TNJ-101:コレクタ出力レール TO レール OP アンプの裸出力インピーダンスは高いはずだが?(中編)

TNJ-101:コレクタ出力レール TO レール OP アンプの裸出力インピーダンスは高いはずだが?(中編)

著者の連絡先情報

石井 聡の写真

石井 聡

アジフライ…、あいや、局部帰還の効能を味わってみる

はじめに

前回の技術ノートでは「東京湾アクアライン裏側探検」なるツアー[1]に参加した件をお話ししました。私は千葉県在住なのですが、最近のテレビでは千葉県、それも房総半島あたりの観光地の紹介などがよくされています。これもアクアライン効果なのだろうと、そのようなテレビを見るたびに考えます。

そうです、私の住む千葉県も結構な観光見どころがあるのです!今回もまたどうでもいい話しですが、「アジフライ」のネタからスタートいたしましょう。

 

とある晩秋の夕食卓にて

もうすぐ冬の足音が聞こえる、外は冷え冷えとした晩秋の夜の暖かい食卓。「お父さん、あなた明日有給休暇にしたけど、どこか行く?」と、妻と(すでに十分に大人になった)子供が私に問いかけます。その明日は予定もなく一日休みを取っていたのですが、「家でWEBラボの記事でも書いているか」とか、仕事だか趣味だか分からない(笑)弱い頭の思考回路ステート・マシンで考えたことは、「そうだ、久しぶりに千倉の道の駅、潮風王国[2]のアジフライ定食が食いたいな」ということでした。

そのアジフライ定食は、さらにその数年前、テレビで紹介されており、紹介後に何度かその店に訪問したのでした。道の駅の中にあるお店で、市場食堂せん政水産[3]という名前のお店です。

このお店のアジフライは「超巨大」かつ「超ふわふわ」という絶品のもので、最初に食したときは感動さえ覚えたものでした。それこそアジ = 鯵 = 味と呼ばれるとおり、アジは味の良い魚として紹介されるものであり、「なんだ魚のフライか」と小ばかにできるものではありません[とはいう私も子供の頃、肉屋さんから買ってくる2枚にアジをおろしてフライにしたアジフライの骨と味が嫌いで、アジフライは苦手であった。アナログ・デバイセズに入社後、伊豆にある会社の健康保険組合の保養所で開催された、オフサイト・ミーティング(会議)の昼食でアジフライ定食が出てきた。事前にメニューを聞いていて「アジフライかぁ…。嫌いだなぁ…。トホホぉ」と思っていたところ、食べてびっくり。その筆舌に尽くせぬほどの旨さに「アジフライって、こんなに美味いんだ!」と結構な大人になって思った次第(汗)]。

翌朝のお休みの午前中、現地到着時間13時を目標としてクルマでスタートしました。天候はあいにくの曇りから小雨交じりのあまり良い日ではありませんでした。そのため混雑もなく無事に予定通りに現地到着。平日かつ悪天候であることから空いている店内に入り、さっそくアジフライ定食(といっても組みあわせおかずに複数の種類があり、A定食からE定食まであります)を注文。出てきたアジフライ(図1)は今回も大変おいしいものでありました。

道の駅ちくら潮風王国は、千葉の道の駅でも一番アクセスが遠いと思われる道の駅です。目の前は太平洋で、天気がよければ絶景でしょう。また春先であれば、南房総のお花畑なども見どころです。ぜひ南房総にお越しください。観光と合わせてこのようなグルメもいかがでしょうか。

図 1. 道の駅ちくら潮風王国[2]、市場食堂せん政水産[3]の巨大アジフライ。この写真からもアジフライがドデカいことが分かる
図 1. 道の駅ちくら潮風王国[2]、市場食堂せん政水産[3]の巨大アジフライ。この写真からもアジフライがドデカいことが分かる

 

さて、今回の技術ノートでは…

 

