要約
このアプリケーションノートでは、部品のSパラメータの測定時に、テストフィクスチャによって生ずる誤差を補正および最小化する方法について説明します。ここで述べるフィクスチャは、SMAコネクタを搭載したマイクロストリップPCBから構成されています。以下に、MAX2648 5GHz低ノイズアンプを用いた例を挙げます。
追加情報:
このアプリケーションノートでは、部品のSパラメータの測定時に、テストフィクスチャによって生ずる誤差を補正および最小化する方法について説明します。ここで述べるフィクスチャは、SMAコネクタを搭載したマイクロストリップPCBから構成されています。以下に、MAX2648 5GHz低ノイズアンプを用いた例を挙げます。測定誤差
ベクトルネットワークアナライザ(VNA)の測定における誤差は、以下の3種類に分類することができます。
- ドリフト誤差:キャリブレーションの実施後、テストシステムの性能が変化したときに発生します。
- 確率的誤差:時間の関数として変動します。
- 系統誤差:不整合、漏れ、およびシステム周波数応答などが含まれます。
フィクスチャのキャリブレーションに役立つマイクロストリップデバイスの追加
ネットワークアナライザには、測定キャリブレーションを実施することによって精度を向上させる機能が用意されていますが、このためには、適切なコネクタタイプ(通常は同軸)でキャリブレーションキットを使用する必要があります。ここで測定するデバイスに備わるコネクタは「標準外」であるため、同軸コネクタのキャリブレーションキットは利用できません。フィクスチャを追加すれば、DUT (被試験デバイス)の「非同軸」コネクタと、テスト機器インタフェースの同軸コネクタ間の接続要件を満たすことができます。
理想のテストフィクスチャは、テスト計測器とテストするデバイス間での透過的な接続を確保し、漂遊回路を追加することなくDUTを直接的に測定できるというものです。このような理想のフィクスチャを作成することは不可能であるため、フィクスチャによって余分な損失、位相偏移、および不整合(ミスマッチング)が生じ、これによりDUT測定の誤差が増えることになります。特定のアプリケーションに必要なキャリブレーションのタイプは、DUT仕様の厳格さによってのみ決まります。
フィクスチャによって生じる誤差を取り除くには、モデリング、非組み込み、および直接測定という3つの基本技術があります。このアプリケーションノートでは、誤差を補正するための直接測定について説明します。直接測定には、フィクスチャの正確な特性を事前に知る必要がないという利点があります。これらの特性はキャリブレーション処理の間に測定されます。最も簡単な直接測定の形態は応答キャリブレーション、つまり正規化の形態です。基準トレースはメモリーに配置され、その後のトレースは、メモリーによって分類されたデータとして表示されます。
応答キャリブレーションは、伝送(スルー)および反射(短絡またはオープン)に対して1つの基準しか必要としません。これは、テスト回路で使用するのと同じ基板上にキャリブレーション回路を作成することによって実施されます。まず、50Ωラインからなるスルーを作成します。反射の基準は、オープンラインまたは短絡ライン(50Ω)のいずれでも可能です。以下の例では短絡ラインを使用するよう選択しています。ライン長はテスト回路で使用するライン長と同じであることが望ましく、短絡ラインは測定の基準プレーンに置かれます。DUTとフィクスチャ間の接触プレーンを基準プレーンであると想定します。これらのキャリブレーション基準は、各フィクスチャポートについて1「スルー」と2「ショート」であり、フィクスチャPCB上で直接設計されます。
測定の精度はキャリブレーション基準に大きく依存します。スルーとショートのキャリブレーション基準は、特性インピーダンスが50Ωのマイクロストリップ伝送ラインで形成され、フィクスチャPCB上で直接作成されます。フィクスチャの正確な特性、特にマイクロストリップの特性インピーダンスの精度、および「スルー」と「ショート」の電気的な長さが、測定の精度を直接左右します。
直接測定の最も簡単な形態が応答キャリブレーションです。応答キャリブレーションには重大な固有の欠点があります。マイクロストリップの特性インピーダンスとカプラ/ブリッジの方向性の誤差によって生じるソースと負荷の不整合を補正する機能が欠如しているのです。不整合は、反射測定で特に問題となります。以下に、5~6GHzの周波数範囲で動作するMAX2648
LNA (低ノイズアンプ)の特性測定に使用するフィクスチャの例を示します。
MAX2648の例
ウルトラチップスケールパッケージ(UCSP™) MAX2648のSパラメータの特性を測定するためのフィクスチャを図1に示します。
図1. フィクスチャPCB
回路ボードの端にある同軸コネクタからDUTにRF信号を導くためのマイクロストリップに注目してみましょう。低損失で広帯域な同軸ケーブルを用いて、フィクスチャ回路ボードとネットワークアナライザを接続します。フィクスチャのマイクロストリップは、ソースインピーダンスと負荷インピーダンスの両方にマッチングするように設計されており、ここでは50Ωと仮定します。工業用プリント基板の製造業者は一般的に、±10%の範囲で伝送ラインインピーダンスの誤差を生み出します。したがって、製造後の特性インピーダンスは45Ω~55Ωの間になります。マイクロストリップのインピーダンスに誤差があるので、適切な長さのマイクロストリップを使用することが極めて重要です。2つのシミュレーション結果を以下の図2および図3に示します。これは、50Ω反射測定用にADSによって作成したものです。2種類の異なるライン長を45Ωの特性インピーダンスでシミュレートしています。
図2. ライン長は29.72mm (1170ミル)、特性インピーダンスは45Ω、50Ωの反射測定結果
図3. ライン長は16mm (630ミル)、特性インピーダンスは45Ω、50Ωの反射測定結果
結論
インピーダンス不整合によって生じる反射測定誤差は、伝送ライン長を選択することで最小限に抑えられます。デバイスのSパラメータは、特別な伝送ラインを設けたテストフィクスチャの回路ボードを設計することで測定できます。この特別な伝送ラインにより、キャリブレーション用のスルーパスと短絡反射パスが得られます。