要約
バッテリ残量ゲージの性能を最大化するには、セルの振舞いを完全に理解することができるように、バッテリパックの特性評価を行う必要があります。このアプリケーションノートでは、満充電、定電流放電、およびステップ放電の各定型操作の説明を含む、バッテリの特性評価のためのセットアップおよび手順の概要を示します。また、ステップ放電を実行するための手順についても概説します。
この記事の類似バージョンが「Power Electronics Technology」誌の2011年7月1日号に掲載されました。
はじめに
バッテリ残量ゲージから最高の性能を得るためには、アプリケーションでのセルの振舞いを完全に理解することができるように、バッテリパックの特性評価を行う必要があります。特性評価を行うには、Maximおよび他の残量ゲージメーカーは室温でパックを充電することを推奨しています。次に、重負荷、中負荷、および軽負荷で、室温でパックを放電させます。低温および高温で、中負荷でパックを放電させます。さらに、放電中にパックがどのように緩和するかを観察するために、ステップ放電が推奨されます。このアプリケーションノートでは、MaximのModelGauge™シリーズ(MAX17040/MAX17041およびMAX17043/MAX17044)について、このデータを適切に収集するためのセットアップと手順の概要を示します。その後、収集したデータを使用して、残量ゲージチップで使用するカスタムモデルを作成することができます。
セットアップ
試験対象のセルを、十分なケルビン検出接続を使用して試験システムに接続し、40℃、20℃、および0℃に設定可能な環境チャンバー内に設置してください。さらに、試験システムの温度プローブを、試験対象のセルの表面に密着するように配置してください。
次に、セル特性評価リクエスト(CCR)フォームを作成し、このアプリケーション用の充放電パラメータを記入してください。それを残量ゲージチップのサプライヤに送付して、その特定のバッテリパック向けに残量ゲージをカスタマイズするために使用するプロファイルを作成してください。たとえば、MaximのCCRフォームに記入して返送した場合、残量ゲージチップが適切に設定されていることを確認するためのカスタムプロジェクト番号が割り当てられます。
セル特性評価のパラメータ
アプリケーションで使用する充放電レベルでバッテリパックのサイクルを行ってください。1セルのバッテリパックの値の例を以下に示します。
充電電流:Cレート/2
充電電圧:4.2V
終了電流:50mA
重負荷:1.5 × 標準アクティブ電流
中負荷:1 × 標準アクティブ電流
軽負荷:標準アクティブ電流/4またはCレート/10
エンプティ電圧:3.0V
(注:パック外部ではなくセルのエンプティ電圧を測定してください)。
高温:+40℃
室温:+20℃
低温:0℃
定義
ModelGaugeデバイスと組み合わせて使用するためのセルの適切な特性評価には、3つの基本的な定型操作を実行する必要があります。それらの定型操作とは、満充電、定電流放電、およびステップ放電です。
満充電は、ピーク電圧が充電電圧に達するまで、充電電流でバッテリパックを充電します。その後、電流が終了電流以下に減少するまで電圧が充電電圧に維持されます。特性評価中は、すべての充電を室温で行い、個々の充電のあとに少なくとも60分間にわたりセルを「緩和」させることが推奨されます。充電サイクルの例については、図2を参照してください。
放電は、バッテリパックの電圧がエンプティ電圧に低下するまで、所定のレートで、定電流で電荷を損失させます。個々の放電のあとに、少なくとも60分間にわたりセルを緩和させることが推奨されます。室温において、重負荷、中負荷、および軽負荷で定電流放電を実行してください。高温および低温でも、定電流放電を繰り返してください。定電流でのフルからエンプティまでの放電の例については、図3を参照してください。セルがエンプティ電圧に達したあとは、セルが「緩和」されるため、セル電圧がより高い電圧に回復することに注意してください。
ステップ放電は、バッテリ容量の約20%だけ重負荷でセルを放電させ、その後60分間にわたりセルを緩和させます(図4)。放電レートがC/2の場合、24分間のステップ放電が推奨されます。電圧がエンプティ電圧レベルに達するまで、この20%の放電ステップを継続してください。
最初のステップ放電の緩和状態の間でバッテリを緩和させるために、さらに最初のステップをバッテリ容量の5%、10%、および15%とする3つのステップ放電サイクルを実行してください。これによって、緩和状態のオフセットが作られます。放電レートがC/2の場合、6分間の放電で5%のオフセット、12分間の放電で10%のオフセット、18分間の放電で15%のオフセットが与えられます。電圧がエンプティ電圧レベルに達するまで、元の20%の放電ステップを継続してください。ステップ放電については、以下の手順のステップ16~27で説明します。
