モノリシック・オペアンプは1960年代から存在していますが、このどこにでもあるデバイスの性能は、今なお着実に向上しています。高精度モノリシック・オペアンプLTC6090は、高精度オペアンプで期待される機能を損なうことなく、電源電圧を±70Vまで広げることによって大きく前進しました。LTC6090は、小型の8ピンSOパッケージおよび16ピンTSSOPパッケージで供給されています。両パッケージとも放熱用のパッドを備えており、熱抵抗を低くしてヒートシンクが必要ないようにしています。低電圧制御ラインとのインタフェースが容易で、熱に対する安全機能を内蔵しているので、高電圧のアナログ設計が大幅に単純化されます。
高電圧と高性能
良いオペアンプの条件とは、入力バイアス電流が低く、オフセット電圧が少なく、さらに低ノイズであることです。LTC6090も例外ではありません。MOS入力段を使用した設計により、入力バイアス電流は25°Cのとき標準で3pAであり、85°Cのときでも100pA未満です。このため、図1に示すようなフォトダイオード・アンプなどの高インピーダンスのアプリケーションに最適です。入力オフセット電圧は1.6mV未満と低く、ノイズは10kHzで11nV/√Hzです。入力同相範囲はどちらのレール電圧からも3V内側の範囲、つまり全体で140Vの電源では範囲は134Vになります。
高精度オペアンプは負荷を駆動する際にも精度を維持することを期待されます。LTC6090は、ここでも期待を裏切りません。ユニティゲインでも安定して動作する出力駆動能力には、10MHz のGBW積、高速スルーレート、および最大200pFを駆動できる±10mA定格のレール・トゥ・レール出力段があります。図2に示す例は、140VPーPの10kHz 正弦波です。負荷電流が増加しても出力振幅が適切に維持されている様子を図3に示します。また、図4 に示すように、出力電圧100VPーPでの低歪率増幅帯域は、8kHzまで伸びています。
高インピーダンス・アプリケーションのためのリーク電流の少ない回路
LTC6090は入力バイアス電流が低いので、高電圧を必要とする高インピーダンス・アプリケーションにとって優れた選択肢となります。図5に示すように、入力バイアス電流は対数的な温度依存性があり、10°C上昇するごとに電流は2倍になります。さらに、分離ポケット内に入力保護デバイスが配置されており、ここでは、入力ピンの電圧がV- に対して増加すると漏れ電流が増加します。図5では、入力ピンの電圧は電源電圧の中間に保持されています。
入力バイアス電流を低く維持するためには、PCBのレイアウトに注意が必要です。リーク電流の特に少ない特殊な基板材料を選ぶ必要があるかもしれません。さらにアプリケーションの要求が厳しい場合には、ガードリングの使用を検討してください。放熱用パッド付きのTSSOPパッケージには、入力ピンをリーク電流から保護するためのガードリング端子がついています。反転アンプのPCBレイアウトの例を図6に示します。
ガードリングを覆う半田マスクを後退させ、PCBの金属部分を露出させることが大切です。またPCBは清浄で水分のない状態にしておくことが重要です。基板を溶剤で洗浄して残留物を水道水で洗い流し、加熱して水分を蒸発させることをお勧めします。溶剤は使用せずに洗剤と水道水を使って基板を徹底的に洗浄すると良好な結果が得られることも分かりました。
低電圧制御ラインと高電圧オペアンプとのインタフェース
LTC6090の低電圧制御ラインは、負電源レールの電圧以上で正電源レールより5V低い電圧以下の電圧とインタフェースをとることができます。COMピンは低電圧制御ラインとのインタフェースをとる共通ピンとして機能しますが、低電圧システムのグランドに接続してもフロート状態のままにしておいてもかまいません。出力ディスエーブル(OD)ピンおよび過熱保護(TFLAG)ピンは、低電圧システムのグランドを基準にするようになりました。COM、OD、TFLAGの各ピンは、図7に示すようにダイオードと抵抗によって保護されます。COMピンをフロート状態のままにすると、COMピンの電圧はODピンの内部プルアップ抵抗によって電源の中間電圧より高くなり、電源電圧が±70Vのときは21Vになります。
過熱保護:ODとTFLAGを使用
全電源電圧が140Vの場合、標準の静止電流は2.7mAなので、LTC6090 が消費する電力は378mWです。負荷と電力が加わると1Wを超えるので、十分な熱設計を行う必要があります。SOパッケージおよびTSSOPパッケージは、どちらもパッケージの底部に放熱用パッドを備えています。放熱用パッドは内部で負電源レール(V–)に接続されており、負電源プレーンに接続する必要があります。十分広い面積のPCB金属部分を放熱用パッドに接続してください。パッケージの熱抵抗は放熱用パッドに半田付けされる金属の量(面積)に半比例します。良く設計されたPCBでは、SOパッケージの熱抵抗(θJA)は33°C /Wです。電力が1Wの場合、ダイの接合部温度は周囲温度より33°C高くなります。
LTC6090の接合部温度が150°Cを超えないよう保護する目的で設計された保護機能により、接合部温度が高くなりすぎると、出力段はシャットダウンします。この機能は過熱保護ピンを出力ディスエーブル・ピンに接続することで実現できます。過熱保護ピン(TFLAGピン)は、ダイの接合部温度が145°Cに達すると“L”になるオープンドレイン・ピンです。組み込みヒステリシスが5°Cあるので、TFLAGピンが開放されるのは、接合部温度が140°Cまで低くなったときです。出力ディスエーブル・ピン(ODピン)は、COMピンの電位を基準にして“L” になると、出力段をオフにしてデバイスの静止電流を670µAに減少させるアクティブ“L” 入力ピンです。これら2つのピンを互いに接続した場合は、ダイの接合部温度が145°Cに達すると、LTC6090はディスエーブルされます。なお、これらのピンはフロート状態で互いに接続してもかまいません。
ダイの接合部温度が約175°Cに達すると、最終的な過熱安全機能により、出力段が遮断されます。ヒステリシスが7°Cあるので、図8に示すように接合部温度が約168°Cに戻ると、出力段はイネーブルされます。図8に示すのは接合部温度であることに注意してください。この機能はデバイスが熱的に破壊されることがないようにするためのものです。LTC6090の接合部温度を絶対最大定格である150°Cより高い温度で動作させることは、信頼性の観点からお勧めできません。
まとめ
LTC6090 は低電圧の高精度アンプと同等の性能を持っていますが、高電圧アプリケーション向けに±70Vで動作する能力を持っています。これらの機能には、高精度フロントエンド用の高利得、低入力バイアス電流、低オフセットおよび低ノイズが含まれます。レール・トゥ・レールの出力段は200pFの負荷コンデンサおよび±10mAの負荷電流を駆動できるので、LTC6090は高インピーダンス・アンプなどの高精度高電圧アプリケーションに最適です。インタフェースが容易な制御ラインを備えており、出力の遮断や、過熱時の遮断も容易に実現できます。小型の8ピンSOパッケージおよび16ピンTSSOPパッケージにはいずれも放熱用のパッドがあるので、ヒートシンクを取り付ける必要がありません。