理想ダイオードおよびホットスワップ・コントローラによる電源の二重化と障害状態の切り分け

理想ダイオードおよびホットスワップ・コントローラによる電源の二重化と障害状態の切り分け

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Lye Huat Chew

ショットキ・ダイオードは、多重化電源システムを実装するためにさまざまな方法で使用されます。たとえば、高信頼性電子システム(µTCAネットワークやストレージ・サーバなど)では、冗長電源システムにパワー・ショットキ・ダイオードOR回路を採用しています。ダイオードOR回路は、ACアダプタや予備バッテリ給電などの代替電源を備えたシステムにも使用されます。問題は、ショットキ・ダイオードが順方向電圧降下に起因した電力を消費することです。このために発生する熱をPCB上の専用の銅箔領域か、ダイオードにボルトで取り付けたヒートシンクで放熱しなければならず、いずれの場合もかなりのスペースが必要です。

LTC4225LTC4227、およびLTC4228で構成される製品ファミリは、パス素子に外付けNチャネルMOSFETを使用することで電力損失を最小限に抑え、MOSFETがオンしているときの電源から負荷までの電圧降下を最小限に抑えることができます。入力電源の電圧が出力の共通電源電圧より低くなると、対応するMOSFETがオフになるので、理想ダイオードに相当する機能と性能が得られます。

図1に示すように、電流検出抵抗を追加し、ゲート制御の異なる2つのMOSFETをバック・トゥ・バック接続で構成することにより、LTC4225は、突入電流制限機能や過電流保護機能と合わせて理想ダイオードの性能を向上させます。これにより、コネクタを損傷することなく、通電状態のバックプレーンに対して基板を安全に抜き差しすることができます。LTC4227では、並列接続した理想ダイオードMOSFETの後段に電流検出抵抗とホットスワップMOSFETを追加して、MOSFETを1つ節約することができます。LTC4228では、検出抵抗を理想ダイオードとホットスワップMOSFETの間に配置することにより、LTC4225と比較して、入力の電圧低下からの回復時間を短縮して出力電圧を維持することができるようになっています。

図1.検出抵抗と外付けNチャネルMOSFETの構成が異なるLTC4225、LTC4227、およびLTC4228の概観

図1.検出抵抗と外付けNチャネルMOSFETの構成が異なるLTC4225、LTC4227、およびLTC4228の概観

LTC4225-1、LTC4227-1、およびLTC4228-1はラッチオフ回路ブレーカを備えているのに対して、LTC4225-2、LTC4227-2、およびLTC4228-2にはフォルト後の自動再試行機能があります。どちらのオプションも、LTC4225、LTC4227、およびLTC4228 について、それぞれ24ピン、20ピン、および28ピンの4mm×5mm QFNパッケージおよびSSOPパッケージで供給されます。

理想ダイオード制御

LTC4225 およびLTC4228 は、INピンとOUTピンの間(LTC4227 の場合はINピンとSENSE+ピンの間)の電圧を、DGATEピンを駆動する内蔵のゲート駆動アンプでモニタすることにより、理想ダイオードとして機能します。このアンプは、大きな順方向電圧降下を検出すると、DGATEピンを直ちにプルアップし、理想ダイオード制御のMOSFETをオンします(図2)。

図2.IN(入力)電源がオンしたときの理想ダイオード・コントローラのCPOおよびDGATEの電圧の上昇

図2.IN(入力)電源がオンしたときの理想ダイオード・コントローラのCPOおよびDGATEの電圧の上昇

CPOピンとINピンの間に接続された外付けコンデンサにより、理想ダイオードMOSFETを急速にオンするのに必要な電流が供給されます。デバイスの電源投入時には、内蔵のチャージポンプがこのコンデンサを充電します。

DGATEピンはCPOピンから充電され、INピンおよびGNDピンに放電します。ゲート駆動アンプはDGATEを制御して、検出抵抗と2 つのNチャネルMOSFETにおける順方向電圧降下を25mVにサーボ制御します。

負荷電流によって電圧降下が25mVより大きくなると、ゲート電圧が上昇して、理想ダイオード制御に使用されるMOSFETが導通します。MOSFETが導通しているときに入力電源が短絡すると、負荷から入力に向けて大きな逆電流が流れ始めます。ゲート駆動アンプは、この障害状態が発生すると直ちに検出してDGATEピンの電圧を下げて理想ダイオードMOSFETをオフします。

