それでもまだ局部帰還が効く周波数が高すぎではないか
はじめに
前々回の技術ノートでは「東京湾アクアライン裏側探検」、前回の技術ノートでは「千倉の道の駅 潮風王国のアジフライ定食」のお話をしました。今回も千葉(房総半島)の名物についてご紹介しましょう。
千葉の房総半島で「三大ラーメン」と呼ばれるラーメン・カテゴリがあります。それらは「竹岡ラーメン [1]」「アリラン・ラーメン [2]」、そして「勝浦タンタンメン [3]」。今回はこの勝浦タンタンメンをご紹介しましょう。図1と図2は勝浦タンタンメンの名店と呼ばれる2店にお邪魔したときに撮影した写真です。図1が「レストランこだま [4]」(レストランといっても大衆食堂風)の勝浦タンタンメン、図2が「元祖」と呼ばれる「江ざわ [5]」の勝浦タンタンメンです。
勝浦タンタンメンはもともと、漁師や海女が漁で冷えた体を温めるために食されてきた、普及してきたとされる、ご当地ラーメンです。胡麻担々麺と異なり、醤油にラー油というスープからなっており(といっても店舗ごとでバリエーションが広がっているようですが)、ラー油の辛さが効いているラーメンです。
もし南房総、それも外房にお越しの際には、ネットでお店を探して([4, 5]のお店が掲載されているサイトがお勧めです)事前に目星を付けたうえで、ぜひ食されてみてくださいませ。
さて、今回の技術ノートでは…
このシリーズ初回の前々回、レールtoレール出力OPアンプではトランジスタのコレクタが出力となっており、トランジスタのコレクタ出力インピーダンスが高いという話題からスタートしました。この点からレールtoレール出力OPアンプの裸の出力インピーダンスも高いだろうことが推測され、実際に超簡易NPNトランジスタ・モデルを用いてシミュレーションしてみると危惧したとおりということが分かりました。
そして前回は、この危惧は「局部帰還」というテクニックによりある程度解決され、出力インピーダンスが低減することを説明しました。また(とくに帰還量の大きいボルテージ・フォロワの場合では)負帰還によりさらに出力インピーダンスが低下することもシミュレーションから分かりました。
今回はこの流れとして、局部帰還に関連する話題(ミラー効果)を説明し、また局部帰還を施した場合の裸の出力インピーダンスを数式で計算してみます。つづいて負帰還によりどのように出力インピーダンスが低減するかを示し、最後に局部帰還の効果をさらに高める方式について考えていきたいと思います。なおこの技術ノート・シリーズでは説明の都合上、コレクタ出力容量Cobはゼロにしています。
これは「ミラー効果」と同じ接続方法だ!
図3に示す、これまで見てきたコレクタ・ベース間に接続される「局部帰還」、このインピーダンスZがコンデンサだとすれば、これは増幅回路で生じる「ミラー効果(Miller effect)[6]」となるコンデンサの接続と同じになっていることに気がつきます。また帰還回路として考えてみると、「帰還コンデンサ」、回路とすれば「積分回路」ともいうこともできます。
さて、ミラー効果とは、図4のようにゲインが-Aである反転増幅回路の入出力端子間に、コンデンサCが接続されたとき、入力端子からは(1+A)Cの容量がグラウンドに対して接続されているように見える作用のことです。入力から見える見かけ上の容量が(1+A)倍になる効果のことです。
図4を再度見てください。入力の電圧をVIN、出力の電圧をVOUTとすれば、電圧増幅率Aは
また同図中に示したような電圧関係になります。入力はグランド電位に対して〖+V〗IN [V]になり、出力はグラウンド電位に対し〖-AV〗IN [V]になります。増幅器の入力インピーダンスが無限大だとすると、入力に加わった電圧VINから生じる電流IMはすべてコンデンサCに流れ、さらにその大きさは
