絶縁型スイッチング電源のフィードバック・ループ、その機能不全を回避するには?【Part 2】動的な応答、絶縁技術の革新
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要約
今回(本連載のPart 2)は、絶縁型のフォワード・コンバータの動的な振る舞いについて検討します。具体的な例としては、PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)コントローラとシャント・レギュレータを使用して構成したフォワード・コンバータを取り上げることにします。本稿で注目するのは、過渡的な負荷変動に対するフィードバック・ループの応答です。そのなかで、出力電圧を安定させるために同ループが果たす役割を明らかにします。特に、オプト・カプラのバイアスと電流伝達比(CTR:Current Transfer Ratio)がフィードバック信号の精度と伝送速度に及ぼす影響について詳しく解説します。その検討には、「LTspice®」によるシミュレーションを活用することにします。電力変換システムにおいて高い効率を得るためには、信頼性に優れるクローズド・ループ制御を実現しなければなりません。それに向けて重要になるのは、コンポーネントの慎重な選択と補償用回路の設計です。これに関連して、本稿では従来のオプト・カプラに代わる新たな技術「iCoupler®」を紹介することにします。同技術を活用すれば、性能、統合レベル、信頼性の面で様々なメリットを得ることができます。
はじめに
絶縁型のスイッチング電源(SMPS:Switch-mode Power Supply)を高い信頼性で動作させるには、負荷が変動しても安定した出力電圧が得られるようにしなければなりません。それに向けて重要になるのが、電源システムの構成要素であるフィードバック回路です。同回路は出力電圧の変動に基づいて、1次側のPWM回路を制御するための信号をリアルタイムかつ動的に調整します。本稿では、このフィードバック機構の動作について詳しく解説します。
絶縁型のスイッチング電源の具体的な例としては、フォワード・コントローラ「LT3753」、シャント・レギュレータ「LT1431」、オプト・カプラを組み合わせた回路を取り上げることにします。LT3753は、高い効率が求められる絶縁型フォワード・コンバータ向けに設計された製品です。アクティブ・クランプ方式の制御機能、同期整流機能、プログラムが可能なボルト秒クランプ回路などを備えています。一方、LT1431は、出力電圧を設定可能な高精度のシャント・レギュレータです。これらのICとオプト・カプラを組み合わせれば、過渡的な負荷変動に迅速に対応可能な堅牢性の高いフィードバック・ループを構成できます。
本稿では、負荷の急激な変動に対するフィードバック回路の応答について検討します。そのためのツールとしては、LTspiceによるシミュレーションを活用することにします。フィードバック信号の制御とデューティ・サイクルの変調に対しては、オプト・カプラの性能が大きな影響を及ぼします。なかでも、バイアスとCTRが重要な要素になります。広範な動作条件の下で安定した性能を発揮する電源システムを設計するためには、様々な要素の動的な特性について理解することが不可欠です。
フィードバック回路の動的な振る舞い
安定した電圧を出力する電源システムを実現するためには、負荷条件の変化に対して動的かつ適切に対応するフィードバック・ループを構成しなければなりません。例えば、出力電圧が低下した場合(通常は負荷電流の急激な増加による)、シャント・レギュレータはその偏差を検出し、カソードに流れる電流の量を減少させます。この動作により、オプト・カプラのLEDに流れる電流が減少し、光出力が低下します。つまり、オプト・カプラのフォトトランジスタが受け取る光量が減少するので、そのコレクタを流れる電流も減少します。その結果、PWMコントローラの補償用ピン(COMPピン)の電圧が上昇します。そうすると、同コントローラはスイッチ(パワーMOSFETなどのトランジスタ)のデューティ・サイクルが高くなるように動作し、出力に供給されるエネルギー量が増加します。つまり、出力電圧を公称値に戻すための動作が促進されるということです。
一方、負荷の急な解放などによって出力電圧が上昇した場合、フィードバック機構はオーバーシュートを防止する方向に働きます。すなわち、シャント・レギュレータによって電圧の上昇が検知され、フォト・カプラのLEDを流れる順方向の電流が増加します。それにより、LEDの発光量が増大します。その結果、フォトトランジスタの導通レベルが高くなり、COMPピンの電圧が低下します。PWMコントローラは、この電圧の低下を、デューティ・サイクルを下げることを指示する信号だと解釈します。そこで、同コントローラは出力に伝達されるエネルギーの量を減らすように動作します。このような補正用の振る舞いにより、電圧のスパイクが迅速に抑制され、出力電圧が安定した状態で維持されます。
