スピードが命:Damson Globalの新たな ワイヤレス・スピーカ・システム、アナログ・デバイセズが迅速な市場投入を支援

スピードが命:Damson Globalの新たな ワイヤレス・スピーカ・システム、アナログ・デバイセズが迅速な市場投入を支援

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Damson Global

家庭用オーディオ機器の市場では、非常に激しい競争が繰り広げられています。この市場に革新的な製品で挑んでいるのがDamson Global(以下、Damson)です。同社は2017年、最新のサラウンド・サウンド技術「Dolby® Atmos」に対応する新たなスピーカ・システムを発表しました(図1)。この「Sシリーズ(S-Series)」の新製品によって、同社は、より確立された地位にいるホーム・シアター製品のメーカーから市場シェアを奪う絶好の機会を得ました。Damsonの新製品は、DolbyAtmosをワイヤレスで実現するモジュール式のサラウンド・サウンド・システムです。配線が不要で設定が容易な利便性の高いマルチスピーカ・システムにより、息を呑むほどの没入感あふれるオーディオ体験を提供しようというのが製品コンセプトです。

ただ、Dolby Atmosの3D(3次元)オーディオ機能を完全に実現するのは、容易なことではありません。同技術に対応するシステムを設計するだけでも大変な作業です。しかも、それをワイヤレスで実現しようとすると、技術的な複雑さが更に増します。

そこで、Sシリーズの新製品にDolby Atmosを実装する作業全体を通して、アナログ・デバイセズから支援を得るという選択をしました。本稿では、この新製品の開発プロジェクトを紹介します。このプロジェクトを成功に導いたのは、オーディオ処理を専門とするアナログ・デバイセズの技術者と、Damsonが擁する世界レベルのオーディオ・システム設計者でした。以下では、両社の連携によって得られた効果について詳しく説明します。

図1. Damsonが開発したSシリーズの新製品。ワイヤレスで接続できるコンパクトなスピーカ・システムです。DolbyAtmosの3Dオーディオ・コーデックに対応しています。

図1. Damsonが開発したSシリーズの新製品。ワイヤレスで接続できるコンパクトなスピーカ・システムです。DolbyAtmosの3Dオーディオ・コーデックに対応しています。

3Dオーディオ:ホーム・シアターを新たな次元に

英国ヨークを拠点とするDamsonは、Hi-Fiオーディオやホーム・シアターという主流の機器市場の中でも、高級品をターゲットとしています。同社の製品は、薄型テレビに埋め込まれたスピーカに満足することはなく、卓越したオーディオ品質を求める消費者に向けたものです。実際、同社は高いオーディオ品質を誇る製品を提供していますが、お金に糸目をつけないオーディオ・ファンをターゲットとしているわけではありません。同社製品の価格は、比較的、手頃なレベルに抑えられています。

Damsonが対象とする高級品の市場において、Dolby Atmosは非常に有望な技術として捉えられていました。確かに、5.1chのシステムや「Dolby Audio」といった従来のサラウンド技術でも、魅力的な2Dのサウンド空間を作ることは可能でした。ただ、Dolby Atmosには3つ目の次元を加えるという革新的な技術が盛り込まれていました。それにより、視聴者の頭上と周囲の空間が、完璧に同期がとられたサウンド・トラックで埋め尽くされます。例えば、戦争映画の戦闘シーンでは、銃弾が視聴者の耳の横だけでなく頭の上もかすめて飛んでいくように聴こえます。3D化を図ることで、従来のどのホーム・シアター技術を利用する場合よりも没入感にあふれ、胸躍る体験が生み出されるのです。

Damsonが自らに課した設計上の課題

Damsonは、配線が不要なモジュール式のサラウンド・システムに、Dolby Atmosを実装しようと考えました。Sシリーズの製品は、フロントのサウンドバーとサブウーファに対して、ユーザが2~14個のリア・スピーカを追加できるようになっています。

Sシリーズの新製品を設計するにあたり、Damsonは2つの技術的な課題に直面しました。1つは、Dolby Atmosに対応するコーデックの実装です。Dolby Atmosのコーデック処理は非常に複雑であり、数百万行にも及ぶコードで構成されます。ただ、Damsonにとって開発期間は非常に重要な要素でした。同社は、Dolby Atmosに対応するワイヤレス製品を競合他社よりも先に市場に投入したいと考えていました。それにより、先駆者としてのメリットを享受することを強く望んでいたのです。

