実装密度の高いパワー・コンバータ近傍の金属に生じる渦電流の影響を軽減する
要約
スイッチング電源には磁気部品が不可欠です。磁気部品を使えば、小型のものであっても高い効率でエネルギーを蓄積できます。また、電圧の変換やフィルタリング、絶縁といった機能も実現可能です。実際のアプリケーションでは、フェライト・コアのエア・ギャップやフリンジング効果に起因して漏れ磁束が生じます。その影響は、ヒート・シンク、基板上の銅レイヤ(基板の各層に存在する銅箔)、その他の導体といった近傍の金属に及ぶことがあります。具体的には、それらの金属内で渦電流が発生し、その影響で追加の損失やインダクタンスの変動が生じます。本稿では、有限要素解析(FEA:Finite Element Analysis)を利用して、近傍の金属が渦電流による損失(以下、渦電流損)やインダクタンスの変動に及ぼす影響について検証します。また、それらの影響を低減するための方法をいくつか紹介します。
はじめに
スイッチング電源では、様々な種類の磁気部品が使用されます。最も一般的なものは、ディスクリート部品として提供されているインダクタでしょう。結合インダクタ(Coupled Inductor)もスイッチング電源で使われるインダクタの一例です。更に、TLVR(Trans-inductor Voltage Regulator)ではトランスが用いられます。多くのインダクタは、フェライト・コアにエア・ギャップを設ける形で実現されます。その目的は、コアの磁気飽和を防ぎつつ、エネルギーを蓄積する能力を高めることです。フェライト・コアの材料としては、透磁率が空気よりもはるかに高いものが用いられます。そのため、磁束の大部分はエア・ギャップを設けたフェライト・コア(以下、単にコアと表記します)の内部に留まります。しかし、エア・ギャップの付近ではフリンジング磁束が発生し、その一部が周囲の空間に漏れ出します。その漏れ磁束によって、近傍に存在する金属内で渦電流が誘起されます。その結果、追加の損失や効率の低下が生じるおそれがあります。効率が低下する主な原因は、渦電流損の増加と電流リップルの増大です。渦電流によって逆向きの磁界が生じるので、実効的なインダクタンスの値が低下してしまうのです。
上記の問題の解消に向けた検討では、FEAを用いたシミュレーションが広く利用されています。図1(a)に、エア・ギャップを備える磁気部品のモデルを示しました。この部品は、単一のエア・ギャップを備えるコア(灰色)と2つの巻線(オレンジ色)で構成されています。本稿では、基本的な理論を説明するためにこのモデルを使用することにします。一方、図1(b)のモデルは、銅レイヤを使用するプリント回路基板に図1(a)の部品を実装した状態を表しています。コアの上下に、厚さが200μmの銅板(緑色)が配置されています。
渦電流の発生、それによるインダクタンスの低下
FEAによるシミュレーションでは、一方の巻線に周波数の高いAC電流を印加し、他方の巻線はオープン(電流は流れない)の状態にします。それにより、自己インダクタンス/相互インダクタンス/漏れインダクタンスに対する渦電流の影響を個別に確認できます。図2のシミュレーション結果は、コアの上方における空気中の磁束密度(B磁場)の分布を表しています。図2(a)は、近傍に銅が存在しない場合の結果です。一方、図2(b)には、銅レイヤが存在する場合の結果を示しました。銅は導電率が高いので、漏れ磁束が銅レイヤを通過して上方に広がるのを抑えられます。実際、周囲の空気中における漏れ磁束は大幅に低減されます。
ここで、図2(a)に示す磁束分布に右ねじの法則を適用すると、図3に示すように、上部の銅レイヤに反時計回りの渦電流が誘起されることがわかります。最も多くの渦電流が流れるのは次の2ヵ所です。1つは、周囲の空気中により多くの磁束が漏れ出すコアのエア・ギャップの真上です。もう1つは電流源に近い巻線の真上です。
