広帯域でダイナミック・レンジに優れるリミット・アンプ

広帯域でダイナミック・レンジに優れるリミット・アンプ

著者の連絡先情報

Adam Winter

Adam Winter

Generic_Author_image

Jerry Cornwell

EW(Electronic Warfare:電子戦)システムでは、マイクロ波に対応するリミット・アンプが重要な要素となります。その種のアンプは、広帯域に対応し、ダイナミック・レンジ性能の高いものでなければなりません。また、広い入力電力範囲にわたり、安定して圧縮出力電力を供給できることも求められます。多くの場合、EWシステムでは、高いゲインと平坦な応答を達成することが必要になります。しかも、過酷な温度環境で動作できるものでなければなりません。マルチオクターブの帯域にわたり、信頼性の高い性能を維持するには、アンプ・チェーン(複数のアンプを組み合わせたシグナル・チェーン)を慎重に設計する必要があります。複数のアンプを不適切に連結したり、動作時に飽和が生じてしまったりすると、予測が不能で信頼性の低い性能しか達成できないかもしれません。本稿では、アナログ・デバイセズのアンプ製品を使用して設計したリミット・アンプの例を示します。そのリミット・アンプは2GHz~18GHzの帯域、-40°C~85°Cの温度範囲に対応します。また、出力電力のばらつきが2dB未満、ノイズ指数が4dB、制限ダイナミック・レンジが40dB以上という優れた性能を発揮します。アナログ・デバイセズであれば、先進的なアプリケーションに対するお客様のニーズを満たすことが可能な優れたソリューションを提供することができます。その背景には、独自のMMIC技術とサブシステムの設計能力があります。なお、本稿の最後には、上記リミット・アンプで達成可能な性能(実測結果)も示すことにします。

はじめに

多くの現代的なEWシステムには、低ノイズのレシーバーが必要になります。そのレシーバーは、マルチオクターブの帯域幅にわたり、入力電力の大きなばらつきに耐えられるものでなければなりません。また、RF信号によるオーバードライブから敏感なコンポーネントを保護したり、AM(Amplitude Modulation)変調成分を入力信号から除去したりする能力も必要になります。更に、マルチチャンネルのシステムの設計や、受信アンテナとの距離の近さを考慮すると、消費電力が少なく、パッケージ・サイズが小さいことも求められます。アプリケーションの例としては、IFM(瞬時周波数測定)や方向探知用のフロント・エンド、DRFM(デジタルRFメモリ)、電波妨害システムなどが挙げられます。そうしたシステムでは、広い温度範囲で動作し、すべての動作条件の下で高調波成分が低く抑えられた平坦な周波数応答を達成することが求められます。アナログ・デバイセズは、そうした多くのアプリケーションに対して理想的なリミット・アンプを提供しています。それらの製品は、業界をリードするパッケージ・サイズ、電気的性能/RF性能、より高いレベルのアセンブリの容易さといった特徴を備えています。マイクロ波に対応するリミット・アンプは、ゲインが高く、複数のゲイン段によって構成されます。入力電力が増大した場合には、内部のゲイン段で逐次的に圧縮処理(減衰)を行うことによって出力電力を制限します。入力段から出力段に向かって順次圧縮が行われ、どのような動作条件の下でも個々のゲイン段がオーバードライブされることがないよう最適化されています。広帯域のリミット・アンプには、いくつかの設計上の課題があります。主な課題としては、効果的な電力制限、温度補償、マルチオクターブの帯域幅にわたる周波数イコライゼーションなどが挙げられます。また、システムの要件として、ノイズの抑制、消費電力の削減、パッケージ・サイズの縮小も求められます。そのため、リミット・アンプの設計は更に複雑になります。

本稿では、リミット・アンプを設計する際に検討すべき事柄や適切な設計手法について解説します。リミット・アンプの仕様の例としては、帯域が2GHz~18GHz、ゲインが45±1.5dB、動作温度範囲が-40°C~850°C、消費電力が1.5W(DC)未満、制限ダイナミック・レンジが40dBというものを想定します。最後に挙げた制限ダイナミック・レンジは、RF出力電力を固定値とした場合の入力電力の範囲として定義されます。なお、アナログ・デバイセズは、上記の要件を満たす広帯域対応のリミット・アンプとして「HMC7891」を提供しています。同製品は、電圧レギュレータを内蔵しており、ハーメチック・シールが適用されたコネクタ付きのパッケージを採用しています。

