インテリジェントICで圧力センサ信号を調節

インテリジェントICで圧力センサ信号を調節

著者の連絡先情報

本稿を書いている時、私はよく一息ついたものです。そして、本稿が受理されるかどうかを待っている時には、息をこらして待っていました。発表している最中には息が詰まらなければ良いがと思いますが、済んでしまえば楽に呼吸ができます。これらの隠喩は、肉体的な呼吸という行為と精神的な不安、そしてまったく逆のリラックスしている状態との間に緊密な関係があることを示しています。(Fesmire 1994)

呼吸パターンに影響するのは、不安感だけではありません。全ての感情が呼吸に影響すると言っても過言ではありません。心理学者は感情と呼吸パターンのこうした連関を様々な研究分野で調べています(Boiten, et al. 1994)。こうした研究の殆どには電子的な患者監視機器が必要とされますが、これは自分の呼吸を意識するだけで呼吸パターンが変わってしまうためでもあります。

スマートセンサ技術を採用した呼吸モニタ

図1の呼吸モニタは、呼吸のおおよその深さを示しつつ、呼吸パターンを表示します。このモニタは不安を検出するために使用されるいくつかの重要なパラメータ(呼吸数、呼吸パターンの規則性、呼気と吸気の間の休息の長さ)を表示します。静かで肯定的な感情は呼気が吸気よりも長いのが普通であるため、吸気時間と呼気時間の比を不安のもう1つのインジケータとして使うこともできます。(腹式呼吸に比べて)胸式呼吸のレベルが高いのも不安の印です。ですから、胸式呼吸の増加を観察してモニタの視覚的情報に付け加えることもできます。

図1. 呼吸モニタのブロック図
図1. 呼吸モニタのブロック図

図1のモニタは、吸気と呼気に対応する圧力の現象と増加を検出するために、シリコンピエゾ感受性トランスデューサ(PRT)を使用しています。PRT出力は信号調節ICに送られます。このICはPRTに特有の誤差を補正し、補償された電圧信号をADCに送ります。そして、ADCの出力(圧力信号の数値表現)がPCインタフェースに送られ、RS-232信号に変換されます。これはPCに送られて、呼吸波形として表示され、上記のパラメータの解析が可能になります。

センサ

PRTは一般に閉じたWheatstoneブリッジとして構成されます。圧力がアクティブブリッジPRT (図2a)にかけられると、対角線的に反対側にある2つの辺の抵抗が同じ方向に同じだけ変化します。対角線的に反対側にある1組の辺の抵抗が圧力に伴い増加すると、他の組の抵抗が減少し、またその逆も成り立ちます。ハーフアクティブブリッジPRT (図2b)は、半分のブリッジだけの抵抗が変化します。フルアクティブ、ハーフアクティブのいずれを用いるにせよ、PRTセンサの利点は高感度(>10mV/V)、一定温度における良好な直線性および信号ヒステリシスなしに破壊限界まで圧力変化に追随する能力を持っていることです(Konrad and Ashauer 1999)。

図2. アクティブブリッジPRT (a)の場合、4つの辺の全てが圧力に反応します。ハーフアクティブブリッジPRT (b)の場合は2つの辺だけが圧力に応答します。
図2. アクティブブリッジPRT(a)の場合、4つの辺の全てが圧力に反応します。ハーフアクティブブリッジPRT(b)の場合は2つの辺だけが圧力に応答します。

今日のエンジニアは低および中精度アプリケーションにPRTを使用していますが、これまで上位アプリケーションにおいては高価な歪みゲージを使用せざるを得ませんでした。しかし、正確なPRTセンサ補正を可能にする新しいIC技術により、これらの素子を上位アプリケーションにも使用できるようになりました。

センサ誤差

PRTセンサを補正する時の最大の問題は、誤差の大きさが広範囲にわたっていることにあります。様々な方法で製造されるPRTセンサは、誤差のタイプと大きさも多様です。1つのメーカの製造した1つのモデルについても、誤差の大きさは個々のトランスデューサによってかなり異なります。

PRTの誤差としては、「フルスケール信号の強い非直線依存性(最大1%/°K)、大きな初期オフセット(フルスケールの100%まで、あるいはそれ以上)、そしてオフセットの大きな温度依存性ドリフトが挙げられます。これらの誤差は電子回路によってある程度まで補償できます」(Konrad and Ashauer 1999)。

特定温度において、図2に示すPRTタイプのいずれもが広範囲の圧力に対してブリッジ抵抗(VCCとグランドの間)を比較的一定に保ちます。但し、温度が上がるとブリッジ抵抗がかなり増加します。ブリッジが一定電流ソースで駆動されている場合、ブリッジの電圧が上がることになります。

