EMIのコンプライアンス・テストに一度で合格する方法【Part 4】電源の配線とスタックアップに関する計画
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要約
前回(本連載のPart 3)は、回路図の整理、コンポーネントの配置、グラウンディング・アーキテクチャについて説明しました。それに続く今回は、配線(ルーティング)について決定すべき事柄を明らかにします。特に注目すべきは電源システムに関連する配線です。電源システムは、プリント回路基板(以下、基板)上で非常に大きな実装面積を占める回路の1つです。しかも、レイヤ数やスタックアップ(グラウンドや信号をどのレイヤで実装するのかといった計画)の決定に直接的な影響を及ぼします。そのため、電源システムに関連する配線には、レイアウト作業の早い段階から注意を払っておかなければなりません。今回は、2層から8層の基板を対象とし、適切なレイヤ数と最適なスタックアップを決定するための体系的な手順を紹介します。その手順に即して作業を進めることにより、すべての信号に対して、電磁場が閉じ込められた専用の伝送径路を用意することができます。重要なのは、レイアウトの開始時点からその手順に従うことです。それにより、設計のやり直しといった多大なコストのかかる事態を回避することが可能になります。
はじめに
前回は、レイアウトのことを考慮した回路図の整理方法、コンポーネントの配置に関するアプローチ、グラウンド・アーキテクチャ(グラウンド・プレーンとグラウンド・ツリー)の選択方法などについて解説しました。このような基本的な事柄について決定したら、いよいよ配線に着手することになります。但し、最初に行うべき作業の対象は信号の配線ではありません。まずは、電源システムについて検討を行うことが肝要です。本稿では、以下のような事柄について解説していきます。
- 低周波領域と高周波領域の両方を対象とし、干渉を生じさせることなく電流を供給できるよう電源システムの配線を行う方法
- 各信号ラインに専用の伝送空間を設け、電磁干渉(EMI:Electromagnetic Interference)を含む様々なノイズの問題を回避できるようにしながら、すべての伝送ラインの配線パターンを設計するために必要なレイヤ数(一般的にはネット数に依存)を求める方法
- すべての信号レイヤにわたり確実に電磁場を閉じ込めるための適切なスタックアップの選定方法
以下で説明する手順には、前回説明した配置とグラウンディングに関する決定事項をそのまま適用しています。その手順では、電源システムと信号、レイヤ数、スタックアップという順に検討を実施します。そのようにして作業を進めていくことにより、早い段階で適切な構成を実現できます。結果として、コストのかかるレイアウト設計のやり直しを回避することが可能になります。
配線についての検討手順
基板のレイアウトを担う設計者の中には、電源とグラウンディングをレイアウトのプロセスの最後に回す人がいます。しかし、実際にはコンポーネントの配置の直後にこの作業に取り組むべきです。それには大きな理由があります。
基板のレイアウトを実施する際には、どこかの段階でレイヤ数とスタックアップについて検討する必要があります。それらは、いずれも設計の複雑さと利用可能な基板の寸法に左右されます。レイヤ数とスタックアップについては、配線の開始後に決定することも不可能ではありませんが、できるだけ早い段階で決める方が望ましいでしょう。
基板の面積に関する要件は、配線の総数に加え、大電流用の配線(幅の広い配線パターンが必要)、高電圧用のネット(ネットの間隔を確保することが必要)、安全性の面から必要になる間隔などによって変化します。それらの配線パターンは、低電圧/低電流のアナログ信号やデジタル信号の配線パターンよりも多くのスペースを占有します。電源システムの配線とグラウンディングにも、多くのスペースが必要です。そのため、レイヤ数とスタックアップについては、なるべく早い段階で適切に決定しておくことが望ましいでしょう。
コンポーネントの配置や電源システムの配線、グラウンディングについて決定したら、信号用のレイアウトに着手することができます。その際には、重要なパターンから優先的に配線していきます。他の作業に進む前に、レイアウトの面で重要な配線を適切に完了させてください(この時点では必ずしも難易度が高いとは限らない)。重要な配線パターンの例としては、すべての敏感なアナログ回路やあらゆる高速回路などで使われる信号が挙げられます。各配線パターンについては、グラウンド内の高速/低速のリターン・パス、デカップリング、電源の供給について考慮する必要があります。グラウンドについては、高速成分のリターン・パスが(ファラデーの法則により)信号の配線パターンの直下をたどることになるため、扱いは容易です。この空間は、信号専用のものとして確保されます。低周波領域のリターン電流は、(前回説明したように)利用可能なすべての銅箔を対象として抵抗が最小になる径路をたどります。
