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3 相電力量計測の動向:シャントを用いた 3 相電力量計を実現する新しい革新的な絶縁型 ADC アーキテクチャ
2012年11月01日
概要
従来型の3相電力量計では、カレント・トランス(CT)を用いて、相電流と中性電流を検出します。CTの1つの利点は、数百ボルトで動作する電力線と、通常は中性線に接続される電力量計のグラウンドとの間に、固有絶縁を形成できることです。CTは、直線性に優れており、巻数比と負荷抵抗の調整によって広範囲の電流測定ができる柔軟性を有しています。しかし、CTにも、電力量計で使用するには欠点がいくつかあります。第1に、CTの磁性コアは外部直流磁界によって飽和する可能性があります。現在では、非常に強力な希土類直流磁石が一般家庭でも容易に入手できるため、電力量計が改ざんされやすくなっています。第2に、電力線上に直流電流を生成する分散型太陽光発電用の直接接続インバータなどの電力用電子機器によっても、CTが飽和する可能性があります。製造業者は、遮蔽や直流耐性CTの使用によって、この2つの影響を抑制できますが、これはコスト増を招きます。また、直流耐性CTの場合には、永久磁石を用いた電力量計の改ざんが可能と指摘する製造業者もいます。第3に、CTは、電力線電流の周波数に依存する測定位相遅延を生じます。電力線電流の基本波成分にのみ注目する場合、この遅延の補償は比較的容易にできます。しかし、高調波成分の測定はますます重要になってきており、基本波と全ての高調波を合わせた成分の遅延を補償することは非常に困難です。
他の電流センサーは、ロゴスキー・コイルやホール・センサーなどのdi/dtセンサーを含め、3相電力量計アプリケーションにはあまり使用されていません。これらは一部のアプリケーションでは利点がありますが、それぞれに課題があります。例えば、ロゴスキー・コイルは、直線性に優れており、非常に大きな電流を検出できますが、DC信号を検出することはできません。改ざんの観点からすると、それらは強い交流磁界の影響を受けやすい可能性があります。ホール・センサーは、温度に対するオフセットのアクティブな補償が必要になり、精度が相対的に低く、また、本質的に磁界の影響を受けやすい性質を持っています。
以下に、それぞれのセンシング技術の長所と短所について概要を示します。
シャントと3相電力量計測
単相電力量計でシャント抵抗を使用すると、コスト、磁気耐性、サイズの面でメリットがあるため、近年その利用が急増しています。多くの場合、これらの単相電力量計は電力線電圧を基準にしているため、追加の絶縁は不要になります。3相電力量計では、各シャントと電力量計のコアとの間に絶縁バリアを設けるという課題に対処しなければなりません。発熱も問題点の1つとなり、一般的に、シャントの使用は最大電流が100A以下の電力量計に制限されます。
まず、3相システムのうち、A相とその負荷について考えてみましょう。シャントを用いて相電流を検出するとします(図1)。
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図1. シャントを用いて相電流を検出する場合の、A相の電流と電圧の検出
これはまさに単相電力量計の構成であり、シャントは電力線上に配置され、分圧器は相線と中性線間の電圧を検出します。シャントと分圧器の両端の電圧は、A/Dコンバータ(ADC)が検出します。グラウンドはシャントの極で、分圧器と共有されます。単相電力量計はほとんどが住宅用であり、最大電流は一般に120A未満です。この制限と低コストのお陰で、シャントは単相電力量計測で最もよく使用される電流センサーとなっています。
この方式を3つの相全てに適用すると、各ADCにはそれぞれのグラウンドがあります(図2)。
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図2. シャントを用いて相電流を検出する場合の、3相電流と電圧の検出
これら全てを管理するマイクロ・コントローラ(MCU)は中性線と同じ電位に置かれるため、ADCとMCU間の通信を機能させるには、データ・チャンネルを分離する必要があります。そのため、全てのADCにはそれぞれ個別の絶縁型電源が必要になります(図3)。
