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閉じる安全性を維持しつつ迅速な開発を可能に - ソフトウェア・デファインド・ビークルに必要なアーキテクチャとは?
過去10年にわたり、自動車業界では開発スピードがエンジニアリングにおける重要な指標として扱われてきました。つまり、半導体の開発の加速、ソフトウェアの開発期間やリリースサイクルの短縮、機能の迅速な提供などが重視されてきたということです。
しかし、もはやそれだけでは十分ではなくなりました。
私たちは、電動車(EV:Electrified Vehicle)とソフトウェア・デファインド・ビークル(SDV:Software-defined Vehicle)の時代を迎えつつあります。その時代に重要になるのは、機能を開発するスピードだけではありません。アーキテクチャの定義からOTA(Over the Air)によるアップデートまでのライフサイクル全体を通して、安全性、信頼性、経済性を損なうことなく、相乗的にスピードを高めることが求められます。
リセットせずに、相乗的にスピードを高める
従来の自動車のアーキテクチャは、市場に投入するまでの時間を短縮することよりも、安定性が得られるようにすることを重視して最適化されていました。その結果、従来のアーキテクチャでは、階層型のネットワーク、独自のインターフェース、分散処理用のシステム、疎結合のモジュールが使われるようになりました。それに伴い、ハードウェアの種類も増加していきました。このアプローチは、車両用のプラットフォームが緩やかに変化している時代にはうまく機能していました。
今後の車両は、ソフトウェア・デファインド(ソフトウェア定義型)システムとして実現されるようになるはずです。そうすると、上述したような構造は摩擦を生み出す原因になります。なぜなら、統合の複雑さが増し、検証にかかる時間が長くなり、リリースした後にシステムを進化させる能力が停滞し始めるからです。しかも、時間の経過に伴い、その摩擦は増大することになるでしょう。
自動車の業界は、何十年にもわたり、複雑さに対処するための方法として、アーキテクチャをリセットするという手段を用いてきました。次世代の車両用のプラットフォームでは、このサイクルを断ち切ることが目標になります。
「今後10年の間に成功を収めるのは、単にスピードを高めることに努めただけの自動車メーカーではないはずです。新たなプログラムが導入されるたびにリセットされるのではなく、時間の経過に伴いスピードを相乗的に高められるアーキテクチャを設計することが求められます。」
オブザーバビリティと柔軟性に優れるネットワークにより、統合に関する摩擦を軽減
自動車業界の全体を俯瞰すると、車両のネットワークのアーキテクチャは、ハイブリッドのモデルに収束し始めていることがわかります。そのモデルは、堅牢性の高い集中型のバックボーンと、エッジに設けられる高性能のリンクから成ります。このモデルへの移行は、単に帯域幅やデータ・レートの問題を解消するために進んでいるわけではありません。その目的は、相互運用性に優れる基盤を確立することです。そうすれば、アーキテクチャをリセットすることなく、サプライヤ、ドメイン、世代を超えてシステムを進化/拡張することが可能になります。
次の時代に不可欠なのは柔軟性です。オープンなインターフェースや多様なエコシステムの参画を必要とする環境もあれば、緊密に最適化された専用リンクの恩恵を享受する環境も存在します。したがって、基盤になるアーキテクチャは、両者を統合する能力を備えていなければなりません。このことが何よりも重要です。
統合に伴う摩擦を軽減するためには何が必要なのでしょうか。それは、オブザーバビリティ(可観測性)と相互運用性を備えるネットワークです。また、そのネットワークは複数のベンダーによる異なる進化を考慮して設計されていなければなりません。そのようなネットワークが存在すれば、エンジニアリング・チームにとっての選択肢が増えます。加えて、リリース後の技術革新のペースは、低下するどころか、むしろ加速し始めます。
更に、ハードウェアの抽象化とAPI(Application Programming Interface)について標準化を実施すれば一貫性が得られます。つまり、使いやすさが高まり、誰もがより迅速に作業を進められるようになります。
スピードを高める手段としてのオブザーバビリティ
自動車業界では、ある前提に対して疑問の声が生じるようになりました。その前提とは、安全性を確保しようとすると技術革新が遅れるというものです。しかし、実際にはその逆が真実になりつつあります。
エンジニアリング組織の動きを遅くしているのは、安全に関する要件ではありません。停滞の原因は「不確実性」です。システムの可視性が不十分である場合、あらゆる変更が開発チームにとってのリスクになります。例として、診断機能が不足している状況を考えてみましょう。その場合、何らかの問題が生じると、根本的な原因の解析に数週間から数ヵ月もの時間を要する可能性があります。また、OTAの仕組みを導入したものの、その信頼性が低かったとします。その場合、エンジニアリング組織は改善版のリリースをためらうことになるでしょう。
つまり、技術的にはアップデートが可能なのに、運用上の理由からシステムが固定化されてしまう可能性があるということです。この問題に対処するには、手順を見直すのではなく、アーキテクチャの改善を図らなければなりません。
診断機能、オブザーバビリティ、システムに関する予測的な知見は、リリース後のサービスに利用するツールという位置づけのものではなくなりました。現在では、設計/開発の段階でも活用すべき極めて重要な要素になっています。自動車は、分散型のコンピューティング・プラットフォームへと進化しつつあります。この移行が進むにつれ、システムの状態をリアルタイムに把握する能力の重要性が増していきます。その能力は、慎重な反復作業と自信を持った配備を実現できるか否かを分けるものになります。
「スピードは、より多くのコードを記述すれば得られるというものではありません。スピードを高めるためには、システムの振る舞いを把握できるようにすることが重要です。」