前回の技術ノートにおいて「原理的にはコレクタ出力 OP アンプの出力インピーダンスは高い」ことが分かった

前回のTNJ-100、今回のTNJ-101、そして次回のTNJ-102 ではレ ール to レール出力 OP アンプの出力インピーダンスについて検討しています。

レール to レール出力 OP アンプは電源レールいっぱいまで振幅が振れる特長がありますが、それを実現するためにコレクタ出力(エミッタ共通)回路が使用されています。コレクタ出力は一般的にその出力インピーダンスが高いとして教わってきていますが、そのままではこのOPアンプ出力に容量性負荷を接続した場合など、出力での位相遅れが発生し(「位相が廻る」といいますね)、OP アンプ回路が不安定になることが危惧されます。

そこでこれら 3 冊の技術ノートでは、この懸念をどのように解決しているかについて深く考えています。

その前編である前回は、解析用の超簡易 NPN トランジスタ動作モデル(Behavior Model)を作ってその正当性について検討し、それを用いた超簡易OPアンプのコレクタ出力インピーダンスを解析してみました。学校や職場の駆け出しのころ習ってきたように、残念ながら(?)その出力インピーダンスは十分に高いことが判明しました。これでは安定したOPアンプ回路を構築できません…。

 

今回の技術ノートは「コレクタ出力OPアンプの原理的に高い出力インピーダンスがどのように低減されているか」を見ていく

上記の懸念は、回路技術により解決(完全に解決ではありませんが、「必要十分な範囲で解決している」というところでしょう)されています。それは「局部帰還」というテクニックです。今回も超簡易NPNトランジスタ・モデルを使いながら、このテクニックについてより深く見ていきましょう。

といっても技術ノートのページ数が足りなくなってしまったので、次回のTNJ-102に続きます!

 

検討の海に飛び込むには準備体操が大切

 

準備その1(ダイオード接続での出力インピーダンス)

図2のダイオード接続された回路のコレクタ出力インピーダンス𝑟𝑂UTを考えます。これはトランジスタをダイオード接続にした回路です。なお[4]で示すアーリー効果(Early Effect)により有限のコレクタ出力インピーダンスになる項は当分の間、無視して考えます。またこの技術ノート・シリーズでは説明の都合上、図3のコレクタ出力容量𝑪𝒐bはゼロにしています。

さて、この回路に電圧𝑣𝐼Nを加えることで電流𝑖𝐼Nが流れれば、もしくは電流𝑖𝐼Nを加えることで電圧𝑣𝐼Nが生じれば、コレクタ出力インピーダンス𝑟𝑂UTは

TNJ 101 数式01

なお電流𝑖𝐼Nはベース電流𝑖𝐵とコレクタ電流𝑖𝐶の合算なので

TNJ 101 数式02

ここでベース・エミッタ間電圧𝑣𝐵E(𝑣𝐵E=𝑣𝐼N)からベース電流𝑖𝐵を得るために、前回も示した𝑟𝜋というものを導入します(これはトランジスタのハイブリッドπモデルで用いられるもの)。この𝑟𝜋は呼び名がないようで、「アールパイ」と呼ぶようです。この技術ノートでは「ベース入力相当抵抗」と呼ぶことにします。なおベースに存在するベース広がり抵抗は小さいので無視しています。

TNJ 101 数式03

TNJ 101 数式04

という関係であることから、エミッタ接地電流増幅率ℎ𝐹E

TNJ 101 数式05

と表すことができます。さらにこの式の後半、

TNJ 101 数式06

を変形していくと、

TNJ 101 数式07

TNJ 101 数式08

であり、図2のトランジスタはダイオード接続なので𝑣𝐵E=𝑣𝐼Nとなるので

TNJ 101 数式09

式(2)に式(3)と式(9)を代入すると

TNJ 101 数式10

図 2. ダイオード接続されたトランジスタのコレクタ側のインピーダンスを計算してみる
図 2. ダイオード接続されたトランジスタのコレクタ側のインピーダンスを計算してみる