電源システムの配線
信号の伝送に用いる配線パターンのほとんどは50Ωのインピーダンスで設計されています。これについては明確な理由があります。損失の生じない配線パターンのインピーダンスは√(L/C)で表されます。ここで、Lは単位長当たりのラインのインダクタンス、Cはグラウンド・プレーンに対する単位長当たりのラインの容量です。一般に、50Ωの配線パターンは幅が狭く(占有面積の節約に有利)、グラウンド・プレーンとの間で形成されるループ面積も大きくありません。帯域幅の観点からも、50Ωというのはちょうどよいインピーダンスなのです。インピーダンスが50Ωより低い場合、インダクタンスが大きな誤差の原因になります。一方、インピーダンスが高すぎると容量性の短絡の影響を受けやすくなり、標準的な基板の寸法を考慮するとうまく機能しない可能性が高くなります。
ただ、電源の供給に関しては上記のような議論に意味はありません。エネルギーの流れは、ポインティング・ベクトルS = E×Hによって表されます。つまり、伝送ラインのインピーダンスの影響は受けません。一例として、100W(10V/10A)の電力を供給するケースを考えてみましょう。インピーダンスの高いラインでは、10V/10Aという入力電力に対して電磁場の強度が弱いことを補うために、電磁場の面積や空間が大きくなります。一方、インピーダンスの低いライン(誘電体の空間が小さい)では、電磁場の強度(EとH)を強くすることによって体積の小ささが補われます。ラインのインピーダンスによって大きく変わる点があります。それは、インピーダンスの低いラインの方が電力を高速に供給できるというものです。この点については、電源システムを基板に実装する際に慎重に検討すべきです。では、インピーダンスの低いラインは、なぜ電力を高速に供給できるのでしょうか。それは、ラインのインダクタンスが小さいからです。ライン上の電流の変化を時間軸上で見ると、電圧をインダクタンスで割った値として表されます(V = Ldi/dt)。つまり、インダクタンスが小さいほど、電流はより短い時間でより高い値まで上昇します(電圧を供給するための理想的なバスでは、ラインの電圧は変化しません。そのため、S = E×Hにおいて電場Eは常に一定の値になることに注意してください)。
上記のような理由から、低いインピーダンスで電力を供給すれば負荷の急激な変化に対応できます。また、そのことが干渉に対する唯一の解決策だとも言えます。その理由は非常に興味深いものです。電源システムは、すべての回路をつなぐ共通の接続点です。例として、同じ電源とグラウンドを共有する2つのデジタル回路について考えてみましょう。その場合、各ライン・ドライバは信号の状態に応じて電源またはグラウンドのうちいずれかに信号ラインを接続することになります。信号ラインが共通の電源に接続されている場合、他にも多くのデジタル・ラインがその電源に接続されている可能性があることには注意が必要です。いわば、すべてのラインが全く同じネットに短絡していることになるからです。これを適切に機能させるには、電源システムのインピーダンスを非常に低く抑え、2つ(またはそれ以上)の信号が干渉しないようにしなければなりません。
電源とグラウンドに使用する銅箔は、エネルギーを伝送するだけでなく、電磁場を閉じ込める役割も担います。但し、実装に関する要件は、アナログ回路とデジタル回路とでは異なる可能性があります。デジタル回路では、伝送ラインが電源に直接接続されるので、EMIを含むノイズの問題を防ぐために、インピーダンスが低く帯域幅の広い電源が必要になります。アナログ回路では、必ずベタの電源プレーンを使用しなければならないというわけではありませんが、インピーダンスが低く高い周波数に対応可能な電源が有用である可能性は高いでしょう。アナログ回路については、システムで扱うアナログ信号の帯域幅内でデカップリング(インピーダンスを下げる)を施す必要があります。通常、それはデカップリング・コンデンサを用いることで実現できます。
スタックアップにおいてレイヤを追加できるだけの予算がある場合、(マイクロ・ストリップではなく)ストリップ・ラインを採用した設計が推奨されます。デジタル回路(ロジック回路)では、電源プレーンとグラウンド・プレーンを使用する必要があります。一方、アナログ電源については、一般的に配線パターンをX/Yグリッド上に配置し、各レイヤの配線を常に一貫した方向に向けなければなりません。配線パターンの電流容量に注意を払いつつ、電源の配線パターンを他の伝送ラインと同様に(グラウンドに隣接させて)扱うようにしてください。電源とグラウンドの個々のブランチについては、流れる電流量が多い径路から順に接続していきます。
