電流モード制御を採用した汎用降圧コンバータでアクティブ電圧ポジショニングを利用する方法
主なポイント
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概要
旧来、DC/DCコンバータでは一般的に電圧モード制御が使われていました。その後、同制御方式を発展させた電流モード制御が広く用いられるようになりました。電圧モード制御と比べると、電流モード制御にはいくつかの長所があります。例えば、動的応答が高速、制御ループの設計がシンプル、サイクルごとの電流制限が高速かつ高精度といった具合です。では、電流モード制御を使用する場合に、負荷過渡応答を更に改善したり、出力コンデンサの容量を低減したり、ソリューション全体のサイズとコストを削減したりする方法は存在しないのでしょうか。本稿のテーマであるアクティブ電圧ポジショニング(AVP:Active Voltage Positioning)を利用すれば、そうした課題に対応できます。AVP機能とは、負荷電流の変動に応じ、目標とする出力電圧の値を能動的に調整するというものです。本稿では、まずAVPによって得られる効果について解説します。その上で、汎用の降圧コンバータにAVP機能を付加する方法を紹介します。
はじめに
本稿では、降圧コンバータの具体的な例として「LTM4650-2」を取り上げることにします。これは、15Vの入力電圧、25Aのデュアル出力または50Aのシングル出力に対応する製品です。このシリーズのパワー・モジュールは、出力用のバルク・コンデンサを除くすべてのパワー・デバイスを1つのパッケージ内に収容しています。そのため、性能と実装密度に優れる使いやすいソリューションだと言えます。また、このシリーズのモジュールには、ピーク電流モード制御のアルゴリズムが実装されています。このことから、同じモジュールを複数個、並列に接続することによって電流容量を容易に増やすことができます。図1(a)に示したのは、LTM4650-2を用いたアプリケーションで一般的に見られる負荷過渡応答の例です。給電の対象となるコンピューティング・デバイスのコア部を確実に動作させるには、負荷過渡応答において出力電圧を許容範囲内に維持することが非常に重要です。例えば、Intelの「Arria II」では、各電源電圧について±3%、±5%といった許容電圧範囲が規定されています1。例えば、フェーズ・ロック・ループ(PLL)や演算用のコア部に供給する電源電圧の許容範囲は±3%です。それに対し、I/O用の電源電圧については±5%の許容範囲が設定されています。多くの演算を高速に実行している際には、負荷が急激に変動する可能性があります。そのことを考慮すると、制御帯域幅が広い降圧コンバータか、値の大きい出力コンデンサを適用した降圧コンバータが必要になります。値の大きい出力コンデンサを使用すると、ソリューションのサイズやコストが増大することになります。
LTM4650シリーズの製品にAVPを適用すれば、図1(b)に示したように負荷過渡応答を更に改善できます。本稿では、まず電流モード制御との関連性を踏まえながらAVPの基本的な原理について説明します。その上で、AVP機能を実現する回路を設計する際の指針を提供します。
AVPによる負荷過渡応答の改善、コンデンサの削減
電圧レギュレータは、入力電圧や負荷の条件の変化にかかわらず、出力電圧を目標値に維持するためのものです。それに対し、AVPを採用した電圧レギュレータは、負荷電流が増加した際に出力電圧を能動的に低下させます2。図2に、AVPを採用した電圧レギュレータにおける出力電圧と負荷電流の関係を示しました。
従来の考え方は出力電圧を固定値に維持するというものでした。AVPはその考え方から脱却したものです。この技術は、CPUの電圧レギュレータ・ダウン(VRD:Voltage Regulator-Down)規格で規定されたガイドラインに沿っています。VRDの規格では、負荷電流が増加した際にコア電圧を下げることを許容すると規定されています。そのような動的な調整を行うと、消費電力を効率的に管理できるようになります。また、負荷が変動する条件下でシステムの性能を最適化することにもつながります。
AVP機能を使用する場合、最大出力電流Io(max)の50%に相当する半負荷の条件で公称出力電圧を設計します。その場合、無負荷時の出力電圧はVo +ΔV/2となり、定格の最大負荷時の出力電圧はVo -ΔV/2になります。このように、定められた範囲内で出力電圧を意図的に変動させるということです。図3に、AVPを採用した電圧レギュレータの出力電圧の波形を示しました。従来の電圧レギュレータとは異なり、AVPによってレギュレートされた出力電圧は、元の設定値まで完全には戻らないよう意図的に制御されます。そのことによって、負荷過渡応答におけるピークtoピークの出力電圧(Vo p-p)を大幅に低減できます。結果として、出力コンデンサの要件を緩和することが可能になります。このことは、基板上のスペースをより効率的に活用したり、システムのコストを削減したりすることにつながります。理論上は、定格の最大負荷電流の50%に相当する負荷ステップに対しては、AVPを適用することで出力コンデンサの値を下げられます。あるいは、出力コンデンサを元の値のまま使用する場合、Vo p-pを1/2に低減できることになります。
AVP回路の設計
ここからは、プロセッサへの給電を担う降圧コンバータについて考えます。通常、この種のアプリケーションに専用の降圧コントローラは、高精度のAVP(またはアクティブ・ロード・ライン)を実現するための回路を内蔵しています。ただ、電流モード制御を採用した降圧コンバータであれば、それが汎用品であったとしても、いくつかの方法によってAVPの機能を実装できます3。例として、LTM4650-2に適用できる最も単純な方法を図4に示します。この例では、既存の設計を変更することなく、同モジュールのCOMPピンに2個の抵抗を適用することでAVPの機能を実現しています。図4(a)のように実装する場合、追加する抵抗がフィードバック抵抗の選択に影響を及ぼすことはありません。ただ、AVPの精度は、誤差アンプのトランスコンダクタンス(gm)の精度に大きく左右されます4。図4(b)に示したのは、AVP機能のもう1つの実装方法です(この方法はAVP-Rと呼ばれます)。この場合、抵抗R1、R2、Rlo、Rhiについて総合的に考える必要があります。つまり、この方法を採用する場合、設計の複雑さが増します。ただ、誤差アンプのトランスコンダクタンスの影響は排除されます。このことを踏まえると、LTM4650-2を対象とする場合にはAVP-Rを適用することが推奨されます。そうすれば、コア電圧を供給するための信頼性が高く高精度なソリューションを実現できます。
