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Front view closeup of a Hyundai GV80 car driving through busy city streets.
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Hyundaiのロード・ノイズ・キャンセリング技術、没入感にあふれるインキャビン・エクスペリエンスを実現


次に車で移動する機会が訪れたら、ラジオを消して耳を澄ましてみてください。一般消費者向けの車であれば、認識可能なレベルでインキャビン・ノイズが生じているかもしれません。その発生源はエンジンなのかもしれませんし、タイヤや風が原因なのかもしれません。いずれにせよ、その種の耳障りな音は、長距離にわたって車を運転する際、疲労を増大させる原因になります。結果として、安全性に影響が及ぶこともあります。

従来、ほとんどの自動車メーカーは、ノイズを抑えるためにパッシブな音響減衰材を使用していました。しかし、その結果として車両の重量が増加してしまい、燃費が悪化するという状況が生じていました。そこで、最近では多くの車種にアクティブ・ノイズ・キャンセレーション(ANC:Active Noise Cancellation)技術が適用されるようになりました。この技術は、ハイエンド・オーディオ分野のノイズキャンセリング・ヘッドフォンに採用されていたものです。自動車のエンジンからは、狭帯域のノイズが生じます。ANCは、そのキャンセルには有効な技術です。しかし、タイヤによって生成される広帯域のロード・ノイズ(Road Noise)に対してはほとんど効果を示しません。

業界をリードするアナログ・デバイセズとHyundai Motorsは、技術ワークショップを催し、ロード・ノイズをキャンセルするための技術について議論を交わしました。当社(アナログ・デバイセズ)は、エンジニアリング領域の最も難易度の高い課題を解決する完全なソリューションを提供する技術企業として知られています。一方、自動車業界のパイオニア的な存在であるHyundaiは、自社ブランドの差別化を図ることを目指していました。また、差別化要因の1つとして、インキャビン・ノイズを劇的に低減する技術を開発し、同社の製品に適用したいと考えていました。

そこで、両社は、業界初となるオールデジタルのロード・ノイズ・アクティブ・ノイズ・コントロール(RANC:Road Noise Active Noise Control)システムの実用化を目指して提携することにしました。解決すべき課題は、実用的かつ容易に製造が可能な形でRANCシステムを実装するというものでした。その提携の結果、2020年の初頭、この画期的なRANCシステムの量産化が急速に進み、Hyundaiの主力モデルである「GV80」に搭載されることになりました。

Image of the RANC technology and a smiling woman inside interior of car this explains the sound wave technology.

ただ、GV80における成果はほんの始まりにすぎません。Hyundaiには、未来への道を築くためのビジョンがあります。ノイズ・キャンセリング技術のはるか先にある未来では、同社の全車種にわたり、運転者と同乗者に対して、より没入的で、より楽しく、よりハイクオリティなサウンド・エクスペリエンスが提供されるようになります。

Hyundaiの概要

事業内容

Hyundaiは、より便利で快適で安全な自動車の運転を実現するというビジョンを掲げている。その基盤になるものとして、ヒューマンセントリックでエコフレンドリーな技術やサービスを提供することに注力している。

アプリケーション

アナログ・デバイセズのA2B®(Automotive Audio Bus)技術を、オーディオ用の基本的な接続機能とインフォテインメント・アプリケーション機能で活用する。

課題

業界初となるオールデジタルのRANCシステムを市場に提供する。リーズナブルな価格、複雑さの緩和、軽量化を実現し、量産化を加速する。

目標

Hyundaiの全車種を対象として、オーディオ用の接続機能とインフォテインメント・アプリケーション機能を開発する。それにより、更にダイナミックなユーザ・エクスペリエンスを実現する。

ノイズ・キャンセリング技術の歴史

従来から、自動車メーカーはインキャビン・ノイズを低減し、車両に更なる高級感を持たせたいと考えてきました。当初、そうしたメーカーはフロアやフロントガードなど、取り付けが可能なあらゆる場所に遮音材を設置していました。しかし、その方法で満足なレベルの遮音効果を得るには、その重量が燃費に影響を及ぼすほど大量に遮音材を使用しなければなりませんでした。軽量な新素材が登場しても、その状況に変化はありませんでした。そこで注目を集めたのが、シンプルなアナログ技術であるANCでした。ANC技術は、1950年代にヘリコプターや航空機の耳をつんざくようなエンジン音を抑えるために開発されました。その後、同技術はヘッドフォンの分野で広く使われるようになりました。