この動的制御の有効性は、オプト・カプラの能力に依存します。つまり、LEDの電流の変化に比例する形で、フォトトランジスタが線形かつ迅速に応答しなければなりません。LEDの電流波形は、負荷の急激な変化に同期した鋭い遷移を示すことが理想です。また、フォトトランジスタの電流の挙動にもその遷移が反映されていなければなりません。しかし、フォトトランジスタの実際の電流は、CTRとオプト・カプラ内部の応答時間によって決まる遅延/振幅を反映したものになります。オプト・カプラの応答が遅い場合やCTRが低い場合には、フィードバック信号が遅延したり減衰したりする可能性があります。そうすると、オーバーシュートやアンダーシュートの発生、セトリング・タイムの増大といった形で過渡応答が悪化してしまうかもしれません。
また、LEDを流れる電流が少なすぎると、フォトトランジスタが十分に導通しなくなります。一方、LEDに過剰な電流が流れた場合、フォトトランジスタが非線形な領域で動作する可能性があります。いずれの場合にも、フィードバック信号に歪みが生じます。その結果、レギュレート性能が低下し、制御ループが不安定になる可能性があります。したがって、負荷過渡応答/入力過渡応答の全対象範囲にわたり堅牢で安定した動作を確保するには、補償用回路を適切に設計すると共に、オプト・カプラのバイアスを慎重に設定しなければなりません。
絶縁型フォワード・コンバータの負荷過渡応答
LT3753は、電流モードで動作する高性能のPWMコントローラです。8.5V~100Vという広範な入力電圧に対応することを1つの特徴とします。このICは、効率が高い絶縁型の電力変換が求められる通信機器、産業用電源システム、車載電子機器などの用途に適しています。
LT3753を特徴づけるものとしては、アクティブ・クランプ制御の機能が挙げられます。これを使用すれば、トランスの漏れエネルギーを効率的に再利用すると共に、1次側のMOSFETにかかる電圧ストレスを低減できます。それにより、電力密度の高い回路の効率と信頼性を高められます。また、同ICは同期整流動作に対応しています。つまり、2次側のMOSFETを制御するための信号が提供されます。そのため、導通損失を最小限に抑え、電力変換の効率を全般的に高めることが可能になります。
加えて、LT3753はプログラムが可能なボルト秒クランプ機能も備えています。50%を超えるデューティ・サイクルを設定できるので、トランスの利用率を高め、より多くの出力電力をサポートすることが可能です。スイッチング周波数は100kHz~500kHz。ノイズの管理やシステムの連携を実現するために、外部クロックに同期させることもできます。それ以外に、プログラムが可能なソフトスタート機能やヒカップ・モードの短絡保護機能も提供します。更に、ヒステリシスを備える過電圧ロックアウト機能(OVLO:Overvoltage Lockout)/低電圧ロックアウト機能(UVLO:Undervoltage Lockout)も内蔵しています。そのため、障害に対応するための堅牢性の高い処理を実現することが可能です。
シミュレーション用のサンプル回路では、LT1431も使用しています。このICは、最大5Vの電圧リファレンスを内蔵するシャント・レギュレータです。その出力電圧は高い精度で調整できます。また、初期の許容誤差が0.4%、出力インピーダンスが低い、応答が高速といった特徴を備えています。そのため、電源システムにおける電圧のレギュレーションやフィードバック制御の用途に最適です。シンク電流は最大100mAなので、絶縁型のシステムにおけるオプト・カプラの駆動にも適しています。
図1に、シミュレーションに使用するサンプル回路を示しました。この回路は、LT3753、LT1431によって構成したPoE(Power over Ethernet)用のフォワード・コンバータとして機能します。このコンバータは、アクティブ・クランプ制御、非同期動作、80Wの出力に対応します。シャント・レギュレータとオプト・カプラは、図中の赤い線で囲んだ部分で使用しています。以下では、この回路を例にとり、LTspiceによって実施した負荷過渡応答のシミュレーション結果を示します。なお、シミュレーション用のファイルは、 こちら からダウンロードできます。
