要約
今日のハンドヘルド電子機器の白色LEDに電力を供給するには、専用のレギュレータを必要とします。レギュレータには2つの代表的なタイプがあり、それぞれに固有の利点と欠点があります。このアプリケーションノートでは、各タイプのレギュレータの長所について解説します。ここでは、例としてMAX1561とMAX1573を使用しています。
今日のハンドヘルド電子機器には、カラーLCDディスプレイとバックライトとして白色LEDが一般的に組み込まれています。白色LEDに最適な電力を供給するには、専用のレギュレータが必要となります。これによって、LEDの高い順方向電圧に打ち勝って定電流駆動を実現し、バッテリ電圧やLED間の輝度のばらつきを最小限に抑えています。この目的を達成するため、主として2つのタイプのレギュレータがあります。インダクタベースのブーストコンバータとコンデンサベースのチャージポンプコンバータです。それぞれのタイプのレギュレータには、固有の利点と欠点があるため、最適な選択は、システムに依存した優先順位があります。
このアプリケーションノートでは、各タイプの最新のレギュレータである、MAX1561ブーストコンバータとMAX1573チャージポンプを比較しています。各レギュレータタイプの利点を評価しており、この解説は、システム設計者が適切なソリューションを選択する際に役立ちます。特に、MAX1561とMAX1573は比較するのに適しています。2つの製品は、同じ時期に設計されたものであり、同じ設備の同じ工程で製造され、その上同じ1MHz周波数でスイッチングされるからです。
回路図の複雑さ:わずかにチャージポンプが有利
図1に両方のレギュレータによるソリューションの回路図を示します。回路は単純でほんの少しの外付け部品しか必要としませんが、ブーストコンバータでは、インダクタとショットキダイオードが必要となります(競合するブーストコンバータ製品の中には、ショットキダイオードを内蔵するものもありますが、通常、効率が低下します)。
図1. MAX1561ブーストコンバータ(a)およびMAX1573チャージポンプ(b)は、白色LEDに電力を供給する、2つの最新の選択肢です。回路の複雑さは同程度ですが、チャージポンプではインダクタが不要となります。
効率:意外にもチャージポンプがわずかに有利
図2は、両方のソリューションの効率を示しています。効率は、標準リチウムイオンバッテリのC/5放電プロファイル時での、LED内の電力をバッテリ電力で割った値で評価しています。18mA/LEDの曲線は、通常のバックライト輝度レベルでの効率を表しています。ブーストコンバータとチャージポンプのどちらについても、平均値は83%です。2mA/LEDの曲線も示していますが、これは、長時間にわたって作動しない場合にディミング(減光)を行ったときの効率を表しています。ブーストコンバータの59%に比べて、チャージポンプでは76%という優れた平均効率が得られています。
図2. MAX1561ブーストコンバータ(a)およびMAX1573チャージポンプ(b)の両方とも、Li+バッテリ寿命の全体にわたって、18mA/LEDで83%の平均効率を示しています。ただし、2mA/LEDでのディミング時には、チャージポンプはブーストコンバータよりもはるかに効率的です。
上記は、少し意外な結果を示しています。ほとんどのチャージポンプはこの効率からは、ほど遠いものであるからです。MAX1573は、1xのパススルーと1.5xのブーストチャージポンプのモード、適応モード切り替え、および超低ドロップアウトリニア電流レギュレータを備え、バッテリの減少時にできるだけ長く効率的な1xモードに留めることによって、そのクラスでも有数の効率を達成しています。1xモードを持たない古いチャージポンプでは、通常、50%~67%の効率しか得られません。また、1xモードを備えた競合チャージポンプ製品の中には、バッテリ寿命の大部分において、このモードを使用することができないために、83%よりはるかに低い平均効率しか得られない製品があります。
ブーストコンバータについては、MAX1561が、業界でも最も効率的なコンバータの1つですが、トレードオフを行えばさらに高い効率を得ることが可能です。MAX1599がその良い例で、18mA/LEDで87%および2mA/LEDで71%の効率を達成します。MAX1599は、発振器の周波数を1MHzから500KHzに落としてスイッチング損失を低減していることを除けば、MAX1561とまったく同じです。スイッチング周波数を下げたためインダクタの物理的なサイズは2倍になっています。