図4(a)では、B磁場を観測するための平面(ピンク色)を設定しています。また、図4(b)にはB磁場のプロットを示しました。このプロットを見ると、銅板によって漏れ磁束が抑制されていることがわかります。
図5は、図4(b)に示したコアの中心部の白い点線に沿った磁束密度(B磁場)を示したものです。励磁される巻線は1つだけであり、その巻線と鎖交するコアの部分(距離は0~3mm)のB磁場は、自己インダクタンスを形成する全磁束を表します。一方、励磁されていない巻線と鎖交するコアの部分(距離は3~6mm)のB磁場は、相互インダクタンスを形成する相互磁束を表しています。ここで、オレンジ色の曲線は銅板がある場合、青色の曲線は銅板がない場合の結果です。図5を見ると、相互磁束はほとんど変化していません。銅板が存在する場合、漏れ磁束が低減されるため、全磁束が大幅に減少します。
続いて、銅とコアの距離がインダクタンスに及ぼす影響を確認します。そのために、上側の銅板は巻線から100μm上方に配置し、下側の銅板は巻線から900μm下方に配置することにしました。このような形で、ある例についてシミュレーションを実施し、自己インダクタンスL11、相互インダクタンスL12、漏れインダクタンスLk1、結合係数kの値を求めました。表1は、その結果をまとめたものです。
| パラメータ | L11 (nH) | L12 (nH) | Lk1 (nH) | k |
| 銅板なし | 45.10 | 35.09 | 10.01 | 0.778 |
| 上側の銅板あり | 40.13 | 34.00 | 6.12 | 0.847 |
| 下側の銅板あり | 43.02 | 35.36 | 7.66 | 0.822 |
| 両方の銅板あり | 37.11 | 34.41 | 2.70 | 0.922 |
上側の銅板は下側の銅板に比べてコアや巻線に近い位置にあります。そのため、表1に示したように漏れインダクタンスや自己インダクタンスに対してより大きな影響が及んでいます。両方の銅板が存在する場合、自己インダクタンスは17.7%減少し、漏れインダクタンスは73.0%減少します。このように低減されたインダクタンスの値をデューティ比が0.15、4相のTLVRに適用した場合、電流リップルが最大50%増大する可能性があります。
図3に示したように、最も多くの渦電流は、コアのエア・ギャップと励磁された巻線の上方に生じます。インダクタンスの変化に対するそれぞれの影響を評価するために、それらの個所に対応する銅板に切り欠き(溝)を設けました(図6)。
図7のシミュレーション結果は、切り欠きを設けた2種類の銅板におけるB磁場の分布を表しています。図7(a)を見ると、2つのコア部の間における磁束の鎖交が大幅に改善されています。また、表2に示すように相互磁束が増大します。一方、図7(b)では、巻線の上方の空気中に漏れ出す磁束が著しく増加しています。その結果、表3に示すように漏れ磁束が増大します。漏れ磁束の低減には銅板全体が寄与するので、巻線の上側の銅板だけに切り欠きを設けても限定的な改善効果しか得られません。
| パラメータ | 切り欠きのない銅板 | コア幅の27%の切り欠きを設けた銅板 | コア幅の67%の切り欠きを設けた銅板 |
| L11 (nH) | 37.11 | 38.57 | 40.27 |
| L12 (nH) | 34.41 (基準) | 35.84 (増分は1.46) | 37.52 (増分は3.16) |
| Lk1 (nH) | 2.70 | 2.73 | 2.75 |
| k | 0.922 | 0.929 | 0.932 |
| パラメータ | 切り欠きのない銅板 | 巻線幅の127%の切り欠きを設けた銅板 | 巻線幅の193%の切り欠きを設けた銅板 |
| L11 (nH) | 37.11 | 38.51 | 39.54 |
| L12 (nH) | 34.41 | 34.42 | 34.51 |
| Lk1 (nH) | 2.70(基準) | 4.09 (増分は1.39) | 5.03 (増分は2.33) |