ホットスワップ(活線挿抜)制御

ONピンを“H”にしてENピンを“L”にすると、100msのデバウンス・タイミング・サイクルが開始します。このタイミング・サイクルの経過後、チャージポンプからの10µAの電流により、HGATEピンの電圧は次第に上昇します。ホットスワップMOSFETがオンすると、LTC4225の場合はINピンとSENSEピンの間(LTC4227およびLTC4228の場合はSENSE+ピンとSENSEピンの間)に接続されたセンス抵抗によって設定されたレベルに突入電流が制限されます。アクティブな電流制限アンプは、センス抵抗の両端の電圧が65mVになるようにMOSFETのゲートをサーボ制御します。センス電圧が50mVを超えている時間が、TMRピンで設定したフォルト・フィルタ遅延時間より長くなると、回路ブレーカが作動してHGATEは“L”になります。必要に応じてHGATEからGNDにコンデンサを追加することにより、突入電流をさらに減らすことができます。MOSFETのゲートのオーバードライブ電圧(HGATEピンとOUTピンの間の電圧)が4.2Vを超えると、PWRGDピンは“L”になります(図3)。

図3.ONが“H”になってから100ms後にホットスワップ・コントローラのHGATEが起動し、PWRGDが“L”になる様子

図3.ONが“H”になってから100ms後にホットスワップ・コントローラのHGATEが起動し、PWRGDが“L”になる様子

理想ダイオード制御とホットスワップ(活線挿抜)制御の併用

冗長電源を備えた標準的なµTCAアプリケーション(図4および9)では、出力はバックプレーンでダイオードOR接続されているので、システムの電源を切断せずにカードを挿抜できます。LTC4225およびLTC4228は、どちらもデュアル理想ダイオードおよびホットスワップ・コントローラを内蔵しているので、これらのアプリケーションに最適です。これらのデバイスは、2つの電源間で電源を円滑に切り替える機能と過電流保護機能を備えています。

図4.μTCAスロットに12V電源を供給するμTCAアプリケーションでのLTC4225

図4.µTCAスロットに12V電源を供給するµTCAアプリケーションでのLTC4225

メイン電源が停電すると、コントローラは素早く反応してメイン電源の理想ダイオードMOSFETをオフし、サブ電源のMOSFETをオンして、出力負荷に供給する電源を滑らかに切り替えます。ホットスワップMOSFETはオンのままなので、電源の切り替えには影響しません。コントローラがホットスワップMOSFETをオフするのは、それぞれのONピンが“L” になるか、ENピンが“H” になる場合です。出力に過電流フォルトが検出されると、TMRピンのコンデンサによって設定されているフォルト・フィルタ遅延時間がタイムアウトになるまで出力が電流制限状態で安定化された後に、ホットスワップMOSFETのゲート電位は急速に低下します。ホットスワップMOSFETはオフになり、FAULTピンは“L” にラッチされてフォルトが示されます。電子回路ブレーカは、ONピンの電圧を0.6Vより低くすることによってリセットされます。

電源の優先順位付け

従来のダイオードOR接続多重電源システムでは、高い電圧の入力電源の方が出力まで通過し、低い電圧の方は遮断されます。この単純な解決策は、常に電圧の高い方の電源が優先される方式であり、すべてのアプリケーションでこの優先順位に従うことが正しい訳ではありません。5Vのメイン電源(INPUT1)を使用可能な場合はメイン電源が出力に供給され、メイン電源停電している場合にのみ12Vのバックアップ電源(INPUT2)が用いられるバックアップ電源システムを図5に示します。

図5.優先順位付け入力としてIN1を備えた2チャネル電源プライオリタイザでのLTC4225

図5.優先順位付け入力としてIN1を備えた2チャネル電源プライオリタイザでのLTC4225

ON1ピンのR1-R2 分圧器によって設定される4.3VのUVしきい値よりINPUT1 の電圧が高い限り、MH1 がオンしてINPUT1を出力に接続します。MH1 がオンすると、PWRGD1が“L”になり、同様にON2が“L” になって、MH2をオフにすることによってIN2の経路がディスエーブルされます。メイン電源に障害が発生してINPUT1の電圧が4.3Vより低くなると、ON1がMH1をオフし、PWRGD1が“H” になることにより、ON2がMH2をオンしてINPUT2を出力に接続することができます。理想ダイオードMOSFETのMD1とMD2 は、いかなる状態でも一方の入力から他方の入力への逆給電を阻止します。

