熱電対は、温度測定を正確に行うための手段として広く活用されています。広い温度範囲に対応できることに加え、安価であることを特徴とします。なかでも、T型熱電対(材料は、銅ベースの合金であるコンスタンタン)は多くの長所を備えた製品だと言えます。実際、T型熱電対は感度が高く、安定性に優れ、製造が容易で、良好な耐湿性を備えています。また、プリント回路基板に実装する際、銅と銅が接続されることになるため、等温ブロックを必要としません。このような理由から、K型熱電対のように広範な温度に対応する必要がない様々なアプリケーションで使用されています。実際、カテーテルから食品加工まで、非常に幅広い分野で使われています。
アナログ・デバイセズは、冷接点補償に対応する熱電対アンプを提供しています。ただ、それらの製品は基本的にはT型熱電対を対象としたものではありません。幸い、T型向けのアンプとK型向けのアンプは、約100°Cまでの電圧特性が似通っています。この類似性を利用すれば、K型向けのアンプによって、T型熱電対による温度測定を非常に高い精度で行うことができます。利用できるK型向けのアンプとしては「AD8495」や「AD8497」が挙げられます。ただ、温度が高くなると、出力電圧はAD8495の5mV/°Cという理想的な伝達関数からずれていきます。そのため、ルックアップ・テーブルまたは多項式を使用して、その差を補正する必要があります。図1は、T型熱電対を使用する場合のAD8495の出力電圧を示したものです。リファレンス接点温度と測定接点温度を考慮し、NIST(米国立標準技術研究所)のT型熱電対の表とAD8495の伝達関数を使用して作成しました。
各測定温度における出力電圧は図1のグラフからも読み取れますが、6次の多項式を使用して計算することもできます。その式は、VOUT〔mV〕 = a0 + a1×T + a2×T2 + …… + a6×T6というものです。この式で使用する係数の値は、下に示すとおりです。
a6 | a5 | a4 | a3 | a2 | a1 | a0 |
2.115 × 10–16 | –2.116 × 10–12 | 2.602 × 10–9 | –4.238 × 10–6 | 5.548 × 10–3 | 4.728 | 1.099 |
–200°C~350°Cの測定温度範囲と0°C~50°Cのリファレンス接点温度範囲において、この多項式を用いた計算で生じる誤差は約–2.50mV~2.28mVとなります。これは、約±0.5°C未満の誤差に相当します。なお、実際の誤差については、熱電対の許容誤差とAD8495の誤差も加味しなければなりません。
なお、温度が0°C未満になると、出力電圧が負の値になることに注意してください。ただ、出力電圧はリファレンス・ピン(REF)を基準として測定されます。そのため、REFの電圧を高く設定することにより、単電源を使用しつつ負の出力電圧に対応することができます。熱電対とAD8495を使用してシステムを設計する際には、グラウンドの接続方法、フィルタの使用方法、デバイスの温度をリファレンス接点温度に維持するためのレイアウト方法などについて検討する必要があります。そうした情報については、AD8495のデータシートを参照してください。