ここから式(1)を使ってコレクタ出力インピーダンスを求めると

TNJ 101 数式11

また式(5)から

TNJ 101 数式12

TNJ 101 数式13

なので式(11)に代入すると

TNJ 101 数式14

とも表すことができます。ここでとくにCMOSトランジスタでは𝑟𝜋=∞なので、

TNJ 101 数式15

と計算することができます。バイポーラ・トランジスタでも𝑟𝜋≫1なので、上記の式は凡そとして成り立ちます。

これを前回導入したGモデルを使った超簡易トランジスタを用いてシミュレーションしてみましょう。図3はこのシミュレーション回路です。コレクタ・ベース間を直結しており、ダイオード接続になっています。コレクタには直流20μAをI1から流しておきます。シミュレーション結果を図4に示します。シミュレーション方法は前回示した方法のとおりで、ACソース1Aを目的とする端子に加えることで、得られた電圧値自体がインピーダンスそのものとなります。

これも前回説明したとおりですが、𝑖𝐶=20μAと設定しているので、相互コンダクタンス𝑔𝑚は以下の式から、

TNJ 101 数式16

𝑔𝑚=772μSとなります。ここでの変化要素は𝑖𝐶のみです(それ以外は物理定数)。これから

TNJ 101 数式17

 

準備その2(局部帰還接続での出力インピーダンス)

つづいてダイオード接続だったコレクタ・ベース間にインピーダンス𝑍𝑍が接続された場合(図5)の出力インピーダンスを考えてみます。これを「局部帰還接続」と呼ぶことにしましょう。ここでのベース電流𝑖′𝐵

TNJ 101 数式18

図 3. ダイオード接続されたトランジスタのコレクタ側のインピーダンスをシミュレーションしてみる LTspice の回路
図 3. ダイオード接続されたトランジスタのコレクタ側のインピーダンスをシミュレーションしてみる LTspice の回路
図 4. 図 3 のシミュレーション結果。1291Ωになっている。計算からも1/𝑔𝑚 = 1295Ωであり、合致していることが分かる
図 4. 図 3 のシミュレーション結果。1291Ωになっている。計算からも1/𝑔𝑚 = 1295Ωであり、合致していることが分かる
図 5. コレクタ・ベース間にインピーダンス𝑍が接続されたトランジスタのコレクタ側のインピーダンスを計算してみる
図 5. コレクタ・ベース間にインピーダンス𝑍が接続されたトランジスタのコレクタ側のインピーダンスを計算してみる

に低下します。ダイオード接続時のベース電流𝑖𝐵からの低下量を、係数𝛾(低下率/低下係数)を用いて

TNJ 101 数式19

と表しておきます。ダイオード接続だったときのコレクタ電流[式(8)]

TNJ 101 数式08 1

がダイオード接続ではなく、インピーダンス𝑍が接続され、ベース電流𝑖′𝐵 に低減していた場合、𝑣𝐵Eは式(4)から

TNJ 101 数式20

に低下します。この低下率𝛾は接続されたインピーダンス𝑍とベース入力相当抵抗𝑟𝜋により形成される分圧率ともいえ

TNJ 101 数式21

と書くこともできます。式(8)を変形しインピーダンス𝑍が接続された場合として修正して、

TNJ 101 数式22

ここで、コレクタ電流はもともと𝑖𝐶だったものが、低下率𝛾にて低下します。ここから式(1)と式(2)

TNJ 101 数式01 1

TNJ 101 数式02 2

を使って、インピーダンス𝑍が局部帰還接続された場合を考えると

TNJ 101 数式23

なお𝑣𝐼Nは加える電圧なので、インピーダンス𝑍が接続されても変化するものではありません。式(14) からも

TNJ 101 数式24

TNJ 101 数式25

となります。局部帰還の接続状態や周波数で𝛾が変化することにより、以下のことが(ここまでのまとめとして)分かります。

 