図3. シャント、個別電源、通信分離を備えた3相電力量計
この電力量計アーキテクチャは既に使用されており、2チャンネルADCは、フォトカプラまたはチップスケール・トランスを用いて、絶縁バリアを越えてMCUに情報をシリアル送信します。絶縁型電源は、チップスケール・トランスを使用するスタンドアロンのコンポーネント、つまり絶縁型DC/DCコンバータを使用して構築されます。
理想的には、全ての相電流と相電圧は同時にサンプリングする必要があります。これにより、それらの瞬時値を用いて包括的な3相解析を行うことができます。しかし、各相のADCでの示度は、ADCの同期がとれないため、他の相から完全に独立しています。これは、このアーキテクチャの最初の制限事項です。カレント・トランスまたはロゴスキー・コイルを使用する電力量計は、全ての相電流と相電圧を同時に読み取る計測アナログ・フロント・エンド(AFE)を使用できるため、そのような問題は生じません。
このアーキテクチャのもう1つの問題は、コンポーネント数が多くなることで、MCUが1つ、ADCが3つ、マルチチャンネル・データ・アイソレータが3つ、電源が4つあります。CTを使用する電力量計では、回路基板に搭載されているのは通常、MCUが1つ、計測AFEが1つ、電源が1つであるため、このような問題はありません。
では、シャントの利点を有しながら、このアーキテクチャのコンポーネント数が最少(すなわち、MCUが1つ、電源が1つ、ADCが3つ)で、全ての相電流と相電圧を同時にサンプリングする電力量計を作るには、どうしたらよいでしょうか。
絶縁型ADCアーキテクチャ
この課題に対する答えは、少なくとも2つのADC、1つの絶縁型DC/DCコンバータ、データ・アイソレーションを統合し、異なるチップの属するADCが同時にデータをサンプリングできる技術を有するチップを作製することです(図4)。MCUの電源VDDが、このチップにも電力供給します。チップスケール・トランス技術を用いた絶縁型DC/DCコンバータは、ADCの第1段の絶縁型電源になります。1つのADCがシャントの両端の電圧を検知し、別のADCが、分圧器を用いて相線と中性線間の電圧を検知します。シャントの片方の極により特定されるグラウンドは、チップの絶縁側のグラウンドです。ADCはシグマ・デルタ・コンバータであり、その第1段のみがチップの絶縁側に配置されます。第1段から出たビット・ストリームは、個別のデータ通信チャンネルを構成するチップスケール・トランスを通過します。ビットはチップの非絶縁側で受信され、フィルタリングされ、24ビット・ワード形式に変換され、SPIシリアル・ポートで供給されます。
図4. 2チャンネルADC、データ・アイソレーション、1つの絶縁型DC/DCコンバータを含む新しいADCアーキテクチャ
この新しいADCアーキテクチャに対するチップスケール・トランス技術の貢献度は最も重要で、アナログ・デバイセズが特許を保有するデジタル・アイソレータiCoupler®は、フォトカプラよりも信頼性が高い、サイズが小さい、消費電力が少ない、通信速度が速い、タイミング精度が高いという特長があります。しかし、これだけでは不十分です。絶縁型シグマ・デルタ・モジュレータは、フォトカプラかチップスケール・トランスのいずれかを用いた製品が、長い間市販されてきました。チップスケール・トランス技術による最も重要な貢献は、ADC、デジタル・ブロック、絶縁型データ・チャンネルを同一の表面実装の薄型パッケージ内に一体化できる、姉妹版の絶縁型DC/DCコンバータisoPower®です。
チップスケール・トランスのコアは空気であるため、デジタル・アイソレータiCouplerと絶縁型DC/DCコンバータisoPowerは、永久磁石の影響を全く受けず、電力量計のこの部分は、直流磁気式改ざんに対して高い耐性が得られます。このトランスは、交流磁界に対しても高い耐性があります。コイルの領域は非常に小さいため、isoPowerのコイルの性能に影響を与えるためには、2.8Tの10kHz磁界を発生させる必要があります。言い換えると、チップスケール・トランスの性能に影響を与えるためには、69kAの10kHz電流をワイヤに流し、そのワイヤをチップから5mmの距離に置く必要があります。
