EMIのコンプライアンス・テストに一度で合格する方法【Part 5】高精度のアナログ回路、シールディング、温度の管理に関する高度な検討事項

2026年06月23日

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Figure 1

   

要約

本連載では、電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)に関するコンプライアンス・テストに合格できるプリント回路基板(以下、基板)を設計する方法について解説してきました。その中で繰り返し説明したとおり、重要なのは電磁場を閉じ込めることです。ここまでに説明したEMIの低減方法を採用すれば、様々なノイズの問題も軽減できます。つまり、その手法は基板のレイアウトに関する普遍的な指針になります。本連載のPart 1、Part 2では、物理的な基礎を固めるための説明を行いました。具体的には、信号のレイヤの切り替え、グラウンド・プレーンの共有、不完全な伝送ラインなどが放射の原因になり得ることを明らかにしました。Part 3、Part 4では、それらの理論を踏まえた上で実用的なレイアウトの手順について解説しました。その中では、回路図を基にコンポーネントの配置を決定するための戦略、グラウンディング・アーキテクチャ、電源システムの配線、スタックアップの選択などについて説明しました。最終回となる今回(Part 5)は、非常に条件の厳しい設計に対応する基板のレイアウトを実施する際に直面する特殊な要件について解説します。例えば、どのような設計においても、どのような種類の信号を扱う場合でも、熱の管理は不可欠です。その目的は、部品を保護することだけではありません。熱電効果によって発生するオフセットが原因で高精度の測定に悪影響が及ぶのを防ぐためでもあります。本連載は、EMIのコンプライアンス・テストに一度で合格可能な基板のレイアウトを実現できるようにすることを目標としています。今回説明する検討事項も踏まえれば、そのために必要な要件の全体像を把握できます。

はじめに

EMIの規格への準拠は、早い段階から重要な目標として認識されるとは限りません。というよりも、最後に残った課題として扱われるケースが非常に多いというのが実情でしょう。つまり、回路図が完成し、基板のレイアウトが完了し、プロトタイプが製作された後になって、対処すべき課題だと見なされることがよくあるはずです。これを避けるためには、EMIの規格への準拠が求められることを前提として設計を進める必要があります。レイアウトを考慮して回路図を整理する段階から電磁場を念頭に置き、適切な手順で基板を設計すれば、コンプライアンス・テストに一度で合格できるはずです。本連載のPart 1とPart 2では、物理学の理論のレベルで解説を進めました。その中で説明したように、放射や干渉はランダムなものでもなければ、神秘的なものでもありません。それらは、閉じ込められていない電磁場により、予測可能なものとして発生します。また、放射を抑制可能なレイアウト手法を採用すれば、外部の電磁場に対する基板の耐性が向上します。本連載のPart 3とPart 4では、それらの理論を反映させた形で、レイアウトを適切に実施するための基本的な手順を示しました。それを通して、回路図の整理、レイアウトを念頭に置いたコンポーネントの配置、適切なグラウンディング・アーキテクチャの選択、最初に行うべき電源システムの配線、すべての信号に対して電磁場の閉じ込めを実現できるレイヤ数とスタックアップの選定などについて解説しました。以上の内容によって、適切なレイアウトを実現するための枠組みが整ったと言えます。本連載の最終回となる本稿では、相応のレベルのレイアウトと非常に優れたレイアウトの分かれ目になる特殊な検討事項に焦点を絞ります。具体的には、高精度のアナログ回路、シールディング/ガーディング、温度の管理をテーマとして取り上げます。これらは、限界レベルの性能を目指す設計、外部と接続する機能を備える設計、過酷な環境で動作する設計などに関連します。いずれも、理論上は適切に見える設計が、実機でも正しく機能するかどうかを左右する重要な要素です。