準備その3(ここまでのまとめ)

コレクタ出力は、コレクタ・ベース間の接続状態により、その出力インピーダンスが

① コレクタ・ベース間が未接続の場合には、低下係数𝛾=0となり、帰還がなくなる。出力ンピーダンスは

TNJ 101 数式26

で無限大になる。しかし実際はアーリー効果 [4]が存在することにより、有限な抵抗値になる

② コレクタ・ベース間に有限のインピーダンス𝑍が接続された場合(局部帰還が施された場合)には、低下係数0<𝛾<1となり、出力インピーダンスは

TNJ 101 数式27

で、1/𝑔𝑚の大きさが1/𝛾(𝛾≤1)が係数となり、𝛾が大きくなるに従い、低下してくる

③ ダイオード接続(直結もしくはインピーダンス𝑍がショート状態)の場合は、低下係数𝛾=1(低下しない)となり、出力インピーダンスは

TNJ 101 数式28

まで低減する

このように「エミッタ共通のコレクタ出力であっても、出力インピーダンスは、接続状態や周波数により大きく変化する」ということが分かります。

このようすをLTspiceを用いて実際にシミュレーションしてみましょう。図6はコレクタ・ベース間にインピーダンスZ(C1の10pFのコンデンサ)が接続されたトランジスタのコレクタ側のインピーダンス𝑟𝑂UTをシミュレーションしてみるLTspiceの回路です。

シミュレーションの結果を図7に示します。低い周波数ではRoで形成される6MΩが支配的になり(𝛾=0の状態)、周波数が上昇してくるとそれに応じて出力インピーダンスが低下してくるようになります。

図 6. コレクタ・ベース間にインピーダンス𝑍𝑍(10pF のコンデンサ)が接続された超簡易トランジスタのコレクタ側のインピーダンスをシミュレーションしてみる LTspice の回路
図 6. コレクタ・ベース間にインピーダンス𝑍(10pF のコンデンサ)が接続された超簡易トランジスタのコレクタ側のインピーダンスをシミュレーションしてみる LTspice の回路
図 7. 図 6 のシミュレーション結果
図 7. 図 6 のシミュレーション結果
図8. 出力に接続されている𝑅𝑜UT=1kΩが帰還により 見かけ上どのように低下するかをシミュレーション する回路(𝐴𝑂L=1Meg, 𝐺BW=10MHz)
図8. 出力に接続されている𝑅𝑜UT=1kΩが帰還により 見かけ上どのように低下するかをシミュレーション する回路(𝐴𝑂L=1Meg, 𝐺BW=10MHz)
図9. 図8のシミュレーション結果。低い周波数においてはループ・ゲインで出力インピーダンスが低下し(0.01Ω)、高い周波数においてはループ・ゲインが低下することで元来の出力インピーダンスの1kΩが出力に現れる
図9. 図8のシミュレーション結果。低い周波数においてはループ・ゲインで出力インピーダンスが低下し(0.01Ω)、高い周波数においてはループ・ゲインが低下することで元来の出力インピーダンスの1kΩが出力に現れる

 

OPアンプ回路においても負帰還により出力インピーダンスが低減する

前回、今回、次回のWEBラボの技術ノートは、「トランジスタに局部帰還を施した場合に、出力インピーダンスが低下する・変化する」という話しをしています。

しかし局部帰還は、一般のOPアンプにおいて「負帰還をかけることにより出力インピーダンスが低下する」という話しと「全く同じ」といっても過言ではありません。仕組みとしては同じなのです。これを途中の寄り道として、(ここでは少しだけ)説明してみましょう。

