EMIのコンプライアンス・テストに一度で合格する方法【Part 3】回路図を基にコンポーネントの配置とグラウンド・アーキテクチャを決定する
EMIのコンプライアンス・テストに一度で合格する方法【Part 3】回路図を基にコンポーネントの配置とグラウンド・アーキテクチャを決定する
2026年06月23日
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要約
本連載のPart 1、Part 2では、プリント回路基板(以下、基板)における「電磁場の閉じ込め方」について、物理学の基本的な理論の観点から解説してきました。また、電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)や外部の電磁場からの影響を最小限に抑えるための実践的なレイアウト手法も紹介しました。今回(Part 3)は、複雑な基板のレイアウトが必要になるケースについて考えます。その場合、早い段階でいくつかの重要な事柄について決定しておかなければなりません。具体的には、回路図の作成意図をコンポーネントの適切な配置に落とし込んだり、配線パターンの設計を開始する前に適切なグラウンド・アーキテクチャを選択したりする必要があります。今回は、そのための方法について詳しく説明します。また、レイアウトのことを考慮して回路図を作成する方法や、差動信号伝送を使用してグラウンド基準の信頼性を維持する方法、ベタのグラウンド・プレーンではなくグラウンド・ツリーを選択すべきケースなどについて解説します。これらの基本的な事柄について早い段階で正しく判断することが重要です。そのことが、EMIのコンプライアンス・テストに一度で合格するボードを実現するための最も確実な道になります。
はじめに
基板のレイアウトを実施する際には、次のような問題に遭遇するケースが少なくありません。それは、レイアウトに着手したものの、作業を適切に完了させるために必要なレイヤ数が不足していることに途中で気づくというものです。複雑な基板のレイアウトをやり直すという事態を避けるためには、どのようにしてフロア・プランを策定すればよいのかを理解しておく必要があります。つまり、配線パターンの設計を開始する前に、フロア・プランに関する基本的な問いに対する解を用意しておかなければなりません。その問いとは、以下に列挙するようなものです。
- レイアウトを適切に完了するには、どのくらいの基板面積(一般的にはコンポーネントの数やピンの数に依存)が必要になるのか。
- 配線パターンの設計を開始する前に、回路図をどのように活用して配置に関する決定を下し、干渉を回避すればよいのか。
- その設計にはグランド・プレーンではなくグランド・ツリーが必要なのか。グラウンド・ツリーが必要になるのはどのような場合なのか。
必要になる基板面積や信号のレイヤ数の見積りを容易に行えるようにするために、いくつものオンライン・ツールが提供されています。それらを利用する場合、以下に挙げるような情報が必要になるはずです。
- コンポーネントの総数、ピンの総数
- ビアの周囲のアニュラー・リングのサイズとドリル径
- 配線パターンの許容可能な最小幅
- 機能の面で必要になる電圧間隔(絶縁距離)の要件
多くのオンライン・ツールは便利なものであることに間違いはありません。しかし、それらを使用すれば十分だというわけではないことには注意が必要です。多くのツールは、熱流に関する要件、一部の配線の電流容量、機能上/安全上の要件によって拡大する絶縁距離などについては対応していません。また、特にクロストークの影響を受けやすい回路においてその問題を回避するために必要な設計手法や必要な間隔などについても考慮されていないケースが多いでしょう。つまり、各種のオンライン・ツールは、実際のアプリケーションにおけるあらゆる条件までカバーしているわけではないということです。
上記の内容を踏まえ、以下では、より優れた基板を設計するための指針を紹介します。
回路図を基に部品を配置
常に、最も重要なものは回路図です。回路内部の動作なども含めて、回路図に関するあらゆることを把握しておく必要があります。これについては、いくら強調してもしすぎるということはありません。
