ingenuityは、火星で30日にわたる実験期間中(地球の時間に換算すると31日間)に、最大5回の飛行を試みることになっています。その動力/制御には電力が使われます。1回の飛行時間は最長3分で、最長1000フィート(約300m)の距離を飛行します。テスト飛行の間に取得したデータは、次世代のヘリコプタに新たな機能を追加するために役立てられます。追加される機能としては、探査機や乗組員のための偵察、軽い物品の輸送、近づきにくい場所の調査など、上空から火星探査を支援するためのものが想定されています。

Mars 2020では、火星において「ライト兄弟の偉業」のような瞬間を達成することを目指しています。テスト飛行に成功すれば、Ingenuityは地球以外の惑星を飛行した初の航空機になります。このミッション(Mars Helicopter Mission)のプロジェクト・マネージャを務めるMimi Aung氏は「火星で電力を使用した飛行を実現できることが証明されれば、将来の火星探査においてヘリコプタが重要な役割を担うようになると考えられます」と述べています。

アラバマ州ノースポート在住の高校生、Vaneeza Rupaniさんは、火星探査機の名称を募集していることを知り、「Ingenuity(日本語で「創意工夫」という意味)」という名前を提案しました。ただNASAは、その名前はヘリコプタの方に適していると考えました。ヘリコプタを打ち上げるまで、JPLの技術者らは数々の創造的な考えを生み出し、懸命に努力しました。Ingenuityという名前は、その成果であるヘリコプタにふさわしいと考えられたのです。

Rupaniさんは、「Ingenuity(創意工夫)によって、人々は素晴らしいことを達成することができます」と語っています。

ngenuityは直径が約1.2m(4フィート)の同軸逆回転式のローターを備えています。また、上部には充電に使用する太陽光パネルを搭載しています。下部には、ナビゲーション、着陸、地形の測量に利用する高解像度カメラが下向きに取り付けられています。

提供:NASA/JPLとカリフォルニア工科大学

強化技術の歴史

Perseveranceは、アナログ・デバイセズ製のコンポーネントを63個搭載しています。 これらは火星におけるミッションで重要な役割を果たします。当社マーケティング・マネージャ兼アプリケーション・エンジニアのKristen Chongは「RF/マイクロ波に対応するコンポーネントから、オペアンプ、パワー・マネージメント・デバイス、データ変換用のデバイスまで、あらゆる処理を担う製品を提供しました。当社は引き続きNASA/JPLと連携し、宇宙を対象とする難易度の高い新たなプログラムに取り組んでいきます」と語ります。

アナログ・デバイセズは、1980年代の初頭からNASA/JPLと連携することにより、技術の限界を押し上げるための取り組みを続けています。それにより、重要なコンポーネント、カスタムのプログラム、強化技術などを開発してきました。宇宙分野のアプリケーションでは、すべてのコンポーネントが極端に大きい重力加速度、振動、温度の変動、放射線といった非常に過酷な環境にさらされます。

NASA's Juno space probe flying in space in front of Jupiter
画像:惑星探査機「Juno」(提供:NASA/JPLとカリフォルニア工科大学)

NASA/JPLは、2011年8月5日に宇宙探査機「Juno」を打ち上げました。同機は、深宇宙の過酷な環境の中を5年弱にわたって航行し、2016年7月4日に木星周回軌道に到達しました。同機のミッションは、巨大ガス惑星である木星やその他の惑星の誕生から現在に至るまでの過程を明らかにすることでした。「太陽系には、放射線が降り注ぐ非常に過酷な環境が存在します。その中でも、木星はおそらく最悪の部類に属します。木星の磁気圏は、そのヴァン・アレン帯においてかなりの放射線を捕捉します。その量は、地球をはじめとする太陽系内のどの惑星のヴァン・アレン帯と比べても、はるかに多くなります。したがって、Junoには放射線に対する耐性を極限まで強化したコンポーネントが必要でした。同探査機のミッションは、非常に果敢なものだと言えます」とChongは述べています。

Junoには、放射線に対する耐性が強化された温度センサー「AD590S」が使われました。宇宙探査機は、周回する惑星の陰を抜けて太陽光を直接浴びる位置に出た瞬間に、急激な温度変化に見舞われる可能性があります。太陽光を浴びている状態でも、太陽の方を向いている側とその反対側とでは、温度がかなり異なります。このような温度の変動は、宇宙探査機に実装されたICに多大な影響を及ぼすおそれがあります。ただ、その影響については予測が可能です。温度センサーからの情報を利用することにより、宇宙探査機上の温度の変化に応じた調整/補償を実現できるということです。

ミッションが始まってから約20年が経過しても、AD590Sによる温度データの収集は続きます。その優れた実績から、NASA/JPLはMars 2020のPerseveranceのミッションでもAD590Sを選択しました。