PRTの感度は、温度と共にブリッジ電圧が上がるにつれて増加します。しかし、ブリッジ電圧が一定に保持された場合は、PRTの圧力に対する感度が温度の増加とともに減少します。したがって、感度は2つの相反する要因の関数(温度と温度に依存するブリッジ電圧)となっています。新しい信号調節ICは、このブリッジ抵抗またはブリッジ電圧の変化を利用して、PRTの全温度範囲にわたる感度誤差を補正できます。これらのICはブリッジ抵抗の変化を使って、感度対温度の変動を補正します。

従来の補正方式

図3の回路はPRTを妥当な精度レベルまで補償します。この回路は、オフセット、オフセットの温度ドリフトおよび感度の温度ドリフトを調節できます。感度ドリフトに関連して、全温度範囲にわたるフルスパン出力ドリフトがあります。これら2つのパラメータは、温度に比例して変化します。図4にオフセットとフルスパン出力の間の関係を示します。

図3. 従来のPRTの補正方式は温度感受性抵抗を使用します。
図3. 従来のPRTの補正方式は温度感受性抵抗を使用します。

図4. PRTのオフセットとフルスパン出力がフルスケール出力を構成します。
図4. PRTのオフセットとフルスパン出力がフルスケール出力を構成します。

本回路のゼロトリム抵抗は室温におけるセンサのオフセットを補償し、抵抗RTSおよびRTZ (またはR´TZ)が温度誤差を補正します。前述のように、ブリッジ抵抗は温度の上昇と共に増加し、このためセンサの両端の電圧が増加します。この追加された電圧により、センサの感度が増加します。即ち、同じ圧力に対する出力電圧が高くなります。

しかし、センサの両端の電圧が一定に維持されているとき、センサの感度は温度の上昇と共に低下します。温度上昇によるブリッジの抵抗増加に起因する正方向の感度係数が負方向の感度係数よりも大きいため、フルスパン出力は温度とともに増加する傾向があります。抵抗RTSは、温度の上昇と共に増加するブリッジ電流をシャントすることによってこの傾向を打ち消します。同様に、RTZとR´TZはオフセットドリフトを補正します。温度と共にオフセットがどちらの方向にドリフトするかによって、RTZまたはR´TZが回路に付加されます。

この補償方式の最大の問題は、補償部品間の回路相互作用です。この相互作用のためにキャリブレーションが煩瑣になり、精度も制限されます。また、この方式を使用する場合には電子的トリミングができません。

新しい補正方式

図5において、信号調節IC (MAX1457)が呼吸モニタのセンサを駆動し、センサ誤差を補正します。本製品は、センサを駆動する可変電流ソースおよびセンサのブリッジ電圧を数値化するADCを備えています。この電圧は、電流ソースからの電流と温度に依存するブリッジ抵抗の積です。

図5. 圧力センサ用の電流ソース励起と補償機能を提供する専用IC (MAX1457)は精度0.1%を提供します。
図5. 圧力センサ用の電流ソース励起と補償機能を提供する専用IC (MAX1457)は精度0.1%を提供します。

MAX1457は、センサの差動出力を増幅するためのプログラマブルゲインアンプ(PGA)および様々なセンサ誤差を補正するための5つのディジタルアナログコンバータ(DAC)を備えています。センサ出力は低レベル信号であるため、PGA出力電圧はADCの駆動には十分ではありません。このため、MAX1457の内部オペアンプを使用してPGA出力を適切なレベルに増幅します。

ブリッジ電圧は温度と共に上昇するため、この温度依存性を利用してフルスパン温度誤差を補償できます。定電圧ブリッジ励起の場合、フルスパン出力(FSO)は温度の上昇と共に減少するため、フルスパン出力温度係数(FSOTC)誤差が生じます。しかし、フルスパン感度が温度と共に減少するのを補償する率でブリッジ電圧を温度と共に上昇させるようにできれば、FSOは一定に維持されます。

図6に、MAX1457が温度に起因するFSO誤差の補正をこの方式で行う様子を示します。本チップは、ADC出力からの数値化されたブリッジ電圧を使用して、予め計算された補正係数(EEPROMに保存)のうちのどれをFSOTC DACに印加するべきかを決めます。この結果得られるDAC出力電圧が今度はブリッジに供給される電流レベルを変化させます。この新しい電流レベルは、ブリッジ電圧を調節して特定の温度におけるセンサ感度の変化を補償することにより、FSOを補償します。この補正を滑らかにするため、本チップはFSOTC DACのリファレンスにアナログブリッジ電圧を印加することにより、前後のディジタル数値(ADCからEEPROMに供給)の間における補正を追加します。

図6. MAX1457のこの回路は、オフセットおよびフルスパン温度誤差を補償します。
図6. MAX1457のこの回路は、オフセットおよびフルスパン温度誤差を補償します。

この同じ技法により、全温度範囲のオフセットの補償も行われます。但し、OFFSETTC DAC電圧が(MAX1457の電流ソースではなく) PGA出力の加算ジャンクションに供給されるところが異なります。