ANCは、狭帯域のノイズを遮断するのではなく、そのノイズを打ち消すというものです。遮音材を使用する方法などと比べれば、シンプルながらもエレガントな手法だと言えます。ANCは、湖のさざ波のようにノイズ信号(音波)を打ち消し、それらを平滑化させるように作用します。

ロード・ノイズを除去する目的は、静寂を得ることではありません。むしろノイズが運転者と同乗者に与える疲労をなくすことです。

2.3兆マイル
米国における自動車の走行距離1

1 米運輸省(2021年)

ANCの動作原理

ANCの動作原理は、ヘッドフォンで使用されるノイズ・キャンセリング技術と同様です。マイクやDSP(Digital Signal Processor)などのコンポーネントとソフトウェアを組み合わせることで、ノイズを測定してキャンセルする(打ち消す)という処理が行われます。エンジンから生じるノイズの信号は、車内に配備されたマイクによって拾われてDSPに引き渡されます。DSPでは、ANCのアルゴリズムによってそのノイズに処理を施します。その結果、スピーカを通してノイズとは逆位相のオーディオ信号が発せられます。運転者や同乗者は、生成されたオーディオ信号を知覚することはありません。しかし、相殺的な干渉として知られる現象によって、エンジンのノイズを十分に打ち消す効果が得られます。

An animated image detailing how active noise canccellation works.
ANCでは、不要なエンジンのノイズを“聞き取り”(A)、それと位相が180度ずれた音を生成することによって(B)、人間の耳に届く前にノイズをキャンセルします(C)。これを実現するには、非常に高速なデジタル処理が必要です。

ANCの限界

ANCは、狭帯域のエンジン音のように、周波数が低く、継続的に発生し、予測が可能なノイズに対してのみ有効です2。例えば、路上にくぼみがあった場合などにはランダムな広帯域のノイズが発生します。ANCはそうしたノイズには対応できません。対象とする信号や計算速度の面で、ANCでは十分に速く反応して逆位相の信号を生成することができないからです。ロード・ノイズが運転者/同乗者の耳に届くまでに間に合わせるには、キャンセルの処理を4ミリ秒以内に実行しなければなりません。しかし、ANCで使用されるハードウェアとソフトウェアでは、そのような処理時間を実現するのはかなり困難です。そのため、Hyundaiは同社の車種向けのより良いソリューションを探していました。

2この性質は、場合によっては長所として作用することがあります。自動車を運転している際には、クラクションや、消防車/救急車のサイレンなどの警報音に注意することが不可欠です。ANCでは低周波の連続音のみをキャンセルするので、周波数が高く不規則な警報音はキャンセルされません。したがって、警報音は、大きな音としてはっきりと聞こえます。

Graphic illustrates the Hynudai tech team doing noise tests inside of the GV80 interior with a side-by-side diagram of the RANC soundwave technology .
RANCシステムのテストを行うHyundaiの技術チーム

長きにわたるパートナーシップ

Hyundaiとアナログ・デバイセズは、10年間にわたってパートナーシップを築いてきました。2012年、当社はHyundaiの高性能オーディオ・アンプ向けにDSP技術を提供しました。その後の数年間で、両社の関係はHyundaiが必要とするRANCシステムの開発に向けて急速に発展しました。

RANCでは、信号の遅延を抑えてわずかに処理を高速化すればよいというわけではありません。道路から車内にノイズが伝達する速度よりも4倍高速である必要があります。RANCシステムでは、わずか2ミリ秒でロード・ノイズの分析を行い、逆位相の音波を車両のステレオ・スピーカを通して送出する必要があります。それにより、運転者や同乗者の耳に届く前にノイズの平滑化を実現します。なお、RANCについてのテストの結果から、インキャビン・ノイズを3dB低減(半減)できるということが明らかになっています。