もう1つの課題は、セットトップ・ボックスやBlu-rayプレーヤなどから送信されたオーディオ信号が各スピーカで再生されるまでの絶対最大遅延を35ミリ秒以下に抑えなければならないというものでした。35ミリ秒を超えると、ビデオ信号とオーディオ信号の間に、視聴者が認識できるレベルのタイミングのずれが生じるからです。

この遅延に関する要件を満たすために、Damsonはシステム全体が内包するあらゆる遅延を最小限に抑える必要がありました。そのことが、主要なコンポーネントを選択する上での最大のポイントになりました。特に重視したのは、Dolby Atmosの複雑なコーデック処理を実行するプロセッサの選択です。

これら2つの課題を解決するための策として、Damsonはアナログ・デバイセズと提携しました。民生用/プロ用のオーディオ機器だけでなく、車載、産業、防衛/航空宇宙などの各分野向けにもオーディオ・ソリューションを提供しているアナログ・デバイセズをパートナーとして選択したということです。

アナログ・デバイセズは、コンポーネント、ミドルウェア、ソフトウェア、リファレンス・デザイン、ツール、専門技術を包括的に提供することで、民生用/プロ用オーディオ機器の実装に取り組む顧客を支援しています。しかも、DSPコア「SHARC+」を2個搭載する「ADSP-21584」をベースとして、Dolby Atmosに対応するデモ用システムを既に設計済みでした。このことが決定的な理由となり、Damsonはアナログ・デバイセズと提携することになったのです。また、アナログ・デバイセズは、オーディオ信号処理を専門とする数多くの技術者を擁しています。実際、Dolby Atmosの実装について顧客をサポートできる世界レベルのチームを編成していました。そのため、Damsonは的確なサポートを受けることができました。

また、アナログ・デバイセズは、SHARC®シリーズのDSP専用に開発され、直感的に使用できる包括的なツール群を提供しています。そのため、SHARCコアを搭載するDSP製品を採用すれば、開発作業を大幅に加速することができます。このことも、Damsonの技術者にとって大きなメリットになりました。具体的には、以下のようなツールが用意されています。

  • SigmaStudio:アナログ・デバイセズのDSP内蔵オーディオ・プロセッサに実装するソフトウェアのプログラミング、開発、チューニングを行うためのグラフィカル開発ツール
  • CrossCore® Embedded Studio:アナログ・デバイセズのSHRAC プロセッサ・ファミリ用の統合開発環境(IDE)

Damsonの技術者らは、これらのソフトウェア・ツールを使用することにより、新製品の要件を満たすようにADSP-21584の動作を迅速に設定することができました。ただ、Dolby Atmosでは、Dolby Audioや「Dolby Digital Plus」を含む従来のサラウンド・サウンド技術よりも複雑な、全く新しいコーデック処理が必要になります。Damsonの技術者は、オーディオ機器の設計に関してはエキスパートですが、アナログ・デバイセズのオーディオ処理技術者からサポートを得たことが決定的な要因となって、そのような複雑な技術を通常よりも数週間も短い期間で実装することができたのです。

DamsonのCEO(最高経営責任者)を務めるJames Talbot氏は、次のように述べています。「アナログ・デバイセズの技術者は、素晴らしいサポートを提供してくれました。Dolby Atmosのような全く新たなコーデックに対応する製品を開発する場合、5.1chサラウンドやDolbyAudioといった過去の技術では遭遇しなかった新たな課題にどれだけ直面するかは、作業を始めてみなければわかりません。アナログ・デバイセズは、Dolby AtmosをADSP-21584上で稼働させるための的確なサポートを提供してくれました。そのおかげで、当社はオーディオのバランシングや同期といったシステム・レベルの機能の開発に集中することができました」。