| k | 0.922 | 0.909 | 0.897 |
近傍の金属を流れる渦電流の影響を軽減する方法
ここまで、磁気部品の近傍の金属内を流れる渦電流の影響について検討してきました。以下では、その影響を軽減するための方法をいくつか紹介します。
【方法1】エア・ギャップを狭める
先述したように、磁気部品の近傍の金属内を流れる渦電流によって効率が低下する主な理由は2つあります。1つは、インダクタンスの値が低下することにより、電流リップルが増大するというものです。もう1つは、金属内の渦電流によって損失(渦電流損)が増加するというものです。1つ目の理由に対する解決策としてはインダクタンスの値を増やせばよいということになります。その方法の1つは、コアのエア・ギャップを狭くする(エア・ギャップ長を短縮する)ことです。以下、これを「方法1」と呼ぶことにします。コアのエア・ギャップを狭めると、磁気リラクタンスが低減されます。それにより、発生する磁束が増えてインダクタンスが増大します。また、コアの材料内に磁束がより強く閉じ込められるようになり、周囲の空気中に対する漏れ磁束が減少します。それにより、近傍にある導体性の構造に流れる渦電流の影響や、それに伴う損失を低減できます(図8)。表4は、エア・ギャップ長lgが異なる2種類のコアにおけるインダクタンスの値を比較したものです。エア・ギャップを0.25mmから0.15mmまで狭くすると、トータルのインダクタンスは37.2%、相互インダクタンスは40.1%増加します。この方法によって、渦電流損はどの程度削減できるのでしょうか。表5にその結果を示しました。この表には後述する対策方法を適用した場合の結果もまとめてあります。なお、損失の低減とのトレードオフとしてインダクタの飽和電流の値が低下します。
| Ig (mm) | L11 (nH) | L12 (nH) | Lk1 (nH) | k |
| 0.15 | 50.92 | 48.21 | 2.71 | 0.947 |
| 0.25 | 37.11 | 34.41 | 2.70 | 0.927 |
| 適用する方法 | 銅板による渦電流損〔mW〕 |
| 基準(いずれの方法も適用しない) | 467 |
| 方法1: コアのエア・ギャップ長を40%短縮 | 373.5(20%の減少) |
| 方法2: 上側の基板の最下層を除去 | 417(11%の減少) |
| 方法3: スイッチング周波数を1.5倍に向上 | 248(47%の減少) |
| 方法1+方法2 | 197(58%の減少) |
| 方法1+方法2+方法3 | 176(58%の減少) |
【方法2】最も影響の大きい銅レイヤを除去する
磁気部品の近傍の導体が基板内の複数の銅レイヤによって構成されているケースを考えます。その場合、渦電流損を低減する方法の1つは、巻線やコアに最も近いレイヤの銅の面積を減らすことです(方法2)。銅レイヤが巻線に近いほど、そのレイヤが受ける磁束は強くなります。また、誘起される渦電流も増加します。そこで、図9に示すように、上側の基板の最下層に当たる銅レイヤを除去します。
図10に、銅レイヤが8層である場合の渦電流の密度を示しました。ご覧のように、最下層(サブレイヤ8)に最も多くの渦電流が流れています。それに対し、最上層(サブレイヤ1)の渦電流は最も少なくなっています。渦電流の方向は、巻線による元の磁束と、隣接する銅レイヤ内を流れる渦電流の両方からの影響を受けます。銅レイヤが薄い場合、巻線からの磁束を完全に遮蔽することはできません。一部の磁束は透過して上層内の渦電流が誘起されます。しかし、銅レイヤが巻線から十分離れている場合や、隣接するレイヤが磁束を遮断するに十分な厚さである場合、巻線の磁束の影響は無視できるレベルになります。この場合、銅レイヤ内の渦電流は、主に隣接するレイヤ内の電流によって誘起されます。例えば、図11に示すように、巻線上部のサブレイヤ8における銅の領域内の渦電流は巻線の電流と逆方向に流れます。それに対し、サブレイヤ4では巻線の電流と同じ方向に渦電流が流れます。
