バッテリの急速充電に関する設計ガイド【Part 1】

バッテリの急速充電に関する設計ガイド【Part 1】

著者の連絡先情報

Franco Contadini

Franco Contadini

Alessandro Leonardi

Alessandro Leonardi

概要

バッテリの容量は、それによって駆動する機器の動作時間を決める重要な要素です。バッテリの容量が大きければ大きいほど、機器の動作時間を長く維持できます。但し、大容量のバッテリは設計者に対して新たな課題をもたらします。それは、どのようにすれば短時間で充電を完了させられるのかというものです。急速充電は、民生、医療、産業といった分野の多様な機器で求められている重要なニーズです。本稿では、Part 1、Part 2の2回に分けて、バッテリの急速充電機能を実装する際に直面する課題について説明します。Part 1となる今回は、ホストとバッテリ・パックのうち、チャージャと残量ゲージはそれぞれどこに配置するべきなのか(パーティショニング)という点に注目して解説を行います。その目的は、無駄な電力消費を抑えつつ、システムの柔軟性を高めることです。その結果として、ユーザ・エクスペリエンスを向上させることが可能になります。また、充放電を安全に行えるようにするためには監視機能が必要になります。これについても解説を加えます。なお、Part 2では、並列接続したバッテリを対象とする急速充電システムの実装方法について解説する予定です。

はじめに

現在は、多様な種類のモバイル機器が続々と市場に投入されている状況にあります。そうした製品には共通する課題が存在します。その課題とは、ユーザ・エクスペリエンスに大きな影響を与えるバッテリの持続時間をどのようにして延伸するかというものです。それぞれの機器の内部に、消費電力を抑えるための技術を適用するのが重要であることは言うまでもありません。しかし、それは解決策の一部にすぎません。モバイル機器の機能は常に拡充され、それに伴って電力に関する要件はより厳しくなっています。そのような状況を受けて、メーカーはバッテリの持続時間を延ばすために、バッテリの容量を大幅に増加させることにも取り組んでいます。

例えば、バッテリの容量を増やすための手段としては、1S2P(セルの直列接続の数が1、並列接続の数が2)などの構成がより一般的に採用されるようになっています。バッテリの容量を増加させることには、明らかなデメリットが伴います。それは、容量が増えるに連れて充電時間が長くなることです。そこで、充電時間を最小限に抑えるためにバッテリ技術の改良も図られています。その結果、充電電流は2Cから3C、更には6Cにまで増加しています。ここでxCというのは、1時間に流せる電流のx倍という意味です。この値は、バッテリの定格アンペア時から算出されます。例えば、2000mAhのセルであれば、バッテリの信頼性に悪影響を及ぼすことなく、最大12Aの電流で充電することができます。

大電流を使用する場合には、充電と放電を安全に行えるようにするための特別な配慮が必要になります。また、セルを並列で使用する場合には、インピーダンスと初期容量のミスマッチにも注意を払わなければなりません。以下では、民生、医療、産業といった分野のあらゆる機器を対象とし、バッテリの急速充電機能の実装に伴う課題について解説します。

また、1S2Pの構成を採用したバッテリを適切に充電する方法も紹介します。更に、ホストとバッテリ・パックのうち、チャージャと残量ゲージはそれぞれどこに配置するべきなのか(パーティショニング)ということについても解説します。このことは、無駄な電力消費を抑えつつ、システムの柔軟性を高めることにつながります。結果として、ユーザ・エクスペリエンスを向上させることが可能になります。

チャージャと残量ゲージのパーティショニング

バッテリ用の充電システムは、2つの主要な要素によって構成されます。1つはチャージャそのものです。もう1つは残量ゲージです。残量ゲージは、バッテリの充電状態(SOC:State of Charge)、使用可能な残りの時間、充電完了までの時間などの指標を報告する役割を担います。この残量ゲージは、ホスト側またはバッテリ・パック内のうちいずれかに実装することになります(図1)。

図1. 残量ゲージの実装場所。ホスト側かバッテリ・パック内に実装することになります。
図1. 残量ゲージの実装場所。ホスト側かバッテリ・パック内に実装することになります。

バッテリ・パック内に実装する場合、残量ゲージにはバッテリに関する情報を保存するための不揮発性メモリが必要です。また、充電/放電電流を監視し、電力パス上に配置したMOSFETによって危険な状態を回避する必要があります。アナログ・デバイセズは、この用途向けの製品として「MAX17330」を提供しています。これは、バッテリ・チャージャ機能と保護機能を内蔵する残量ゲージICです(図2)。

