信頼性の高い電源を設計するために、現実の電圧源について考慮すべきこと

信頼性の高い電源を設計するために、現実の電圧源について考慮すべきこと

著者の連絡先情報

Frederik Dostal

Frederik Dostal

概念レベルの回路図などでは、理想的な電圧源がよく使用されます。しかし、現実の電圧源によって、それと同等の理想的な性能を得ることはできません。信頼性の高い電源システムを構築するためには、寄生要素を含む現実の電圧源の振る舞いについて考察する必要があります。例えば、スイッチング・レギュレータ(DC/DCコンバータ)を使用する場合には、アプリケーションで想定される入力電圧範囲に対応していることを確認しなければなりません。また、その範囲の入力電圧を基に、必要な出力電圧/出力電流を生成できることを検証する必要があります。通常、DC/DCコンバータへの入力電圧は、正確な値に調整されることはありません。したがって、入力電圧については、とり得る値の範囲が規定されます。信頼性の高い電源を構築するには、常にその範囲内の入力電圧をDC/DCコンバータに供給する必要があります。

例えば、公称電圧(入力電圧)が12Vである場合、実際の電圧は8V~16Vといった範囲に及ぶことが多いでしょう。図1に、12Vの公称電圧から3.3Vを生成する降圧コンバータ(降圧トポロジ)の概念図を示しました。

図1. 降圧レギュレータの概念図。電圧源の公称出力は12Vです。

図1. 降圧レギュレータの概念図。電圧源の公称出力は12Vです。

DC/DCコンバータを設計する際には、入力電圧の最小値と最大値について考察するだけでは十分ではありません。図1の概念図を見ると、降圧コンバータの入力側にはスイッチが存在します。このスイッチがオン/オフする際の損失を抑えるためには、スイッチング速度をできるだけ高めなければなりません。しかし、それに伴って電源ライン(電圧源とDC/DCコンバータをつなぐパス)にはパルス電流が流れます。どのような電圧源でも、そのようなパルス電流を問題なく供給できるというわけではありません。結果として、DC/DCコンバータの入力部には電圧降下が生じます。これを最小限に抑えるには、図1のCINのようにバックアップ・コンデンサを配置する必要があります。

図2の回路図は、図1の概念図よりも現実に近い形にしたものです。ご覧のように、電源ラインと電圧源の寄生要素を追加しています。電圧源の内部抵抗RSERIESならびに電源ラインのインダクタンスLと抵抗Rが追加された要素です。DC/DCコンバータが問題なく動作することを保証するには、電圧源に関連するこれらの寄生要素と電流を制限する要素について考察しなければなりません。ほとんどの場合、入力部のコンデンサを正しく選択すれば、図2の回路の動作は適切に維持できます。まずはCINについて、DC/DCコンバータICのデータシートで推奨されている値を選択することです。電圧源や電源ラインが特殊な特性を示す場合には、電圧源とDC/DCコンバータを組み合わせた状態でシミュレーションを実施するとよいでしょう。

図2. 現実的な降圧レギュレータ。図1の回路の電源ラインと電圧源に寄生要素を追加しています。

図2. 現実的な降圧レギュレータ。図1の回路の電源ラインと電圧源に寄生要素を追加しています。

図3. LTspiceでシミュレーションを実施するための回路

図3. LTspiceでシミュレーションを実施するための回路

図3は、LTspice®(アナログ・デバイスが提供するSPICEシミュレータ)上で構成したシミュレーション用の回路図です。この回路では、DC/DCコンバータICとして「ADP2360」を使用しています。この例では、入力電圧INを理想的な電圧源によって生成しています。また、電圧源の内部抵抗も電源ラインの寄生要素も反映していません。したがって、電圧源に設定した電圧が常にそのままADP2360のVINピンに印加されます。このような条件であれば、入力コンデンサCINは追加しなくても済みます。しかし、実際には、電圧源と電源ラインが理想的な状態になることはありません。したがって、現実のDC/DCコンバータには入力コンデンサが必須です。LTspiceのようなシミュレータを使用し、入力コンデンサの値による影響を確認したい場合には、図2に示したように、内部抵抗を備える電圧源と、寄生抵抗/寄生インダクタンスを備える電源ラインを使用する必要があります。