先述したとおり、基板の面積や寸法は、一般的にはコンポーネントの数とピンの数に大きく依存します。一方、層の構成は、配線や伝送ラインの数とそれらの性質によって決まります。本来、各種の制約は回路図(または設計)によって決まるべきものですが、必ずしもそのようになるとは限りません。例えば、利用可能な実装スペースに限りがあるケースも存在します。いずれにせよ、回路図には、レイアウトに関する要件を反映した形でコンポーネントを配置すべきです。少なくとも、基板のレイアウトに役立つメモを回路図中に記載しておく必要があるでしょう。面積を小さく抑えなければならないノードは回路図上でも小さくし(またはその旨をメモする)、近くに配置する必要がある回路は回路図上でも近くに配置します。このような工夫が、基板上に部品を配置する際に役立ちます。RF回路や高速デジタル回路では、物理的な距離(伝搬遅延)が重要になります。また、高精度のアナログ回路では何らかのアナログ的な要素が重要な意味を持つ可能性があります。その一方で、コンポーネントを物理的な距離が問題にならない集中定数素子だと見なせる設計も存在します。そうしたあらゆる事柄を何らかの形で回路図上にメモしておけば、作業の対象が回路図から基板に移行した後も何が重要なのかを把握できます。
部品の配置と配線
レイアウトに関する選択肢は、ある程度、回路図に影響を及ぼします。例えば、レイヤ数の少ない基板しか使用できないため、回路側である程度の妥協が必要になるといった具合です。また、複数のボード(基板間のコネクタを含む)を使用しなければならない場合にも回路図に影響が及びます。それ以外にも、典型的な例として差動信号の伝送が必要になるケースが挙げられます(図1)。この伝送手法は、ケーブルを用いて長距離にわたりアナログ信号やデジタル信号を伝送しなければならない場合に一般的に使用されています。その場合、ケーブルにグラウンド・ラインを用意した上で、正と負の信号の両方を送信することになります。各信号によって生じる変位電流の影響は、グラウンド上で互いに打ち消し合い、総合的に見ればゼロになります。結果として、この通信経路はコモン・モードの干渉の影響をほとんど受けません。また、EMIの発生も抑制できます。この手法は、ケーブルだけでなく、基板上の短距離の配線でも利用できます。高精度/高感度のアナログ回路においてグラウンドを安定した基準電位に維持したい場合や、基板上の配線距離が長くなりすぎる場合に有用です。
図1(a)の例では、長さが等しい2つの相補的な信号ラインが、同じグラウンド・プレーンを共有して並走するようにレイアウトしています。一方、図1(b)では、2つの信号ラインが、グラウンド・プレーンで分離された異なるレイヤ上に配置されています。各信号ラインの物理的な位置がほぼ同一であることから、両ラインに結合する干渉信号もほぼ同等になるはずです。その結果、差動信号では結合ノイズが除去されることになります。
グラウンド経路に電流が流れないようにするのは容易ではありません。そのため、グラウンド・プレーンを複数のセクションに分割するか、グラウンド・ツリーを採用しなければならないケースが生じます。グラウンド・ツリーが必要かどうかは、レイアウトの形状によって決まります。グラウンド・ツリーによって課題に対応する場合、回路図にも修正を加えてグラウンドを分離するようにします。つまり、実際には同じネットであっても、gnd1、gnd2、gnd3といった名前の異なるグラウンドのシンボルを使用するということです。それにより、レイアウトにおいてもそれらを確実に分離することが促されます。
グラウンド・ツリーとグラウンド・プレーンの比較
本連載のPart 2で説明したように、自然界では、信号源(エネルギー源)から供給されるエネルギー量(蓄積されるエネルギー量または消費されるエネルギー量)が最小になる経路が選択されます。例として、グラウンド・プレーン上の配線パターンによって伝送されるAC信号について考えます。この場合、そのAC信号に伴うグラウンドへのリターン電流は、常に信号の配線パターン直下のグラウンド層を流れます。電磁場は、ファラデーの法則が働けば、それだけで十分に閉じ込められるはずです。しかし、実際には信号の配線パターンの周囲には1つのグラウンド・プレーン(ストリップ・ライン構造では2つ)が設けられます。ベタのグラウンド・プレーンは、高い周波数においてより優れたデカップリング性能を提供します(高周波領域において電源のインピーダンスがより低くなる)。また、大量の銅箔全体によって、DC/ACの電磁場をより効果的に閉じ込めることができます。
グラウンド・プレーンを使用すれば、上記のような効果が得られます。それにもかかわらず、グラウンド・ツリーを使用しなければならなくなるのはどのような場合なのでしょうか。図2、図3は、両手法について説明するためのものです。また、損失を伴う伝送ラインのインピーダンスを表す式を以下に示します。
上の式を見ると、DC(ω = 0)では、伝送ラインのインピーダンスは√(R/G)(損失分)になります。1/Gも抵抗成分なので、リターン電流は利用可能なすべての銅箔を使い、抵抗が最小になる経路を通って戻ります。先述したように、自然界では、単にエネルギーを最小限に抑えられるように経路が選択されます。周波数が低い条件においては、グラウンド・ループのインダクタンスに蓄積されるエネルギーよりも、I2R損失として消費されるエネルギーの方がはるかに多くなります。ω = 0の場合、DCのリターン電流は、もはや信号の配線パターン直下の空間に閉じ込めることはできません。銅箔内を流れる電流によって、グラウンド・プレーン上で電圧降下が生じます。