「LTpowerCAD®」は、アナログ・デバイセズが提供する電源設計用のツールです。このツールには、LTM4650シリーズの製品でAVP機能を簡単に利用するためのExcelデータ(スプレッドシート)が用意されています。このスプレッドシートは、図5に示すように同ツール上の2ヵ所から入手できます。
このスプレッドシートには、図6のように詳細な動作条件を入力してください。表示されるRlo、Rhiの推奨値と実際の回路構成に従うことで、右側に表示されるAVPの機能を実現できます。
実験結果
ここまで、LTM4650-2でAVPを利用するための設計について説明してきました。その設計について検証するための実験を行ったので、以下にその結果を示します。
AVPの機能の検証
まず、AVPの機能を実験によって確認しました。その際、DC抵抗(DCR)や検出抵抗による熱的な影響については考慮しませんでした。LTM4650-2のスイッチング周波数は500kHzに設定しました。最大負荷電流は25Aです。コンポーネント間のばらつきを考慮し、2枚の同じボードを対象として全く同じ実験を行いました。図7に示したのがその結果です。LTM4650-2は、12Vの入力電圧、1Vの出力電圧、100mVの電圧降下(出力電圧の変動範囲)という標準的な条件で動作させました。
出力コンデンサの削減
AVP機能を使用すれば、負荷過渡応答におけるVo p-pの低減や出力コンデンサの削減などを実現できます。コア電圧の供給に関連するアプリケーションにおけるそうしたメリットを実証するための実験も実施しました。降圧コンバータの例としては引き続きLTM4650-2を使用しました。デフォルトの状態のボードでは、出力コンデンサとして、470μFのPOSCAP(導電性高分子タンタル固体電解コンデンサ)を2個、100μFのセラミック・コンデンサを5個使用していました。その状態で、全負荷ステップを使用した場合、AC電圧の測定値(Vo p-p)は179mVとなっていました。同じハードウェア構成に対してAVP機能を適用すると、負荷過渡応答におけるVo p-pは97.6mVに低減されました。つまり、Vo p-pが約50%低減されたことになります。あるいは、負荷過渡応答においてデフォルトの状態と同じVop-pを許容できる場合には、出力コンデンサを1/2に削減することが可能です(表1)。これらの実験により、降圧コンバータの設計にAVP機能を組み込むことのメリットが実証されました。すなわち、Vo p-pの変動を低減し、出力コンデンサの要件を最小限に緩和できます。つまり、降圧コンバータの設計に必要な出力コンデンサの数(容量値)を少なくできるということです。このことは、ソリューションのコストの低減につながります。
なお、ここで紹介したAVP機能の実装方法はLTM4650シリーズの製品にしか適用できないというわけではありません。ピーク電流モード制御を採用したほとんどのモジュールに同じ方法を適用できます。各種のモジュールに応じてExcelのスプレッドシートを再設定することも可能です。
| 出力コンデンサ | 470μFのPOSCAPを2個、100μFのセラミック・コンデンサを5個 | 470μFのPOSCAPを2個、100μFのセラミック・コンデンサを5個 | 470μFのPOSCAPを1個、100μFのセラミック・コンデンサを2個(出力コンデンサを約50%削減) |
| 条件 | |||
| 補償方法 | AVPなし | AVP | AVP |
| Vo p-p(0A~25A、2マイクロ秒) | 179 | 97.6(約45%の削減) | 181 |
まとめ
本稿では、電流モード制御を採用した汎用降圧コンバータにAVP機能を実装する方法を紹介しました。また、LTM4650-2を例にとり、その方法の検証/実証を行いました。パワー・コンポーネントの非線形性に起因する課題に対処し、LTM4650-2の独自の機能を活用することで、AVPは非常に有用な手段になります。具体的には、データ・センターのような要求の厳しい環境に対応可能な効率的かつ信頼性の高い降圧コンバータを実現できます。本稿では、降圧コンバータの設計にAVP機能を適用するための実践的なガイダンスと貴重な知見を提供しました。AVP機能を適用した降圧コンバータは、コア電圧に関連するアプリケーションにおいて性能の向上とコストの削減に寄与します。
参考資料
1 Henry Zhang「Application Note 149: Modeling and Loop Compensation Design of Switching Mode Power Supplies(スイッチモード電源のモデリングとループ補償設計)」Linear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)、2015年1月
2 Arria® II Device Handbook, Volume 3: Device Datasheet and Addendum(Arria® II デバイス・ハンドブック、第3巻 -データシートと補遺)、Intel、2013年12月
3 Robert Sheehan「Design Note 224: Active Voltage Positioning Reduces Output Capacitors(アクティブ電圧ポジショニングにより出力コンデンサの値を低減する)」Linear Technology(現在はアナログ・デバイセズに統合)、1999年
4 Voltage Regulator Module (VRM) and Enterprise Voltage Regulator-Down (EVRD) 11.1(電圧レギュレータ・モジュール(VRM)とエンタープライズ電圧レギュレータ・ダウン(EVRD)11.1)、Intel、2009年9月