要約
DS278xスタンドアロン残量ゲージファミリは、充電可能なリチウムイオンまたはリチウムポリマバッテリの利用可能な残容量の正確な推定値を提供します。これらの残量ゲージは、このICの電流ADCによって導入されて生じるオフセットをデザイナが除去できる電流オフセットバイアス(COB)レジスタを備えています。しかし、このレジスタの不適切なキャリブレーションは、特に低電流時に、電流測定の精度を低下させます。このアプリケーションノートは、COBレジスタに設定すべき正しい値を決定するために、完全実装バッテリパック内のDS278xを正しく較正する方法を段階別に説明します。
はじめに
DS278xスタンドアロン残量ゲージファミリ(DS2781、DS2784、およびDS2788を含む)は、充電可能なリチウムイオンまたはリチウムポリマバッテリの利用可能な残容量の正確な推定値を提供します。残量ゲージの精度は、セル特性、およびEEPROMに保存されたアプリケーションパラメータに加え、電流読取りの精度によって決定されます。
各デバイスは、電流オフセットバイアス(COB)レジスタを内蔵しており、デザイナはICの電流ADCによって生じる内在のオフセットを除去することができます。高精度残量ゲージの利点は、デバイスの不適切なキャリブレーションによって完全に打ち消される可能性があります。このアプリケーションノートは、DS278xのCOBレジスタを正しく較正する方法を示す例を提供します。
解説
DS278xファミリの電流ADCは極めて高い感度を備えています。検出抵抗のわずか1.5625µVの電圧ドロップを測定することができます。このような精度は、セルパックがアセンブリされた後の電流測定を較正することによってのみ達成することができます。COBは、DS278xファミリのデバイスによって測定され、積算電流レジスタ(ACR)に蓄積される電流に追加されるオフセット値です(Eq. 1参照)。
Reported Current (mA) = Measured Current (mA) + Current Offset Bias (mA)(Eq. 1)
図1はCOBレジスタフォーマットを示しています。COBは、1バイトのパラメータEEPROMメモリブロックに保存された8ビット、2の補数値です。COBレジスタ値は、1.5625µVのステップで、-199.68µV~+198.12µVを調整することができます。
図1. 計算されたCOB値は、上記のCOBレジスタフォーマットを使って、アドレス7Bhに書き込まれる必要があります。
オフセット調整が不要な高精度電流測定値に作成するには、デバイスは0のCOB値を必要とします。基本的に、DS278xファミリのデバイスは、出荷時にCOB値 = 0です。
アプリケーションの全温度および電圧範囲で、デバイスの電流オフセットには多少変動する可能性があります。そのため、アプリケーションの平均温度および電圧のオフセットを較正することが推奨されます。たとえば、携帯電話またはPDAは、大半の時間、常温の約+25℃、ミッドレンジのセル電圧の3.8Vで使用されます。次の例は、DS278xインサーキットを較正する各手順を示しています。
- オフセットレジスタを初期化する
- 電流が流れていないことを確認する
- 電流レジスタを読み取る
- 新しいCOB値を決定する
- 新しいCOB値を書き込んでコピーする
- 精度を確認する
COBレジスタに0x00hを書き込むことから開始することを推奨します。ユーザは、キャリブレーションの精度に影響を及ぼさずに、別のオフセット値をスタートポイントとして選択することができます。開始オフセット値は、新しいオフセット値を決定するときに書き留めておく必要があります。この例の場合、0x00hがスタートポイントンとして使用されることが前提されます。
0x00hをCOBレジスタに書き込む | 1バイト |
ほとんどの場合、保護FETをディセーブルすると、バッテリパックへのあらゆる電流の流れが止まります。しかし、バッテリパックに接続されている一部の電源または負荷には、オフセットキャリブレーションの精度に影響する小さいリーク電流があります。このリークは、負荷の接続の有無に関係なく、オフセットを較正することによって検出することができます。2つの試験で計算されたオフセットが異なる場合、負荷は、キャリブレーションの前にスイッチングリレーから物理的に削除するか、切断する必要があります。
このデバイスは、18.6kHzで検出抵抗の電流をサンプリングしており、各コンバージョンサイクルの完了(3.52秒ごと)時に電流レジスタを更新しています。そのため、電流レジスタを読み取る前に最低7.04秒待機し、FETがオープンされ、負荷が除去される前からの電流がコンバージョンサイクルに含まれていないことを保証することが推奨されます。
7.04秒間、待機する | 電流コンバージョンを待機する |
電流レジスタを読み取る | 2バイト |
COBは、測定対象の電流に追加されます(Eq. 1参照)。そのため、オフセットを削除するためには、COBレジスタに電流レジスタの反対の値を書き込む必要があります。電流レジスタとCOBレジスタは、同じLSb値(1.5625µV)を持つため、新しい値を検索するのはシンプルです。
たとえば、電流レジスタの読み取りが、+4.6875µV (+3 LSbs)の電流が示された場合、-4.6875µV (-3 LSbs)をCOBレジスタに単純に書き込みます。
手順4で決定された値は、2の補数形式でCOBレジスタ(アドレス0x7Bh)に書き込まれ、EEPROMにコピーする必要があります。この例のCOB値は、-3 LSbsであるため、2の補数値は0xFDhです。
新しい値をCOBレジスタに書き込む | 1バイト |
ブロック1でEEPROMコピーを実行する |
COBレジスタの新しい値を使って、手順2と手順3を繰り返し、キャリブレーションの精度を確認することができます。
結論
COBレジスタ値は、顧客によってプログラムされ、モジュールまたはパック製造後に電流測定精度を向上させることができます。電流オフセットキャリブレーションによって、DS278xスタンドアロン残量ゲージファミリを最大限に高精度にすることができます。また、DS278xの各デバイスは、電流利得レジスタ(RSGAIN)も備えており、これを使って、電流読取りの精度を向上させることができます(アプリケーションノート4114「DS278x残量ゲージICファミリのRSGAINの較正」参照)。 RSGAINを較正する前に電流レジスタのCOBを較正することが重要です。