物理的なサイズ:チャージポンプが有利
図3は、両方のソリューションのPCB実装面積(外付け部品を含む)を示しています。ブーストコンバータのピン数が少ないので、より小さな3mm × 3mmパッケージが可能ですが、インダクタの総実装面積は広く高さが高くなります。高さが1mmに近いインダクタは、図3に示す面積よりもさらに広い基板スペースを必要とします。チャージポンプはより大きな4mm × 4mmパッケージになりますが、4つの小さな1µFセラミックコンデンサしか必要としません。図3(b)は、0603サイズのコンデンサの例を示していますが、少なくとも3社の製造業者が、すでにより小さな0402サイズを発売しています(図3(c)に示す)。スペースの制約が厳しいアプリケーションでは、超小型の2mm × 2mmチップスケールパッケージのMAX1573チャージポンプも利用可能です。これによって、チャージポンプソリューション全体をわずか11mm2で実現することができます。
図3. インダクタが必要となるため、ブーストコンバータ(a)は、チャージポンプ(b)よりも広い基板面積と高さを必要とします。チップスケールパッケージと0402サイズの1µFコンデンサを使用したチャージポンプのソリューション(c)は、非常に小さくなります。
システムの柔軟性:ブーストコンバータが有利
ブーストコンバータの重要な利点の1つは、LEDが直列に接続されているということです。チャージポンプでは並列に配置されています。図4(a)でわかるように、この直列構成では、ブーストコンバータとLEDの間に2本のトレースしか必要としません。これは、ブーストコンバータやチャージポンプがシステムのメインPCBに搭載され、LEDは独立した別のディスプレイモジュールに取り付けられている場合に特に有利です。このような場合には、ブーストコンバータの方が、コネクタ端子が少なくて済みます。さらに、多くのモデル(それぞれがディスプレイモジュール内に異なる数のLEDを使用している)において、同じブーストコンバータ回路を利用することができます。あるいは、ある特定のモデル内のディスプレイモジュールを、ブーストコンバータ回路に影響を及ぼすことなく、いつでも交換することができます。逆に、ディスプレイモジュールに影響することなく、ブーストコンバータを交換することもできます。このLEDの直列接続は、設計スケジュールのリスクを大幅に低減します。
チャージポンプの効率を良くするためには、各LEDに個別の電流レギュレータが1xモードで必要となります。図4(b)にこれを示します。LEDの数を変更すると、LEDへのトレースの数も変更する必要があります。また、未使用の電流レギュレータを無効にするため、場合によっては回路図も変更することが必要となります(たとえば、未使用の電流レギュレータをMAX1573のINに接続する)。チャージポンプを競合ソリューションに変更した場合、多くの問題が生じる可能性があります。すなわち未使用の電流レギュレータがいろいろな方法で無効になる可能性があります(たとえば、「OUTに接続する」または「浮いたままにする」)。さらに悪いことに、コモンアノードではなくコモンカソードを用いたLED配置で新しいチャージポンプが設計される可能性があり、さらなるディスプレイモジュールの変更が必要となります。
図4. ブーストコンバータ(a)には、LEDとの結合部が2箇所しかありませんが、チャージポンプ(b)では多くの結合部が必要となります。ブーストコンバータの場合、ブースト回路図に影響を及ぼすことなくLEDの数を変更できるため、あるいは、LED配置に影響を及ぼすことなくブーストコンバータICを変更できるため、より柔軟性が高くなります。チャージポンプの場合、LED配置は、使用している特定のICである程度固有となります。
リップルとノイズ:チャージポンプが有利
チャージポンプとブーストコンバータはスイッチングレギュレータであるため、その入力と出力に電圧と電流のリップルを生じ、またインダクタやスイッチングノードからEMIを放射します。このリップルとノイズは、製品内部の高感度な回路(携帯電話内のRFトランシーバなど)に結合される可能性があり、性能上の問題を引き起こします。