図2. MAX17330のブロック図。充放電用のMOSFETを制御する機能も備える残量ゲージICです。
図2. MAX17330のブロック図。充放電用のMOSFETを制御する機能も備える残量ゲージICです。
図3. 高電圧/大電流を扱う急速充電システムの構成例
図3. 高電圧/大電流を扱う急速充電システムの構成例

充電用の電源電圧が5Vまでに制限されていて、充電用の電流が500mA程度であるケースを考えます。その場合、充電に使用するMOSFETをきめ細かい精度で制御することにより、スタンドアロンのデバイスとして使用可能なリニア・チャージャを実現することができます。リチウム・バッテリの充電電圧は充電曲線の99%で3.6Vを上回るため、消費電力を抑えられます。

高い電源電圧と多くの充電電流に対応するためには、チャージャの前段に降圧コンバータを配置するとよいでしょう(図3)。それにより、降圧コンバータからチャージャに供給する電圧を最適化します。そうすればドロップアウト電圧が最小限に抑えられ、充電用のMOSFETの消費電力を削減できます(図4)。

図4. 降圧コンバータ「MAX20743」をVINが12Vという条件で使用した場合の効率。降圧コンバータを使用して出力電圧を調整することにより、10Aの充電電流を高い効率で得ることができます。
図4. 降圧コンバータ「MAX20743」をVINが12Vという条件で使用した場合の効率。降圧コンバータを使用して出力電圧を調整することにより、10Aの充電電流を高い効率で得ることができます。

バッテリ・パック内に残量ゲージを実装すれば、よりスマートなバッテリ・システムを実現できます。つまり、高度な充電シナリオに対応したり、高度な機能を実現したりすることが可能になります。例えば、バッテリ・パック内のセルに対して最適な充電プロファイルを、残量ゲージの不揮発性メモリに保存するといったことが行えます。その場合、ホスト側のマイクロコントローラ・ユニット(MCU)から充電に関する処理をオフロードするという追加のメリットが得られます。ホスト側のMCUは、バッテリ・パックからのALRT信号を監視し、受信したアラートの種類に応じて降圧コンバータの出力電圧を増減させるだけでよくなります。

CP: 熱が上限に達しているので電圧を下げます。

CT: MOSFETの温度が上限に達しているので電圧を下げます。

Dropout: :電圧を上げます。

上記のCPは、保護用のMOSFETに流れる電流によって放熱が妨げられるおそれがある場合にセットされるフラグです。CTは、MOSFETの温度が高すぎる場合にセットされます。熱の上限値とMOSFETの温度の上限値は、nChgCfg1というレジスタ・セットを使用して設定します。

MAX20743」のようなプログラマブルな降圧コンバータの場合、PMBus®を使用することによって出力電圧をきめ細かく調整することができます。同コンバータが内蔵するMOSFETは、最大10Aの充電電流に対応可能です。また、PMBusではI2Cを物理層として使用します。そのため、1系統のI2Cバスによって降圧コンバータと残量ゲージの両方を管理することができます。

ここでは、3.6Vのリチウム電池セル1個を充電するケースを例にとります。図5は、充電システムにおける電圧と電流の状態を時間領域で示したものです。バッテリの電圧、バッテリの電流、降圧コンバータの出力電圧をプロットしています。

図5. 1個のセルの急速充電を行った場合の電流/電圧。3.6Vのリチウム電池セルを対象としています。

このグラフを見ると、降圧コンバータの出力電圧VPCKは、バッテリの電圧よりも50mV高くなるように設定してあることがわかります。この出力電圧をコンスタントに増加させることにより、ドロップアウト電圧を抑制して消費電力を抑えることができます。

バッテリの安全性を管理する

急速充電には大電流が伴います。したがって、メーカーは安全に充電を実施できることを保証する必要があります。高度な急速チャージャでは、複数の重要なパラメータを監視することによってバッテリ管理(バッテリ・マネージメント)を実施します。例えば、そうしたチャージャでは、バッテリの温度と周辺/室内の温度の監視を行います。それにより、充電電流や終端電圧を引き下げるタイミングが判断されます。結果として、バッテリ・セルのメーカーが定めた仕様や推奨事項に基づいて、安全性を確保しながらバッテリの寿命を引き延ばすことが可能になります。

温度に対する電圧と電流の調整は、2つの事柄をベースとして実行することができます。1つは、JEITA(電子情報技術産業協会)が定めた6つの温度領域です(図6)。もう1つは、バッテリの電圧に基づく3つのステージから成るステップ充電方式です。