理想ダイオードFETとホットスワップFETの配置

LTC4225では、バック・トゥ・バック接続された2 つのMOSFETの配置として、電源側のMOSFETを理想ダイオード、負荷側をホットスワップ(活線挿抜)制御(図4)として構成するか、それとは逆の構成(図6) が可能です。図6では、MOSFET のゲート/ソース間電圧の定格が20Vより低い場合、MOSFETのゲート・ピンとソース・ピンの間にツェナー・ダイオード・クランプを外付けして、MOSFETが降伏電圧に達しないようにすることが必要です。いずれの配置でも、INピンとOUTピン間の理想ダイオードOR接続により、LTC4225は電源を滑らかに切り替えます。

図6.電源側にホットスワップMOSFET、負荷側に理想ダイオードMOSFETを配置したアプリケーションでのLTC4225

図6.電源側にホットスワップMOSFET、負荷側に理想ダイオードMOSFETを配置したアプリケーションでのLTC4225

デュアル理想ダイオード制御およびシングル・ホットスワップ制御

並列に接続されている2つの理想ダイオードMOSFETの後段に検出抵抗を配置し、その後にホットスワップMOSFETが1つ接続されているLTC4227の応用例を図7に示します。この例で過負荷状態が発生した場合、LTC4227はフォルト・タイムアウトまでの間に電流制限値×1で制限しますが、LTC4225のダイオードOR接続の場合は電流制限値×2で制限します。その結果、過負荷状態での電力損失が減少します。

図7.ホットスワップ(活線挿抜)制御機能を備えたカード常駐ダイオードORアプリケーションでのLTC4227

図7.ホットスワップ(活線挿抜)制御機能を備えたカード常駐ダイオードORアプリケーションでのLTC4227

LTC4227は、IN1 電源を簡単に優先することができるD2ONピンの機能も備えています。たとえば、IN1をD2ONピンに接続する簡単な抵抗分割器を図8に示します。これにより、IN1の電圧が2.8Vより高い場合にはIN1電源を優先しますが、2.8Vを下回った場合にはMD2 がオンし、ダイオードOR出力がIN1の3.3Vメイン電源からIN2の3.3V補助電源に切り替わります。

図8.プラグイン・カードのIN1電源により、LTC4227のD20Nを介してIN2電源のターンオンを制御

図8.プラグイン・カードのIN1電源により、LTC4227のD20Nを介してIN2電源のターンオンを制御

入力の低下からの急速な出力の復旧

図4 に示すLTC4225 のµTCAアプリケーションでは、入力電源のいずれかが瞬間的にグランド電位まで低下した場合、他の電源を使用できないときは、入力(IN)電源電圧が低電圧ロックアウトしきい値より低くなるので、HGATEが“L”になってホットスワップMOSFETがオフになります。入力電源が復旧すると、HGATEを起動してMOSFETをオンにすることができます。しかしながらHGATEおよび放電した出力コンデンサを充電するにはしばらく時間がかかるので、この時間中、出力電圧は低下する場合があります。

このような状況で、LTC4228 は回復動作が速く、出力電圧を維持することができるので、LTC4225より優れています。図9 に示すように、理想ダイオードとホットスワップMOSFETの間にセンス抵抗を配置しているので、入力電源電圧が低下した場合でも出力コンデンサの電位によってSENSE+ピンの電位を維持することができます。

図9.μTCAスロットに12V電源を供給するμTCAアプリケーションでのLTC4228

図9.µTCAスロットに12V電源を供給するµTCAアプリケーションでのLTC4228

これにより、SENSE+ の電圧は低電圧ロックアウト状態には入らず、ホットスワップMOSFETはオフしません。ホットスワップMOSFETはオンのままなので、入力電源が復旧すると、直ちに出力コンデンサを充電し始めて負荷に電力の供給を開始します。

まとめ

LTC4225、LTC4227、およびLTC4228 は、外付けのNチャネルMOSFETを制御することにより、2つの入力電源レールに対する理想ダイオードおよびホットスワップ機能を実現しています。これらのデバイスは、逆給電の高速な遮断、電源のスムーズな切り替え、過電流保護、および障害の通知機能を備えています。これらの製品の持つ正確な5%の回路ブレーカしきい値精度と、高速の電流制限動作により、電源を過電流フォルトから保護します。LTC4228は入力電圧の低下から迅速に復旧できるので、そうした状況でも出力電圧を維持します。