アンプに関する検討事項、構成方法

マイクロ波に対応するリミット・アンプを設計する際には、まずその構造とゲイン段で使用するアンプを複数の候補の中から絞り込みます。高周波に対応するアプリケーションでは、パッケージの寄生要素がシステムの性能に及ぼす悪影響を最小限に抑えなければなりません。そのためには、表面実装型よりも、チップ&ワイヤのハイブリッド・アセンブリの方が望ましいケースが多いと言えます。ハイブリッド・アセンブリについては、十分な評価が行われており、環境からのストレスへの適応性が高く、信頼性に優れると考えられています。また、小型、軽量であり、ハーメチック・シールの適用が容易です。チップ&ワイヤのハイブリッド・アセンブリは、ダイの形態で提供されているモノリシック型のMMIC(マイクロ波集積回路)、薄膜技術、ワイヤ・ボンディングが可能な受動部品などを組み合わせて実現されます。

内蔵ゲイン段の選定における主要な検討事項としては、動作周波数範囲、ゲインの温度特性、ゲインの平坦性、飽和高調波成分、非線形性能などが挙げられます。リミット・アンプの設計においては、ゲイン段の段数と使用する部品の種類を最小限に抑え、温度補償と平坦性の問題を緩和することが1つの目標になります。また、入力電力の最大定格と選択したゲイン段の圧縮特性も、設計の成否を大きく左右する要素です。40dBの制限ダイナミック・レンジを満たす設計を完成させるには、少なくとも4つのアンプ(ゲイン段)を用意することが推奨されます。その意図は、各アンプによって10dB以上の圧縮が行われることはないという理想的な状態で動作できるようにすることです。4つのアンプを使用すれば、動作温度の全範囲で45dBという小信号ゲインを達成するという要件も十分に満たすことができるはずです。

リミット・アンプの設計に用いる広帯域対応のアンプ(MMIC)としては、ゲイン・ブロック・アンプや低ノイズ・アンプ(LNA)が有力な候補になります。これらのアンプはゲインが高く、消費電力が少ないからです。ノイズ指数の要件を考えると、通常は、ゲイン・ブロック・アンプではなくLNAを使用すべきだという結論に至ります。しかし、LNAを使用してゲイン段を構成した場合、一般的にRF入力電力の定格値が低くなります。このことは、設計上の課題になる可能性があります。言い換えれば、ゲイン段で使用するデバイスとして理想的なのは、RF入力電力の最大定格が高く、高い圧縮レベルで安全に動作するものです。

検討すべき重要な事柄がもう1つあります。それは、各ゲイン段の飽和高調波成分です。高調波成分に関する要件は、リミット・アンプを使用するアプリケーションごとに異なります。例えば、方形波の出力波形を生成するアプリケーションでは、ゲイン段で使用するアンプとして、偶数次の高調波出力が小さく奇数次の高調波出力が大きいものが適しています。また、出力波形が劣化することを防ぐためには、4つすべてのゲイン段で同じコンポーネントを使用するべきです。更に、選択したMMICアンプは無条件に安定していることが必須となります。バイアスのシーケンス制御が不要であれば、設計が簡素化されるので理想的です。

上記のようなことを考慮すると、リミット・アンプの設計に理想的なMMICとしては「HMC462」のような製品が有力な候補になります。HMC462は、5Vの単電源で動作する自己バイアス方式のLNAです。この製品を採用すれば、13dBを超えるゲイン、2GHz~18GHzにおける優れたゲインの平坦性、平均2.5dBのノイズ指数が得られます。飽和出力電力のレベルは18dBmで、周波数帯域全体にわたり14dBを超える圧縮動作を安全に実現できます。HMC462では、入力電力の最大定格が飽和出力電力とほぼ同等です。そのため、カスケード接続されたゲイン段で使用するものとしては理想的だと言えます。また、同アンプの2次高調波成分は低く、3次高調波成分は高くフラットになります。飽和消費電力(DC)は400mW未満です。

RFバジェットの分析

リミット・アンプのゲイン段についての選択が完了したら、続いてはRFシステムのバジェットについて分析する必要があります。その分析では、様々なポイントにおけるリミット・アンプの周波数応答とRF電力レベルを確認します。最も厳しい条件における動作温度、ゲインのスロープ、広いRF入力電力範囲を補正するためには、そうした分析が必須です。先述したように、制限ダイナミック・レンジが40dBのリミット・アンプの基本的な構成は、4つのLNA(またはゲイン・ブロック・アンプ)をカスケード接続したものになります。周波数に対する出力のばらつきを抑え、温度/スロープに関する補償の要件をできるだけ緩和するためには、使用するアンプ製品の種類は1つか2つに絞るべきです。

