アプリケーションの中には、高い入力電圧から非常に低い出力電圧への変換を必要とするものがあります。例えば、48Vから3.3Vに降圧するといった具合です。このような仕様は、IT分野で使われるサーバー機器や通信分野の機器でよく見られます。そうしたケースでは、どのようなソリューションを採用すべきなのでしょうか。
図1は、1つの降圧コンバータにより、48Vから3.3Vへの変換を行う方法を示したものです。このように、1つのステップで必要な電圧を得ようとすると、デューティ・サイクルが小さくなりすぎるという問題が生じます。ここで言うデューティ・サイクルとは、オン時間(図1で言えば、メインのスイッチQ1がターンオンしている期間)とオフ時間(スイッチQ1がターンオフしている期間)の関係のことです。降圧コンバータのデューティ・サイクルは、次式によって定義されます。
したがって、入力電圧が48Vで出力電圧が3.3V の場合、デューティ・サイクルは約7%になります。
これは、スイッチング周波数が1MHz(スイッチング周期が1000 ナノ秒)の場合、スイッチQ1は1周期の中で70ナノ秒間だけターンオンするということを意味します。その後、Q1は930ナノ秒間ターンオフします。その間は、スイッチQ2がターンオンすることになります。このような回路では、最小オン時間が70ナノ秒以下のスイッチング・レギュレータを選択する必要があります。ただ、そのような選択を行ったとしても、別の問題に直面することになります。現在、一般的に使用されている降圧レギュレータは、非常に高い電力変換効率を達成しています。ただ、そのような製品であっても、デューティ・サイクルがあまりにも小さすぎると、効率が低下してしまいます。なぜなら、インダクタにエネルギーを蓄積するために与えられる時間が短くなりすぎるからです。インダクタは長く続くオフの期間中も、電力を供給しなければなりません。このことから、レギュレータの回路内では、非常に大きなピーク電流が生じることになります。この電流の値を小さく抑えるために、図1のL1のインダクタンスは比較的大きい値にします。Q1がオンの期間中に、L1の両端に大きな電位差が生じるからです。
この例では、Q1がオンの期間におけるインダクタの両端の電位差は約44.7Vになります。スイッチ・ノード側が48V、出力側が3.3Vです。インダクタに流れる電流は次式によって求められます。
インダクタの両端の電位差が大きい場合、インダクタンスが一定であれば、電流は一定の期間、増加します。インダクタのピーク電流を削減するためには、より値の大きいインダクタを選択する必要があります。しかし、インダクタの値を高くすると、電力の損失が増加します。この例のような電圧の条件下では、アナログ・デバイスが提供する高効率なμ Module® レギュレータ「LTM8027」を使用したとしても、効率は出力電流が4Aの場合でわずか80%にしかなりません。
それでは、高い降圧比が必要なケースに、高い効率を得るにはどうすればよいのでしょうか。非常に一般的で、なおかつ効率的なソリューションは、2つのステップによって必要な電圧を生成するというものです。具体的には、1つ目のステップで、入力電圧を降圧して中間電圧を生成し、2つ目のステップでその中間電圧を降圧して最終的に必要な電圧を生成します。図2に示したのが、その実装例です。ご覧のように、効率の高い2個の降圧レギュレータをカスケード接続します。この回路では、まず1つ目のレギュレータで48Vの電圧を12Vに変換します。続いて、2つ目のレギュレータによって、12Vの電圧を3.3Vに変換します。LTM8027を使用して48Vから12Vまで降圧する場合、92%以上の効率が得られます。続く12Vから3.3Vへの変換に「LTM4624」を使用すると、効率は90%となります。したがって、トータルの効率は83%になります。図1のように直接変換する場合と比べて、効率が3%改善するということです。
しかし、3.3Vの出力に伴うすべての電力が、2つのスイッチング・レギュレータ回路を通過するようにしなければならないことには違和感を覚えます。一方で、図1の回路では、デューティ・サイクルが小さいことが原因で生じるインダクタの大きなピーク電流によって、高い効率が得られません。
