LT3796-1は、出力で定電流または定電圧を安定化する目的(LEDを 駆動するのに必要な要件)で設計されたスイッチング・コントローラです。このデバイス独自の特長は、独立した2つの電流検出アンプとハイサイドPMOS切断スイッチ・ドライバです。ドライバは、PWMピンを使用してスイッチング・レギュレータと組み合わせて動作させるか、TGENピンを使用して単独で動作させることができます。
これらの特長により、LT3796-1はいくつかの具体的なLEDアプリケーションの要求を満たすことができます。たとえば、信頼性の高い照明アプリケーションでは、2列のLED列を並列に駆動 するようコントローラを構成し、いずれか一方の列を基準として使用して、もう一方の列に存在する不良LED1個を検出できます。あるいは、高精度のアナログ調光が必要なアプリケーションでは、大小2種類の範囲でLED電流を安定化するよう2つの電流検出アンプを調整することにより、大電力LEDドライバのアナログ調光能力を100:1まで広げることができます。これは、1つの電流制御ループを使用して標準的に得られる性能を10倍改善した能力です。
不良LED検出機能を持つ同一な2つの並列 LED列の駆動
順方向電圧は負荷、温度、製造時の許容誤差によって大幅にばらつく可能性があるので、1列のLEDの中から劣化または短絡したLEDを1つ検出するのは困難な課題です。こうしたばらつきを取り除く1つの方法は、2つの整合したLED列を並列に使用することです。こうすることにより、2つのLED列の順方向電圧に相対的な差があったらフォルトを示すことができます。こうした解決策では、最初から順方向電圧降下の合計値が一致するように選別した振り分け品を使用して列を構成します。
単一出力で並列2列を駆動する潜在的な問題の1つは、一方の列が開放状態つまり不導通状態になった場合、もう一方の列に2倍の電流が流れる可能性があることです。LT3796-1内部のデュアル電流レギュレーション・ループを使用して、こうした電流のアンバランスが生じないようにすることができます。
昇圧LEDドライバ内部のISP/ISN電流検出アンプとCSP/CSN電流検出アンプをどのように構成するかを図1に示します。通常動作では、 ISP/ISN電流ループがLED電流を制御して設定します。LED列1に流れる電流はISMONピンで通知されます。CSOUTの電圧はFB2ピンのレギュレーション点より25%低い値に設定されているので、CSP/CSN電流ループは、通常CSOUTにモニタ結果を出力します。CSOUTピンが示すLED列2の電流は次式のとおりです。
2列の電流バランスがくずれると、通知ピン(ISMONおよびCSOUT)にはLED電流の相対的な差が電圧で現れます。2つのアナログ信号を外部で比較することにより、外部コントローラでフォルト信号を起動することができます。
列1のLEDが1個短絡した場合のオシロスコープの波形を図2に示します。ISP/ISN電流検出アンプは過電流を瞬時に検出して、2つのPMOSスイッチを両方とも切断します。ソフトスタート1サイクル後に、ISP/ISN電流ループはLED列の電圧を新たな出力電圧に安定化します。この電圧は、LED8個分の順方向電圧降下に相当します。更新後の出力電圧では9個のLEDを駆動できないので、LED列2は導通電流を遮断し、CSOUTは0Vを示します。同様に、列2のLEDが1個短絡すると、CSP/CSN電流ループは制御権を獲得し、図3に示すようにFB2ピンを介して出力電流を625mAに安定化します。この状態ではLED列1が導通電流を 遮断しているので、ISMONは0Vを示します。
このコンバータは、ハイサイドPMOS切断スイッチ・ドライバ・ピンTGを介して、高性能PWM調光機能と堅牢な短絡保護機能も実現します。 ISP/ISN電流検出アンプ内部の内蔵過電流コンパレータは、列1を短絡から保護するのに対して、D4、Q1、およびR9~R11で形成される回路は、列2の短絡を検出し、FB1ピンを“H”に駆動して、PMOSスイッチM2およびM3をオフします。
アナログ調光比が100:1のLEDドライバ
多くの大電力LEDアプリケーションでは高いアナログ調光比が要求されますが、電流検出経路が1つだと実現するのが困難です。問題はダイナミックレンジです。大電流では、検出抵抗での電力損失を制限するために電圧差を小さく(標準で250mV以下に)抑えることが必要ですが、処理する信号が非常に小さいので、10%のアナログ調光であっても、電流検出アンプの数mVの精度が検出電圧の誤差に大きく影響するようになります。
LT3796-1は2つの電流検出ループを内蔵しているので、2つのループ間で電流レギュレーションの役割を分担することにより、高いアナログ調光比を実現できます。一方のループは値の小さい検出抵抗で大電流経路での電力損失を制限することを特長としているのに対して、もう一方のループは、電力損失があまり問題にはならないため、低電流経路で大きい検出抵抗を使用して精度を向上させています。LTC1541(高精度リファレンス、オペアンプ、およびコンパレータを単一パッケージ内に収容)を使用して、SEPICモードで100:1のアナログ調光比を実現するよう構成されたLT3796-1を図4に示します。
200mA~1Aと値の大きい電流範囲では、M2のRDS(ON)を無視できると仮定すると、ISP/ISN電流ループは出力電流を次の値に安定化します。
VCTRLが1.2Vより低くなると、LTC1541のコンパレータによってTGENピンは強制的に“L” になり、M2は切断されます。したがって、LED列の電流を検出して安定化するのはCSP/CSNループのみとなります。CSP/CSNループが制御権を獲得すると、FB2ピンの電圧は1.25Vに安定化されるので、R6を介してCSOUTピンから電流を引き出すことにより、CTRL_INの入力電圧でCSP/CSNしきい値を設定します。CSP/ CSNの調光範囲は668mV~33.4mVなので、 200mA~10mAの範囲の低LED電流を検出しつつ、精度を維持します。図5に示すように、全体的にみて2つの電流ループの併用により、 100:1のアナログ調光比を実現しています。
まとめ
LT3796-1は、通知機能付きの独立した2つの電流検出アンプ、2つのFBピン、およびハイサイド切断スイッチ・ドライバを特長とするLEDコントローラです。また、堅牢なフォルト保護機能と、高信頼性かつ高性能のアナログ調光など難易度の高いLEDアプリケーションに対応する豊富な機能も特長です。