降圧レギュレータのVOUTリップル測定時における高周波数ノイズ
要約
スイッチング電源は、低ドロップアウト(LDO)レギュレータより高い効率と出力を備えています。しかし同時に、パワーFETの高速スイッチング・トランジェントが電磁ノイズを発生させて周囲に放射します。これらの放射ノイズは出力電圧リップルの測定時に拾われて、高周波数ノイズとして現れる可能性があります。不適切なセットアップはスイッチング電源の性能を低下させます。本稿では電圧測定時に見られる高周波数ノイズの根本的原因を分析し、このノイズがユーザにとって実際に懸念となるものなのかどうかについて説明します。その一環として、Ansys Maxwellシミュレーションを使用して電源周囲の放射束分布をエミュレートし、その影響を可視化します。更に、本稿では回路に発生する実際の出力電圧リップルを測定する方法を提案し、高周波数ノイズによって発生する可能性のある問題を明らかにします。
はじめに
スイッチング電源は高効率や高出力といった優れた性能を備えていることから、多くのアプリケーションで唯一の選択肢となっています。降圧パワー・コンバータは、様々なアプリケーションで採用されている最も一般的なトポロジです。パルス幅変調(PWM)によって制御されるスイッチング特性は、供給電力を安定化する助けとなります。しかし同時に、数ナノ秒あるいは数十ナノ秒の時間幅内で生じるパワーFETの高速スイッチング・トランジェントが、高周波数ノイズを発生させる可能性があります。例えば、ノイズに敏感なアプリケーションでは、電源によって生じた高周波数電圧スパイクのタイミングがクロック信号と一致すると、ADC、ASIC、あるいはFPGAといった負荷デバイスに故障や不具合を引き起こす原因となります。したがって、高周波数ノイズの根本的な原因を理解してノイズに伴う問題を明らかにし、高周波数ノイズの影響を軽減ないし無くすために講じ得る対策を見つけることが重要です。ノイズ/リップルの正確な測定方法は極めて重要です。
降圧コンバータの代表的なVOUTリップル
代表的な降圧コンバータではインダクタとコンデンサがフィルタとして機能し、スイッチング動作によって生じるAC信号の導通パスを提供します。インダクタ電流にはAC成分とDC成分が含まれています。ほとんどのAC成分は出力コンデンサに流れ込み、DC成分は負荷にのみ流れ込みます。図1aに示すように、寄生成分を考えなければ、出力コンデンサに加わる出力電圧リップルは図1bに示すようなスムーズな波形になります。
図2aのように出力コンデンサの寄生抵抗と寄生インダクタンスを考えると、図2bに示すように出力電圧リップルは大幅に変化する可能性があります。
図2bのAC成分は主にスイッチング周波数付近、つまり数百kHzから数MHzの範囲に分布します。しかし通常、テスト時における実際の出力電圧は、これよりも更に高い周波数成分(数百MHz付近)を示します。パワー・インダクタの寄生コンデンサは、図3に示すように、これら数百MHzの信号をスイッチング・ノードから出力へ伝える導通パスとなり得ます。
LTM4628 μModule®降圧レギュレータをベースとする出力電圧測定の例を、図4aに示します。スイッチング周波数の波形と高周波数スパイクは容易に確認できます。しかし、プローブの位置をボードに対して垂直から水平に変えると、図4bに示すように測定出力電圧リップルが54mVから42mVに減少します。図5に出力電圧の測定方法を示します。導通パス上で発生する出力電圧リップルだけを考える場合は、プローブの位置によって測定結果が変わることはないはずです。一方、プローブが拾う高周波数ノイズは、スイッチング動作に伴って発生します。したがって、プローブに拾われる追加的な高周波数ノイズは、高速スイッチング・トランジェント発生時にホット・ループ内に生じる高いdi/dtによって誘導される、放射ノイズの可能性があります。
プローブ位置によってこのような違いがあることを更に確認するため、図6に示すように、異なるプローブ(一般的なプローブ、BNCケーブル、アクティブ差動プローブ)を使用して出力電圧リップルを測定しました。図に示すように、一般的なプローブには、グラウンド・リターン・パスとして追加スプリングが必要ですが、これは測定ループが大きくなることを意味します。