図12に示したのは、上側の基板における渦電流の密度です。銅レイヤが8層(オレンジ色)の場合と7層(青色)の場合を比較しています。電流の測定は図10に示した黒い矢印に沿って実施しました。サブレイヤ8を除去すると銅が存在しない状態になるので、同レイヤ内の渦電流はゼロになります。これは、表5に示すように渦電流損の低減に寄与します。しかし、サブレイヤ7、同6、同5の電流密度は、銅レイヤが8層の場合と比べると大幅に高くなります。なぜなら、巻線からの磁束を阻止するサブレイヤ8が存在しないので、残りのサブレイヤには多くの渦電流が誘起されるからです。つまり、この方法はインダクタンスの増加には寄与しません。
【方法3】スイッチング周波数を高くする
渦電流の影響を低減するもう1つの方法は、スイッチング周波数を高くすることです(方法3)。それにより電流リップルが低減され、渦電流損の低減につながります(表5)。ここまでに紹介した方法1、方法2、方法3を同時に適用すれば、スイッチング電源のピーク効率は87.4%から89%に向上します。また、全負荷効率は86.7%から87.2%に改善されます。
μModuleレギュレータの上面に配置したインダクタのエア・ギャップによる影響
「LTM4680」は、μModule®技術を採用した降圧レギュレータです。16Vの入力とシングル(60A)/デュアル(各30A)の出力に対応します。PMBus®に対応するデジタル・インターフェースを備えており、16mm×16mm×7.82mmの小型BGAパッケージを採用しています。一方、「LTM4700」は、デュアル(各50A)またはシングル(100A)の出力に対応する降圧レギュレータです。出力電流の容量が大きいことが特徴であり、15mm×22mm×7.87mmのBGAパッケージを採用しています。どちらの製品も、多様なアプリケーションにおいて高い性能を発揮します。小さなフットプリントで高い効率を達成するために、パッケージ上部にエア・ギャップを設けたインダクタ(フェライト・コアをベースとする)を収容しています。
図13に示したのは、LTM4700のパッケージの3Dモデルです。この上部にヒート・シンクや基板を近接させて配置すると、先述した渦電流の影響によってインダクタンスと電源全体としての効率が低下する可能性があります。その影響を軽減するためには、ヒート・シンクの金属板に細長い穴を設けるとよいでしょう(図14)。また、LTM4700やLTM4680の上面の近傍に多層基板を配置する場合には、最も影響の大きい銅層を除去する方法が有効です。それにより、渦電流損を更に低減できます。スイッチング周波数を高くする方法も適用できるかもしれませんが、その場合、スイッチング損失が増加する可能性があります。
まとめ
スイッチング電源において、渦電流を生じさせる導電性材料の近傍に磁気部品が配置されていると、変換効率が低下します。本稿では、その原因を解き明かしました。渦電流は、損失を増加させるだけでなく、実効インダクタンスを低下させます。その結果、電流リップルやAC損失が増大します。本稿では、FEAシミュレーションによってそうした挙動を評価しました。また、効率を向上させるための3種の対策方法を示しました。コアのエア・ギャップ長を短くする、最も影響の大きい銅レイヤを除去する、スイッチング周波数を高くするという3つの方法です。コアのエア・ギャップ長を短縮すれば、インダクタンスの低下と渦電流損の両方に対処できます。但し、飽和電流が低下するというトレードオフが伴います。残る2つの方法は、主として渦電流に関連する損失の低減を目的としたものです。
本稿で説明した内容は、LTM4680/LTM4700の実装に適用できます。渦電流が発生する実際のアプリケーションでは、その影響を軽減するために、いくつかの対策方法を組み合わせることも検討してください。
