5V~140Vの広範な入力電圧範囲から12V、200mAを出力するバイアス電源

2020年12月01日
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はじめに

最新のオートモーティブ・システムや工業用システムには、システム入力電圧が一方の極値からもう一方の極値へ動くような場合でも、安定した電圧源が必要です。オートモーティブ・システムでは、コールド・クランキング始動、ダイナミック・フューエル・マネジメント・システムによるシリンダーの停止/起動制御、あるいはエンジン負荷の大きな変化などによって、レール電圧が大幅に変動することがあります。同様に、工業アプリケーションにおいてはラインのブラウンアウトが問題となり、消費電力が大きい装置のモーターを起動すると、入力電圧が大きく低下することがあります。

入力電圧が低下して電力変換システムが負荷に十分な電力を提供できないような場合でも、これら多くのシステムでは、入力電圧レベルに関わらず動作を維持することが求められます。例えば、広く使われている昇圧コンバータや降圧コンバータは、標準的なゲート・レベルの高電圧MOSFETを採用しています。入力電圧が低下した場合でもゲート・ドライバの動作を維持するには、バイアス電圧を10V以上に保つ必要があります。非常に重要なデジタル制御システムや情報システムも、バイアスして、入力の状態に関わらず機能するようにする必要があります。

本稿では、5V~140Vの広範な入力電圧範囲を通じて、電気システムのバイアス電圧を維持するためのソリューションについて説明します。

回路の構成と機能

入力電圧が必要なバイアス・レベル未満に低下することはないと予想される場合で、設計の目標が外部バイアス電源を使用してスイッチング・コントローラの消費電力を最小限に抑えることにあるような場合は、単純な降圧コンバータを使用することができます。

このアプローチを図1に示します。このソリューションは、スイッチング・トランジスタを内蔵した高電圧降圧コントローラLTC7138を中心に構成されています。パワー・トレインには、インダクタL1、ダイオードD1、および出力コンデンサC2とC3も含まれています。ソリューション・プロファイルを最小限に抑えて3mm以下にするために、入力にはセラミック・コンデンサだけを使用しています。オプションで有極コンデンサを使用することもできますが(例えばコスト効果の高い22µF 200VのEMVE201 ARA220MKG5S)、この場合はかなり高さのあるバイアス電源になってしまいます。

図1. 高電圧降圧ベースのバイアス回路の回路図(VIN = 12.5V~140V、VOUT = 12V 0.2A)

図1. 高電圧降圧ベースのバイアス回路の回路図(VIN = 12.5V~140V、VOUT = 12V 0.2A)

この回路の検証と試験は、回路機能を例証する図2の波形を使用して行いました。100Vの初期入力電圧レベルは12Vまで低下しますが、出力は0.2A 12Vの安定した値で負荷に供給されています。

図2. 高電圧降圧ベースのバイアス回路の波形(VIN = 20V/div、VOUT = 5V/div、時間スケールは50ms/div)

図2. 高電圧降圧ベースのバイアス回路の波形(VIN = 20V/div、VOUT = 5V/div、時間スケールは50ms/div)

入力電圧が必要バイアス・レベルを下回ると、この設計によって得られる性能は大きく変化します。入力電圧が必要な出力電圧を下回ると出力も低下した入力に従うので、この場合は降圧コンバータを使用するだけでは不十分です。2段バイアス電源を使用してこの問題に対応したソリューションを図3に示します。最初に配置されているメインの段は、図1に示したものと同様の高電圧降圧コンバータです。その出力が、パワー・トランジスタを内蔵したLT8330コンバータICをベースにする昇圧コンバータに接続されています。パワー・トレインには、インダクタL2、ダイオードD2、および出力フィルタが含まれています。昇圧コンバータ回路内の部品に加わる電圧ストレスは降圧フロント・エンドの場合よりはるかに低いので、比較的安価な部品を選んで全体的なコストを下げることができます。

図3. 高電圧2段ベース回路の回路図(VIN = 5V~140V、VOUT = 10.5V 0.1A~0.15A)

図3. 高電圧2段ベース回路の回路図(VIN = 5V~140V、VOUT = 10.5V 0.1A~0.15A)