なお、図1の降圧アーキテクチャと図2の中間バス・アーキテクチャを比較する際には、効率以外にも考慮すべき事柄が数多く存在します。
では、48Vから3.3Vを生成するという基本的な問題には、どのように対処するべきなのでしょうか。実は、アナログ・デバイセズは、この問題に対する別のソリューションを用意しています。それは、新たなハイブリッド型の降圧コントローラ「LTC7821」を使う方法です。このソリューションでは、チャージ・ポンプと降圧レギュレータを組み合わせて使用します。それにより、デューティ・サイクルを2×VIN/VOUT に高めることができます。その結果、非常に高い降圧比が求められる場合でも、非常に高い効率を得ることが可能になります。
図3に示したのは、LTC7821を使用した回路の例です。LT7821の基本機能は同期整流方式の降圧コントローラですが、チャージ・ポンプを併用するハイブリッド型の機能を備えている点に特徴があります。図3の回路では、入力電圧を1/2にするためのチャージ・ポンプと、降圧トポロジを採用した同期整流方式のDC/DCコンバータを組み合わせています。それにより、スイッチング周波数が500kHzという条件下で、48Vから12Vへの変換を97%以上の効率で実現できます。他のアーキテクチャでこのような高い効率を得るには、スイッチング周波数をかなり低く設定するしかありません。ただ、そうすると大きなインダクタが必要になります。
この回路では、4 個の外付けトランジスタを使用します。それらがスイッチング動作を行っている際、コンデンサC1とC2はチャージ・ポンプとして機能します。この方法によって生成した電圧は、同期整流方式の降圧機能を使うことで、精度が高く安定した出力電圧に変換されます。EMC(電磁両立性)性能を最適化するために、チャージ・ポンプはソフト・スイッチング動作で使用されます。
チャージ・ポンプと降圧トポロジを組み合わせることにより、次のようなメリットが得られます。まず、チャージ・ポンプと同期整流方式のスイッチング・レギュレータを最適に組み合わせることで、変換効率が非常に高くなります。制約事項としては、外付けのMOSFETであるM2、M3、M4を低い電圧で動作させなければならないことだけです。また、この回路は非常にコンパクトに実現できます。インダクタとしては、図1の方法と比較して、より小さく安価なものを使用することが可能です。このハイブリッド型の構成では、スイッチM1とM3のデューティ・サイクルDは、2×VOUT/VINになります。スイッチM2とM4のデューティ・サイクルDは、(VIN-2×VOUT)/VIN で求められます。
チャージ・ポンプについては、出力電力が100mW程度に制限されるのではないかと思う方もいるでしょう。しかし、LTC7821は、ハイブリッド型のコンバータを構成した場合に、最大25Aの出力電流に対応するスイッチを使用できるように設計されています。より高い性能を得たい場合には、複数のLTC7821を並列に接続し、同期周波数を使って多相構成をとります。この方法を使えば、複数のLTC7821で全負荷を共有することができます。
図4は、入力電圧が48V、出力電圧が5Vという条件で、負荷に流れる電流を変化させた場合の標準的な効率を示したものです。負荷に流れる電流が約6Aの時、効率は90%を超えています。13A~24A では効率はさらに高くなり、94%以上に達します。
ハイブリッド型の降圧コントローラは、非常にコンパクトな製品です。また、非常に高い効率を提供します。本稿の前半部では、1つの降圧コントローラを非常に小さいデューティ・サイクルで動作させる方法と、2つの降圧コントローラを使用し、中間バス電圧を生成して高い降圧比を実現する方法を紹介しました。ハイブリッド型の降圧コントローラを使用するソリューションは、それらの方法が抱える課題の解決を可能にするものです。ただ、カスケード型のアーキテクチャを好む設計者もいますし、ハイブリッド型のアーキテクチャを好む設計者もいます。いずれにせよ、これら2つの手法を選択肢として持っていれば、あらゆる設計に対応できるはずです。