バッテリ供給ラインはシステム内の多くの回路に共通であるため、入力リップルが重要であることは明白です。ただし、図5は、同じ周波数でスイッチングし、同じ出力負荷で駆動し、さらに同じ入力容量を利用したときには、チャージポンプとブーストコンバータの入力リップルが非常によく似ていることを示しています。留意すべきは、MAX1573は1µFの入力容量しか必要としませんが、公正な比較を行うため、容量を2.2µFに増やして MAX1561にマッチングさせました。入力容量を4.7µFあるいは10µFに増やすと、どちらのデバイスについてもコストを増やしたり物理的なサイズをほとんど大きくしたりせずに入力リップルがさらに低減されます。
図5. 1MHzでスイッチングし、同数のLEDに電力を供給し、さらに同じ入力容量を使用するとき、ブーストコンバータ(a)とチャージポンプ(b)の両方の入力リップルは類似しています。ただし、チャージポンプでは、より多くのLED結合部があるため出力トレース(アンテナ)を短くすることが推奨されており、チャージポンプでフライングコンデンサから生成されるEMIの方が、ブーストコンバータでインダクタやスイッチングノードから生成されるEMIよりも少なくなります。
出力リップルも、特に出力トレースが長いと、大きな問題になります。出力トレースはアンテナとして動作し、さらに近くの回路にノイズを容量結合する可能性さえあります。ブーストコンバータはこの問題に関わる可能性が高くなります。その唯一の理由は、出力トレースの数が少ないためにLEDから離して配置されることが多いと思われるからです。チャージポンプでは出力結合部が多いため、ICとLEDの距離を縮めることは当然のこととして推奨されています。
ブーストコンバータは、そのインダクタの磁場にエネルギを蓄えているため、チャージポンプのフライングコンデンサが放射するEMIよりも多くのEMIを放射します。このため、シールド付きインダクタや、システムケース内に区画で仕切ったシールドが望まれます。さらに、ブーストコンバータには大きな電圧スイングがあり、インダクタとショットキダイオード間のスイッチングノードに極めてシャープなエッジが存在します。スイッチングノードに小さなコンデンサを追加すると急速なエッジが緩和されてEMIが減少する可能性もありますが、残念ながら、効率が若干低減するという犠牲を払うことになります。
その他の重要な機能:利点はニーズに応じて異なる
以下に示す機能は、ブーストコンバータまたはチャージポンプに固有なものではありませんが、それでもなお、特定のバックライトドライバICを選択するときには、評価を必要とする重要な機能になります。
「出力過電圧保護」は、MAX1561とMAX1573の両方に組み込まれています。この機能は、LED (または出力結合部)が開回路のために動作しなくなった場合にIC自身が損傷を受けないようにするものです。この機能がない場合、外付けのツェナーダイオードが必要になります。
「ディミング制御」を使用し、ある期間にわたって作動しない場合にLED電流(ディスプレイの輝度)を低減し、バッテリ寿命を伸ばしています。ディミングは、ディスプレイの標準輝度レベルをユーザの好みに合わせて調整する場合にも使用することができます。ディミング手法は多数あり、アナログDAC、ロジック入力、PWMのオン/オフ、フィルタリングPWM、単線シリアルパルスインタフェース、およびSPI™またはI2C*シリアルインタフェースなどがあります。MAX1561とMAX1573は、さまざまなディミング手法を実証しています。
MAX1561は、単純なロジックレベルのオン/オフに役立つ単一のCTRL入力を使用しています。これは、DACからのアナログ信号によって駆動することができますが、200Hz~200KHzのPWM信号を用いて直接駆動することもできます。MAX1561は積分フィードバックループを用いて設計されているため、内部でPWM信号をフィルタリングして、DC LED電流を得ており、従来のオン/オフ式のPWMディミングに比べて、入力/出力のリップルとノイズがはるかに減少しています。
MAX1573は、2つのロジック入力EN1とEN2を使用し、オフ、10%、30%、および100%のLED電流を制御しています。また、EN2をハイに駆動して、200Hz~20KHzのPWM信号をEN1に加えると、LED電流は、PWMのデューティサイクルにて急速に10%と100%の間で切り替わります。さらに、MAX1573には、100%の電流レベルを設定するための外付け抵抗器Rsetが備わっているため、いろいろな抵抗器を切り替えることにより、あるいはもう1つの抵抗器を通過したアナログ信号またはロジック信号をSETノードに総計することにより、ディミング制御が可能となります。