ステップ放電の実施手順
- 環境チャンバーを20℃に設定します(温度を変更するたびに、30分間セルを放置してください)
- セルをフルまで充電し、セルを緩和させてください(個々の緩和は約1時間としてください)
- 環境チャンバーを40℃に設定してください。
- 中放電レートでエンプティ電圧まで放電し、セルを緩和させてください(中レートとは、標準アクティブ放電電流です)
- 環境チャンバーを20℃に設定してください。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- 中放電レートでエンプティ電圧まで放電し、セルを緩和させてください。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- 環境チャンバーを0℃に設定してください。
- 中放電レートでエンプティ電圧まで放電し、セルを緩和させてください。
- 環境チャンバーを20℃に設定してください。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- 重放電レートでエンプティ電圧まで放電し、セルを緩和させてください(重レートとは、1.5 × 標準アクティブ放電電流です)
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- 軽放電レートでエンプティ電圧まで放電し、セルを緩和させてください(軽レートとは、通常は標準アクティブ放電電流/4またはCレート/10です)。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- Cレート/2でセルを20%放電し、1時間にわたりセルを緩和させてください。
- 一度に20%ずつ放電しながら、エンプティ電圧に達するまでステップ17を繰り返してください。これによって、100%、80%、60%、40%、20%、および0%でのオープン回路電圧(OCV)を観測することができます。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- Cレート/2でセルを5%放電し、1時間にわたりセルを緩和させてください。
- 一度に20%ずつ放電しながら、エンプティ電圧に達するまでステップ17を繰り返してください。これによって、100%、95%、75%、55%、35%、15%、および0%でのOCVを観測することができます。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- Cレート/2でセルを10%放電し、1時間にわたりセルを緩和させてください。
- 一度に20%ずつ放電しながら、エンプティ電圧に達するまでステップ17を繰り返してください。これによって、100%、90%、70%、50%、30%、10%、および0%でのOCVを観測することができます。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
- Cレート/2でセルを15%放電し、1時間にわたりセルを緩和させてください。
- 一度に20%ずつ放電しながら、エンプティ電圧に達するまでステップ17を繰り返してください。これによって、100%、85%、65%、45%、25%、5%、および0%でのOCVを観測することができます。
- フルまで充電して、セルを緩和させてください。
セルの充電および放電を示した完全なサイクルを図5に示します。これらの波形は、手順の各ステップで何が起きるかを示しています。
注:チャンバーの温度の変更に対応するために、任意の休息期間を無制限に延長することができます。
基準データ
(エラーを判定するための)強固な基準充電状態を生成するために、最小限以下のデータを収集する必要があります。
- 充電および放電クーロンカウンタ:これらは、2つのレジスタまたは両者を組み合わせた1つのレジスタになっている場合があります。正確な特性評価および性能検証のために、クーロンカウンタのドリフトが1mA 以下で容量を測定してください。
- バッテリ電圧
- 充電/放電電流
- 温度
- 時間:基準データとチップのデータを異なるシステムで収集する場合、正確な比較のためには両者のシステムクロックが同期されている必要があります。
データファイルが大きくなり過ぎるのを防ぐために、15秒に1回の割合でデータを記録してください。延長した時間遅延も含めて、すべてのデータを1つの連続したファイルに収集してください。
データ処理
以上の手順が完了したあと、このデータのプロジェクト番号を明記して、残量ゲージのメーカーにデータを送付してください。メーカーはデータを処理し、アプリケーションによって定義された充放電パラメータに基づいて、試験対象のセル用の推奨モデルを提供します。次に、そのモデルが残量ゲージチップに組み込まれます。