デジタル機能を備えるリニア・レギュレータ
要約
低ドロップアウト(LDO:Low Dropout)のリニア・レギュレータの分野に新たなカテゴリの製品が登場しました。本稿では、それらの製品を「デジタル機能を備えるリニア・レギュレータ」と呼ぶことにします。この種のレギュレータは、フットプリントを非常に小さく抑えつつ、テレメトリの機能や各種調整用の機能を提供します。RFや計測の分野で求められる超低ノイズかつ高機能のアプリケーションに最適なソリューションだと言えます。
はじめに
リニア・レギュレータは、高い入力電圧を基に低い出力電圧を生成するシンプルな電圧コンバータです。動的に値が変化する抵抗のように振る舞うので、出力電流の値に依存することなく、設定された出力電圧の値を維持することができます。シンプルでありながら、常に必要な値が得られるよう高い精度で調整が行われるということです。
ただ、リニア・レギュレータが利用される場面は徐々に少なくなっています。ほとんどのアプリケーションでは、スイッチング・レギュレータ(SMPS:Switch-mode Power Supply)の方が優れた選択肢になり得るからです。一般に、スイッチング・レギュレータではリニア・レギュレータと比べてはるかに高い効率が得られます。また、スイッチング・レギュレータは使いやすく、様々な種類のものが製品化されています。しかし、ある用途に限って言えば、現在でもリニア・レギュレータは極めて有用なデバイスとして使われています。その用途とは、スイッチング・レギュレータの出力電圧にフィルタリングを施すために使用するというものです。図1に、そのような使い方の例を示しました。スイッチング・レギュレータの出力電圧には、そのレギュレート手法に依存する電圧リップルが含まれています。この例では、そのリップルを低減するためにリニア・レギュレータ(LDOレギュレータ)を使用しています。一般に、LDOレギュレータはPSRR(電源電圧変動除去比)性能が高いという特徴を備えています。PSRRは、電源電圧の変動(周波数成分)の影響をどれだけ抑えられるのかを表す指標です。つまり図1の構成では、LDOレギュレータに入力される電圧リップルがフィルタリングされます。その結果、同レギュレータの出力としては非常にクリーンな電圧が得られるということです。
超低ノイズのLDOレギュレータ
図1に示した用途をターゲットとして特別に設計されたリニア・レギュレータ製品が存在します。それらの製品は、「超低ノイズのLDOレギュレータ」と呼ばれています。超低ノイズのLDOレギュレータは、PSRR性能が高いことに加え、1Hz~100kHzといった低い周波数領域において非常に小さなノイズしか発生しないという特徴を備えています。
その一般的な用途の例としては、計測用の回路など、高い精度が求められる広帯域幅/狭帯域幅の回路が挙げられます。より具体的に言えば、フェーズ・ロック・ループ(PLL)、電圧制御発振器(VCO:Voltage Controlled Oscillator)、ミキサー、低ノイズ・アンプ(LNA:Low Noise Amplifier)、パワー・アンプ(PA:Power Amplifier)などに給電するために使われます。
デジタル機能を集積したLDOレギュレータ
上述したような用途において、電源の状態を検出する機能を利用できると非常に便利です。つまり、リニア・レギュレータの入力電圧、出力電圧、負荷電流、温度に関する情報を取得し、回路が適切に動作していることを確認可能なシステムが求められるケースが存在するということです。そのようなアプリケーション向けに開発されたのが、デジタル機能を備えるLDOレギュレータ(以下、デジタルLDO)です。
デジタルLDOにおいても、主機能に関する部分は従来の超低ノイズのリニア・レギュレータと同様に設計されます。デジタルLDOの特徴は、デジタル・インターフェースであるPMBus®に対応するデジタル回路を備えている点にあります。ここで図2をご覧ください。図1のシステムと似ていますが、デジタルLDOである「LT3074」とマイクロコントローラを使用していることがわかります。
デジタルLDOは新たなカテゴリの製品です。従来、アナログ・デバイセズは、「LT3041」のような超低ノイズのリニア・レギュレータと組み合わせるためのものとして、「LTC2972」に代表されるパワー・システム・マネージャ製品を提供していました。LTC2972は、デジタル・インターフェースとしてPMBusをサポートするICです。しかし、そうした2つのICを組み合わせる方法ではフットプリントが大きくなります。それだけでなく、回路の設計が複雑化します。それに対し、LT3074をはじめとする新たなデジタルLDOには、様々なデジタル機能が統合されています。具体的には、電流制限の値や出力電圧の値といったLDOのパラメータを設定するためのデジタル・インターフェースと、動作の状態に関する情報を取得するためのテレメトリ機能が集積されています。図2に示したシステムでは、マイクロコントローラとデジタルLDOの間でPMBusを介した通信が行われます。
図2のようなシステムの開発/評価には、デジタル・パワー・マネージメント製品向けのソフトウェア・ツール「LTpowerPlay®」を利用できます。LTpowerPlayはanalog.com/jpでダウンロード提供されています(無償)。LTpowerPlayを使用すれば、PCが備えるUSBポートとPMBusのインターフェースを経由してデジタルLDOとの通信を実現することができます。一連の機能は、GUI(Graphical User Interface)ベースの操作によって利用可能です。
ところで、これまで超低ノイズのLDOレギュレータICにはなぜデジタル・インターフェースが集積されていなかったのでしょうか。それは、超低ノイズのLDOレギュレータを実現するための技術とデジタル・クロックで動作する回路を組み合わせるのが難しかったからです。わかりやすく言えば、単一のIC上でデジタル部からアナログ部への干渉を回避するのが困難であったということです。RMSノイズが1.2μVrms(10Hz~100kHz)のLT3074では、そのような難易度の高い統合が実現されました。
まとめ
デジタルLDOは、リニア・レギュレータの分野における新たな進化の成果として誕生しました。RF、計測、医療といった分野でより高度なシステムを生み出すことに貢献するデバイスだと言えます。デジタルLDOを採用したシステムでは、テレメトリ機能を利用することで堅牢性を高めることができます。また、そのシステムではパラメータの調整機能をはじめとする様々な機能を利用することが可能になります。更に、高い集積度によって小型化も実現されます。