10A電子ヒューズによる48V電源用小型過電流保護回路の実現

10A電子ヒューズによる48V電源用小型過電流保護回路の実現

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Pinkesh Sachdev

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概要

従来、過電流保護にはヒューズが使われていました。しかし、ヒューズはサイズが大きくて応答も遅く、トリップ電流の許容誤差が大きい上に、1回あるいは数回トリップした後で交換する必要があります。本稿では、これらの受動ヒューズの欠点を解消する、小型、ロー・プロファイル、高速の10A電子ヒューズについて説明します。この電子ヒューズは、最大48V DCの電源レールを過電流から保護することができます。

はじめに

電気的故障から生じるシステムのダウンタイムを最小限に抑えるために、高可用性システムや24時間365日の稼働が求められるシステムの電源は、電力供給の対象となるボードの過負荷や短絡から保護する必要があります。RFパワー・アンプ・アレイ、あるいはバックプレーンベースのサーバーやルータなど、複数のサブシステムやボードに電力を供給する場合は、電源の過電流保護が不可欠です。障害が発生したサブシステムを共有電源バスから直ちに遮断できれば、残りのサブシステムを再起動したりオフラインにしたりすることなく、そのまま稼働状態を保つことができます。

従来の過電流保護(OCP)はヒューズに依存していましたが、ヒューズには、サイズが大きい、応答が遅い、許容誤差が大きい、1回あるいは数回トリップした後に交換が必要、といった欠点があります。電子サーキット・ブレーカあるいは電子ヒューズと呼ばれるDC電源用の集積回路OCPソリューションは、ヒューズが持つこれらの欠点を解消します。ボード・スペースを節約しながら受動ヒューズ同様のシンプルさを実現するために、電子ヒューズでは、1つのパッケージ内にパワーMOSFETスイッチと制御回路が組み込まれています。

パワーMOSFET内蔵のサージ・ストッパ

サージ・ストッパは集積回路デバイスであり、DC電源(例えば12V、24V、または48V)と、入力電圧サージや負荷電流サージからの保護を必要とするシステム・エレクトロニクスとの間の電力パスに置かれる、Nチャンネル・パワーMOSFETを制御します。サージ・ストッパは、組み込まれている出力電流および出力電圧制限機能によって、負荷エレクトロニクスを高電圧の入力サージから保護し、下流側の過負荷や短絡から電源を保護することができます。電圧サージや電流サージを制限する必要が生じたときは調整可能なタイマーが作動するので、障害によるトランジェントが短時間の場合は、パワーオフすることなくシステムの動作を継続させることができます。障害状態がタイマーの設定時間より長く続く場合は、そのシステムが電源から切り離されます。

LTC4381は、パワーMOSFETを内蔵した初のサージ・ストッパです。このデバイスは72Vまでの電源電圧で動作し、自己消費電流は6µAに過ぎません。内部パワーMOSFETのドレイン・ソース・ブレークダウン電圧(BVDSS)が100V、オン抵抗(RDS(ON))が9mΩなので、100Vまでの入力サージに耐え、10Aまでのアプリケーションに使用することができます。LTC4381では、障害時再試行動作と出力クランプ電圧設定(固定/可変)に関して、4つのオプションがあります。

48V、10A電子ヒューズ回路

LTC4381のサージ・ストッパ機能は、電子ヒューズとして機能させるために簡単に拡張することができます。LTC4381-4を使用した48V/10Aの電子ヒューズ・アプリケーションを図1に示します。この回路は、出力における過負荷や短絡から電源を保護します。通常動作時、出力VOUTは、内部パワーMOSFETと外部検出抵抗RSNSを通じて電源入力VINに接続されています。出力の過負荷または短絡時にRSNSの電圧降下が50mVの電流制限閾値を超えると、TMRピンのコンデンサ電圧が0Vからランプ・アップを開始し、TMR電圧が1.215Vに達すると内部MOSFETがシャットオフします(後述)。4mΩのRSNSは、過電流閾値の代表値を12.5A(50mV/4mΩ)、最小値閾値を11.25A(45mV/4mΩ)に設定します。これらの値は10Aの負荷電流に対して十分なマージンを備えています。