Infographic explaining how the RANC technology analyzes and inverts a noisy sound wave in 2 milliseconds.
2ミリ秒
RANCシステムがノイズの分析を行い、逆位相の信号を返すまでの許容時間

HyundaiのRANCシステムを構成する4つの主要コンポーネント

加速度センサー

加速度センサーは、各タイヤの近くに設置され、タイヤとサスペンションの振動を検出します。

プロセッサ

Adaptive Controller(DSP)の独自アルゴリズムにより、振動が原因で生じるノイズと同じ大きさで逆位相の信号を生成します。数ミリ秒以内にスピーカを通してその音を鳴らすことで、ノイズをキャンセルします。

マイク

複数のマイクによって車内の音を同時に取得し、ノイズを低減するための適切な信号が生成されることを保証します。

スピーカ

信号経路の最後の要素は、耳障りな音を低減するために車内に配備されるスピーカです。それにより、運転者や同乗者の周辺のゾーンは静かになり、聴覚的な面でより快適なエクスペリエンスが得られるようになります。

2015年の初頭、Hyundaiの1つのチームが、RANCシステムで使用するアルゴリズムの研究/開発を行っていました。そのチームを率いていたのが、Hyundai NVH Research Labのリサーチ・フェローであるKang-Duck Ih氏(博士)です。アナログ・デバイセズは、Ih氏ならびに同氏が率いるチームのメンバーとの連携を図りました。その結果として、RANCシステム向けアルゴリズムの実装先となるGriffin DSPの新ファミリを発表しました。RANCシステムのアーキテクチャについて議論を交わす中で、当社の技術者は、従来のアナログ接続をベースとするHyundaiのソリューションでは、コストがかかりすぎて実用化が困難であることに気づきました。自動車業界全体に向けてRANC技術を展開するには、センサーとDSPを効率的に接続可能なネットワーク技術が必要だったのです。その技術は、費用対効果が高く遅延を小さく抑えられるものでなければなりませんでした。

A2Bによる課題の解決

上述した課題を解決可能なものとして選択されたのがA2Bです。例えば、ポイントtoポイントの接続を実現する同軸ケーブルは、コストが高く、重量がかさむという欠点を抱えています。それに対し、A2Bでは、UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブルを使用しつつ、高い費用対効果で遅延を小さく抑えることができます。A2Bを採用すれば、最大32チャンネルのオーディオ信号、制御信号、ファントム電源からの電力を同一のケーブルで伝送することが可能になります。それだけでなく、デイジーチェーンのネットワーク・トポロジの最適化を図れます。更に、ワイヤ・ハーネスの重量を削減すると共に複雑さを緩和することも可能です。

アナログ・デバイセズでオートモーティブ・キャビン・コネクティビティ担当のゼネラル・マネージャを務めるVlad Bulavskyは次のように語ります。「Hyundaiのチームに対し、まずは当社のDSPとA2Bに関する技術情報とロードマップを提示しました。Hyundaiにとっての課題は、同社のRANCシステムを実用的な形で実装することでした。複数回にわたりブレーンストーミング形式のミーティングを行った結果、その課題を解消する方策を導き出すことができました。そして、Hyundaiの次世代車種に搭載できるRANC向けのソリューションを構築することが可能になりました。そのソリューションでは、競合他社のプロセッサに代わり、当社のA2B製品、加速度センサー、Griffin DSPが使われています」。

Hyundaiとアナログ・デバイセズは、2015年から2016年にかけて協議を継続した上で、このソリューションを共同開発しました。2020年初頭に、両社は業界初となるオールデジタルのRANCシステムをHyundaiのGV80に適用することに成功しました。

Image shows a Hyundai GV 80 Car traveling down freeway with city buildings in the background.
HyundaiのGV80