まず、すべての部品を配置して、必要になる可能性があるレイヤ数を見積もり、スタックアップを決定します。その上で、必要な基板面積、電源システムの構成、一般的な配線の順序を把握します。ここまでの作業が完了したら、基板の残りの部分の配線を進めてください。なお、先ほど触れた敏感な配線パターンには、ここで説明する一般的な配線ルールを適用するべきではありません。それらについては、伝送ラインとアナログ機能に関する要件だけを考慮して設計を行う必要があります。それ以外の配線については、電源システムのレイアウトと同様に、一貫した配線の方向やスタックアップにおけるレイヤの使い分けといった同じルールを適用すべきです。それにより、効率良くレイアウトを完了させることができます。もっとも、それらのルールは絶対的なものではなく、必要に応じて例外を設けても構いません。但し、電磁場の閉じ込めやEMI、電磁環境適合性(EMC:Electromagnetic Compatibility)に対応するためのベスト・プラクティスは遵守しなければなりません。スタックアップの各レイヤでも、基本的に電源の配線で採用した配線の方向を踏襲することが望まれます。
レイヤ数とスタックアップの決定
部品の配置と配線は、ブロックごとに行う必要があります。回路図上の接続のほとんどは、設計上のブロックまたは回路グループ内で行われるからです。基板のレイヤ数は、その面で最も要件の厳しいブロックまたは回路グループによって決まります。実際のスタックアップは、基板上のブロック間で一貫している必要はありません。以下に具体的な作業の手順を示します。
- 回路図上(基板上)の回路をブロックごとに分割します。レイヤ数を制約する可能性に基づいて基板上の回路の配置を決定します。機能別に、伝送ラインの種類(電源か信号か)、干渉の影響の受けやすさ、それらの回路自体が電磁波を放射する可能性について検討します。
- レイヤ数の必要度(推定)に基づいて、回路のグループを並べ替えます。
- グループ1のスタックアップを決定します。それにより基板のレイヤ数が決まります。
- 残りの各回路グループについて、スタックアップを順に決定していきます。
- 各回路グループのコンポーネントを同じ順序で配置します。
上述した回路ブロックの一覧に従い、最初のグループから順番に基板上にブロックごとのコンポーネントを配置します。この作業により、必要な全体の面積を決定できます。これが完了したら、ブロック1(レイヤ数を決める可能性が最も高いブロック)に関する作業を開始します。レイアウトを開始するにはスタックアップを決定する必要があります。ここでは、まず4層基板(レイヤ数が4の基板)を前提として解説を進めることにしましょう。4層基板は、最小限のコストと労力で良好な結果が得られる可能性が高い最小構成の基板だと言えます。
上記の手順に従い、図1に示す4層基板を用いて、電源システム、重要なネットのレイアウトを順に実施します。スタックアップについては、以下に示す2つの選択肢があります。
- 外側の2層は信号用、内側の2層はグラウンド用:
この手法を用いれば、少ないビア数でレイアウトを実施できます。特に、スイッチング電源のレイアウトに採用すると大きなメリットが得られます。2つの選択肢のうち推奨されるのは、こちらの方法だと言えます。 - 外側の2層はグラウンド用、内側の2層は信号用:
この手法を採用すれば、放射や干渉の発生を最小限に抑えやすくなります。但し、基板の表面にコンポーネントを配置するので、すべてのピンに対応してビアを設ける必要があります。
次に、各レイヤの残りの配線の方向を選択します。その上で、必ず重要度の高いネットから順に配線してください。これは決して容易な作業ではありません。このレイアウト作業を適切に進めるためにも、回路図のあらゆる事柄について理解しておくことが重要です。最初のブロックが完了したら、2番目のブロックについても同様の検討とレイアウトを実施します。最初の数ブロックのレイアウトを実施した段階で、更にレイヤが必要であることが明らかになるかもしれません。なお、コストの面で厳しい制約が存在するのでなければ、2層基板に変更することは推奨されません。