図1 LTC4381を使用した48V、10Aの電子ヒューズ

図1 LTC4381を使用した48V、10Aの電子ヒューズ

電源へ戻るパターンやケーブルの寄生インダクタンスによって、電流が流れている状態で内部MOSFETスイッチをオフした場合は、常に通常動作電圧よりもかなり大きな入力電圧スパイクが発生します。ツェナーD1はLTC4381のVCCピンの80V絶対最大定格を保護し、D2は内部の100V MOSFETをアバランシェ現象から保護します。また、D2を使用しない場合は、D1が出力クランプを66.5V(56V + 10.5V)に設定します。R1とC1はVINのスパイクとディップを除去します。コンデンサがLTC4381の近くに取り付けられていて電圧スパイクが80V未満に制限されている場合は、VCCピンを直接VINに接続できます。この場合、D1、D2、R1、C1は必要ありません。

通常動作時に内部MOSFETに流れる電 流が10Aの場 合、LTC4381の初期電圧降下は90mV、消費電力は900mWです。しかし、この消費電力によって室温におけるDC2713A-D評価用ボード上にあるLTC4381パッケージの温度が約100ºCまで上がり、更にこれによってRDS(ON)が倍になり、電圧降下が180mVに増加します。4mΩ検出抵抗の電圧降下は、10Aで更に40mV増えます。したがって、LTC4381の温度上昇を抑えるためにはより広い銅面積が必要になる可能性があり、SNSノードではこの傾向が更に強くなります。参考までに、DC2713A-DのSNSノードは、ボードの2つの外層に均等に広がる2.5cm2の2オンス銅箔を使用しています。

スタートアップ動作

48Vおよび60V電源の場合、図1の回路は、ONピンがグラウンドから解放された後に220µF負荷コンデンサをスタートアップします(図2を参照)。60Vが、48V電源の動作範囲上限と見なされています。220µFは、スタートアップ時に追加の負荷電流がないと仮定して、この10A回路で安全に充電できる最大の負荷コンデンサです。220µFのコンデンサを12.5Aの電流制限値で60Vに充電する場合の突入時間は、220µF × 60V/12.5A = 1.06msです。図3に示すLTC4381 MOSFETの安全動作領域(SOA)は、12.5Aおよび30Vの条件に1ms耐えられることを示しています。30Vが使われるのは、60Vから始まって0Vまでランプ・ダウンする場合の平均入出力電圧差だからです。

図2. LTC4381による10Aヒューズ回路の220µF負荷コンデンサのスタートアップ。(a)48V電源使用時(左)、(b)60V電源使用時(右)

図2. LTC4381による10Aヒューズ回路の220µF負荷コンデンサのスタートアップ。(a)48V電源使用時(左)、(b)60V電源使用時(右)

図3 LTC4381 MOSFETの安全動作領域。

図3 LTC4381 MOSFETの安全動作領域。

ランプ・レートを低下させるGATEピン・コンデンサがないので、出力は2ms以内に充電を完了し、制御状態になる前の突入電流は(電流制限閾値をオーバーシュートして)17Aでピークに達します(図2を参照)。LTC4381の電流制限検出閾値は、OUTピンの電圧が3Vを超える場合は50mV、すなわち、4mΩ検出抵抗使用時で12.5Aですが、OUTピンの電圧が1.5V未満の場合は62mVすなわち15.5Aに増加します。図4を参照してください。このグラフは、スタートアップ時に検出抵抗を通過する電子的負荷電流が20mV(4mΩで5A)以上低下すると、出力が2Vに(およびTMRのタイムアウトまで)固定されることも示しています。

図4 LTC4381の電流制限値と出力電圧の関係。

図4 LTC4381の電流制限値と出力電圧の関係。

図2の波形は、ループ安定性のために必要な47nFのゲート・コンデンサがないためにレギュレーションされておらず、突入パルスとなっていることを示しています。実際には、60Vの突入パルス付近で約0.5msにわたり電流が途切れています。LTC4381のTMRプルアップ電流は、内部MOSFETの消費電力に比例します。したがって、スタートアップ突入パルス発生時は、電流が電流制限閾値未満であってもTMRがランプ・アップします。ゲート・コンデンサは、220µFの負荷コンデンサを正常にスタートアップできる程度の小さいTMRコンデンサを使用できるように、意図的に省略されています。小さいTMRコンデンサは短絡障害発生時にMOSFETを保護します。これについては次のセクションで解説します。

