要約
電圧制御水晶発振器(Voltage-Controlled Crystal Oscillator)は、その周波数は水晶によって決定されますが、制御電圧を変えることによって少量の周波数を調整できる発振器です。VCXOクロック(CLK)ジェネレータは、ディジタルTV、ディジタルオーディオ、ADSL (非対称型ディジタル加入者回線)およびSTB (セットトップボックス)等の様々なアプリケーションで使われてきました。このアプリケーションノートでは、VCXO CLKジェネレータの一般的な構成、主要な性能測定、PCB設計のガイドラインおよびMAX9485 (MPEG2とAC-3オーディオアプリケーション用のVCXO CLKジェネレータチップ)を試験するためのセットアップについて説明をします。
VCXO CLKジェネレータの構造とアプリケーション
電圧制御型クロック発振器(VCXO:Voltage Controlled Crystal Oscillator)は、水晶によって決められた周波数で発振しますが、通常0V~2Vまたは0V~3V範囲の制御電圧によってその周波数を狭い範囲で調節することができます。VCXOの同調範囲は、約±100ppm~±200ppmです。図1は、標準的なVCXO CLKジェネレータと水晶振動子の回路モデルの構成を示しています。
バラクタCV1とCV2の静電容量が変化すると、水晶振動子モデルは影響を受け、発振周波数が変化します。外部接続のシャントキャパシタCS1およびCS2は、同調範囲を調整することと、センタ周波数をオフセットするために使われます。図1中の水晶振動子回路に従う場合、数学的には、水晶振動子の共振周波数は次式で表せます:
ここで、CL は、CV1、2とCS1、2を一塊に合計した等価負荷容量です。もっと正確に言えば、CL = (CV1 + CS1) || (CV2 + CS2)です。第1次近似をとり、 C1 << C0かつC1 << CLである事実を考慮すると、fCのまわりで増分する周波数を得ることができます。
図2は、CS1 = CS2の条件で、CS1値に対するfCの典型的な曲線を示します。
マイクロチューニング機能を使って、マイクロチューニング機能付きのCLKジェネレータを作成するためには、通常VCXOとPLLとを組み合わせます。
VCXO CLKジェネレータは、ディジタルTV、ディジタルオーディオ、ADSLおよびSTB等の種々のアプリケーションで使われてきました。マキシムのMAX9485は、MPEG-2およびDolby Digital audio (AC-3)アプリケーションのために設計された、CLKジェネレータです[1]。この製品は、オーディオ用DAC (D/Aコンバータ)で使われるほとんどすべての周波数を提供することが可能で、12kHz~96kHzのサンプリング周波数をサポートします。マキシムは他のアプリケーション用のVCXO CLKジェネレータも開発しています。
VCXO CLKジェネレータの主要なパラメータ
VCXO CLKジェネレータを特徴付けるパラメータは沢山ありますが、最も重要なものは、同調電圧の範囲、中心周波数、引き込み(同調)範囲および出力クロックのジッタです。
同調電圧の範囲は、VCXOの制御電圧の変化幅です。この電圧は、バラクタのキャパシタを制御し、通常、0V~2Vまたは0V~3Vの範囲です。中心周波数は、VCXOの出力周波数範囲における中心の周波数です。引き込み範囲は、中心周波数に対する、高(または低)い側の周波数変化幅の比率です。この比率は通常ppm (百万あたりの比率)で表され、その値はVCXOの相対的な引き込み範囲です。引き込み範囲は、VCXOの構成と選択した水晶振動子に依存しますが、通常は約100ppm~200ppmです。
クロックジッタは、CLKジェネレータの重要な測定項目です。ジッタの定義には何種類かありますが、最もよく用いられる2つの測定項は、ピリオドジッタとサイクルトゥーサイクルジッタです。これらについては後の章で詳しく述べます。ジッタは、CLKジェネレータの構造に依存し、チップごとに異なります。また、CLKジェネレータに対するジッタ要件は、アプリケーションにより異なります。
水晶振動子の選択とボード設計
VCXO CLKジェネレータの品質と特性は、水晶振動子の選択とボード設計の影響を受けます。水晶振動子の選択では、周波数、パッケージ(外装)、精度、動作温度範囲により選択しますが、VCXOアプリケーションのためには、ユーザは等価直列抵抗および負荷容量についても注意を払う必要があります。直列抵抗は、水晶振動子の電力消費の指標になります。この抵抗値が小さいほど、発振器のスタートアップはより容易になります。負荷容量は、水晶振動子の重要なパラメータです。まず、最初に、水晶振動子の共振周波数を決めます。通常、水晶振動子(の外装)に刻印された周波数は、これと並列に指定された負荷容量を接続した状態での共振周波数を意味しています。刻印された周波数は、CLが指定された負荷容量と等しい時に、式1から得られる値fCに等しく、1/(2 π √L1C1)から得られる値ではないことは指摘されるべきです。従って、VCXOの同調範囲は、CLの値に密接に関係していることが明らかです。VCXOの同調範囲は、負荷容量が小さいと上側が制限され、同様に負荷容量が大きいと下側が減少します。負荷容量の正しい値は、VCXOの特性に依存します。