「ソフトスタート」は、起動時の突入電流を低減するために使用します。これによってシステム内の他の回路を中断するおそれのあるバッテリ電圧の降下を最小にしています。図6に示すように、MAX1561およびMAX1573の両方にソフトスタートが備わっています。ソフトスタートのアルゴリズムの中には、入力電流のあらゆるオーバシュートを防止するものもありますが、過度の電流オーバシュートが生じないようにするだけの、効果の少ないアルゴリズムもあります。
図6. MAX1561ブーストコンバータ(a)とMAX1573チャージポンプ(b)のソフトスタートとシャットダウンの波形には、入力電流(IIN)のオーバシュートは見られません。これによってバッテリの入力電圧の降下を最小限にし、バッテリで駆動される他の回路が中断されないようにしています。
「高速固定周波数スイッチング」を使えば、外付けの部品を物理的に小さくすることができ、入力/出力のリップルを低く抑えることができます。ただし、スイッチングが高速すぎると、スイッチング損失が増大し、効率が悪くなります。今日の半導体プロセスでは、600KHz~1.5MHz範囲の周波数が最適であると思われます。一部のバックライトドライバICは、可変の周波数PFMやゲート発振器による制御方式を使用していますが、大きな入力/出力リップルを生じる可能性があり、また他の回路との干渉を引き起こすおそれのある高調波成分が増大します。これらのPFM方式を使用するときには、慎重に評価することをお勧めします。
「良好な電流精度/整合機能」は、ディスプレイの輝度と消費電力を目標レベルに維持し、LED間に輝度変動があれば、この変動を最小限に抑えます。この機能は多くの注目を集めるものの、期待するほど決定的な機能ではありません。完ぺきな電流精度を用いたとしても、LEDそのものに±20%の輝度変動があるからです。また、人間の目は、総合的な輝度の精度不良が40%あっても、またLED間の不整合が±30%あっても、実際には反応しません。
旧式の電圧調整型チャージポンプは、安定抵抗器を使用していましたが、精度と整合は「わずかに受け入れ不能」レベルでした。新型のチャージポンプでは、複数の電流レギュレータ(LEDごとに1つ)を組み込んで個々の電流を能動的に制御することでこの問題を解決しています。それでもなお、特定のチャージポンプICの場合には、低電流レベルでのディミング時に良好な整合を維持することが依然として問題となっています。ブーストコンバータの場合、LEDが直列接続であるため、本質的に完ぺきな整合を任意の電流レベルで実現することができますが、ブーストICは輝度範囲の全体にわたって適度な精度を確保する必要があります。
「チャージポンプのモード変更ヒステリシス」は、1xと1.5xのチャージポンプモードを変更するときのLEDのちらつきを防止することができます。優れたモード変更の適応方式では、電流レギュレータを監視して、ドロップアウトの直前にモード変更を開始することによって、可能な限り最小のバッテリ電圧までより効率的な1xモードに留まっています。すべての電流レギュレータを監視することが重要となります。そうでなければ、モードを変更する前に一部のLEDのディミング(減光)が生じ、1.5xモードが始まるときにLEDの輝度の変化が目に見えてわかるほど大きくなります。いったん1.5xモードになると、ヒステリシスによって、モードが細かく切り替わらないようにしています(切り替わりが生じると入力/出力のリップルが発生し、また目に見えるLEDのちらつきが生じるおそれがあります)。ただし、ヒステリシスが大きすぎると、バッテリ電圧の一時的な降下によって、より効率の低い1.5xモードに保持されたまま、バッテリが回復しても1xモードには復帰しません。このため、ヒステリシスを最適化することが必要です。実例では、MAX1573は各電流レギュレータを監視するだけでなく、ヒステリシスを能動的に修正する独自の機能も利用しており、最適な効率を達成してちらつきの発生をなくしています。(当然ですが、MAX1561などのブーストコンバータはモード変更を一切必要としません。)
結論:ブーストコンバータは1点、チャージポンプは4点を獲得
上記の比較では、チャージポンプが確実な勝利を得たことを示しています。ただし、設計の優先度および特定ドライバICの独自の機能によっては、評価は異なる可能性があります。最近までは、チャージポンプよりもブーストコンバータの方がはるかに効率的でより広く普及していました。しかし、新世代の1x/1.5xチャージポンプによってギャップが埋まった現在、最新製品の設計作業においては、チャージポンプのソリューションが好んで使用されています。