図8はLTspiceで作った非反転増幅回路です(本来、非反転入力端子に接続されるべき信号源は描いていません)。OPアンプ出力に𝑅𝑜UT=1kΩの抵抗が接続されています。この抵抗が負帰還によりどのように見かけ上低下するかを見てみましょう。なおこのOUTにI1 = 1Aを加えることで出力インピーダンスを得る作戦です(前回のTNJ-100で説明したとおり。図6も同じ)。

OPアンプの素性は、オープン・ループ・ゲイン 𝐴𝑂L=1Meg、利得帯域幅𝐺BM=10MHz、帰還率𝛽

TNJ 101 数式29

この帰還率は非反転増幅回路の増幅率𝐴𝐶L =10の逆数になります。ちなみに前回のTNJ-100で記号𝛽をトランジスタの電流増幅率ℎ𝐹E だとしましたが、ここではOPアンプの帰還率の慣例的な記号として同じ𝛽を用いています。

これにより、ループ・ゲイン𝐴𝑂L 𝛽=0.1Meg=100,000、ループ・ゲインの-3dB周波数 = 10Hzになります。

OUT端子の出力インピーダンスをシミュレーションした結果を図9に示します。答えを言ってしまうと、出力インピーダンス𝑍𝑂UT

TNJ 101 数式30

になります。低い周波数では𝐴𝑂L 𝛽=0.1Meg=100,000なので、

TNJ 101 数式31

出力インピーダンスの変化点はループ・ゲインが𝐴𝑂L 𝛽<1になる-3dB周波数 = 10Hzになっています。高い周波数では帰還による低減が効かなくなりますので𝑍𝑂UT=1kΩになります。

この式(30)の詳細な導出は、次回のTNJ-102で行ってみたいと思います。

 

局部帰還つき回路を解析する

さて、つづいて超簡易OPアンプ回路、前回の図5、図8、図10の回路にある、超簡易トランジスタに10pFのコンデンサで局部帰還を施した図10の回路を考えてみましょう。

 

ボルテージ・フォロワ回路を解析する

この図10は100 %帰還をかけたボルテージ・フォロワです。この周波数特性を一応見ておきましょう。これはとくにどうだ、というものではなく、単なる参考程度に見てください。

シミュレーション結果を図11に示します。前回のTNJ-100の図7と比較して、周波数特性が若干低下しています。これはコレクタ出力容量Cob が2pFから10pFになったことと等価であること、10pFの局部帰還が(次回詳しく示しますが)ミラー効果により周波数特性を決定する支配的要因になっているからです。

図 10. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた超簡易 OP アンプに 10pF の局部帰還をかけた回路。回路全体では 100 % 帰還をかけてボルテージ・フォロワにしてある。 また Cob = 0pF にしてある
図 10. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた超簡易 OP アンプに 10pF の局部帰還をかけた回路。回路全体では 100 % 帰還をかけてボルテージ・フォロワにしてある。 また Cob = 0pF にしてある

図 11. 図 10 の局部帰還をかけた簡易ボルテージ・フォロワ の周波数特性を AC 解析で確認してみた。 前回の図 7 と比較して周波数特性が若干低下している
図 11. 図 10 の局部帰還をかけた簡易ボルテージ・フォロワ の周波数特性を AC 解析で確認してみた。 前回の図 7 と比較して周波数特性が若干低下している
図 12. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた 10pF の局部帰還つき超簡易 OP アンプの 帰還量を相当小さくしてオープン・ループ・ゲインをシミュレーションしてみる回路(前回の図 8 と同じ構成)
図 12. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた 10pF の局部帰還つき超簡易 OP アンプの 帰還量を相当小さくしてオープン・ループ・ゲインをシミュレーションしてみる回路(前回の図 8 と同じ構成)

 

オープン・ループ・ゲインを解析する

つづいて図12は図10のOPアンプ回路の帰還量を相当小さくして(帰還量から計算される増幅率を相当大きくして)、回路のオープン・ループ・ゲインを測定するシミュレーション回路です。前回TNJ-100の図8と同じ回路です。