68nFは、60Vスタートアップ時にTMR電圧を約0.7Vまで上げることができる最小のTMRコンデンサです。例えば、TMRコンデンサを47nFにすると、TMRは60Vスタートアップで1.15Vになりますが、これは1.215Vのゲート・オフ閾値に非常に近い値です。以下に挙げる許容誤差を考慮した上で、1.215Vのゲート・オフ閾値から十分なマージンを確保するために、0.7VのピークTMR目標電圧を採用しました。考慮した許容誤差は、TMRプルアップ電流が±50%(LTC4381データシートのITMR(UP)仕様)、TMRコンデンサが±10%、1.215VのTMRゲート・オフ閾値が±3%(VTMR(F)仕様)です。

最大負荷コンデンサ用に推奨されるTMRコンデンサを表1に示します。このコンデンサは、60Vスタートアップ時にTMRの電圧上昇を約0.7Vに制限するために使用します。

表1. CLOAD(MAX)用に推奨されるCTMR
CLOAD(MAX)
CTMR
12 µF
10 nF
47 µF
22 nF
90 µF 33 nF
140 µF
47 nF
220 µF 68 nF

出力短絡動作

図1の回路の主な目的は、スタートアップ時や通常動作時の過負荷や短絡といった下流側の過電流障害から、上流側の電源を保護することです。LTC4381が、出力に短絡がある状態でそのMOSFETをスタートアップした場合の状態を、図5に示します。まずゲート電圧(青の曲線)がランプ・アップします。その値が3Vの閾値電圧を超えると、MOSFETがオンになって電流(緑の曲線)が流れ始めます。出力が短絡しゲート・コンデンサがないことにより、MOSFET電流は急速にランプ・アップします。0V出力で15.5Aの電流制限閾値を超え、LTC4381が反応してMOSFETのゲートをプルダウンし電流を遮断するまでに21Aのピークに達します。電流が15.5Aを超えた状態が続く時間は50µs未満です。MOSFETが電力を短時間消費するので、TMR電圧(赤の曲線)は約200mVまでランプ・アップします。TMR電圧は1.215Vのゲート・オフ閾値よりはるかに低いので、ゲートが再びオンになって別の電流スパイクが生じます。TMR電圧は、電流スパイクが生じるごとにステップ・アップして1.215Vに近付きます。

図5 LTC4381の48V電源スタートアップと出力短絡の発生

図5 LTC4381の48V電源スタートアップと出力短絡の発生

このような電流スパイクをいくつか経た後にTMR電圧が1.215Vのゲート・オフ閾値に達し、MOSFETはオフに維持されます。TMRは以上でクールダウン・サイクルに入り、LTC4381-4はクールダウン・サイクルが完了するまでMOSFETをオンしません。TMRコンデンサが68nFの場合のクールダウン・サイクルの長さは、LTC4381データシートの式8から33.3 × 0.068 = 2.3秒となります。LTC4381-4は自動的に再試行をするので、出力短絡が解消されるまで、電流スパイクとクールダウン・サイクルの同じパターンが無限に繰り返されます。このパターンは、通常動作時、つまり出力が既に立ち上がった状態で出力短絡が発生した場合に繰り返されます。LTspice®シミュレーションを行っても、4µHの入力レール・インダクタンスを追加しない限り図5の動作とはなりませんので注意してください。

まとめ

LTC4381の内部MOSFETは、48V/10Aまでのシステム向けに電子ヒューズあるいはサーキット・ブレーカ用のコンパクトな回路を提供します。したがって、パワーMOSFETの選択に費やす設計時間をなくすことができます。LTC4381のMOSFETのSOAは出荷時にテストされ、デバイスごとに確保されています。ディスクリートMOSFETでは、これは望めません。このことは、サーバーやネットワーク機器内の高価なエレクトロニクスを保護する、信頼性の高いソリューションを構築する助けとなります。

本稿に示した10A回路は、ループを安定化するGATEコンデンサがないためにある種の独特な動作を示すので、その点に留意する必要があります。具体的には、短絡発生時の突入電流とパルス電流が、従来のようにdV/dt制御されていないという点です。ただし、これらは短時間の過渡的な現象で、持続時間は数ミリ秒以下です。入力バイパス容量は最終的な48V電源の変動を防ぐ助けとなり、特に(例えばバックプレーン上の)他のボードと電源を共有する場合に有効です。他のボードと電源を共有する場合、隣のボードの負荷容量は入力バイパス・コンデンサと同じ役割も果たします。