高精度/高確度のアナログ回路

ここでは、高精度/高確度のアナログ回路に関する検討事項を取り上げます。ある意味では「反則技」とも言える完全差動型のシグナル・チェーンはひとまず置いておくと、グラウンド基準の信頼性を維持することは高い精度のアナログ回路を実現するための重要な条件になります。低い周波数に対応する電流は、信号源(エネルギー源)から供給されるエネルギーが最小になる径路をたどります。そのため、グラウンドをリターン・パスとして使用して電流を消費する回路は、低周波領域においてグラウンドの電位勾配(およびノイズ)を生じさせる原因になります。例として、シート抵抗が0.5mΩ/squareの1オンス(約28.3g)の銅箔プレーンについて考えてみましょう。その場合、1squareを流れる100mAのリターン電流によって、0.5mΩ×0.1A = 50μVの電圧降下が生じます。これは高い精度が求められる測定においては大きなオフセットになります。この誤差の影響を軽減する方法は数多く存在します。例えば、コンポーネントの配置を最適化する、グラウンドではなく負の電源ラインをリターン径路として利用する、グラウンド・プレーン(信号の配線パターン用)をグラウンド・ツリーに置き換える、グラウンド・プレーンにスロットを設けてグラウンド電流の流れを制御する、基板のレベルで差動信号伝送を使用するといった具合です。

シールディングとガーディング

ここでは、手で持って操作する機器や外部とケーブルで接続される機器のすべての基板に当てはまるテーマを取り上げます。問題になるのは、離れた場所にある2つのグラウンドを接続する方法です。そのような機器では、離れた場所に信号を伝送するのが困難になることがあります。その原因は、その空間や距離によって新たなカップリングの径路が生じることにあります(図1)。

図1. 離れた場所にある2つのシステムの接続。計測回路のシールドと安全性を高めるためのシールディングを使用することで、コモン・モードの干渉を回避します。
図1. 離れた場所にある2つのシステムの接続。計測回路のシールドと安全性を高めるためのシールディングを使用することで、コモン・モードの干渉を回避します。

離れた場所にある2つ目のグラウンドは、恐らく1つ目の基板側のグラウンドと同じ電位にはなりません。以下、その原因になる事象を列挙します。

  • 落雷:離れて配置された2つのシステムのグラウンドが互いに接続されている状態を想像してみてください。それらのグラウンドは、それぞれアース・グラウンドに(直接的または容量的に)接続されているとしましょう。そして、アース・グラウンドはループを閉じる最後の導体であるとします(図1)。ファラデーの法則から、近くの落雷によってこの大きな閉ループに電圧が発生すると、グラウンド・ループに電圧が誘起される可能性があります。
  • 機器からのグラウンド電流:レイアウトに欠点がある機器においては、電流がシャーシ・グラウンドにカップリングするおそれがあります。そのカップリングされた電流のリターン・パスにより、離れた場所にあるグラウンド間で電圧降下が発生する可能性があります。
  • コモン・モード電流:絶縁型のシステムでは、上記の機器からの電流に関連して絶縁バリアを超えてカップリングした電流により、離れた場所にあるグラウンド間で電圧降下が生じるおそれがあります。

これらの問題に対する有効な解決策としては、シールディングが挙げられます。図1に示した例では、2つのグラウンドの間に適切にシールドされた接続が設けられています。この方法は、グラウンド間の電流の流れを完全に排除するものではありません。それでも、アナログ機能や測定機能に影響を与えないパスに電流が導かれます。

ガーディングはシールディングと密接に関連するものです。ガードの目的は、基板の敏感な配線パターンや特定のケーブルの導体へのAC/DCカップリングを防止することにあります。そのためには、ガードの対象となる信号線の周囲を、その信号線と同じ電圧をバッファ回路で印加した導体で取り囲みます。保護の対象となる信号線とガード用の導体の間に電位差がなければ、カップリング電流は流れません。

基板内の熱の流れ

ここでは、まず熱の流れによってアナログ性能にどのような影響が及ぶ可能性があるのかを明らかにします。熱を管理するというのは、単にコンポーネントや基板を適切な温度に保てばよいということではありません。それ以外にも重要な側面があります。

あらゆる設計において、放熱の手段を用意しておくのは不可欠なことです。消費電力が最小のレベルであったとしても、回路から熱エネルギーを外部へ放散させなければ、発熱によって故障が発生する可能性があります。幸い、干渉を軽減するために用いられる低インピーダンスの電源プレーンとグラウンド・プレーンには、熱伝導性の高い銅箔が使用されます。それらの銅箔をすべて活用すれば、熱エネルギーを基板全体に拡散させられます。そうすれば、基板全体の温度勾配も緩和されるので、熱電効果によるオフセットを軽減することが可能になります。そのオフセットは、高精度のアナログ回路において大きな問題になる可能性があるので、得られる効果は大きいと言えます。なお、アナログ回路、特に高感度なICや高精度の抵抗を使用する場合、信号ラインから直接熱エネルギーを放散できるようにしなければなりません。そのことだけを目的として、ベタのプレーンを配置しなければならなくなることもあります。その際には、信号/リターン電流の伝送ラインの忠実度を決して損なわないようにしなければなりません。また、動作環境や製品の使用状況が温度にどのような影響を及ぼすのかを検討する必要もあります。使用状況によっては、(製品の動作温度範囲の仕様に対して)非常に広い温度範囲を想定しなければならないかもしれません。