2チップ構成のシステム・アーキテクチャ

Damsonの新製品は、Sシリーズのアーキテクチャを反映しつつ、同社の2つのチームによって並行して開発されました。ベース制御ユニットの設計は、無線SoC(System on Chip)上に実装されるワイヤレス通信機能と、アナログ・デバイセズのADSP-21584上でDolby Atmosのコーデック処理を実行するオーディオ処理機能に分割できます(図2)。そのため、Damsonの一方の開発チームは、高周波無線システムの設計に集中することができました。同システムでは、Dolby Atmosのオーディオ信号を、遅延を極めて小さく抑えて各スピーカに伝送するために、非常に高いデータ伝送レートを選択する必要がありました。

図2. アナログ・デバイセズのDSP製品「ADSP-21584」のブロック図。SHARCコアを2個搭載しています。

図2. アナログ・デバイセズのDSP製品「ADSP-21584」のブロック図。SHARCコアを2個搭載しています。

同時に、もう一方の開発チームは、オーディオ処理を専門とするアナログ・デバイセズの技術者からのサポートを受けながら、ADSP-21584にDolby Atmosの処理を実装しました。オーディオ処理を担うシステムにとっては、無線システムの速度と遅延が重要なパラメータでした。Talbot氏は次のように述べています。「当社はSシリーズのベース・ユニットに最適なDSPを選択するための評価を実施しました。その結果、最高の評価を得たのがADSP-21584でした。Dolby Atmosのコーデック処理を実行する際のDSPの処理負荷をシミュレーションした結果、ADSP-21584が最速だったのです。それが、当社が同ICを選択した最大の理由です。35ミリ秒という遅延の要件を満たすには、1ミリ秒単位の遅延に気を配る必要があります。卓越した性能を誇るADSP-21584であれば、いくらかの余裕がある状態で処理を実行でき、その余裕分はシステムの他の部分に振り分けられるだろうと考えました」。

記録的な時間で開発に成功

Damsonの技術者は、オーディオ処理を専門とするアナログ・デバイセズの技術者からの協力を得て、開発プロジェクトを成功裏に完了しました。2018年初頭にリリースしたSシリーズの新製品は、Hi-Fiオーディオの批評家やユーザから圧倒的な評価を得ました。

ADSP-21584の高い性能も一因となって、かなりの余裕を確保して遅延の要件を満たすことができました。3Dオーディオの完全な没入感を実現しつつ、遅延は20ミリ秒未満に抑えました。新製品を実際に使用したRob Goult氏は、「この製品により、普通のテレビが新たなレベルへと引き上げられます。ごく普通の5.1ch/7.1chのサウンド・トラックが極めて素晴らしい音に聴こえました。古い映画を見直してみたら、以前見たときとは全く別物に感じられました」と述べています。

Sシリーズのユーザから高い評価を得たことは、Damsonにとって最も重要なことでした。また、同社は、Dolby Atmosに対応する他のワイヤレス製品が提供される前に、この高級サラウンド製品を市場に投入するという目標を達成することができました。競争が厳しいこの市場において、同社の成功を促進するUSP(Unique Selling Proposition)を手にすることができたのです。

デジタル・イメージング機器、ホーム・シアター機器、プロ用AV機器、携帯機器に向けたアナログ・デバイセズのソリューションについてはanalog.com/jp/consumerをご覧ください。


Damson Globalについて

Damson Globalの創設者でCEOを務めるJames Talbot氏は、ビジネス開発チームを組織/監督し、設立時よりもはるかに先進的な企業へと導いてきた確固たる実績を持つ起業家です。

熱狂的なオーディオ・ファンである同氏は、高品質でありながら本当の意味でポータブルなスピーカが市場に存在しないことに不満を感じていました。その状況を打破すべく、同氏はその理想的なスピーカを自らの手で開発しようと考えました。その結果、2011年に設立されたのがDamsonです。Damsonは、高い利便性、美しいデザイン、豊かな音質をシームレスに融合し、従来の限界を押し広げたオーディオ製品を創出するための新たな手段を開拓する自社の姿勢に誇りを持っています。

現在、Damsonはホーム・シアター、アクティブ・ノイズ・キャンセリング対応のヘッドフォン、スポーツ・ヘッドフォンの市場に新風を吹き込んでいます。それら以外にも、日々の生活の中で直面する日常的な問題の解決につながる革新的な製品を開発しています。