ビル・オートメーション用コントローラの集積度を高めて、価値を生み出す

ビル・オートメーション用コントローラの集積度を高めて、価値を生み出す

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Michal Raninec

ビル・オートメーション・システム(BAS:Building Automation Systems)は、照明、エネルギー、HVAC(Heating, Ventilation, and Air Conditioning)、安全性、セキュリティの機能を1つに統合したものです。その目的は、ビルの運営効率を最適化しつつ、占有者(居住者)の生産性と快適さを向上させることにあります。BASの市場は非常に保守的です。ただ、エネルギー価格の上昇や、省エネに対する意識の向上、防火/防犯に対する政府の取り組みの強化などが理由となって、かなりの成長を遂げています。例えば、UL 217は煙検知器に関する規格です。ビルをより安全で、より効率的で、より快適なものにするために、このような新たな規格や規制が策定/発効されています。このような動きによって、BASに関する新たな製品やソリューションの開発が促進されています。実際、BASのメーカーは、開発サイクルを短縮し、より早く新たな技術を市場に投入すべく取り組みを進めています。具体的には、消費電力が少なく小型でプラットフォーム化された柔軟なシステム・ソリューションを開発しようとしています。それによって、新たなニーズに対応することを目指しているのです。

現在のBAS市場は急速に変化しています。そのため、同市場では革新的なアジリティが重視されています。そうしたなか、BAS用のコントローラはアジリティを欠くことが多い代表的な製品だと言われています。コントローラはBASの頭脳としての役割を果たさなければなりません。ビルの至るところに配備されたセンサーからデータを取得し、それに対する応答としてシステムの振る舞いを決定する必要があるのです。そのため、コントローラは必要な数の入力チャンネルと出力チャンネルを備えていなければなりません。一部のコントローラは、機能が固定されたチャンネルしか備えていません。結果として、そのアーキテクチャには未使用のチャンネルが存在することになるでしょう。それら余剰のチャンネルは、お客様から回収することのできないコストとなります。では、すべてのチャンネルを再構成が可能なものとして実装すると、どうなるでしょうか。その場合、すべてのチャンネルを活用できることになります。理想的には、BASには限られた数の未使用チャンネルが予備として存在し、お客様は利用しない機能に対して費用を支払わなくて済むようにできるとよいでしょう。全チャンネルの機能を構成可能にすることで、BASの設計と配備に対して最大限の柔軟性を持たせることができます。

従来から、BAS用のコントローラでは、固定型のチャンネルと構成が可能なチャンネルの両方ともディスクリート構成で実装されてきました。ただ、構成が可能なチャンネルをディスクリートで実装すると、コントローラの部品表(BOM:Bill of Materials)には数百個もの品番が並ぶことになります。開発が終わった数年後、そのディスクリートのソリューションは、コストを重視する市場の期待に応えるために、非常に効率的なものに変更されているはずです。実際、そうした最適化が施された結果、BOMコストは縮小しているでしょう。しかし、新しい動向やアジャイル開発に対する需要の高まりによって、このアプローチのBAS用コントローラが抱える欠点が明白になるはずです。例えば、製品のバリエーションが多すぎることから、計画、設計、製造、ロジスティクスが複雑になるといったことです。つまり、BAS用コントローラのソリューションについては、BOMコストの観点からではなく、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)に基づいて評価しなければなりません。

IC化か、ディスクリート構成か?

必要に応じてチャンネルを再構成できるようにするというのは、未使用のチャンネルを排除するためのアプローチとしては適切です。しかし、それだけではコントローラの設計が抱える他の弱点を克服することはできません。鍵になるコンセプトは集積化(IC化)です。それにより、チャンネルの設計を簡素化でき、フットプリントの縮小と性能の向上を図ることが可能になります。IC化されたソリューションを採用すれば、すべてのチャンネルの機能をソフトウェア・ベースのコマンドを使って簡単に構成できます。ソフトウェアで構成可能な入出力(I/O)技術を採用すれば、最終的にBAS向けのソリューションのTCOを削減することが可能です。また、設計の再利用が容易になると共に、プラットフォーム化の可能性が広がります。更には、BAS用コントローラの製品ライフ・サイクルの全体にわたって価値を創出することができるようになります(図1)。

図1. ソフトウェアによる構成が可能なI/O(AD74412R)がもたらすメリット。この技術を採用することにより、開発の各段階でROIを高めることができます。

図1. ソフトウェアによる構成が可能なI/O(AD74412R)がもたらすメリット。この技術を採用することにより、開発の各段階でROIを高めることができます。

コントローラを開発する際、第1段階ではシステムのアーキテクチャを決定します。お客様の要求をすべて考慮し、新たに製品のアーキテクチャを定義するということです。先述したように、ディスクリートのソリューションは柔軟性に欠けます。このデメリットは、この第1段階においても目につくはずです。言うまでもなく、お客様のニーズは多様です。例えば、入力チャンネルと出力チャンネルの数やその比率によっては、複数種の設計が必要になることがあります。そうすると、コストが増大することに加え、市場のニーズに迅速に対応することが困難になります。一方、ソフトウェアで構成が可能なI/Oであれば、プラットフォーム化を実現できます。また、様々なアプリケーションで実績を積んだ設計を再利用することが可能になります。後述しますが、設計コストや製造コストを削減するためには、設計の再利用が不可欠です。