熱の管理についてはもう1つ考慮すべきことがあります。それは温度勾配です。熱電効果によって電圧が発生すると、高精度のアナログ回路に影響が及ぶおそれがあります。異種金属の接合部では、ゼーベック効果やトムソン効果によって熱電圧が発生します(本質的に熱電対と同じ原理)。導体の両端の温度が異なり、ゼーベック効果やトムソン効果が生じると、導体の長さ方向に電圧が生じます。金属の種類によって熱を伝える速度が異なることに加え、導体の種類に応じて発生する電圧の値も異なります。これらの現象は、基板上でも発生する可能性があります。コンポーネント内部の導体、半田、コネクタ・ピン、基板の配線パターンには、それぞれ異なる金属が使われているからです。μV単位の電圧に高い感度で反応する回路では、上記のような事象が原因で誤差が発生します。これを解消するには、熱源となる個所を減らすか、熱エネルギーが高感度なアナログ信号パスに影響を及ぼさないように放散経路を設計する必要があります。例えば、スロットや銅箔プレーンを用いて熱エネルギーの流れを制御するといった具合です。銅箔プレーンを使用すれば、熱エネルギーを安全に放散させられます。スロットを使用すれば、熱エネルギーの伝達が遮断されます。

まとめ

大規模で複雑な基板のレイアウトに着手する際には、必要な作業の多さに圧倒されてしまうかもしれません。そのような状態を避けるには、管理が容易なステップに作業を分割する方法が有効です。まず、回路図の段階でレイアウトしやすいように回路をグループ分けし、それらに関するメモを記述するとよいでしょう。その上で、グループ分けした回路の配置と配線を行います。

本連載では5回にわたり、電磁場を閉じ込めることを重視して基板を設計するための統一的な方法論を示しました。Part 1とPart2では、物理的な基礎を固めるための説明を行いました。EMIを低減するためには、電場と磁場を制御してそれらを閉じ込めることが極めて重要です。また、放射エミッションを低減する手法は、耐性の向上や干渉の低減にもつながります。続くPart 3では、回路図に基づいたコンポーネントの配置方法とグラウンディング・アーキテクチャの選択方法を明らかにしました。Part 4では、電源の配線とスタックアップの選定について解説しました。その中で紹介した手順に従って作業を進めることにより、コンポーネントの配置とスタックアップの選定を適切に実施できます。本連載の最終回となる本稿では、高精度のアナログ回路、シールディング、熱の管理について説明しました。その上で、非常に条件の厳しい設計の基板レイアウトにも対応可能な包括的な指針を示しました。本連載で説明した内容を遵守することにより、EMIのコンプライアンス・テストに一度で合格できるレベルの基板を適切に完成させることができるはずです。

参考資料

Richard P. Feynman、Robert B. Leighton、Matthew Sands「The Feynman Lectures on Physics, Vol. 2: The New Millennium Edition: Mainly Electromagnetism and Matter(ファインマン物理学 第2巻 - 新ミレニアム版 - 主に電磁気学と物性)」Basic Books、2011年

Howard W. Johnson、Martin Graham「High-Speed Digital Design: A Handbook of Black Magic(高速デジタル設計 - 黒魔術のハンドブック)」PTR Prentice Hall、1993年4月

Ralph Morrison「Fast Circuit Boards: Energy Management(高速回路用のボード - エネルギーの管理)」John Wiley & Sons Publications、2018年1月

著者について

James Niemann
James Niemannは、アナログ・デバイセズのフィールド・アプリケーション・エンジニア(FAE)です。2020年3月に入社しました。現在はオハイオ州クリーブランドで勤務。当社のFAEとして業務に携わってきた期間と、以前、テスト&計測の分野で機器設計に携わっていた期間を合わせると、技術者としての経験年数は35年以上に達します。また、15件の特許を保有しています。
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