3D model of DNA isolating a section with data visualization overlay
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合成生物学向けソリューションにより、人の命を救う


物理学と生物学を組み合わせることで、癌、代謝異常、感染症といった病気を治療する手法に注目が集まっています。現在は、それに向けてシリコン・チップの表面上でオーダーメイド医療を実現する技術が具現化されつつある状況にあります。しかも、それが手頃なコストで実現されるというのです。自然の力も活用するこの画期的な技術により、医療、製造、農業といった分野における人類の最も重要な課題を解決するための道筋が切り拓かれるかもしれません。

合成生物学(Synthetic Biology)は、SFで描かれるような空想の世界のものではありません。そうではなく、複数の異なる学術分野にまたがる画期的な新技術です。その目的は、技術者がより容易に生物学を活用できるようにすることです。化学、生物学、工学、コンピュータ科学の進化を融合し、自然界には存在しない生物学的なコンポーネントや、ソリューション、システムの設計/製造を実現します。その意味で、合成生物学は生物学に基づくツールキットだと考えることができます。抽象化、標準化、自動構築を利用して生物学的なシステムの構築方法に変化をもたらし、より多くのものを成果物(product)として作り出すことを可能にします1

Evonetixは、バイオテック分野のスタートアップ企業です。生物学について再考し、従来とは抜本的に異なる方法により、かつてないほどの精度と規模で長鎖DNAを合成する技術を開発しています。同社は、成長が著しい合成生物学の活用を促進し、世界中の人々の健康を増進するというミッションを掲げています。合成生物学を利用して人の命を救うことにつながるワクチンなどのソリューションを開発する上で、品質、スピード、コストを改善することを目指しています。

Evonetixは、自社の開発作業を迅速に進めて、先進的なプラットフォームを市場に投入したいと考えていました。そのためには、深い専門知識を有しているだけでなく、バイオセンサーのソリューション、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術、半導体の微細加工技術を有するパートナーが必要でした。Evonetixは、DNA合成の技術を世界中の研究者に届けるというビジョンを具現化するために、アナログ・デバイセズとそのイノベーション・センターであるAnalog Garageをパートナーとして選択しました。

Evonetixの概要

事業内容

英国ケンブリッジを拠点とするバイオテック関連のスタートアップ企業であり、スケーラブルで忠実度の高いDNA合成を迅速に行うためのデスクトップ型プラットフォームを開発している。

アプリケーション

人の命を救うことにつながる新薬の発明/開発、治療用分子の設計/合成、精密医療と診断。

課題

手頃な価格、プラグ&プレイ対応、デスクトップ型のDNAライター・プラットフォームを迅速に開発、改善、商用化する。2022年初頭までにMVP(Minimum Viable Product:実用最小限の製品)を完成させる。

目的

世界中の研究者が長鎖DNAを迅速に合成できるようにするための手段を提供する。それにより、世界中の人々の健康に貢献する。

従来のDNA合成

DNAの合成は、30年以上にわたり次のような方法で行われてきました。すなわち、最初に個々のらせん構造を作成し、それらを組み合わせて、長い二重らせん構造のDNAを作成するというものです。この方法は、長い時間を要し、ランダム・エラーが生じやすいという欠点を抱えていました。しかも、許容できるレベルの品質を確保するためには、更に時間をかけて解析とシーケンシングを行わなければなりませんでした。この方法は、新しい薬物療法の迅速な開発、ひいては医療の進化を妨げる要因になっています。

Evonetixの生合成技術

Evonetixは、物理学と生物学を組み合わせた独自のDNA合成手法を提案しています。それに向けて、シリコン・チップ表面にある数千もの微細なリアクション・サイト(reaction site)を個別に制御し、DNA合成のための調整を行えるようにするプラットフォームを開発しています。

3D model of a grey silicon chip on a green surface
シリコン・チップ
3D model of minaturized reaction site on chip
チップ上の微細なリアクション・サイト
3D model of synthesis of long-chain DNA
長鎖DNAの合成
3D model of error identification and removal in DNA chains
エラーの特定と除去

合成を行ったら、画期的なプロセスによりエラーを特定して除去します。それにより、従来の手法よりも数桁高い精度を達成します。DNA合成の技術を利用すれば、より多くの情報に基づく適切な治療を行えるようになります。つまり、個々人に最適化されたオーダーメイド医療の実現が可能になるのです。

挑戦的な目標を達成するための連携

アナログ・デバイセズは、バイオテック分野の新興技術の動向を絶えず注視しています。その結果、新しい技術の調査を行い、新しい機能を実現して新しいビジネス・チャンスを得るために、Evonetixと協業することを選択しました。当社は、バイオセンサー・ソリューションに関する専門知識、先進的なMEMS技術半導体の製造に必要な比類ない微細加工技術を有しています。これら3つは、迅速な生合成を実現するというEvonetixのビジョンを具現化するために欠かせない重要な要素です。逆に言えば、これら3つの要素を活用することにより、迅速な創薬を実現することが可能になります。

EvonetixとAnalog Garageの連携は2019年1月に始まりました。Analog Garageは、アナログ・デバイセズのインキュベータ/イノベーション・センターです。Evonetixは、デスクトップ型DNAライターの商用化に向けて、開発/改善を迅速に進め、最初の完成品を実現するための協業先を必要としていました。そのパートナーとしてアナログ・デバイセズが選ばれたということです。両社は、MVPを2022年初頭までに開発するという挑戦的な目標を設定しました。

アナログ・デバイセズでデジタル・ヘルスケア担当シニア・バイス・プレジデントを務めるPatrick O'Dohertyは、「Evonetixとの連携により、当社は将来性豊かな合成生物学の市場に参入する機会を得ることができました」と述べています。