例えばMAX9485の設計では、同調範囲、同調カーブの中心および基板設計の容易性のバランスを取るために、私たちは、27MHzの水晶振動子と14pF (Ecliptek (ECX-5527-27))の負荷容量を選択しました[2]。このような水晶振動子では、MAX9485は±200ppmの引き込み範囲を提供できます。(図3を参照)水晶振動子の引き込み範囲は外装によっても変わることに注意してください。通常、表面実装デバイス(SMD)よりも、メタルキャンパッケージの方が、引き込み範囲はより大きいです。しかしながら最近、(株)大真空はメタルキャンパッケージと同等の引き込み範囲を提供可能な新しいSMD水晶振動子(DSX530GA)を作りました[5]。私たちは、SMD水晶振動子をテストして、2個の4pFシャントキャパシタでは引き込み範囲は約±200ppmであることを発見しました。(図4を参照)
VCXOの同調範囲を限定するために、私たちはシャントキャパシタを変動させて上側範囲を設定することができます。シャントキャパシタ値は、基板の浮遊容量に依存し、4ps~7psの範囲です。それに対して下側範囲は、(外部では変更できない)内蔵するバラクタの値によって決まります。上側範囲に関する浮遊容量の影響を減らす為には、基板レイアウトにおいて、水晶振動子ピンのグランドに対する浮遊容量を最小にすべきです。このためには、そのピンとグランドおよび電源プレーンとの間に十分な間隔を与えることです。基板レイアウトの詳細については、MAX9485の評価(EV)キットをご参照ください[4]。
出力クロックのジッタを測定するためのセットアップ
発振器にとって、ジッタは重要な性能指標です。最もよく用いられる2つのジッタの定義は、ピリオドジッタとサイクルトゥーサイクルジッタです。詳細は図5を参照してください。ジッタを測定するには、私たちは高速サンプリングオシロスコープを使用して、データを多数サンプルし、定義に従ったジッタ計算ができます。Tektronix (TDS 7254)やLecroy (Wavepro 960)は、装備するソフトウェアでこれらの測定ができます。私たちは、高速のディジタルスコープを時間領域のピリオドジッタの測定に使うこともできます[3]。図5は、このセットアップを示しています。私たちは、時間領域の方法では、サイクルトゥーサイクルジッタは測定できません。しかし、もしすべてのサイクルのジッタノイズが独立していて、かつ同じように分散していれば、サイクルトゥーサイクルジッタは、ピリオドジッタの1.414倍となります。MAX9485は、異なるオーディオサンプリング周波数および周波数倍率に基づいた21種類の異なった出力周波数を発生できます。私たちは、すべての出力可能なクロック周波数のピリオドジッタを測定するのに、図6のセットアップを使用しました。表1は、この測定結果を示しています。
FOUT | Scaling factor |
Fs | JP (RMS) | |
(MHz) | (kHz) | (ps) | (UI) | |
73.728 | 768 | 96 | 21 | 0.00155 |
67.7376 | 768 | 88.2 | 23.2 | 0.00157 |
49.152 | 768 | 64 | 42.6 | 0.00209 |
36.864 | 768 | 48 | 40 | 0.00147 |
36.864 | 384 | 96 | 37 | 0.00136 |
33.8688 | 768 | 44.1 | 44 | 0.00149 |
33.8688 | 384 | 88.2 | 41.3 | 0.00140 |
24.5760 | 768 | 32 | 66 | 0.00162 |
24.5760 | 384 | 64 | 92 | 0.00226 |
24.5760 | 256 | 96 | 50 | 0.00123 |
22.5792 | 256 | 88.2 | 55.1 | 0.00124 |
18.4320 | 384 | 48 | 59 | 0.00109 |
16.9344 | 384 | 44.1 | 69 | 0.00117 |
16.3840 | 256 | 64 | 134 | 0.00220 |
12.2880 | 256 | 48 | 84.8 | 0.00104 |
12.2880 | 384 | 32 | 170 | 0.00209 |
11.2896 | 256 | 44.1 | 100 | 0.00113 |
9.126 | 768 | 12 | 106 | 0.00097 |
8.1920 | 256 | 32 | 250 | 0.00205 |
4.608 | 384 | 12 | 198 | 0.00091 |
3.072 | 256 | 12 | 324 | 0.00100 |
この表から、全般的には周波数が高くなるほどジッタが低いことがわかります。しかしながら、表の最後の欄に見られるようなユニットインターバル(UI)を相対的な測定結果のジッタ表示として採用するならば、ジッタは同程度です。さらに周波数36.864MHz、33.8688MHz、24.5760MHz、および12.288MHzは、異なるサンプリング周波数Fsとスケーリングファクタによっても生成することができ、ジッタ指標は異なることに気付きます。従って、これらの周波数を使用する場合には、最低のジッタを生成するFsおよびスケーリングファクタを選択すべきです。