図6. JEITAが定めた6つの温度領域
図6. JEITAが定めた6つの温度領域

バッテリの寿命は、ステップ充電のプロファイルを適用することによって引き延ばすことができます。つまり、バッテリの電圧に基づいて充電電流の値を変化させるということです。図7に示したのが、そうしたステップ充電のプロファイルの例です。このプロファイルでは、3種の充電電圧とそれに対応する3種の充電電流を使用しています。ステージ間の遷移は、ステート・マシンによって管理することができます。

図7. ステップ充電のプロファイル。(下)はステージ間の遷移を管理するためのステート・マシンを表しています。
図7. ステップ充電のプロファイル。(下)はステージ間の遷移を管理するためのステート・マシンを表しています。

電流、電圧、温度は、いずれも相互に関連していることに注意してください(表1、表2)。

並列充電

並列に接続した複数のセルを充電する場合、より高度な管理が必要になります。例えば、チャージャは、2つのバッテリの電圧の差が400mVを超えた場合のクロス充電を防ぐ機能を備えていなければなりません。あるセルの充電レベルが最も低く、そのレベルが低すぎてシステムの負荷に対応できない場合には、クロス充電に耐えられる時間は限られます(表3、図8)。

表1. ステップ充電方式、JEITAの温度領域、充電電流の関係
  非常に低い (<0°C) 低い(0°C~10°C 室温(10°C~40°C やや高い(40°C~45°C 高い(45°C~55°C 非常に高い(>55°C
ステップ2 充電しない 0.19C 0.25C 0.22C 0.15C 充電しない
ステップ1 充電しない 0.38C 0.5C 0.44C 0.31C 充電しない
ステップ0 充電しない 0.75C 1C 0.88C 0.625C 充電しない
表2. ステップ充電方式、JEITAの温度領域、充電電圧の関係
  非常に低い (<0°C) 低い(0°C~10°C) 室温(10°C~40°C) やや高い(40℃~45℃) 高い(45°C~55°C) 非常に高い(>55℃)
ステップ2 充電しない 4.14 V 4.2 V 4.18 V 4.16 V 充電しない
ステップ1 充電しない 4.1 V 4.16 V 4.14 V 4.12 V 充電しない
ステップ0 充電しない 4.06 V 4.12 V 4.1 V 4.08 V 充電しない
表3. MOSFETのロジック制御
PAREN BLOCKDIS ALLOWCHGB CHG FET DIS FET
0 × × Normal Normal
1 0 0 Normal Normal
1 0 1(タイムアウト) Block Ready Normal
1 1 0 Normal Block Ready
1 1 1(タイムアウト) Block Ready Normal
図8. 並列充電におけるMOSFETの制御。クロス充電を防ぐために、バッテリの電圧の差ΔVが400mVを超えると、電圧が高い方のバッテリの放電が阻止されます。
図8. 並列充電におけるMOSFETの制御。クロス充電を防ぐために、バッテリの電圧の差ΔVが400mVを超えると、電圧が高い方のバッテリの放電が阻止されます。

まとめ

チャージャの機能だけでなく、残量ゲージの機能もホスト側からバッテリ・パックに移すことにより、1S2Pの構成を採用した各バッテリを個々に制御することができます。その場合、ホスト側のMCUによって充電に関するすべてを管理するのではなく、スマート・チャージャによってほとんどの管理を行うことになります。チャージャは、最適な充電プロファイルに従って自らの出力を制御します。ホスト側が監視しなければならないのは、残量ゲージが生成するALRT信号だけです。そのため、異なるバッテリ・パックに対してシステムを容易に適応させることができます。

スマート・チャージャを採用すれば、必要に応じて充電と放電を阻止し、クロス充電を防ぐことも可能になります。それにより、バッテリのミスマッチに関する問題が大幅に緩和されるので、急速充電システムの柔軟性が高まります。設計と充電プロセスが簡素化されるため、バッテリの急速充電を必要とする多様なアプリケーションにおいて、無駄な電力消費を最小限に抑えつつ、安全な充電と放電を維持することが可能になります。その結果、ユーザ・エクスペリエンスを高めることができます。

次回(Part 2)は、評価用キットとRaspberry Piのボードを例にとり、並列接続型のバッテリに対応する急速充電システムの実装方法について解説する予定です。

※初出典 2023年 TECH+(マイナビニュース)