図2に示したのがシミュレーションの結果です。ご覧のように、図1の回路は負荷が変動すると動的な過渡応答を示します。出力電流を0Aから1.5Aへと急激に増大させたことで、顕著な変化が生じることがわかります。必要な負荷電流の量が急激に増大すると、出力電圧が低下します。つまり、電源システムの定常状態に一時的な乱れが生じます。このような状態は、電源システムが当初は無負荷の条件で動作していて、出力電圧を維持するために必要なエネルギーの伝達量が最小限に抑えられていたことから発生します。つまり、磁気部品と出力コンデンサに蓄積されていたエネルギーの量が、電流の需要の増大に即座に対応するには不十分であったために電圧の低下が生じているということです。

上述した過渡的な状況では、定常状態の動作が阻害されていることになります。それを受けて、電源システムのフィードバック機構が作動します。フィードバック回路は出力電圧を継続的に監視し、公称値からの偏差を迅速に検出します。電圧の低下が検出されたら、フィードバック回路は1次側のPWMコントローラで使用する補正用の信号を生成して送信します。
その信号を受け取ったPWMコントローラは、スイッチング用の信号のデューティ・サイクルを動的に調整します。具体的には、1次側のスイッチとして使用するトランジスタのオン時間が長くなるようにします。つまり、導通している時間が長く維持されるようにするということです。このような調整により、各スイッチング・サイクルの間にトランスを介して磁気的に結合されるエネルギーの量が増加します。エネルギーの伝達量が増加するということは、必要な負荷電流の増大に対応して補償の処理が行われるということを意味します。その結果、出力電圧が規定の値まで回復します。
効果的なクローズド・ループ制御を適用すれば、電源システムにおいて新たな負荷条件への移行が生じたとしても、出力電圧は安定した状態に保たれます。各電圧/電流の振る舞いを解析すると、クローズド・ループの能力を維持する上ではオプト・カプラのバイアス設定が重要であることがわかります。最適な性能を実現するためには、オプト・カプラのLEDを十分な順方向電流で駆動し、線形な光応答が得られるようにしなければなりません。それに加え、フォトトランジスタがアクティブな領域で動作するようにバイアスし、フィードバック信号が正確に変調されるようにする必要があります。
LED側の直列抵抗の値に問題があるなど、バイアスの設定が不適切であったとします。その場合、CTRが大きく変化する可能性があります。CTRは、LEDとフォトトランジスタの間の信号の結合効率を決定づける重要なパラメータです。CTRが低下するとフィードバック信号が弱まり、PWMコントローラは電圧の変動に反応しにくくなります。一方、CTRが高すぎると、過度な補償が行われたり、安定性が低下したりする可能性があります。このような状態は、過渡的な事象が生じたときに特に顕著になります。そのため、負荷の急激な変化に迅速に対応可能な電源システムを構築しなければなりません。バイアスの設定が不適切である場合、補正の遅れ、電圧のオーバーシュート/アンダーシュートの増大、ループ帯域幅の低下といった問題が生じる可能性があります。
シミュレーションで得られた波形からは、フィードバック経路で使用するコンポーネントを慎重に選定し、バイアスを適切に設定することが重要であることがわかります。LEDの順方向電圧、CTRの許容誤差、フォトトランジスタのコレクタ電流などのパラメータや、補償用回路の設計については慎重な検討が求められます。その結果、多様な動作条件にわたり、堅牢性の高い過渡応答、安定した電圧のレギュレーション、信頼性の高いシステム性能を確保することが可能になります。オプト・カプラのバイアスを適切に設定すれば、ループの精度が向上します。それだけでなく、絶縁型の電源アプリケーションにおけるEMI(電磁干渉)耐性と長期的な信頼性の向上も図れます。
iCoupler vs. オプト・カプラ -絶縁技術のパラダイム・シフト
高速な通信、高い信頼性、長期的な性能が求められるアプリケーションでは、従来のオプト・カプラに変わる優れた絶縁手法が求められています。デジタル絶縁技術であるiCouplerは、その課題を解決するための有望な選択肢です。実際、最新のスイッチング電源の設計ではiCouplerの採用が進んでいます。オプト・カプラは、LEDによって電気信号を光に変換し、それを受信側のフォトトランジスタで検出することによって機能します。この技術は、数十年にわたり広く使われてきました。しかし、オプト・カプラにはいくつかの重要な課題があります。最も大きな問題はLEDの経時劣化です。つまり、時間の経過に伴って信号の完全性が損なわれ、信頼性が低下する可能性があるということです。