各種のプローブを使用して測定した結果を表1に示します。垂直プローブ測定と比較して、水平プローブ測定では常に高周波数スパイクが低い値を示しています。また、水平法による測定結果では、一般的なプローブを使用した場合の方が、BNCケーブルや差動プローブを使用した場合より高い値を示しています。
| プローブ位置 | デモ・ボードに垂直 | デモ・ボードに水平 |
| 一般的なプローブ | 54mV | 42mV |
| BNCケーブル(50Ω終端) | 48mV | 28mV |
| 差動プローブ | 114mV | 28mV |
出力電圧リップル測定時の予期せぬ現象を理解するために、Maxwellのシミュレーション・モデルは、LTM4628のシンプルな物理的構造に基づき図7aに示すように開発されています。ホット・ループ1はMOSFETとモジュールの内部入力コンデンサによって形成され、ホット・ループ2はMOSFETとデモ・ボード上のモジュール近くにある外部入力コンデンサで構成されています。スイッチング・トランジェント発生時におけるホット・ループ内の高di/dtをエミュレートするために、300MHzの理論的電流をホット・ループ1とホット・ループ2の両方に注入します。図7bは、モジュール周辺の磁場分布を示しています。磁場はデモ・ボード上面の領域を囲むモジュール内で非常に強くなっていますが、これは、ホット・ループから生じる磁束をプローブ測定ループが簡単に拾ってしまうことを示しています。
プローブ位置によって測定結果が異なる根本的な原因については、より詳しい説明ができるように拡大した磁場分布を図8に示します。図8において、等価垂直測定ループ面積は水平測定ループ面積の約8倍の磁束を捉える可能性があります。これは、厚い銅ポリゴンを持つデモ・ボードが高周波数の磁束を減衰させて、磁束の通過を防ぐからです。つまり、ほとんどの磁束はデモ・ボードの表面に沿って水平に流れます。
より分かりやすいイラストを図9に示します。この図は、ホット・ループによって生じる磁束を、垂直測定ループの方が多く捉える理由を示しています。プローブ内部のプラス・チップ、マイナスまたはグラウンド・チップ、およびリターン・パスは、アンテナのようなループを形成します。これが、スイッチング・レギュレータ周辺の高周波数の磁束を捉える可能性があります。
この考え方を更に検証するため、図10に示すように、VOUTリップルの測定には、同じプローブにシールドを付けたものも使用しました。差動プローブの周囲に銅のフォイルを手で巻きつけて、シールド層を形成しています。このプローブもデモ・ボードに対して垂直に使用しています。
結果として、図10bに示すシールド・プローブを使用した場合は、図10aのシールドなしでの測定の場合より、高周波数ノイズがはるかに少なくなりました。高周波ノイズを除けば、スイッチング周波数リップルはどちらの図の場合でもほぼ同じでした。また、図3について既に述べたように、インダクタの寄生コンデンサのために、出力コンデンサには図3bのような波形の高周波数リップルが加わります。
まとめ
高速スイッチング・トランジェントはホット・ループのdi/dtを大きくします。降圧コンバータの出力電圧リップルについて言えば、インダクタの寄生コンデンサにより形成される導通パスのこの大きいdi/dtによって、高周波数ノイズが発生します。
しかし実際のVOUTリップル測定では更に高い周波数のノイズが混入し、これもスイッチング動作に伴って発生します。この追加的なリップルも、ホット・ループ内の大きいdi/dtによって生じる放射ノイズです。また、高周波数スパイクは、デモ・ボード上のプローブ位置によって変化することがあります。Ansysシミュレーションは、垂直測定形態ではホット・ループによって生じる高周波数磁束を拾う量が水平形態よりはるかに多くなることを示しています。
このことを更に裏付けるために、シールドされたプローブによるVOUTリップルの測定も行いました。シールドされたプローブを使用した場合は、シールドされていないプローブを使用した場合よりも高周波数ノイズがはるかに少なくなりましたが、これにより、プローブが追加的な放射高周波数ノイズを拾うことが分かりました。ボード上のCOUTに加わる実際のVOUTリップルは、プローブで測定したVOUTリップルより小さくなります。