図1は、設計を開始した時点のリミット・アンプのブロック図です。つまり、温度とスロープを補償する前の段階のものになります。広帯域に対応するリミット・アンプを設計するためには、以下の手順で最適化を行います。

【ステップ1】

電力を対象とした制限ダイナミック・レンジを管理し、RFオーバードライブが発生しないようにします。

【ステップ2】

全温度範囲における性能を最適化します。

【ステップ3】

電力のロールオフを補償し、小信号ゲインが平坦になるようにして設計を完成させます。

【ステップ4】

最後の微調整として、周波数イコライゼーションを適用した後の温度補償について再確認しなければならないケースがあります。

以下では、上記の各ステップについて詳細に解説していきます。

図 1. 設計開始時点の回路(ブロック図)

図 1. 設計開始時点の回路(ブロック図)

【ステップ1】電力の制限

図 1 に示した設計開始時点の回路にはいくつかの課題があります。最大の問題は、RF入力電力が増大することに伴い、出力ゲイン段においてオーバードライブ(RFオーバードライブ)が生じる可能性があることです。RFオーバードライブは、いずれかのゲイン段の飽和出力電力が、後続のアンプの絶対最大入力電力を超える場合に生じます。また、この回路は、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio:電圧定在波比)に伴うリップルの影響を受けやすいものだと言えます。加えて、小さなRFパッケージ内で高いゲイン(増幅)が適用されることにより、発振が生じる可能性も高くなります。

RFオーバードライブを防ぐには、電力とゲインを低く抑える必要があります。そのためには、VSWRの影響を低減し、発振のリスクを抑え、各ゲイン段の間に固定減衰器を追加します。発振を防ぐためには、RFカバーにRF吸収材が必要になるかもしれません。各ゲイン段の最大入力電力をMMICの入力電力の定格レベル以下に抑えるには、十分な減衰量が必要です。入力電力については最大限のマージンを確保し、温度によるばらつきと部品間のばらつきに対応できるだけの十分な減衰量が得られるようにします。図2に、リミット・アンプに固定減衰器を適用した結果を示しました。

図 2. RF オーバードライブを補償した回路(ブロック図)

図 2. RF オーバードライブを補償した回路(ブロック図)

先述したように、アナログ・デバイセズは広帯域に対応するリミット・アンプとしてHMC7891を提供しています。この製品では、HMC462を4個使用してゲイン段を構成しています。それにより、最大10dBmで動作するように設計されています。入力電力の絶対最大定格は15dBmです。各ゲイン段は、最大18dBmのR F入力電力に耐えることができます。先述した設計手順に従ってゲイン段の間に減衰器を追加することにより、アンプの入力電力が17dBmを超えないようにしています。ここで、図3をご覧ください。これは、固定減衰器を追加した回路の周波数応答を表しています。各ゲイン段の入力における最大電力レベルをシミュレーションによって確認した結果です。

図 3. RF オーバードライブを補償した回路の出力電力。その周波数特性をシミュレーションした結果を示しました。

図 3. RF オーバードライブを補償した回路の出力電力。その周波数特性をシミュレーションした結果を示しました。

【ステップ2】温度の補償

続いて行うべき作業は、温度補償を適用して動作温度範囲を確保することです。リミット・アンプが使用されるアプリケーションでは、一般的な動作温度範囲として -40°C ~ 85°C が求められます。1 段あたりのゲインのばらつきは、大まかに言えば 0.01dB/° 程度だと想定できます。この値を使用して、4 段構成のアンプ回路のゲインのばらつきを概算するとよいでしょう。温度が低いほどゲインは高くなり、温度が高いほどゲインは低くなります。トータルのゲインは、常温におけるゲインを基準として、85°C では 2.4dB 低くなり 、-40°Cでは2.6dB 高くなると想定できます。

この回路に温度補償を適用するための方法としては、固定減衰器の代わりに、Thermopad®のような市販の温度可変減衰器( Temperature Variable Attenuator )を挿入するというものが考えられます。図 4 に示したのは、広帯域に対応する Thermopadを適用した場合の評価結果です。 Thermopad の評価データとゲインのばらつきの概算値から、 4 段構成のリミット・アンプ回路の温度補償には、 2 個 のThermopad が必要であることがわかります。