「Evonetixと当社の提携は、迅速かつ低コストでDNA合成を行えるようにすることを目的としています。それにより、手頃な価格の新薬を迅速に開発できるようになるなど、世界中の多様な疾病の治療に適用できる新たな手段を提供することが可能になります。」

Patrick O’Doherty

デジタル・ヘルスケア担当シニア・バイス・プレジデント | アナログ・デバイセズ

Analog Garageの役割

Evonetixの協業先となるAnalog Garageとはどのような組織なのでしょうか。これについてO'Dohertyは、「Analog Garageは、主要な研究機関やディープテック分野のスタートアップ企業から技術者、データ・サイエンティスト、ハードウェア技術者、ソフトウェア技術者を集めて創った組織です。メンバーの多くは、信号処理、機械学習、材料科学の分野で博士号を取得しています。つまり、一般的な半導体企業の技術者にはなかったスキルセットを有しているということです。彼らは、移り変わりの激しいスタートアップ環境の中で、新しいソリューションと画期的な技術を生み出すべく、意欲的に取り組みを行っています」と説明しています。

一方、Analog Garageのゼネラル・マネージャを務めるPat Coadyは、「Analog GarageのR&Dチームは、科学、アルゴリズム、データ、そして自らの創造性を駆使して、お客様が抱える最も難易度の高い問題に対するソリューションを実現します。私たちは、世界を変えるソリューションを共に構築してくれる素晴らしい企業や人材を常に探し求めています」と述べています。

Zoomed in view of a microchip being adjusted with tweezers
EvonetixはAnalog Garageとの協業によって、DNA合成用のソリューションを開発しています。そのソリューションには、MEMSプラットフォーム、制御用エレクトロニクスを小型化するためのASIC、フロー・セルが統合されます。

現在、Evonetixはアナログ・デバイセズのテスト用チップが備えるセンサー構造を使ってテストを実施しています。今後2年の間に、実験、評価、検証を積み重ねていく予定です。現時点では、最終的なチップは開発されていません。アナログ・デバイセズは、商用化に向けた改善を管理しつつ、デスクトップ型DNAライター用のデバイスを製造する予定です。開発段階が完了したら、すぐにセンサー・チップを製造する計画です。

「Analog GarageのR&Dチームから提供される専門知識とサポートは、複雑な制御用ASICを設計する上で非常に役立ちました。この提携を拡大し、プラットフォームの商用化に向けた改善を完了させることを楽しみにしています。」

Dr. Matthew Hayes

Evonetix 最高技術責任者(CTO)

プラグ&プレイ対応のデスクトップ型装置

Artist concept of the proposed Evonetix desktop device
Evonetixが提案するデスクトップ型装置(アーティスト・コンセプト)

EvonetixのDNAライターは、簡単に導入して使用できるプラグ&プレイ対応のデスクトップ型装置になる予定です。特定用途向けの使い捨てカートリッジによって、複数の機能とアプリケーションに対応できるようにすることを目指しています。そのカートリッジは高度に並列化された合成を可能にするものであり、複雑な機能の大部分を搭載します。

Evonetixの最初の装置は、2021年の終わりにベータ・テストの段階に進む予定です。同社とアナログ・デバイセズは、DNAを合成する処理の高速化、効率と精度の改善、コストの削減を目指し、その後も提携を継続します。

「当社は、DNAを正確かつ大規模に合成できるようにするために、高度に並列化されたデスクトップ型プラットフォームを開発するというミッションを掲げています。アナログ・デバイセズとの提携は、その実現に向けた重大な一歩です」

Dr. Matthew Hayes

Evonetix 最高技術責任者(CTO)

人類に与えるインパクト

Woman with glasses in a lab inserting fluid into a test tube
Evonetixのプラットフォームが商用化されることで、どのようなメリットがもたらされるのでしょうか。

パンデミックとの戦い

2020年11月の時点では、COVID-19(新型コロナ・ウイルス感染症)に対処するための承認済みワクチンや治療法は存在しません。世界中の研究者らは自らが有する技術と真摯に向き合い、解決策を見いだそうと取り組みを行っています。いずれはCOVID-19に打ち勝つ策が生み出されることを誰もが期待しています。しかし、現時点では先行きは不透明だと言わざるをえません。

Evonetixの画期的なデスクトップ型プラットフォームが商用化される頃には、COVID-19のパンデミックとの戦いは峠を越えている可能性があります。つまり、その製品がこの問題の解決に大いに役立つということはないかもしれません。しかし、EvonetixのDNA合成技術は従来の手法とは抜本的に異なります。そのため、次のパンデミック、あるいはその次のパンデミックとの戦いにおいて、重要な役割を演じることになるかもしれません。この技術は非常に有望なものです。人命を救える新薬やワクチンを、迅速かつ正確に、高いコスト効率で開発する力を、世界中の研究者にもたらす可能性があるのです。

広範な応用領域

DNA合成は、手頃な価格の薬や治療法を生み出すための新しい手段になる可能性があります。合成生物学は、製薬/創薬、先進的なバイオ燃料、産業向けバイオ・テクノロジ、特殊な化学製品、再生可能エネルギー、農業、材料科学など、多種多様な分野に応用できます。例えば、石油への依存度を低減したり感染症の拡大を抑制したりすることに役立つ可能性があります。それに加え、食糧不足が懸念されるこの世界において、必要な栄養量を確保できるようにすることに貢献できるかもしれません。

この技術は、Evonetixとアナログ・デバイセズの提携によって実現されます。その結果、研究者らは、迅速で正確なDNA合成により、他の方法では不可能な規模で生物学を活用できるようになります。その結果、人類が抱える最大の課題が解決され、地球と人類に対して、より安全かつ健康的なより良い未来をもたらすための道筋が切り拓かれるでしょう。


1Engineering Biology Research Consortium