放射線がもたらす悪影響

各種の探査機は、地球の磁気圏によって保護された領域を超えて宇宙を航行します。その際、探査機は悪影響を及ぼす太陽からの放射線にさらされます。放射線は、ICにランダム・エラーを生じさせたり、その動作をリセットしたりすることがあります。場合によっては、コンポーネントを破壊してしまうこともあります。放射線は、次のような現象を引き起こします。

  • シングルイベント効果(SEE:Single-event Effect):単一のイオン/粒子がデバイスの特定の領域に入射し、様々な異常やエラーを引き起こします。
  • トータル・ドーズ効果(TID:Total Ionizing Dose Effect):コンポーネントの稼働期間を通してイオンが放射されることにより、長期的な蓄積効果が生じます。それにより、一部のコンポーネントに対する供給電流が増加するといった形でオフセット・シフトが発生する可能性があります。
  • 変位損傷(DD:Displacement Damage):中性子などの大きな粒子によって、シリコン・チップの結晶構造が破壊され、物理的な損傷が生じる可能性があります。

放射線の試験

2017年に、アナログ・デバイセズは高性能なパワー・マネージメント・システムで知られていたLinear Technologyを買収しました。それまでに、Linear Technologyの技術者らはテキサスA&M大学のサイクロトロン研究所などを訪れ、NASA/JPLからの協力も得て、宇宙市場に投入するコンポーネントの選定を進めていました。当時の技術者は、放射線を緩和するか、放射線に対する耐性を強化するように設計された様々なプロセスを採用していました。

アナログ・デバイセズのスタッフ・フィールド・アプリケーション・エンジニア(FAE)、John Guyは「ICが正しく機能せず、難易度の高い課題が発生すると、当社に対して支援の要請が寄せられました。当社は、放射線を定量化するプロセスの一環として、テキサス州のカレッジ・ステーションに人員を派遣しています。ある事例では、放射線の試験中に異常な動作が生じないかどうかを確認するために、そのコンポーネントを最初に設計した技術者とFAEが派遣されました」と述べています。その際、設計者とFAEはNASA/JPLの技術者と連携し、課題の解決に取り組んでテストを実施しました。それにより、アプリケーション・レベルの問題なのかコアの設計上の問題なのかを見極め、放射線に対する耐性を強化した最終的な製品を開発しました。

品質管理、性能、動作寿命

アナログ・デバイセズは40年以上にわたってNASA/JPLと連携し、非常に過酷な宇宙環境に耐えられる強化技術を開発してきました。言うまでもなく、それらを適用したコンポーネントは宇宙環境でも問題なく動作します。それだけでなく、多くの場合、ミッションの要件として定められている期間よりも数年長く、あるいは数十年も長く動作し続けています。つまり、あらゆる期待を上回る成果を収めているということです。

当社が開発した製品、試験に対する厳格な姿勢、目標に掲げる高い品質は、NASA/JPLからの揺るぎない信頼を得ています。長きにわたる提携関係がその信頼を物語っています。また、そのことは、世代をまたいで宇宙でのミッションを支えてきた当社のオンサイト・サービスの有用性、深い専門知識、技術力の高さの証でもあります。

地球上で使われるアプリケーションでは、そこまでの要件が求められることは少ないでしょう。そうしたアプリケーションを対象とするお客様にとっても、宇宙分野における当社の実績は、当社のレベルと価値を具体的に証明するものになるはずです。当社の製品は、最も過酷な宇宙環境で数十年にわたって使用できるだけの品質を備えています。そのことを知っていただければ、当社の製品に対する信頼と信用は更に高まるはずです。製造工場であれ、電気自動車であれ、病院の手術室であれ、当社の製品ならば故障することなく機能するということを確信できるでしょう。

将来を見据えるパートナー

当社は、イノベーションの発生源でありたいという飽くなき向上心を抱いています。将来に目を向け、好奇心を忘れず、適応することを学び、従来の枠組みにとらわれずに考える姿勢を貫いています。これはNASA/JPLと同様です。当社は50年に及ぶ歴史を通じて1つのことを学びました。それは、新たな技術革新は業界に新たな道すじをもたらし、今日の私たちが夢にも思わない方法で世界を形作っていくということです。当社は、最も複雑で難易度の高い課題の解決に積極的に取り組みます。そのような課題を解決するのは有意義なことであり、それによって得られるインパクトは非常に大きいからです。当社は、そのようにして想像を超える可能性を目指すことをビジョンとして掲げています。

Hubble telescope colorized image of space matter with stars

Perseveranceのミッションやそれに続く多くのミッションは、より壮大なプログラムのほんの一部にすぎません。NASAは火星探査の準備として、2024年までに再び宇宙飛行士を月面に着陸させ、2028年まで持続可能な形で人間を滞在させるという計画を立てています。アナログ・デバイセズは、その素晴らしい探査活動にも参加することを決意しています。

「私たちは月に着陸する。火星に着陸する。太陽系外の惑星の衛星に着陸する。彗星に着陸する。彗星から彗星へとつま先で飛び移り、数々の星へと向かう」

Carl Sagan博士

天文学者、宇宙論研究者、作家、詩人、科学コミュニケータ