情報は、周波数が非常に高いPWMパルスを用いて、絶縁バリアを越えて伝達されます。これによって、回路基板内を伝搬する高周波電流が生成され、エッジ放射と双極子放射が生じます。
MCUとのインターフェースをできるだけシンプルなものにするために、チップのデジタル・ブロックは、第1段から来るビット・ストリームのフィルタリングを実行し、シンプルなスレーブSPIシリアル・ポートを通して24ビットADC出力を生成します。電力量計は、各相に絶縁型ADCが1つあるため、コヒーレントなADC出力を得るという課題が残っています。ADCの第1段は、それらが同じクロックで動作する場合、全ての相でまさに同時にサンプリングできます。これは、図4のCLKIN信号がMCUから生成される場合、容易に実現されます。別の方法は、1つの水晶発振器を使用して1つのチップ用のクロックを作り、バッファされたCLKOUT信号を用いて他の全ての絶縁型ADCのクロックを計測することです。全ての絶縁型ADCは、それらのADC出力をまさに同時に生成するように制御されます。これにより、電力量計は、電流検出にシャントを用いて、正確で包括的な3相解析が実行できます。
図5に、3つの絶縁型ADC(ADE9112またはADE9113)を用いた3相電力量計を示します。この電力量計では、MCUと絶縁型ADCに電力供給する電源は1つだけです。MCUは、SPIインターフェースを用いて、各ADE9112またはADE9113からADC出力を読み出します。
図5. 新しい絶縁型ADCを用いた3相電力量計
上記の説明は、外部MCUを用いた計測計算の実行を前提としています。計測を含めたソリューションを望む電力量計の製造業者に対しては、図6に示すように、全ての計測計算を実行するIC(ADE7978)に絶縁型ADC(ADE7932またはADE7933)を結合することが可能です。
図6. 新しい絶縁型ADCと計測用ICを用いた3相電力量計
このアーキテクチャをベースとした新製品
このアーキテクチャは、アナログ・デバイセズの新しい製品ファミリ、ADE9113、ADE9112、ADE7933、ADE7932の設計に既に組み込まれています。図7にADE9113のブロック図を示します。これは図4に非常に類似していますが、補助電圧を検出するADCチャンネルが追加されています。補助電圧は、遮断器の両端の電圧や、温度センサーを検出するための電圧とすることができます。ADE9112は、補助電圧を測定する機能がないモデルです。
図7. このアーキテクチャをベースとした新しい絶縁型ADCであるADE9113
まとめ
新しい絶縁型ADCアーキテクチャを提案しました。これには、MCU電源を用いてマルチ・チャンネルのシグマ・デルタADCの第1段に絶縁バリアを越えて電力供給する、絶縁型DC/DCコンバータisoPowerが包含されています。ADCから出力されるビット・ストリームは、データ・アイソレータであるiCouplerを通過し、デジタル・ブロックで受信されます。このブロックはそれらをフィルタリングし、シンプルなSPIインターフェースを用いて読み出すことができる24ビットADC出力を生成します。1つ目のADCは、シャントを通過する電流の測定が可能、2つ目のADCは、分圧器を用いて相線と中性線間の電圧の測定が可能、3つ目のADCは、補助電圧の測定が可能です。これにより、シャントを用いた3相電力量計が実現し、直流または交流磁界に対する完全な耐性と、位相シフトのない電流検出を確保し、システム全体のコストを削減しました。小型化の実現により、回路基板が非常に小さくなり、組み立てる部品数が大幅に削減されます。内蔵のチップスケール・トランスisoPowerは、放射妨害波を最小限に抑えるよう、既知のADC負荷に合わせて設計されています。また、CISPR 22クラスB規格に合格するための試験を実施済みです。
もちろん、シャントを用いた電流検知は、電力量計測に限定されるものではありません。電力品質の監視、太陽光発電インバータ、プロセス監視、保護デバイスなどでも、この新しいADCアーキテクチャの利点をフル活用できます。
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産業向けソリューション
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