システムのアーキテクチャの定義が完了したら、設計に着手します。この段階では、設計の再利用がいかに重要であるかが明らかになります。ディスクリート構成の実装とは異なり、I/OをIC化する場合には、即座に繰り返し構成を実施できることを前提として設計できます。そうすると、必要な時間を削減でき、貴重なリソースが解放されます。従来は、ハードウェア設計とソフトウェア設計の両方において、長期にわたってリソースを集中する方法で数多くの種類の製品を構築していました。現在は、そのような設計から、多くの条件を満たす単一の設計への移行が進んでいます。そうすると、実績のあるアーキテクチャの信頼性と堅牢性を維持しながら、研究/開発の期間を短縮し、コストを削減することが可能になるからです。再構成が可能なICによって「すべてのピンで、あらゆるI/O機能を利用できるようにする」というアプローチを採用すれば、様々なアプリケーションのニーズを満たすのは格段に容易になります(図2)。

図2. ソフトウェアで構成可能なI/Oの活用。すべてのピンであらゆるI/O機能を実現できます。

図2. ソフトウェアで構成可能なI/Oの活用。すべてのピンであらゆるI/O機能を実現できます。

事業開発の観点から言うと、従来の開発戦略では反応の遅さが目立ちました。そのため、ビジネス・チャンスの喪失や顧客に対する納期の遅れといったリスクが生じていました。IC化された構成可能なI/Oは、柔軟性が高く使いやすいデバイスだと言えます。それを利用すれば、製品を市場に投入するまでの期間と収益化を達成するまでの期間を短縮することができます。同時に、ROI(Return on investment:投資利益率)を最大化することが可能になります。

設計が完了したら、製造の段階に進みます。IC化によるソリューションを採用すると、部品の購入と管理が始まったときからすぐに目に見えるメリットが得られます。ディスクリート構成の汎用コントローラは、数百個の部品によって構成されることも少なくありません。これは、それらの部品を購入し、倉庫に収め、製造工場に輸送しなければならないということを意味します。種類の異なる部品を大量に管理する作業は、全体のコストに影響を及ぼします。一方、単一のチップから成るソリューションを採用し、設計の再利用が可能になれば、部品のロジスティクスは簡素化されます。購買部門が取り引きするサプライヤの数も減り、必要な格納スペースも小さく抑えられます。

部品の数が減れば、プリント回路基板の面積を最大で40%縮小できます。製造時に実施するピック&プレースのコストも大幅に下がります。また、ソフトウェアで構成可能なI/Oを採用すれば設計を再利用できます。そうすると、コントローラのメーカーとしては、同じ種類のプリント基板を大量に使用することになります。その結果、ボリューム・ディスカウントの原理が働き、コストが低下します。図3に、ディスクリート構成のチャンネルとIC化されたチャンネルについてまとめました。

図3.ディスクリート構成とIC化の比較。チャンネルの機能を実装する方法によって差が生じます。

図3.ディスクリート構成とIC化の比較。チャンネルの機能を実装する方法によって差が生じます。

図4. ソフトウェアによる構成が可能なI/O「AD74412R」。IC化されたソリューションの代表的な例です。

図4. ソフトウェアによる構成が可能なI/O「AD74412R」。IC化されたソリューションの代表的な例です。

工場からの出荷テスト(製造テスト)は、統一された手順に従って行われます。多くの部品を使用するディスクリート構成と比較すると、IC化されたソリューションではセットアップに要する時間が短くなります。但し、設計の複雑さが増すことにより、テストで不合格となるリスクが高まる可能性はあります。また、認証のプロセスも、再利用が可能なICソリューションによってコストやリソースを削減できる例としてよく取り上げられます。最終製品のロジスティクス、配備、技術サポートについても、同様のメリットが得られます。複数のプラットフォームをベースとして多くの設計が行われている場合、販売担当者、技術サポート・チーム、装置の導入担当者のトレーニングにも更に多くのコストがかかります。ソフトウェアで構成可能なI/Oをベースとし、汎用性が高く再利用が可能なソリューションを採用した場合には、そうしたコストも低減できます。

まとめ

従来、ソフトウェアで構成可能なI/Oは保守的なものでした。しかし、現在はより迅速な対応が可能なデバイスとして注目されています。BASの市場では、常に変化するお客様のニーズに、より早く対応することが求められています。ソフトウェアによる構成が可能なI/Oは、この市場に革新をもたらします。IC化と設計の再利用によって、BASの市場におけるニーズの変化に対応することが可能になります。ICソリューションは、単に多くの部品を置き換えるものだと思われる方もいるかもしれません。あるいは、ICソリューションは、実はコストを増加させる要因になり得ると考える方もいるでしょう。しかし、より大局的に見たとき、また製品のライフ・サイクルにわたって創造される全体的な価値について考えたとき、ICソリューションはあらゆる疑念を打ち消すことができるだけの力を備えています。

ディスクリート構成の弱点に対処するために、アナログ・デバイセズはソフトウェアで構成可能なI/O製品「AD74412R」を開発しました(図4)。同製品は、必要なシグナル・チェーンを、ディスクリート構成ではなく単一のICとして実現したものです。あらゆるI/O機能に対応できる4つのチャンネルを提供します。コントローラのライフ・サイクルは、アーキテクチャの定義、設計、製造、配備、運用の各段階から成ります。AD74412Rは、それぞれの段階において価値を生み出します。このような製品がBASの市場に登場したのは初めてです。AD74412Rを採用すれば、製品を市場に投入するまでの期間と利益が得られるまでの期間を短縮することが可能になります。それだけでなく、ROIを容易に高めることができます。