シミュレーション結果を図13に示します。10pFの局部帰還を施した図10で周波数特性が低下していることと同様、オープン・ループ・ゲインについても-3dBとなる周波数特性が前回の図9と比較しても低下しています。

 

10pFで局部帰還が施された超簡易OPアンプ・モデルの出力インピーダンス

つづいてこの回路のままで(回路が問題なくバイアス条件を維持した状態で)、超簡易OPアンプ・モデルの出力インピーダンス(裸の出力インピーダンス)を測定するシミュレーション回路図を図14に示します。この出力インピーダンス測定のシミュレーションでも1Aの電流量をコレクタ端子に加えることで、そこで生じた電圧降下が出力インピーダンスと同一になる、というテクニックを用いています。

図 13. 図 12 の 10pF の局部帰還をかけた超簡易 OP アンプの オープン・ループ・ゲインを AC 解析で確認してみた
図 13. 図 12 の 10pF の局部帰還をかけた超簡易 OP アンプの オープン・ループ・ゲインを AC 解析で確認してみた
図 14. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた 10pF の局部帰還つき超簡易 OP アンプの 帰還量を相当小さくして出力インピーダンスをシミュレーションしてみる回路(図 12 と同じ構成。VOUT の電圧値がそのままインピーダンスになる)
図 14. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた 10pF の局部帰還つき超簡易 OP アンプの 帰還量を相当小さくして出力インピーダンスをシミュレーションしてみる回路(図 12 と同じ構成。VOUT の電圧値がそのままインピーダンスになる)
図 15. 図 14 の 10pF の局部帰還をかけた回路で超簡易 OP アンプの出力インピーダンスを AC 解析でシミュレーションしてみた
図 15. 図 14 の 10pF の局部帰還をかけた回路で超簡易 OP アンプの出力インピーダンスを AC 解析でシミュレーションしてみた
図 16. 図 14 の局部帰還をかけた簡易 OP アンプ回路で局部帰還の容量を.step で変化させてシミュレーションしてみた。容量が増加するとロールオフを始める周波数の低下が早まることが分かる(上から 0pF, 2.5pF, 5pF, 10pF, 20pF, 40pF)。帰還容量 0pFではインピーダンスの低下は見られない
図 16. 図 14 の局部帰還をかけた簡易 OP アンプ回路で局部帰還の容量を.step で変化させてシミュレーションしてみた。容量が増加するとロールオフを始める周波数の低下が早まることが分かる(上から 0pF, 2.5pF, 5pF, 10pF, 20pF, 40pF)。帰還容量 0pFではインピーダンスの低下は見られない

シミュレーション結果を図15に示します。出力インピーダンスは数Hzのあたりから低下を始め、数100kHzを超えたあたりでは1,300Ωくらいに低下・安定しています。このグラフは図6で示した、超簡易トランジスタのコレクタ・ベース間にインピーダンスZ(10pFのコンデンサ)が接続された回路のコレクタ側のインピーダンスをシミュレーションしたもの(図7)とほとんど同じになっていることが分かります。

図15でマーカをあてて1MHz付近のインピーダンスの大きさを測定してみると、1,292Ωになっています。式(17)で示した、

というトランジスタのダイオード接続で得られるコレクタ出力抵抗と同じになっています。これは当然のことですが、図14のC2が高周波でショート相当になるため、このような大きさになるわけです。「式(21)の𝛾が𝛾=1になる」ということもできます。

 

出力インピーダンスを.stepでさらに解析する

つづいてC1の容量を0pF、2.5pF、5pF、10pF、20pF、40pFとして.stepコマンドで複数の条件でシミュレーションしてみました。これを図16に示します。局部帰還容量値が大きくなっていくと、出力インピーダンスとロールオフを始める周波数がそれぞれ低下するポイントが低くなっていることが見て取れます。