この回路の降圧コンバータの出力は、12.5Vに設定されています。これに対し、昇圧コンバータの出力はこれより低い10.5Vに設定されていますが、これは負荷の正常な動作には十分な値です。両方のコンバータが同時に動作することはありません。片方がスイッチングしている間、他方はスイッチングを行いません。

通常動作状態(VIN > 12.5V)で入力電圧が12.5Vから100Vに変化した場合は降圧コンバータだけがアクティブで、負荷に12.5Vを供給します。電流は、昇圧コンバータのインダクタとダイオードを通って負荷端子VOUTに流れます。電流レベルが比較的低いので、この電流パスにおける損失は最小限で済みます。

VIN > 12.5Vである限り、昇圧コンバータ出力の電圧は12.5Vです。これは事前に設定された10.5Vより十分に高い値なので、昇圧部分でのスイッチング動作はなく、降圧部分だけが動作します。

入力電圧が12.5Vのレベル以下まで低下すると降圧コンバータはスイッチングを停止しますが、内蔵のPチャンネルMOSFETはON状態に保たれて、デューティ・サイクル100%で動作できるようになります。

入力電圧が12.5Vを下回ると、VRAIL(中間レール)とVOUT両方の電圧がVINレベルまで低下します。中間レールが10.5V < VRAIL< 12.5Vの範囲では、降圧コンバータも昇圧コンバータもスイッチングを行いません。

入力電圧が低下し続けてVRAILレベルが10.5Vを下回ると、昇圧コンバータが動作を開始してVOUTを10.5Vに維持します。

このコンバータの機能を示す波形を図4に示します。負荷電流0.15Aでの最小入力電圧は5.5Vです。図5に示すように、負荷電流を0.1Aまで減らすと、最小入力電圧は5.0Vになります。入力電圧が5Vから100Vまで増加した場合を図6に、コンバータの写真を図7に示します。

図4. 高電圧2段ベースのバイアス回路の波形負荷電流は0.15A、時間スケールは50ms/divです。

図4. 高電圧2段ベースのバイアス回路の波形負荷電流は0.15A、時間スケールは50ms/divです。

図5. 高電圧2段ベースのバイアス回路の波形負荷電流は0.1A、時間スケールは50ms/divです。

図5. 高電圧2段ベースのバイアス回路の波形負荷電流は0.1A、時間スケールは50ms/divです。

図6. 入力電圧上昇波形負荷電流は0.1A、時間スケールは50ms/divです。

図6. 入力電圧上昇波形負荷電流は0.1A、時間スケールは50ms/divです。

図7. LTC7138コンバータ・ブレッドボード

図7. LTC7138コンバータ・ブレッドボード

コンバータ部品選択時の基本的検討事項

入力電圧および負荷電流の最大値は昇圧時の最小動作入力電圧を決定し、それに応じて電源全体の最小入力電圧を決定します。

数式1
数式2

VO、IMAX、およびIOが与えられれば、昇圧最小電圧は次式で表されます。

数式3
数式4

また、VO、VINMIN、およびIMAXが与えられれば、最大出力電流IOは次式で表されます。

まとめ

重要なのは、広範な入力電圧範囲にわたって様々な電源システムを使用できるようにすることです。本稿では、この目標のためのソリューションについて説明しました。ここに説明した回路は、上限140V、入力電圧低下時は下限5Vまでの入力電圧範囲で、安定したバイアス・レベルを生成します。バイアス・レベルが安定することで、高電圧MOSFETと制御ブロックの正常な機能が確保されます。ここに提案した高集積コンバータを使用する方法は、部品数を減らして全体的なコストを削減します。アプリケーションによってソリューションの高さを最小限に抑える必要がある場合は、調整が可能です。

著者について

Victor Khasiev
Victor Khasievは、アナログ・デバイセズのシニア・アプリケーション・エンジニアです。パワー・エレクトロニクスの分野を担当しており、AC/DC変換とDC/DC変換の両方に関する豊富な経験を持ちます。また、車載用途や産業用途をターゲットとするアナログ・デバイセズのIC製品の使い方に関して、複数の記事を執筆しています。それらの記事では、昇圧、降圧、SEPIC、反転、負電圧、フライバック、フォワードに対応するコンバータや、双方向バックア...

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