高性能と超低消費電力を実現したアナログ・デバイセズのマイコンポートフォリオ
アナログ技術で業界に広く知られるアナログ・デバイセズ(ADI)。しかし、扱っている製品はアナログICだけではない。従来からDSP(Digital Signal Processor)やマイコンといったデジタルICも手掛けている。特にDSPは業界の中で非常に高い競争力を誇っており、「SHARC®」はプロオーディオ機器や民生/車載向けのプレミアオーディオ機器など、「Blackfin®」は通信機器や、画像/動画処理機器、車載機器などで盛んに採用されている。本シリーズの第1回ではADIの事業戦略を、第2回では統合開発環境「CodeFusion Studio™」を紹介してきた。今回はその中核を担うマイコンの製品ポートフォリオに焦点を当てる。
マイコンも従来から製品化してきており、産業機器などで多くのユーザーを獲得してきた。ところが2021年に大きな転機を迎える。それはマキシム・インテグレーテッド・プロダクツと統合したことである。アナログICの品揃えが豊富になったほか、マイコンについても製品ポートフォリオが一気に拡充された。これをきっかけに、アナログ・デバイセズがお客様に向けて、さらに幅広いラインアップの中から、最適なマイコンを提供できるようになったと言えるだろう。
もちろんアナログ・デバイセズは、マイコンを単なる「選んで終わりの半導体製品」とはとらえていない。お客様の開発・量産・運用に至るすべての段階を支えるエッジシステム全体の一部として提供している。マイコンを選んだ後の設計負荷や開発期間の長期化など、開発現場で生じる課題を包括的に解決するサポートにも積極的に取り組んでいる。
超低消費電力MCUとワイヤレスMCUを用意
現在のアナログ・デバイセズが用意しているマイコン製品ポートフォリオは、大きく2つのカテゴリーに分けられる。
1つは、「超低消費電力MCU(マイコン)」。もう1つは、「ワイヤレスMCU(マイコン)」である。「超低消費電力MCU」に含まれる製品は6品種ある。具体的には「MAX32660」「MAX32670」「MAX32672」「MAX32662」「MAX32675C」「MAX32650/51/52」。一方、ワイヤレスMCUに含まれる製品は4品種あり、「MAX32655」「MAX32657/8」「MAX32666」「MAX32690」である。
これらのマイコンがターゲットとするアプリケーションは、産業用センサー機器、ウェアラブル端末、ポータブル医療機器、スマートウォッチ、フィットネス端末、心電計(ECG:Electrocardiogram)、持続血糖モニター(CGM:Continuous Glucose Monitoring)などである。いずれの機器も、携帯型もしくはバッテリー駆動であり、BLE(Bluetooth Low Energy)などのワイヤレス通信機能を必須としている。従って、この2つのカテゴリーのマイコンは、こうしたアプリケーションに最適だと言えるだろう。
高性能と低消費電力を両立
超低消費電力MCUの6品種とワイヤレスMCUの4品種は、大きく分けて5つの特長がある。
以下で、それらを詳しく説明しよう。
- 高性能であること
いずれの品種も、英Armが提供する32ビットRISCプロセッサコアである「Cortex-M4F」、もしくは「Cortex-M33」を集積しており、クロック周波数は最大で120MHzと高い。インテリジェント・エッジの中でも、組み込み用途には十分な処理性能を備えている。 - 業界最小パッケージに封止したこと
マイコン製品によって端子数が異なるため、封止するパッケージは異なる。最も小さいパッケージは16端子WLP(Wafer Level Package)であり、実装面積は1.6mm×1.6mmである。これは業界最小クラスである。
MAX326xx 製品ラインナップ – メモリ・パッケージサイズ比較表
- 業界トップクラスの低消費電力を達成していること
これも製品によって違いがあるものの、最も消費電力が低い製品はわずか12.9µA/MHzしかない。この数字は、間違いなく業界トップクラスの低消費電力特性を実現している。 - 「BLE 5(Bluetooth Low Energy 5)」に対応していること
ワイヤレス通信機能はBLE5規格に準拠している。この規格は2016年に標準化されたもので、それ以前の規格と比べて大幅に高性能化されている。具体的には、通信速度は2Mビット/秒と高く、長距離伝送も可能。IoT機器などに向けたワイヤレス通信規格である。アナログ・デバイセズのマイコン製品を採用すれば、BLE 5が外付け部品なしで使用できる。 - セキュリティ機能を搭載していること
例えば、セキュアブート機能や、プログラムコード保護機能、ハードウェア暗号化エンジン、真性乱数発生器、セキュア不揮発性キーメモリなどを搭載している。また「MAX32690」では PUF (Physically Unclonable Function:物理的複製防止機能) も実装している。
2つの代表的な製品を紹介
それではアナログ・デバイセズのマイコン製品の中で代表的なものを2つ紹介しよう。
「MAX32690」:高性能かつ高機能を実現
浮動小数点演算ユニット(FPU:Floating Point Unit)内蔵Cortex-M4コアを搭載した32ビット・マイコンである。Cortex-M4コアのクロック周波数は最大120MHzと高い。現在、MAX326xxシリーズの中では、最も高性能であり、高機能な製品である。
Cortex-M4コアはメインコアであり、このほかに、「32ビットRISC-V(RV32)コア」も搭載した。いわゆるデュアルコア品である。リアルタイム処理が求められるBLE処理などを担当させることで、メインコアの負担を軽減することが可能だ。
BLE機能は、「BLE 5.2規格」に準拠する。消費電力は85µW/MHz(コア電圧1.1V動作時)と少ない。フラッシュメモリーは3Mバイト、SRAMは1Mバイト。パッケージは68ピンのTQFN、もしくは140端子WLPである。主な応用機器は、フィットネス端末や産業用センサー、IoT端末、光通信モジュール、携帯型医療機器などである。
「MAX32660」:超低消費と超小型が特長
超低消費電力と超小型が特長の32ビット・マイコンである。プロセッサコアは、浮動小数点演算ユニット(FPU)内蔵のCortex-M4であり、クロック周波数は最大96MHzである。フラッシュメモリーの容量は256Kバイト、SRAMは96Kバイトである。消費電流は、アクティブ時に85µA/MHz(電源電圧は1.1V)と少ない。
パッケージは複数用意している。最も小型なのは、1.6mm×1.6mmの16端子WLPである。これは前述の通り業界最小クラスである。このほか、4mm×4mmの20ピンTQFNと、3mm×3mmの24ピンTQFNを用意する。
大量購入時の単価が1.5ドルと安価なことも特長だ。主なアプリケーションは、ウェアラブル医療機器や、フィットネス機器、小型IoTセンサー、携帯型オーディオ機器、バッテリー駆動のスマート家電などである。
以上のように、超低消費電力MCUとワイヤレスMCUという2つのカテゴリーによって、ADIはインテリジェント・エッジの多様なアプリケーションを幅広くカバーしている。もっとも、これらのマイコンが本領を発揮するのは、ADIが得意とする周辺技術と組み合わせたときだ。次回は、マイコンの価値をさらに引き上げるコア・コンピタンス「アナログ技術」による差別化の切り札を紹介する。