以下の手順で温度係数を計算し、EEPROMに保存して下さい。殆どの場合、最低温度においてセンサおよびMAX1457を使って様々な圧力のセンサデータを取って下さい。それから、最高温度でセンサおよびMAX1457を使って同様のデータを取って下さい。この両極端温度のデータから、MAX1457用に書かれたソフトウェアによって4つの補正係数(FSO、FSOTC、オフセットおよびオフセットTC)が計算されます。これら4つの係数がPRTの一次誤差を補正します。(この呼吸モニタが必要とする精度レベルにおいては、圧力の非直線性を補正するための5つ目の係数は必要ないと判断されます。)

0.1%の精度を実現するために、MAX1457は特定の温度における補償ができるようになっています。各温度においてFSOTCとオフセットTCが再計算されます。ユーザはそうしたキャリブレーションポイントの数を決定します(最大120)。センサ出力誤差の再現性が完全である場合、センサ-MAX1457の組み合わせの精度は0.1%よりも良くなります。

MAX1457の補償技法は、図3に示された従来の技法に比べて大きな利点を持っています。MAX1457はオフセットとスパン調節を分離することにより、補償部品同士の相互作用を排除します。すなわち、オフセットの調節はPGAにおいて行い、電流ソースを通じてFSOを個別に調節します。もう1つの利点は、様々な温度において特定の調節が行えるために精度がさらに改善されることです。この方法は、外部抵抗を使用した方法よりも原理的に精度が優れています。これは、外部抵抗の値を使用した場合、特性の温度においてセンサを正確に補償することができないためです。

より単純な補償IC

MAX1457は呼吸モニタが必要とする以上の精度を提供します。つまり、本素子の補正DACの分解能16ビットは必要以上のものです。それでも本素子が選択されたのは、呼吸モニタの低レベルセンサ信号を増幅するために必要な余分のオペアンプを持っているためです。

MAX1457はこのアプリケーションが必要とする以上の精度を提供しますが、温度が少し変わっただけでも本素子の温度誤差補償能力が必要になってきます。例えば、温度が10℃変化すると、PRTのFSOは3%変化します。MAX1457を使用すると、呼吸モニタは広い温度範囲で動作することができるため、モニタのアプリケーションとして宇宙探検やスキューバダイビングも可能になります。

MAX1450信号コンディショナー(図7)の機能はMAX1457とほぼ同様ですが、誤差補正の設定にDACではなくて抵抗を使用するところが異なります。MAX1450はMAX1457と比べてキャリブレーションポイントの数が少ないため、精度は0.1%ではなく1%となっています。MAX1450は普通ハイブリッドに内蔵され、MAX1450およびレーザトリミングの抵抗が低コスト解決法を提供します。

図7. MAX1450信号コンデョショナーと外部レーザトリミング抵抗により、1%の精度が達成されます。
図7. MAX1450信号コンデョショナーと外部レーザトリミング抵抗により、1%の精度が達成されます。

3番目のIC (図8のMAX1458/MAX1478)は、基本的に他の2つと同じ補償技法を提供しますが、(16ビットの代わりに) 12ビットの補償DACを備えています。MAX1458/MAX1478は、さらに、補償係数をオンボードで保存するためのEEPROMも備えています。MAX1450と同様、これらの素子の精度も1%となっています。

図8. MAX1458/MAX1478信号コンデョショナーと内部12ビットDACにより、1%の精度が達成されます。
図8. MAX1458/MAX1478信号コンデョショナーと内部12ビットDACにより、1%の精度が達成されます。

MAX1450/MAX1458/MAX1478は、2つの温度(通常は動作温度範囲の両端)で測定された圧力データを使用して4つの補正係数(上述)を計算することにより、センサを補償します。これらの素子と違って、MAX1457はユーザが選択した温度レベル(最大120箇所)で温度誤差補正を追加できます。これらの補償方式の詳細については、Konrad and Ashauer 1999およびDancaster, et al. 1997を参照して下さい。

同様のアーティクルが1999年9月14~16日のオハイオ州クリーブランドにおけるSensors Expoで発表されました。

参考文献

  1. Boiten, Frans A., Nico H. Frijda, and Cornelius J. E. Wientjes. 1994. Emotions and respiratory patterns: review and critical analysis. International Journal of Psychophysiology 17: 103-128.

  2. Dancaster, John, Mark Bowen, and Ali Rastegar. 1997. Enhanced performance silicon pressure sensors for automotive applications. Society of Automotive Engineers (reprinted from Sensors and Actuators, 1997): 59-65.

  3. Fesmire, Steven A. 1994. Aerating the mind: the metaphor of mental functioning as bodily functioning. Metaphor and Symbolic Activity 9 (1): 31-44.