電源回路用のデジタル制御ループとアナログ制御ループに違いはないのか?

電源回路用のデジタル制御ループとアナログ制御ループに違いはないのか?

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Michael Jones

Michael Jones

最近、筆者はパワー・コンバータの出力に関して、「デジタル制御ループとアナログ制御ループは同じようなものだ」という主張を耳にしました。より詳しく言えば、「ユーザの目から見れば、デジタル制御の手法を採用した電源とアナログ制御の手法を採用した電源は同等のものだ」というのです。これを聞いて筆者が思い出したのは、入社面接などで使われることがある古典的な質問です。それは、テブナンの定理とノートンの定理に基づく等価回路に関する質問です。具体的には、以下のようなものになります。

【質問】AとBの2つのボックスがあります。それぞれには、以下に示すどちらかの回路が含まれています。

ボックスA
ボックスA
ボックスB
ボックスB

どちらのボックスにどちらの回路が含まれているのかを見分けるには、どうすればよいでしょうか?

初心者であれば、どちらも同じ電圧が出力されると考えるでしょう。どちらもソース・インピーダンスは同じです。正しく回答できない人には、どちらか一方は消費電力が多く、発熱量が大きいという事実を伝えます。発熱量が多い方の回路には、ノートンの等価回路が含まれています。

もう1つ、面接用にふさわしい質問として以下のようなものがあります。

【質問】AとBの2つのボックスがあります。

ボックスA
ボックスA
ボックスB
ボックスB

一方のボックスには、デジタル制御ループを備えるパワー・コンバータ、もう一方のボックスにはアナログ制御ループを備えるパワー・コンバータが含まれています。そして、どちらのコンバータからも1Vが出力されます。また、すべての周波数において出力インピーダンスは同一であり、過渡的な動作も同等です。どちらのボックスにどちらのコンバータが含まれているのかを見分けるには、どうすればよいでしょうか?

回答はいたってシンプルです。オシロスコープを各ボックスに接続し、量子化ノイズを比較するだけです。それにより、両者の違いを判別することができます。

デジタル制御ループでは、出力電圧/電流を取得するためのA/Dコンバータ(ADC)、有限数学をベースとする補償器、デジタル方式のPWM回路を使用します。ADC、補償器、PWM回路のいずれにおいても分解能は有限です。デジタル制御ループは、サンプリングと量子化の処理を利用したデータ・システムだということです。一方、アナログ制御ループでは、ランプ回路とコンパレータ回路を利用したアナログ方式の補償器を使用します。この制御ループもサンプリングに基づくデータ・システムだと言えますが、量子化システムではありません。発生するノイズは、オペアンプのノイズと同様の非常に低いレベルに抑えられます。

デジタル制御ループでは量子化ノイズが発生します。一方、アナログ制御ループでは同ノイズは発生しません。このような違いがあるので、どちらのボックスにどちらの回路が含まれているのかを見分けられるということです。

以下では、同じクロック・レートで動作するPWM回路、同じ設計の出力フィルタ、同じ補償回路、同じFETスイッチを使用するデジタル制御ループとアナログ制御ループを比較してみます。これら2つのループの負荷過渡特性は同等です。

以下に示すオシロスコープの画面には、100ミリ秒分のデータが表示されています。

Digital Loops Are Not the Same as Analog Loops

上のトレースがアナログ制御ループ、下のトレースがデジタル制御ループに対応しています。後者の波形を見ると、その中央部に低い周波数の影響が現れていることがわかります。また、それらはスイッチング・ノイズのピークに重畳していることも確認できます。

以下に示すのは、電圧の確率分布を表すヒストグラムです。

Digital Loops Are Not the Same as Analog Loops

2つの結果は同様であるようにも見えます。しかし、信号にローパス・フィルタを適用すると、大きな違いがあることがわかります(以下参照)。

Digital Loops Are Not the Same as Analog Loops

ご覧のように、アナログ制御ループの波形の方がはるかに分布範囲が狭いことがわかります。

取得したデータをスプレッドシートに読み込み、もう少し詳しく見てみることにしましょう。以下に示すのは、ヒストグラムを正規化し、確率分布関数(PDF:Probability Distribution Function)をプロットしたものです。

Digital Loops Are Not the Same as Analog Loops

2つのPDFは非常によく似ています。スイッチと出力フィルタについてはいずれも同じものを使用していることから、スイッチング・ノイズが同等になるからです。しかし、フィルタを適用した場合のPDFを比較すると、両者の分布には大きな違いがあることがわかります(以下参照)。

Digital Loops Are Not the Same as Analog Loops

アナログ制御ループでは量子化ノイズは発生しません。そのため、デジタル制御ループを使用する場合と比べて分布範囲がはるかに狭くなります。

スプレッドシートを使って計算したところ、信号にフィルタを適用しない場合のRMSノイズは約-46dBであることがわかりました。一方、フィルタを適用した場合、それぞれのループのRMSノイズは約-60dB、約-70dBでした。

【フィルタを適用しない場合】

デジタル制御ループ:0.00496(-46.1dB)

アナログ制御ループ:0.00450(-46.9dB)

【フィルタを適用した場合】

デジタル制御ループ:0.00093(-60.1dB)

アナログ制御ループ:0.00028(-70.1dB)

分布に違いが現れるのは低い周波数領域です。デジタル制御ループを使用する場合と比べると、アナログ制御ループを使用する場合の方が低周波領域に分布するノイズが10dB低く(約1/3)なります。PDFのプロットにおいて幅が1/3になっている部分は、オシロスコープの表示において、アナログ制御ループの波形の中央部の色が濃くなっている部分に対応しています。

テブナン、ノートンの両定理に基づく等価回路の例と同様に、2つの回路は全く同等だというわけではありません。ノートンの等価回路では多くの熱が発生するのと同様に、デジタル制御ループでは広く分布するノイズが発生します。

テブナン、ノートンの両定理に関する古典的な質問に対し、すらすらと正解を答える賢明な入社希望者が現れることもあるでしょう。そのような人には、本稿で紹介したアナログ制御ループとデジタル制御ループに関する質問も投げかけてみてはいかがでしょうか。