図 4. Thermopad の損失特性。3 種類の温度条件の下で評価を行った結果です。

図 4. Thermopad の損失特性。3 種類の温度条件の下で評価を行った結果です。

Thermopadをどこに挿入するのかという判断は非常に重要です。Thermopadを挿入すると、特に低温時には損失が増加します。したがって、出力電力の制限レベルを高く維持するためには、RFチェーンの出力の近くに追加するのは避けるべきです。Thermopadの理想的な挿入位置は、図5に示すように、1つ目と2つ目、2つ目と3つ目のアンプの間の2ヵ所になります。

図 5. 温度を補償した回路(ブロック図)

図 5. 温度を補償した回路(ブロック図)

図6をご覧ください。これは、HMC7891に温度補償を適用した上で小信号に対する性能をシミュレーションした結果です。周波数イコライゼーションを実施する前の時点で、ゲインのばらつきは最大2.5dBに抑えられています。これは、±1.5dBというゲインのばらつきに関する要件を満たしています。

図 6. HMC7891 の小信号ゲイン性能。3 種類の温度条件の下でシミュレーションを実施した結果です。

図 6. HMC7891 の小信号ゲイン性能。3 種類の温度条件の下でシミュレーションを実施した結果です。

【ステップ3】周波数イコライゼーション

最後に行う作業は、周波数イコライゼーションを適用してゲインの平坦性を改善することです。周波数イコライゼーションとは、システムにゲインに対して正のスロープを加えることにより、広帯域対応の多くのアンプで見られるゲインの自然なロールオフを補償する処理のことです。イコライザの設計については様々な手法が存在します。その 1 つがパッシブな GaAs ベースの MMIC (ダイ)を使用するというものです。パッシブなイコライザ用 MMIC は、サイズが小さく、 D C お よび制御信号に関する要件が存在しません。そのため、リミット・アンプの設計にとっては理想的です。必要な周波数イコライザの数は、補償前のリミット・アンプにおけるゲインのスロープと、選択したイコライザの応答によって決まります。低い周波数に対するゲインと比べると、高い周波数に対するゲインには、伝送線における損失、コネクタにおける損失、パッケージの寄生要素による大きな影響が及びます。それらを考慮して、設計時には周波数応答を少し過剰に補償することが推奨されます。図 7 に示したのは、 GaAs をベースとする周波数イコライザの損失性能の例です。この評価結果は、アナログ・デバイセズがカスタムで実現したイコライザを対象として取得しました。

図 7. 周波数イコライザの損失の評価結果

図 7. 周波数イコライザの損失の評価結果

温度補償を行った後のHMC7891について、小信号に対する応答を補正するには、3個の周波数イコライザが必要です。図8に、HMC7891に温度補償と周波数イコライゼーションを適用した後のシミュレーション結果を示しました。イコライザの挿入位置も、設計の成否を左右する重要な要素です。イコライザを追加する際には、次のことを思い出す必要があります。すなわち、理想的なリミット・アンプを実現するには、複数のゲイン段によって圧縮率を均等に分散させつつ過飽和を避けることが重要であるということです。言い換えれば、最も厳しい条件下で、各MMICによって等しい量の圧縮が行われるようにしなければなりません。

図 8. 周波数イコライゼーションを適用した後のHMC7891 における小信号ゲイン性能。 3 種類の温度条件の下でシミュレーションを行った結果です。

図 8. 周波数イコライゼーションを適用した後のHMC7891 における小信号ゲイン性能。 3 種類の温度条件の下でシミュレーションを行った結果です。

図5に示した回路において、どの位置にイコライザを追加すればよいのでしょうか。その選択肢は複数存在します。すなわち、リミット・アンプの入力部に追加する、Thermopadと直列に挿入する、固定減衰器の代わりに配置する、デバイスの出力に追加するの4つです。まず、 1つ目の選択肢について考えてみます。リミット・アンプの入力部にイコライザを追加すると、1つ目のゲイン段の電力が低下します。その結果、1段目の圧縮量が減少します。ゲイン段の圧縮量が減少するということは、制限ダイナミック・レンジが低下するということを意味します。また、イコライザの減衰スロープにより、制限ダイナミック・レンジは周波数に応じて異なる値を示すようになります。ダイナミック・レンジは、高い周波数よりも低い周波数において大きく低下します。制限ダイナミック・レンジの低下を補償するには、RF入力電力を増大させなければなりません。しかし、入力電力を一様に増大させると、イコライザのスロープによってアンプのゲイン段がオーバードライブされるリスクが生じます。リミット・アンプの入力部にイコライザを追加することは可能ですが、理想的な選択肢にはなり得ないということです。