ここまでのシミュレーションで分かることは、

「局部帰還を施すことにより、OPアンプ出力(トランジスタのコレクタ)のインピーダンスが低下してくる」

「局部帰還の容量を増加させると、出力インピーダンスの低下が始まる周波数が低減してくる」

ということです。これは準備その3の②、式(27)で示したとおりです。局部帰還の接続状態(容量の増加 = リアクタンスの低下)で𝛾が上昇することにより、出力インピーダンスが低下してくるということと合致しているわけですね。

 

局部帰還つき回路に負帰還をかけてみる

今回の技術ノートの最後のシミュレーションとして、ここまで分かったこと「トランジスタに局部帰還を施した場合に、出力インピーダンスが低下する、変化する」に対して、その外部に負帰還をかけたときにどのように出力インピーダンスが変化するかをみてみましょう。図17は図14の回路を100%負帰還に変更してボルテージ・フォロワとした出力インピーダンスをシミュレーションする回路です。回路としては図10と同じになります。

この回路で出力インピーダンスをシミュレーションした結果を図18に示します。局部帰還で高域の出力インピーダンスが低くなりますが低域は高いままだったものが、100%負帰還をかけることにより、低い周波数でも出力インピーダンスが低下していることが分かります。

また周波数が高くなってくるにしたがい、回路のループ・ゲインが低下してくることにより、出力インピーダンスが上昇してきますが、局部帰還により出力インピーダンスが2kΩ弱で頭打ちになっていることが分かります。

図 17. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた 10pF の局部帰還つき超簡易 OP アンプの 帰還量を 100%にしてボルテージ・フォロワとして出力インピーダンスをシミュレーションしてみる回路(図 10 と同じ構成。VOUT の電圧値がそのままインピーダンスになる)
図 17. 超簡易トランジスタ・モデルを用いた 10pF の局部帰還つき超簡易 OP アンプの 帰還量を 100%にしてボルテージ・フォロワとして出力インピーダンスをシミュレーションしてみる回路(図 10 と同じ構成。VOUT の電圧値がそのままインピーダンスになる)
図 18. 図 17 の 10pF の局部帰還をかけたボルテージ・フォロワで超簡易 OP アンプの出力インピーダンスを AC 解析でシミュレーションしてみた
図 18. 図 17 の 10pF の局部帰還をかけたボルテージ・フォロワで超簡易 OP アンプの出力インピーダンスを AC 解析でシミュレーションしてみた

このくらいの出力インピーダンスになれば、OPアンプの出力回路としてコレクタ出力(エミッタ共通)回路を用いても動作しそうだと感じられるのではないでしょうか(でも、まだ続きます)。

 

さいごに

前回、レールtoレール出力OPアンプではトランジスタのコレクタが出力となっており、トランジスタのコレクタ出力インピーダンスが高いという話題からスタートしました。この点からレールtoレール出力OPアンプの裸の出力インピーダンスも高いだろうことが予想され、実際に超簡易NPNトランジスタ・モデルを用いてシミュレーションしてみると危惧したとおりということが分かりました。

今回はこの危惧は「局部帰還」というテクニックによりある程度解決され、出力インピーダンスが低減することを説明しました。また(とくに帰還量の大きいボルテージ・フォロワの場合では)負帰還によりさらに出力インピーダンスが低下することもシミュレーションから分かりました。

次回はこれら複数の話題について、最終回としてさらに深く考察してみたいと思います。

 

参考文献

[1]探検概要|東京湾アクアライン裏側探検, https://www.umihotaru.com/ait_tanken/about_tours.html

[2]道の駅ちくら 潮風王国 | 千葉県南房総市千倉町の道の駅, https://shiokaze-oukoku.jp/

[3]市場食堂 せん政水産, https://hakudai.com/senmasa/

[4] 大川電子設計; アーリー電圧, http://okawa-denshi.jp/techdoc/3-3-11TRearlyvolt.htm