高性能イメージ・センサーのリファレンス・デザインの開発、その心臓部の統合に向けて図られた連携

高性能イメージ・センサーのリファレンス・デザインの開発、その心臓部の統合に向けて図られた連携

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Scott Hunt

Scott Hunt

周知のとおり、分散型の分光アプリケーションでは、最も重要な処理としてイメージのセンシングが行われます。高い感度で高速に測定を実施するためには、非常にノイズが少なくビット・レートが高いリニア・アレイ・イメージ・センサーを使用しなければなりません。また、検出器のダーク・ノイズを低減して測定の感度をより高めるためには、熱電クーラー(TEC:Thermoelectric Cooler)が必要になります。これらの要件によって、センサーとのインターフェースの部分には、より性能の高い電子部品が必要になります。センサーからの信号を読み出すには、ノイズが少なくセトリングが高速なアンプと、ノイズが少なく精度の高いA/Dコンバータ(ADC)が必須です。TECで温度を正確に制御するには、高精度の電流制御と電圧制限の仕組みが必要になります。パワー・マネージメントに使用する電子部品は、センサーのシグナル・チェーンで求められる高いノイズ性能を満たすことに加え、TECで求められる大きな出力に対応できるものでなければなりません。更に、大出力のスイッチング信号によって生じ、磁気的またはコンダクティブに結合する干渉波を防ぐためには、インターフェース部のプリント回路基板において、極めて慎重にレイアウトを実施する必要があります。

ディスクリートの電子部品を使って、性能が高く複雑なセンサー用のインターフェースを備えるシステムを設計するのは、難易度の高い作業でした。特に、サイズ/複雑さと性能との間では、慎重にトレード・オフを行う必要がありました。浜松ホトニクスとアナログ・デバイセズは、このような課題が存在することを1つのビジネス・チャンスだと捉えました。そこで、両社の専門技術を組み合わせて、浜松ホトニクスのInGaAsリニア・イメージ・センサー・ファミリ「G920X」向けのリファレンス・デザインを開発しました(図1)。浜松ホトニクスがセンサーとシステム・コンポーネントを提供し、アナログ・デバイセズはアナログ・フロント・エンド(AFE)として機能するボードを設計しました。このリファレンス・デザインは、FMCコネクタを介してFPGAキャリア・カードに接続することで、モジュールの評価が行えるようになっています。アナログ・デバイセズのμModule®レギュレータは、設計上、最も難易度が高い部分に向けたソリューションとなります。すなわち、その部分にコンパクトかつ最適なレイアウトを提供するために採用されました。例えば、降圧型のμModuleレギュレータ「LTM8053」は、磁気コンポーネントを内蔵しており、内部のレイアウトは電磁ノイズを大きく削減できるように設計されています。このような統合度の高い製品は、コンパクトで最適なレイアウトを提供します。また、部品点数を削減することにより、性能とのトレード・オフを生じさせることなくソリューションの小型化を実現します。

図1. イメージ・センサーのリファレンス・デザイン。簡略化したブロック図を示しています。

図1. イメージ・センサーのリファレンス・デザイン。簡略化したブロック図を示しています。

このコンパクトで高性能のAFEの設計では、統合度の高い以下の3つの製品が鍵になりました。

ADAQ7980:逐次比較型(SAR)ADC をベースとするシングルチップのデータ・アクイジション・システム・モジュール。分解能は 16 ビットで、サンプル・レートは 1MSPS です。高精度の SAR ADC に加え、ADC 用のドライバ、リファレンス・バッファ、LDO(低ドロップアウト)レギュレータ、高精度の受動部品やデカップリング部品を内蔵しています。

ADN8835:3A に対応可能なパワー MOSFET を内蔵した高精度の TEC コントローラ。ディスクリートの外付けパワーMOSFET を使うことなく、センサーの温度を高い精度で制御できます。

LTM8053:Silent Switcher®(サイレント・スイッチャ)技術を適用したμModule レギュレータ。超低ノイズの降圧型スイッチング・レギュレータであり、3.5A の出力電流に対応します。スイッチング・コントローラ、パワー・スイッチに加え、インダクタをはじめとするあらゆる受動部品を小型パッケージに統合しています。統合にあたっては、最適なノイズ性能が得られるようにレイアウトが実施されています。

これらの製品は、BOM(部品表)の複雑さの低減、基板面積の削減に大きく貢献しています。また、重要な回路について、基板レベルの寄生要素を排除することにより、性能が最適化されています。更に、シグナル・チェーンを含めた性能仕様を提供することが可能なので、システム・レベルの誤差と不確実性を低減することが可能になります。これらの特徴は、統合度の高い当社製品を採用することで得られるメリットを端的に表しています。それ以外にも、AFEをソリューションとして完成させるために、高精度の電圧リファレンス「ADR4550」や高速/高精度のオペアンプ「ADA4807」といった高性能の製品を使用しています。このAFEは、センサーとADAQ7980に供給されるサンプリング・クロックを使って、LTM8053とADN8835のクロックの同期をとる能力も備えています(図2)。

上述したように、アナログ・デバイセズは浜松ホトニクスと連携し、浜松ホトニクスのG920x向けに高性能のリファレンス・デザインを開発しました。G920xは、NIR/SWIR(近赤外線/短波長赤外線)に対応するInGaAsイメージ・センサー・ファミリです。同ファミリの製品は、信号の読み出し速度が速いことを1つの特徴とします。また、超低ノイズで動作できるようにするために光検出器を冷却するTECを内蔵しています。こうした特徴から、ガスや鉱物の識別などを行う高性能のNIR/SWIR分光アプリケーション向けの優れた選択肢となります。当社のAFEボードは、これらのセンサーとのインターフェースとして開発されました。集積度の高い当社製品を採用することにより、高い性能とコンパクトなサイズを実現しています。設計ファイルや説明書など、このソリューションの詳細については、浜松ホトニクスのウェブサイトをご覧ください。

図2. アナログ・デバイセズが開発したインターフェース・ボード。浜松ホトニクスのInGaAsリニア・イメージ・センサーに対応します。

図2. アナログ・デバイセズが開発したインターフェース・ボード。浜松ホトニクスのInGaAsリニア・イメージ・センサーに対応します。