A2Bがもたらすメリット――環境に優しい車、卓越した機能、優れた設計

A2Bは、異なるアプリケーションでリモートで使用される複数個のセンサーをデイジーチェーン形式で接続することを可能にします。それにより、冗長な配線が大幅に削減されます。つまり、ケーブル・ハーネスの重量が劇的に軽減されるだけでなく、ケーブルの本数も抑えられます。そのため、設計にかかるコストが全体的に削減され、設計、配備、保守の面で複雑さが緩和されます。

アナログ・デバイセズでオートモーティブ・キャビン・エクスペリエンス担当のバイス・プレジデントを務めるAndy McLeanは「当社とHyundaiは緊密に連携することで、オールデジタルのRANCシステムを開発することに成功しました。当社のA2B技術を採用したことにより、機器のコストと重量を抑え、設計の複雑さを緩和することができました。また、RANCシステムが抱えていた複数の課題を解決できたので、燃費への悪影響を回避することが可能になりました。当社とHyundaiの協業により、A2Bの実用性の高さが実証されたことも成果の1つです。加えて、この技術により、Hyundaiの製品は、今日の自動車の市場において差別化を図ることが可能になりました」と語ります。

Top down Schematic diagram of car and technical references to ADI A2B sensors, cables and descriptions of each.

一方、Bulavskyは「効率的なシステム・ソリューションを構築するためには、様々な技術が必要になります。RANCシステムは、そうしたアプリケーションの典型的な例です。実際、HyundaiのRANCシステムでは、当社のDSP、A2B製品、加速度センサー、ソフトウェア(IP)のすべてがシームレスに統合されています。その結果、非常に難易度の高い音響の問題に向けて、性能と費用対効果に優れるソリューションを実現することができました」と説明しています。

RANCシステムは、自動車の明るい未来をもたらします。また、アナログ・デバイセズのDSP、A2B、加速度センサーの各技術も、将来の電気自動車(EV)にとって非常に有用なものです。走行時にモーターだけを使用するEVでは、エンジンからノイズが生じることはありません。そのため、ロード・ノイズが非常に耳障りなものになりがちです。堅牢なノイズ・キャンセリング技術は、EVにおいて静かな車内と快適性を確保する上でますます重要になると考えられます。

未来を見据えた技術――より優れたサウンド・システム

動車は単なる移動手段ではありません。そうではなく、個人のライフスタイルを反映する空間だと言えます。例えば、消費者が最も長く音楽を聴いているのは、他のどの場所でもなく車内だと言われています。Hyundaiは、RANCシステムによる静かな車内空間がもたらすメリットを活かすための新たな取り組みを行っています。その取り組みでは、Quantum Logic® Surroundを搭載するLexicon®プレミアム・オーディオ・システムを利用します。それにより、路上を対象として巧妙にチューニングされたステージ品質のサウンドを実現しようとしているのです。その技術では、GV80の車内17ヵ所に戦略的に配置された21台のスピーカとサブウーファを使って1050Wの増幅出力を結合します。それにより、GV80は個々の搭乗者に対して完璧にチューニングされた没入感にあふれる聴覚エクスペリエンスを提供できるようになります。将来的にも、通勤時間は忍耐を要するほど長いままであるかもしれません。しかし、アナログ・デバイセズとHyundaiが連携することで、運転者も同乗者も、より安全で、より静かで、より楽しい、パーソナライズされた空間でリラックスした時間を過ごせるようになるはずです。

Image shows front view of four smiling people of difference races and genders inside interior of a car while commuting to work.

RANCシステムの迅速な市場投入

ここ20年以上の間に、オーディオ・メーカーがRANC技術の開発と実装に成功したという事例が何度か報道されてきました。しかし、RANCシステムの量産が実現されることはありませんでした。

では、Hyundaiとアナログ・デバイセズは、スケーラブルに製造でき、市場に実際に投入可能なソリューションをどのようにして実現したのでしょうか。このプロジェクトを成功に導いた主な要因としては、Hyundaiとアナログ・デバイセズが切迫感を持ちながらRANC技術を極めて迅速に開発したことが挙げられます。両社が緊密な連携を図ったことで、自動車のレイアウト、組み立て、製造、アフター・サービスを網羅する相乗効果が生み出されました。そのことが、RANCシステムの迅速な市場投入につながったのです。