ここでXCはコンデンサCで生じるリアクタンスです。同じ容量の単体のコンデンサCをグラウンドに対して接続し電圧VINを加えると、そのときに流れる電流ICは
ですから、ミラー効果により見かけ上の電流がIM:IC=(1+A):1により(1+A)倍に大きくなることが分かります。
つまりリアクタンスXCは一定ではありますが、入力からは1/(1+A)倍に小さくなったリアクタンス、容量として考えれば容量Cが(1+A)倍に大きくなったもの
が同図4のように入力からグラウンドに対して接続されたものと同じとして考えることができます。これが「ミラー効果」です。
ここで分かることは「コンデンサの容量が小さくても、増幅回路の増幅率が大きければ、それに従い(ミラー効果による)見かけ上の容量も相当大きくなってくる」ということです。ミラー効果は入力側のインピーダンスにより、反転増幅器の増幅率の周波数特性が低下(劣化)してくる影響を与えます。
このように局部帰還はミラー効果も生じることから、前回のTNJ-101の図16のように、インピーダンスが低下する周波数を低くしようとしてコンデンサの容量を大きくしていくことも、適切とは言えないことが分かります。なお、このあたりの改善方法については、今回の技術ノートの後半で示します。
コンデンサによる局部帰還を施したケースの出力インピーダンスを式から計算してみる
まずはアーリー効果による出力抵抗の影響は無視して計算してみる
前回TNJ-101で求めた以下の式[TNJ-101では式(26)]
を使って、コレクタ出力インピーダンス𝑟OUTを具体的に数値計算してみましょう。数値計算の結果は、前回の図15(図5として再掲)の結果と同じになるはずです。なおアーリー効果によるコレクタ出力抵抗𝑟Earlyの分はまだ考慮から外しています。
式(5)において𝑟πは「アールパイ」と呼ばれる、本技術ノートでは「ベース入力相当抵抗」としたもの、Zは局部帰還として接続されるインピーダンス、γはインピーダンスZとベース入力相当抵抗𝑟πにより形成される分圧率
またgmは超簡易トランジスタのトランス・コンダクタンスです。
なお1/𝑟π≪gmだと仮定すると[この仮定は前回のTNJ-101の式(24)から考えるとiB≪iCという条件に相当します]、
となり、ここに式(6)を代入すると
またここまでの議論のように局部帰還はコンデンサ = 容量であることから、
これを上記の式(8)に代入すると
ω=0においては
またω=∞においては
となることが分かります。これまでの検討と同じで正しそうです。
ここで実際の数字(パラメータ)を以下のようにしてMATLAB互換のOctaveを用いて数値計算してみます。これは前回の図3に示したものと同じ値になります。
計算結果を図6に示します。
出力インピーダンスが一定になるコーナ周波数
出力インピーダンスが一定になるコーナ周波数は、式(10)におけるゼロ(分子 = 0)の周波数であり、
から、
よりf=39.8kHzになることが分かります。これは図5(前回TNJ-101の図15)と同じになっています。以降であらためてこの式(14)を用います。
なお繰り返しますが、ここではまだアーリー効果によるコレクタ出力抵抗
が反映されていませんので、このままでは周波数が低下するにしたがい出力インピーダンスは上昇を続けます。
アーリー効果による出力抵抗の影響を含めて計算してみる
しかし実際にはアーリー効果によるコレクタ出力抵抗が存在し、低域ではこれが支配的になります。ここまで無視してきたアーリー効果𝑟Early=6MΩによるコレクタ出力抵抗を含めて計算してみましょう。
アーリー効果はこれまで計算した出力インピーダンスに対して並列になることから
となります。これを数値計算してみた結果を図7に示します。この結果は図5に酷似していることが分かります。このように計算式での検討は正しかったことを裏付けてくれました。
それでも出力インピーダンスが低下する周波数は高いと思わない?