では、2つ目の選択肢であるイコライザをThermopadと直列に挿入する方法を採用すると、どのような結果になるでしょうか。その場合、後続のアンプの圧縮量が減少します。つまり、各ゲイン段の圧縮量が均等ではなくなり、全体的な制限ダイナミック・レンジが低下します。そのため、この方法は推奨されません。

3つ目の選択肢は、固定減衰器の代わりに(1個または複数の)イコライザを配置するというものです。その場合、出力段のアンプの圧縮量だけが変化します。この変化を最小限に抑えつつRFオーバードライブを防ぐには、イコライザによる損失が、回路から取り除いた固定減衰器の損失とほぼ同じ量でなければなりません。また、先ほど説明したとおり、ゲイン段の前にイコライザを追加すると、制限ダイナミック・レンジが周波数に応じて異なる値になります。このような影響を抑えるには、固定減衰器と入れ替えるイコライザの数をできるだけ少なくする必要があります。

4つ目の選択肢は、イコライザをリミット・アンプの出力に追加するというものです。出力に対してイコライゼーションを適用すると、出力電力は低下します。ただ、制限ダイナミック・レンジのばらつきは抑えられます。また、この場合、出力電力は周波数に伴って小さな傾きで増加することになります。ただ、その増加分は、高い周波数におけるパッケージとコネクタの損失によって相殺されます。図9に4段から成る最終的なリミット・アンプの構成を示しました。

図 9. 周波数イコライゼーションを適用した回路(ブロック図)

図 9. 周波数イコライゼーションを適用した回路(ブロック図)

図 10に示したのは、 HMC7891の出力電力と温度の関係をシミュレーションした結果です。最終的な設計は、40dBの制限ダイナミック・レンジを達成します。また、最も厳しい条件における出力電力のばらつきは、あらゆる動作条件の下で3dBに抑えられるというシミュレーション結果が得られています。

図 10. HMC7891 の P SATの周波数特性。3 種類の温度条件の下でシミュレーションを行った結果を示しました。

図 10. HMC7891 の PSATの周波数特性。3 種類の温度条件の下でシミュレーションを行った結果を示しました。

HMC7891の評価結果

図 11 ~ 図 18 に、 HMC7891 の評価結果を示しました。これらの結果から、 47dB のゲインと 13dBm の飽和出力電力を達成できていることがわかります。40dB の制限ダイナミック・レンジに対するリミット・アンプの入力電力範囲は -30dBm ~ 10dBm です。すべての評価は、-40°C ~ 85°Cの動作温度範囲で実施しました。また 図 19 には HMC7891 の外観を示しました。HMC7891 は、もともとリミット・アンプとして設計されたものです。ただ、小型かつ卓越したRF性能が得られることから、周波数トリプラ( 3逓倍器)や局部発振器用のアンプなど、様々なアプリケーションで利用できます。なお、本稿で説明した設計手法は、周波数、出力電力、ゲイン、ノイズ指数、制限ダイナミック・レンジなど、各種の仕様を変更した将来のリミット・アンプの設計にも適用することが可能です。

図 11. HMC7891 における P SATの周波数特性。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 11. HMC7891 における PSATの周波数特性。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 12. HMC7891 のゲインとリターン損失の測定結果

図 12. HMC7891 のゲインとリターン損失の測定結果

図 13. HMC7891 の P I N と P OUTの関係。 3 種類の温度条件の下で、 2GHz における値を実測した結果です。

図 13. HMC7891 の PIN と POUTの関係。 3 種類の温度条件の下で、 2GHz における値を実測した結果です。

図 14. HMC7891 の PIN と POUTの関係。 3 種類の温度条件の下で、 10GHz における値を実測した結果です。

図 14. HMC7891 の PIN と POUTの関係。 3 種類の温度条件の下で、 10GHz における値を実測した結果です。

図 15. HMC7891 の PIN と POUTの関係。 3 種類の温度条件の下で、 18GHz における値を実測した結果です。

図 15. HMC7891 の PIN と POUTの関係。 3 種類の温度条件の下で、 18GHz における値を実測した結果です。

図 16. HMC7891 のノイズ指数の周波数特性。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 16. HMC7891 のノイズ指数の周波数特性。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 17. HMC7891 の 2 次高調波と入力周波数の関係。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 17. HMC7891 の 2 次高調波と入力周波数の関係。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 18. HMC7891 の 3 次高調波と入力周波数の関係。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 18. HMC7891 の 3 次高調波と入力周波数の関係。3 種類の温度条件の下で実測した結果です。

図 19. HMC7891 の外観

図 19. HMC7891 の外観