図2に例として示したグラウンド・ツリーは、最もノイズが大きくリターン電流の量も多いトランス用のグラウンドから始まっています。ここから測定用のグラウンドで終わるブランチまで、グラウンドへのリターン電流が追加される形になっています。この方法により、グラウンドのノイズや誤差は、除去しやすいコモン・モードの成分に変換されます。但し、一部のブランチは、コンポーネントの配置に関する制約によって長くなるケースがあることに注意してください。すべてのブランチにグラウンド・フィルを適用する(銅箔のグラウンド・パターンを追加する)ことにより、この手法による効果を維持したまま電源のインピーダンスを下げることができます。
次に、図3に示すグラウンド・プレーンを用いる場合の配置について検討しましょう。この方法では、リターン電流の位置を制御することで、多くの電流によって、測定に影響を及ぼす電圧降下が生じないようにします。
グラウンド・プレーンを使用する場合、各信号レイヤに隣接する面を信号レイヤのリターン・パスとして使用します。しかし、この方法では、グラウンド・ツリーを用いる場合のように意図的にリターン電流の経路を制御することはできません。その場合、低い周波数領域において、グラウンド電流によるノイズがコモン・モード誤差になるのか、それともノーマル・モード誤差になるのかは、コンポーネントの配置によって決まります。
一方、高い周波数領域においては、インダクタンスによって全体の電流が抑えられます。そのため、信号源(エネルギー源)から供給されるエネルギーを最小限に抑えるには、蓄積されるエネルギーを少なく抑えることが重要になります。
低い周波数領域において、コンポーネントの配置や重要な測定用の基準グラウンドの位置によっては、電流が流れることによるグラウンドでの電圧降下によって測定誤差が生じる可能性があります。実際のグラウンドでは、あらゆる場所で値がゼロになるわけではないということです。
グラウンド・ツリーを使用する場合、回路図では、各ブランチに対応する部分に異なるラベルを付けるとよいでしょう。そうすれば、このアーキテクチャを基板に確実に適用することが促されます。グランド・ツリーを使用する場合、実際にはすべての伝送ラインに対して制御された(かつ小さな)電磁場の空間を確保し、ACの電磁場を閉じ込める必要があります。そのため、レイアウト作業の負担が非常に大きくなります。この問題を解決するには、図2に示したように広い銅箔を使用する必要があります。
まとめ
1本の配線パターンをレイアウトする前には、いくつかの判断を下す必要があります。それにより、その後のあらゆる成否が決まります。重要なのは、レイアウトに関する要件を反映するように回路図を整理し、早い段階で適切なグラウンド・アーキテクチャを選択することです。それにより、意図したとおりに動作するボードを実現するための土台が築かれます。グラウンド・アーキテクチャについては、ベタのグラウンド・プレーンを使用するのか、意図的な制御が可能なグラウンド・ツリーを使用するのかという選択肢があります。ただ、どちらを選んだとしても目標に変わりはありません。その目標とは、電磁場を閉じ込め、リターン電流を制御し、敏感なノードにノイズが到達するのを防ぐことです。次回(Part 4)は、この基本を踏まえて、電源システムのフロア・プランの策定、配線パターンの設計方法、設計に適したレイヤの数と構成を決定する方法について解説します。
参考資料
Richard P. Feynman、Robert B. Leighton、Matthew Sands「The Feynman Lectures on Physics, Vol. 2: The New Millennium Edition: Mainly Electromagnetism and Matter(ファインマン物理学 第2巻 - 新ミレニアム版 - 主に電磁気学と物性)」Basic Books、2011年
Howard W. Johnson、Martin Graham「High-Speed Digital Design: A Handbook of Black Magic(高速デジタル設計 - 黒魔術のハンドブック)」PTR Prentice Hall、1993年4月
Ralph Morrison「Fast Circuit Boards: Energy Management(高速回路用のボード - エネルギーの管理)」John Wiley & Sons Publications、2018年1月