多層プリント基板において電源とグラウンドの短絡が発生していたとします。その短絡個所を特定するにはどうすればよいのでしょうか。その作業は意外に難易度の高いものになるかもしれません。その方法について誰かに質問したとしたら、多くの場合「12Vの電池をつないで、煙が出る場所を見つけなさい」といった答えが返ってくることになるでしょう。確かに、その方法によって短絡個所を特定できるケースもあるかもしれません。ただ、その方法を試みた結果、基板が損傷してしまうこともあるはずです。つまり、この方法は決して好ましいものではないということです。
短絡個所を見つけるもう1つの方法としては、次のようなものも知られています。その方法では、まず短絡した電源パターンの電源層とグラウンド層の間に直流の定電流源を接続します。次に、マイクロボルト・メータを使って基板をプロービングします。その結果、基板上で最低の電圧になる点を見つけ出すことができれば、短絡した個所を特定できるはずです。但し、この方法が有効なのは、2層基板において抵抗値が数mΩの細いパターンにより電源を接続しているといった場合に限られます。例えば、電源プレーンとグラウンド・プレーンを設けている場合には、抵抗値が低すぎて電圧を読み取ることはできません。また、電源プレーンは通常は内部層に埋め込まれるので、プローブで触れることもできないでしょう。つまり、これも最適な方法だとは言えないということです。
筆者は以前、光学信号処理の用途に向けた約8万米ドル(約1060万円)もするプロトタイプ基板の短絡を見つけるよう依頼されたことがありました。その際に、短絡個所を特定するための非破壊的で非常にシンプルな方法を見いだすことができました。
筆者が選択した方法は、直流電流源の代わりに可聴帯域周波数の交流電流源を使用するというものでした。通常、その電流によって発生する交流磁場は、基板において電流が流れる2つのプレーンが近接していることから相殺されます。しかし、基板上の部品が原因で短絡が生じている場合には、その部分に電流が集中して乱れが生じ、基板上の他の個所と比べて強い交流磁場が発生します。基板上に実装されたバイパス・コンデンサ(電解コンデンサ)も電流を伝導しますが、通常、それらの等価直列抵抗(ESR)は直接短絡している場合と比べて何桁も高い値になります。
上記の方法では、磁気に対応する小さなピックアップ・ループを作製して使用します。それによって取得した信号をゲインの高いアンプに入力し、その出力をイヤフォン(ヘッドフォン)に接続します。このようなプローブを使用して基板全体を走査し、最も大きい音が聞こえる場所を探します。それにより、短絡している個所をかなり容易に見つけ出すことができます。プローブの大きさを十分に小さく抑えれば、ICの各ピンのレベルで短絡個所を特定することが可能です。
筆者の場合、信号を生成するためにHi-Fiオーディオ用のパワー・アンプとファンクション・ジェネレータを使用しました。また、ゲインの高いフォノ・プリアンプを使うことによって、ピックアップ・ループをベースとするプローブからの信号を増幅しました。ただ、これらと同じ機能を実現する回路をかなりシンプルな構成で実現することも可能です。その場合、電流の発生/増幅用の回路とピックアップ・ループ用のレシーバ回路の2つを構成することになります。以下、それぞれについて説明します。
電流の発生と増幅
図1に示したのが、オーディオ信号(可聴帯域周波数の交流電流)の生成/増幅を担う回路です。この電流発生器は、オーディオ用のパワー・アンプとファンクション・ジェネレータの代わりに使用します。約800Hzの方形波を生成するマルチバイブレータを、電流源出力を備えたパワー・アンプ段に接続しています。この電流発生器を、対象とする基板に接続します。電流発生器に対する給電には1.5Vのアルカリ単1電池を使用します。それにより、方形波の形で1Aの電流を供給します。
マルチバイブレータは、トランジスタQ4、Q5によって構成しています。また、トランジスタQ3、Q2により、同Q1を十分に飽和させられるだけの電流ゲインを実現します。Q1から基板に供給される電流は、抵抗R4と単1電池の内部抵抗によって制限されます。使用する電池の容量は10Ahであり、図1の回路には0.5Aの電流が流れます。ほとんどの場合、場所の特定には5分もかからないはずです。そのため、電池の寿命を考慮する必要はありません。
ピックアップ・ループ用のレシーバ回路
図2に示したのがピックアップ・ループ用のレシーバ回路です。このレシーバ回路は、シングル・ターンのピックアップ・ループによって取得した小さな信号を増幅する役割を果たします。その際には、ノイズを過剰に付加することなく、イヤフォンを駆動するのに十分な信号レベルが得られるようにしなければなりません。そのために、電圧ノイズが極めて小さいオペアンプ「LT1028」を2個使用し(オペアンプU1、U2)、約100dBのゲインを実現できるようにしています。
この回路では、U1に帰還抵抗R3、R1を付加することによって57dBのゲインを得ます。また、コンデンサC1を使用することにより、カットオフ周波数が300Hzのハイパス・フィルタを構成しています。それにより、このブロック全体としてのゲインはDCにおいて1になります。このようにすることで、オフセット電圧によってオペアンプの出力が電源レールまで駆動されるのを防ぐことが可能になります。一方、R3とコンデンサC3を組み合わせることで、カットオフ周波数が1kHzのローパス・フィルタを構成しています。このフィルタの目的は、過剰なノイズを抑えつつ、検出した方形波をフィルタリングして、より聞きやすい音を生成することです。抵抗R7とコンデンサC5、抵抗R4とコンデンサC4、コンデンサC6も、それぞれハイパス特性、ローパス特性のフィルタを実現します。それにより、DCゲインを1に設定します。R4と抵抗R2は2段目のゲインを39dBに設定する役割を果たします。それにより、回路全体としては96dBというゲインが得られます。トランジスタQ1は、イヤフォンを駆動するための電流ゲインを提供します。
電流の注入とピックアップ・ループの詳細
電源とグラウンドに大電流の方形波を供給すれば、ピックアップ・ループの近傍にある電源トランスや外部のノイズ源によって生じる外部磁場の影響を受けないようにすることができます。電流発生器によって生成された磁場とレシーバ回路の間の結合は、短絡個所の特定に必要な感度を達成できるようにするために最小限に抑えなければなりません。また、電流発生器に接続するリード線とピックアップ・ループに接続するリード線については、両者の間の磁気結合を最小限に抑えるために、しっかりとツイストする必要があります。但し、その結合は最小の電場により磁気的に発生するものなので、リード線に網線シールドを適用する必要ありません。電流発生器のリード線は、基板の端にできるだけ近い位置に接続する必要があります。
ピックアップ・ループは、30AWGのワイヤをベースとするラッピング・ワイヤにより、1/4インチ(0.635cm)のシングル・ループとして作製しました。ピックアップ・ループからのワイヤ・ラップ・ケーブルは、レシーバ回路に接続する前の段階で、全長にわたってしっかりとツイストさせました。短絡個所の特定を試みる際には、電流発生器を接続した状態で、レシーバ回路から大きな音が検出されるまで、ピックアップ・ループによって基板上を走査します。短絡個所に近づくと、音量が増加するはずです。本稿で紹介した例では、ピックアップ・ループのサイズを十分に小さく抑えています。そのため、短絡個所を正確に特定することが可能です。