6層以上の基板を採用すると、スタックアップの選択肢は大幅に増加します。図1には、いくつかの例だけを示してあります。すべてのスタックアップにおいて、最上層と最下層は信号とグラウンドの両方に使用されます。コンポーネントの配置の都合上、最上層と最下層から信号の配線パターンを排除することはできません。2層のスタックアップの場合、グラウンドは信号に隣接させるか、対向するレイヤの直下で引き回す必要があります。配線が完了したら、銅箔のフィルによって、電源とグラウンド間の容量を最大化すべきです。4層のスタックアップでは、信号と電源でレイヤ2とレイヤ3を共有し、信号とグラウンドでレイヤ1とレイヤ4を共有する方法が一般的です。6層や8層のスタックアップの場合、レイヤ数が十分に多いので、信号用により多くのレイヤを使用して適切なレイアウトを実現できます。
2層基板を用いる場合の注意点
2層基板を用いる場合、選択肢が限られます。一般的な手法は、上層に電源、下層にグラウンドを割り当てるというものです。レイヤが2つしかないので、各接続のグラウンドは、信号の配線パターンの直下または隣に配置する必要があります。その後、上層の残りの領域に電源の銅箔フィル、下層の残りの領域にグラウンドの銅箔フィルを配置してもよいでしょう。目標は電磁場を閉じ込めることなので、その点には注意してください。これは、各信号ラインに隣接するグラウンドが存在すれば実現できます(但し、ストリップ・ラインによる伝送ラインほど効果的に電磁場を閉じ込めることはできません)。2層基板の長所の1つは、すべての周波数に対応する電流が配置したリターン・パスに流れることです。2層基板によってインピーダンスが低い電源を実現するには、デカップリング・コンデンサに頼ることになります。また、プレーン間の容量がほとんど得られないので、インピーダンスを低く維持できるのは低周波領域に限られます。複数種の電源電圧を使用する場合、2層基板による設計は難しくなります。特に、それらの電源が基板の同じ領域を共有する場合には難易度が更に高まります。
4層基板を用いる場合の注意点
図1には、4層基板のスタックアップの例を2つ示しています。どちらのレイアウトを採用した場合でも、電磁場の閉じ込めを実現できます。各信号レイヤ(それぞれ配線の方向を選択済み)には専用のグラウンドが用意されることになり、間に障害になるものが何も存在しないからです。なお、6層基板や8層基板であれば、スタックアップの選択肢は更に増えます。
アナログ回路については要注意
ここまでに説明したスタックアップは、いずれもベタのグラウンド/電源プレーンの使用を前提としています。この前提は、ファラデーの法則によってリターン電流がすべて既知となるデジタル回路の設計に対しては有効なものです。しかし、アナログ回路を使用する場合には考慮すべきことが他にもあります。特に、超高感度な測定(μV、pAのレベル)や高い精度が求められる場合には注意が必要です。高速アナログ回路やRF回路の設計では、更に別の課題が生じます。それらについては次回(本連載のPart 5)取り上げることにします。
まとめ
電源システムの配線とスタックアップの選定は、レイアウトの最終工程まで先送りすべきことではありません。コンポーネントの配置後すぐに電源システムの配線に取り組むべきです。最も要件の厳しい回路グループから順に、レイヤ数やスタックアップについてブロックごとに体系的に検討を進めることで設計全体を支える基盤が確立されます。レイヤ数について言えば、4層基板が最初に検討すべき構成になるはずです。本稿で説明したスタックアップの選択肢は、ほとんどの設計において役に立つでしょう。但し、高精度のアナログ回路や、複数のグラウンドを使用するシステム、熱の面で重大な課題を抱える設計については、レイアウトを完成に導くまでに更なる検討が必要になります。それらについては、本連載のPart 5で説明します。
参考資料
Richard P. Feynman、Robert B. Leighton、Matthew Sands「The Feynman Lectures on Physics, Vol. 2: The New Millennium Edition: Mainly Electromagnetism and Matter(ファインマン物理学 第2巻 - 新ミレニアム版 - 主に電磁気学と物性)」Basic Books、2011年
Howard W. Johnson、Martin Graham「High-Speed Digital Design: A Handbook of Black Magic(高速デジタル設計 - 黒魔術のハンドブック)」PTR Prentice Hall、1993年4月
Ralph Morrison「Fast Circuit Boards: Energy Management(高速回路用のボード - エネルギーの管理)」John Wiley & Sons Publications、2018年1月