次世代のコントロール・プレーンとしての予測型エネルギー・インテリジェンス
自動車については、エネルギーに関連する領域でも体系的な移行が進みつつあります。バッテリ・システム、エネルギー管理システム、熱力学システムは、プラットフォームにおける次の主要なリスク要因になる可能性があります。同時に、それらは大きなチャンスももたらします。
従来、上記の各システムでは、主としてセルのケミストリ、パッケージング、冷却といったハードウェアに関する課題が生じていました。しかし、電動化が進むにつれてその状況は変化しました。車両のライフサイクル全体にわたるエネルギー管理の複雑さが、戦略上の重要な課題として浮上したのです。
バッテリには、保証上のリスク、劣化の不確実性、稼働時間の信頼性、残存価値が集約されますが、幸いにもこの状況を一変させるものがあります。それは予測型エネルギー・インテリジェンスです。
バッテリの健全性、熱的な状態、使用パターンが観測可能になり、ソフトウェア上で可視化できるようになったとします。そうすると、エンジニアリング組織は新たな制御手法を導入することが可能になります。例えば、ソフトウェア・チームは、性能の範囲、充電に関する戦略、OTAによるアップデートについて、情報に基づいた意思決定を行えるようになります。それに当たって、物理的なシステムがどのように反応するのかを推測する必要はありません。
予測型エネルギー・インテリジェンスは、未知の要素を減らすことで、エンジニアリングに関連する意思決定をより迅速に行えるようにします。それにより、リスクを抑制する役割を果たします。
経済的な圧力、設計が生み出すレジリエンス
アーキテクチャとしてどのようなものを採用するのかは、様々な経済的な事情によっても左右されることになるでしょう。今後の経済環境は、数年間にわたり、規制に関連する要件の変化、関税の不確実性、サプライ・チェーンの分断、バリュー・チェーン全体にわたるコスト圧力などに直面する可能性が高いからです。
現在は、競争上の優位性を得るためのものとしてレジリエンスが重視されています。そうしたなか、部品表(BOM:Bill-of-Material)の面での効率だけを重視してアーキテクチャを最適化してしまったら何が起きるでしょうか。そのようなアーキテクチャは、上述したような経済環境においては脆弱なものだと位置づけられる可能性があります。
自動車業界では、サプライヤの変更、規制の改訂、新たな機能の登場といった変化が生じる可能性があります。オープンなネットワーク規格、モジュール式のコンピューティング・ドメイン、柔軟性の高いエネルギー・システムが用意されていれば、プラットフォームはそのような変化に適応することが可能です。そうした設計上の選択により、短期的なコストを必ずしも最小限に抑えられるとは限りません。しかし、状況が変化した際に方向転換する能力は、間違いなく飛躍的に向上します。
方向転換のスピードは、最終的には最適化よりも重要な要素になるかもしれません。実際、レジリエンスを重視してアーキテクチャを構築している企業は、プラットフォームをゼロから再構築することなく将来の不確実性に対応する能力を高められます。
真に拡張が可能なインキャビンAIによる差別化
現在の自動車は、多くのイノベーションによって実現されています。では、最先端のイノベーションを目にする機会が最も多い場所はどこでしょうか。それはインキャビン(車室内)です。インキャビンには、高度なセンサー、没入型のオーディオ、インテリジェントなディスプレイ、AIをベースとするインタラクティブな機能などが存在します。それらはドライバと同乗者に対して全く新たな、そしてエキサイティングなエクスペリエンスを提供します。しかし、その背後には構造的な課題が存在します。
基盤になるインフラについて、大規模な検証、アップデート、監視、サポートを実施できない場合、差別化は失敗に終わります。
ビデオ/オーディオ/センサーに対応する信頼性の高いネットワークは、インキャビンのAIに関する戦略を策定する上での基盤になりつつあります。それらのネットワーク・システムは、大量のデータをリアルタイムに確実に転送する役割を担います。それだけでなく、診断やアップデートの機能も備えていなければなりません。更に、複数のコンピューティング・ドメインの間で相互運用性を確保できるようになっている必要があります。
そのような基盤が存在しなければ、AIをベースとする機能は、拡張が可能な有用なものではなく、単に印象的なデモを実施するためのものにとどまってしまいます。つまり、インキャビンにおいても、アーキテクチャがスピードを決める要素になるということです。
スピードの再構築
自動車業界は、エンジニアリングのスピードだけで決定的な優位性を得ることはできない段階に移行しつつあります。いま重要なものは、システム全体に関する体系的なスピードです。つまり、アーキテクチャの構築、検証、製造、現場でのアップデートに対して、アイデアがいかに迅速に反映されるのかが問題になります。車両が既に道路を走っている段階で、エンジニアリング組織が自信を持って変更を加えられるようにすることが重要です。
この移行を成功に導くために、組織のリーダーは以下に示す原則に基づいて行動しなければなりません。
- 選択肢を維持しつつ、相互運用性を備えるオープンなネットワークの基盤を構築する。
- 診断機能、オブザーバビリティ、予測型インテリジェンスをアーキテクチャの中核的な要素として捉える。
- 安全性と信頼性によって反復作業が制限されるようなプラットフォームではなく、それらによって反復作業が促進されるプラットフォームを設計する。
つまり、スピードを相乗的に高められるアーキテクチャを構築しなければならないということです。
では、今後10年間にわたって進化するよう構築されたアーキテクチャに、各種の技術を適合させるにはどうすればよいのでしょうか。現在は、このことが議論の中心になりつつあります。
ここまでに述べたことから、恐らく最も重要で最もシンプルな疑問が生じるのではないでしょうか。その疑問とは、各アーキテクチャにおいて、相乗的にスピードが向上することはなく、依然としてリセットされてしまうのはどこなのかというものです。
その答えこそが、次世代の競争において優位性を得るための鍵になります。