LTspice/SwitcherCAD III でトランスを使用する

LTspice/SwitcherCAD III でトランスを使用する

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Michael Engelhardt

はじめに

トランスは多くのスイッチング・レギュレータ設計において重要なコンポーネントであり、危険性の高い高出力システムに絶縁バリアを提供したり、高電圧設計において非常に大きい降圧比や昇圧比を実現できます。また(巻線を追加して)複数出力や反転出力に容易に対応することが可能です。フライバック、フォワード、および SEPIC コンバータは、いずれもトランスを使用します。本稿では、LTspice/SwitcherCAD IIIシミュレーションにトランスを追加する場合に知っておくべき点について説明します。

LTspice/SwitcherCAD III について

LTspice/SwitcherCAD III は、回路図キャプチャ機能が組み込まれた強力なSPICE シミュレーション・ツールです。他の多くの無料シミュレータとは異なり、LTspice は汎用ツールで、用途は限定されません。LTspice には、リニア・テクノロジーのスイッチモード DC/DC コンバータのほとんどのモデルが含まれているうえに、オペアンプ、コンパレータ、リニア・レギュレータ、ディスクリート部品などの一般的なアナログ回路シミュレーション用デバイスのライブラリが含まれています。LTspice/SwitcherCAD III は、こちらから無料でダウンロード可能です。 

各巻線を 1 個のインダクタとして描画

図 1 に基本的な手法を示します。トランスの各巻線を単純に 1 個のインダクタとして描き、K ステートメントと呼ばれる SPICE ディレクティブを使ってそれらのインダクタを結合します(例えば「K1 L1 L2 1」)。

図 1. LTSpice/SwitcherCAD III モデルにトランスを追加するには、2 個のインダ クタを描き、K ステートメントを追加してそれらのインダクタを結合

図 1. LTSpice/SwitcherCAD III モデルにトランスを追加するには、2 個のインダ
クタを描き、K ステートメントを追加してそれらのインダクタを結合

ディレクティブを追加するには、[ Edit ] メ ニ ュ ー か ら [ SPICE Directive]を選択します。これにより、SPICE ネットリストに含まれている回路図にテキストを配置できます。K ステートメントでインダクタを記述すると、LTspice は位相ドットの付いたインダクタ・シンボルを使って各巻線の位相を示します。

トランスの巻数比は、正しいインダクタ値を選ぶだけで設定できます。インダクタンスは巻数比の二乗に比例します。上の例では巻数比が 1:3なので、インダクタンス比は 1:9 になります。

K ステートメントの最後の入力項目は、相互結合係数です。これは 0 から 1 までのスケールを持つ係数で、1 はインダクタ間の結合が完全結合である(つまり、漏れインダクタンスがない)ことを意味します。通常、漏れインダクタンスは実際の回路では望ましくありません。例えば、フライバック・コンバータにおける場合など、エネルギー保存用のトランスでは、漏れインダクタンスがあると、1 次側で保存されたエネルギーのすべてを 2 次側で取り出すということができなくなります。非エネルギー保存型のトランスの場合、トランスを通じて変換できるエネルギー量のハード・リミットは 1 次側電流によって設定されますが、2 次側がこの 1 次側電流からコアをどれだけ遮蔽できるかは、漏れインダクタンスのインピーダンスによって制限されます。いずれにしろ、漏れインダクタンスは好ましくない電圧スパイクやリンギングを発生させることがあり、そのためスナバ回路が必要になったり、それに関連するエネルギー損失が避けられなくなったりする可能性があります。漏れインダクタンスについては後で改めて検討しますが、最初のシミュレーションについては、相互結合係数を 1 に設定して漏れインダクタンスを無視するほうが容易であり、また、多くの場合はそれで十分です。

2 次側が複数ある場合

トランスの 1 次側と 2 次側が複数ある場合は、すべての相互インダクタンスが含まれていることを確認する必要があります。巻線が 4 個(L1、L2、L3、L4)あるトランスを考えます。よくある間違いは、このように巻線が 4 個あるトランスに対し、3個の別々の K ステートメントを使って 3 個の相互結合しか追加しないことです。