最初そしてここまで、レールtoレール出力OPアンプで用いられているコレクタ出力(エミッタ設置)トポロジの裸の出力インピーダンスは、「局部帰還」というテクニックによりある程度解決され、出力インピーダンスが低減することを示しました。
そして帰還量の大きいボルテージ・フォロワの場合では、負帰還によりさらに出力インピーダンスが低下することもシミュレーションから分かりました。
しかし、図7を見ても気が付くように、「もう少し低い周波数で出力インピーダンスが低下してほしいなぁ」とか「低下する周波数は高いと思わない?」とか欲が出てくるのではないでしょうか。
出力インピーダンスが低下する周波数(一定になるコーナ周波数)が低下するようにエミッタ・フォロワを挿入してみる
そこでここではどうすれば出力インピーダンスが低くなる周波数をさらに低下できるかを考えてみたいと思います。
図8のようにこれまでの超簡易トランジスタ・モデル(赤で囲ったところ)に対して、エミッタ・フォロワ(緑で囲ったところ)を追加してみました。なお先の説明のようにβ=309の超簡易トランジスタを用いたものです。この回路を本来のトランジスタで表記した例を図9に示します。図8などこれまででは、この簡易等価回路を示していたわけです。
出力インピーダンス変化の周波数特性は1/βに低減する
シミュレーション結果を図10に示します。数値は出力インピーダンスが10kΩになる周波数を測定したポイントになっていますが、オリジナルの回路の場合、5.129kHzだったものが17.783Hzに低下しています。これはエミッタ・フォロワを挿入したことにより、出力インピーダンスの周波数特性が1/βに低減したことを意味します(5.129kHz/β = 5.129kHz/309 = 166Hz)。
これは式(14)において、
だったものにエミッタ・フォロワを挿入することにより、図8のG3の入力、図9のQ2のベースから見える等価的な𝑟πがβ倍に増大し(β𝑟π)、式(14)の変化の周波数特性が1/βに低減するわけです。
このように回路を構成することで、出力インピーダンスが低くなる周波数をさらに低下させることができるわけですね。奥深い構成ですね…。
コレクタ出力レールtoレールOPアンプの詳細内部回路は開示されていないので、この部分が実際にどのようになっているかは分かりません。しかしかなりの確率でこのようなテクニックが用いられ、最適化が図られているだろうことが予想されます。
(シリーズさいごに…)OPアンプ回路において負帰還により見かけ上の出力インピーダンスが低減するしくみ
前回、図8, 9, 17, 18において負帰還によりOPアンプの見かけ上の出力インピーダンスが低下すると説明してきました。そこではシミュレーションのみでそのうごきを示してきました。
ここではこの見かけ上の出力インピーダンスが低下するしくみを、式を使って確認していきたいと思います。
図11はこれを求める基本回路図です。ここには出力抵抗ROUTと負荷抵抗RLが追加されています。テブナンの定理を使って見かけ上の出力インピーダンスを求めてみるというアプローチをとります。必要となる関係式を以下に挙げてみます。
まず帰還率
反転入力端子の電圧
ただしRF≫ROUT, RLとしています。VLは負荷抵抗の端子電圧で
これからOPアンプの出力電圧は
ここでVPはOPアンプへの入力電圧、AはOPアンプの増幅率(オープンループ・ゲイン)です。これをVOPに対して解くと
負荷抵抗端子電圧VLは、式(18)に式(21)を代入し
ここでテブナンの定理を使って、まずRL=∞の条件で考えると
つづいてRL=ROUTの条件(負荷抵抗ROUT接続)で考えると
このとき、見かけ上の出力抵抗を求める式は
となります。これからRL=ROUTとし、
となり、出力抵抗ROUTは負帰還により1/(1+Aβ)に低減してREQVとして見えることが分かります。周波数上昇によりOPアンプの増幅率(オープンループ・ゲイン)Aが低下してくるとREQVが上昇してくることも分かります。
このように局部帰還と負帰還で、レールtoレール出力OPアンプの出力インピーダンスは実用レベルで低減が実現されているわけです。
まとめ
3回のシリーズとなったレールtoレール出力OPアンプの裸出力インピーダンスの解析。私も「コレクタ出力(エミッタ共通)回路であれば、出力インピーダンスは高いだろう…。しかしどのようなしくみになっているんだろうか」と長い間不思議でありました。解析してみるとかなり奥深いしくみになっていることが分かり、そして動作上では問題のないレベルまで低減されていることが分かり、これまた感慨深い技術ノートとなりました。
参考文献
[1] 竹岡ラーメン, Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/竹岡ラーメン
[2] アリランラーメン, Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/アリランラーメン
[3] 勝浦タンタンメン, Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/勝浦タンタンメン
[4] レストランこだま, 熱血!!勝浦タンタンメン船団, http:// katsutan-sendan.com/shop/351/
[5] 元祖勝浦式担々麺 江ざわ, 熱血!!勝浦タンタンメン船団, http://katsutan-sendan.com/shop/347/
[6] ミラー効果, Wikipedia https://ja.wikipedia.org/wiki/ミラー効果