オプト・カプラが抱える課題を解決するために、アナログ・デバイセズは他社に先駆けてiCoupler技術を開発しました。iCouplerでは、標準的なCMOSプロセスで製造されるチップスケールのマイクロトランスを使用します。それによって実現される絶縁バリアを介して、デジタル信号を伝送することができます。トランスをベースとするこのアプローチにより、オプト・カプラで使われているような発光と光検出が不要になります。このことから、温度に対する優れた安定性、消費電力の削減、寿命の延伸が実現されます。オプト・カプラとは異なり、iCouplerに対応するデバイスでは温度ドリフトを抑えられます。また、LEDの経時劣化の問題は生じません。そのため、過酷な環境で使用されるシステムやミッション・クリティカルなシステムに最適です。
iCouplerには、基本的な性能の面でも優位性があります。iCouplerに対応するデバイスの多くは、100Mbpsを超える高速なデータ・レートに対応できます。そのため、スイッチング電源のデジタル制御ループ、テレメトリ機能、高速な通信インターフェースの用途に最適です。また、iCouplerを採用した多くのソリューションは、1つのパッケージ内に、複数の絶縁チャンネル、DC/DCコンバータ、診断機能を統合する形で実現されています。そのため、基板上の実装スペースの削減と設計の簡素化に貢献できます。
オプト・カプラには、シンプルでコスト効率が高いという特徴があります。そのため、アナログ・フィードバック・ループでは依然として広く使われています。ただ、精度、速度、信頼性が優先されるデジタル領域では、次第に他の技術が使われるようになりました。図3は、その例を示したものです。図中の「ADP1074」は、iCouplerによる絶縁機能と同期整流方式のPWMコントローラ機能を備える製品です。このICは、故障に対する高度な保護機能も備えているので、各種の安全規格や規制に容易に準拠できます。そのため、産業/車載/通信などの分野で用いられる絶縁型のスイッチング電源に適した集積度の高いコンパクトなソリューションとして活用することが可能です。
絶縁型のスイッチング電源では、オプト・カプラからiCoupler技術への移行が進んでいます。その背景には、より高い統合レベル/効率/信頼性を目指す業界全体のトレンドが存在します。iCouplerへ移行することにより、次世代の電子システムの厳しい要求を満たす電源システムを実現することが可能になります。
まとめ
本稿では、LT3753をベースとする絶縁型のフォワード・コンバータの例を紹介しました。その回路のフィードバック・ループは、シャント・レギュレータ(LT1431)とオプト・カプラによって駆動されます。そのループにより、優れた負荷過渡応答が実現されます。本稿で示したシミュレーション結果からは、次のようなことがわかります。すなわち、高速かつ正確なデューティ・サイクルの変調を実現するためには、オプト・カプラのバイアスの正確な設定とCTRが重要であるということです。バイアスの設定が不適切である場合、フィードバック信号に歪みが生じます。そうすると、負荷に大きな変動があった場合などに、電圧の補正が遅れたり、補正動作が不安定になったりする可能性があります。それに対し、iCouplerに代表される新たな絶縁技術を採用すれば、帯域幅の拡大と信頼性の向上を図れます。実際、iCouplerを採用した製品は高速/デジタルのフィードバック・システムに対する最適な選択肢になります。堅牢性の高いフィードバック・ループを設計するには、実際の稼働環境で生じる温度ドリフトや経時劣化といったコンポーネントの問題について細心の注意を払わなければなりません。本稿で説明した原則は、安定性/応答性/性能に優れる電源システムを実現する上での強固な基盤になります。このことは、LT3753を使用する場合でも、他のコントローラを使用する場合でも変わりません。
結論として、フィードバック・ループの機能不全を回避するためには、オプト・カプラのバイアスを適切に設定しなければなりません。それに加えて、革新的な設計戦略を積極的に取り入れていくべきです。
著者について
Hermogenes Escalaは、アナログ・デバイセズのアプリケーション・エンジニアです。EMEAセントラル・アプリケーション・センター(CAC)に所属しています。専門はスイッチング電源(SMPS)とパワー・マネージメント技術。豊富な実務経験と技術的な知見を職務に活かしています。アナログ・デバイセズに入社する前は、自動車のダッシュボード、オーディオ・システム、医療用機器といった多様なアプリケーションで使用される電源の設計/サポート...