K1 L1 L2 1
K2 L2 L3 1
K3 L3 L4 1

LTspice は、このようなトランスは不可能であることを通知します。その理由は、L1 と L3 の間に何の結合も存在しないのに、L1 と L2、および L2 と L3 が完全結合することはあり得ないからです。確かに、2 個のインダクタの間に相互インダクタンスが存在せず 3 個めのインダクタに対して何らかの結合が存在するということはあり得ます。ただし、3 個めに対する結合の程度については限界があります。LTspice は相互結合係数の行列を分析して、指定された結合係数が物理的に実現可能かどうかを判定します。

4 個の巻線で構成されるトランスには、通常、ゼロ以外の値を持つ相互インダクタンスが 6 個存在します。

K1 L1 L2 1
K2 L1 L3 1
K3 L1 L4 1
K4 L2 L3 1
K5 L2 L4 1
K6 L3 L4 1

一般に、巻線が N 個あるトランスの相互インダクタンスの数は N • (N – 1)/2 です。各巻線のインダクタンスが巻数の二乗に比例するのと同じように、相互インダクタンスの数も N の二乗で増加していきます。

すべてのインダクタ名を手作業で置き換えて、それぞれの相互インダクタンスに対応する個々の相互結合ステートメントを作成するのは手間のかかる作業で、エラーも発生しやすくなります。より良い方法は、同じコアに巻かれたすべてのインダクタを記述する K ステートメントを 1 個だけ使用して、LTspice に作業を行わせることです。

K1 L1 L2 L3 L4 1

LTspice は、このステートメントの意味を、これらすべてのインダクタが同じ相互結合係数で互いに結合されているという意味であると理解します。この手法を使用した例を図 2に示します。この図のトランスは、4 個の巻線を直列に接続することによってオート・トランスとして構成されています。

図 2. 2 個以上の巻線を持つトランスを追加するには、結合されたインダクタすべてを含む K ステートメントを追加

図 2. 2 個以上の巻線を持つトランスを追加するには、結合されたインダクタすべてを含む K ステートメントを追加

漏れインダクタンス

スナバ設計の検討や、共振スイッチング・コンバータの整流タイミングの計算のために、漏れインダクタンスの影響をシミュレーションする必要が生じることも考えられます。このようなモデルに漏れインダクタンスを追加する方法は 2 つあります。巻線インダクタのリードにインダクタを直列に追加するという直接的な方法か、1 未満の相互結合係数を使用する方法です。漏れインダクタンス LLEAK と、巻線インダクタンスL、結合係数 K の関係は次式のように表せます。

数式 1

K が 1 に近い場合、これら 2 つの方法は電気的に等価です。

注意点:漏れを追加すると、モデリングに要する労力が大幅に増えます。その理由は、シミュレーションに漏れインダクタンスを追加した場合は、シミュレーション結果と測定結果を一致させるために、そのインダクタンスとリンギングする可能性のある容量をモデル化する必要が生じ、さらにリンギングの Q を制限する損失もモデル化する必要があるからです。このため、通常は、最初は漏れインダクタンスなしでシミュレーションを行ってみて、トランスの漏れインダクタンスによる非理想挙動を調べる必要を感じた場合には、後からインダクタンスを追加するという方法を推奨しています。

まとめ

LTspice/SwitcherCAD III でトランスをシミュレーションするには、トランスの各巻線を 1 個のインダクタとして描きます。次いでこれに、K1 L1 L2 L3 ... 1.という形で SPICEディレクティブを追加します。基本的にはこれで完了です。

SEPIC コンバータに結合インダクタを使用するサンプル・シミュレーション・ファイルを参照するには、LTC1871 コントローラの製品ページへ移動して「ツール」の欄からダウンロードしてください。そのまま実行可能なデモ回路が表示されます。